最後にもう一度 | アスユメ_labo.通信

アスユメ_labo.通信

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アスのユメを叶えるチカラ
それがアスユメLabo.

すべてのアスリートと
ファンのみなさまに熱い思いを伝えます


 

ここまで練習してきたことを出せば

結果も付いてくる
自分のベストを尽くせたら・・・
そして
これまでサポートしてくれた方々に対して
演技で感謝の気持ちを表現したい


まだあどけなさの残る笑顔の皆川
五輪選考会に向けてコメントを発信している

しかし
どこか寂しそうな雰囲気は拭いきれない


皆川夏穂

今年22歳になる

新体操の個人を牽引する

フェアリージャパンのエース

前回リオ五輪に出場を果たす

そして
翌年のイタリアでの世界選手権
個人種目フープで42年ぶり銅メダルを獲得

さらに
この種目の東京五輪の出場選手枠も獲得

誰もが順風満帆に思えるその活躍とは裏腹に
左足の故障をかばいながら
理想と現実の暗闇の中を

独りさまよい歩いていた

ただただ五輪に出たい一心で
毎日がむしゃらに
もっと

「人の心を動かす演技をしたい」

という気持ち
もっと

「たくさんの方に

自分の演技を見てもらえる」こと

想像することがすごく楽しみだった・・・


右足にコンパートメント症候群を発症
昨年12月手術を受けた

東京五輪の選考のため
完治を待たず

無理を押して人生最大の勝負に出た

大会前のインタビュー

これまでサポートしてくれた方に対して

演技で感謝の気持ちを表現したい

と前向きなコメント

しかし
彼女に突き付けられたのは

残酷でやるせない現実

誰もが思い描いていた
連続五輪出場の夢
もろくも崩れ去った

少しミスがあっても

絶対にあきらめない気持ちは

最後まで持っていた
でも結果はついてこなかった・・
自分の体の状態を考えたら

これが今自分の最大限の演技だったと思う

大粒の涙が頬を伝う
どこにもぶつけようのない

孤独な悲しみが
憔悴しきった彼女を包み込む

ここ1ヶ月ギリギリの状態

ふつうに歩くこともできなかった
本当にギリギリの状態で練習していた
そういう状況も実力のうちなので

受け止めたい

でも、掲げてきた目標は達成しながら
ここまで来ることができた


今は少し悔いが残っている状態だけど
ここまでの事を考えると

決して無駄ではなかったと思う


あふれる感情を心に押し込め
努めて冷静に
そして
はっきりと語った


次の瞬間

彼女に晴れやかな笑顔が戻る

ここまでの辛く険しい道のり
抱えきれない程のプレッシャーから
今ようやく解放されたのだろう

そして
彼女はゆっくりとつぶやいた

演技する場をもらえるのであれば・・・

最後にもう一度

演技したい


次に彼女が表現する演技は
きっと多くの観衆の心を捕えるはず

審査員の評価を得るための
ミスの許されない演技ではなく

今の彼女にしかできない
重なる苦しみから解放された

軽やかな美しさ


そして

踊る楽しさを噛み締める喜び

きっと
すべての人を魅了する
 

 

Written by Kaz Okayasu