今年の卒論発表会では、ゼミ担当教員🐻にとって、とても嬉しい出来事がありました。会の終了後、SPJで世話になった4年生に対して各チームの3年生から花束の贈呈が行われました。毎年、3年生の各チームに担当の4年生を張り付けてサポートをするという体制でSPJに臨んでいましたが、このような形で「成果」が表れるとは思っていませんでした。この記事では、なぜ🐻がこのシーンを嬉しく思ったのかについて、このゼミの特徴である「3年・4年合同」という形式で進めることと絡めつつ説明したいと思います。これまで入ゼミ希望者に対して、3年次の学び方を中心に説明してきましたが、4年になったらどのように学ぶのか、それはどんなことを目指すのかといったことについてここでは説明をしようと思います。

 

「学びの共同体」を目指す

 以前の記事にも書きましたが、われわれは「不確実性」の高い、VUCAと呼ばれる時代に生きています。テクノロジーの発展がもの凄い速度で進み、グローバルに広がる文化によってドメスティックな価値観が見直されていく。そのような社会の中では、「大教室で」「大人数に向けて」「一斉に教える」という従来の大学の講義は効率が悪くなります。社会を成り立たせている「情報技術」などのインフラがめまぐるしく変化していき、年配の世代(教員の所属するような年代)が蓄積してきたノウハウや価値観が意味をなさなくなるからです。大教室で行われる講義も、一定の専門知識を「伝える」ものから、普遍的な理論を用いて「考えさせる」ものへとシフトしていっています。変化していく現実社会に対して理論を「思考して応用する方法」を獲得することは、社会がどのように変化しようが、生涯にわたって「使える力」になると考えられるからです。

 ゼミで行う輪読は、理論を文献から学び、それを現実社会に応用する方法について組織で議論を重ねることにより、思考の体力を伸ばしていく方法です。ただし、文献の要約を形式的に行って、当たり障りのない議論を行っているだけでは「応用力」「思考の体力」は伸びてはいきません。

 そこで重要になるのが、ゼミの時間外にも一緒に作業をしたり、議論ができるような仲間の存在です。ここで想定される「仲間」は必ずしも同じゼミの同期のメンバーだけでなく、上級生であったり、他のゼミに所属する友人であったり、ゼミのOB/OGであったりしてもよいと考えています。また、調査で知り合った現場の方履修している講義の担当教員であったりしてもよいでしょう。要は、ゼミの時間の議論を「相対化」して(外側の視点で捉え)、自分たちの考え、主張を評価して、サポートしてくれるような存在が必要なのです。というのも、VUCA時代には教員は間違ったことを主張するかもしれず、時にはそれを説得して、自分の主張をつくっていくということが必要となるからです。「先生はああ言ってるけどさぁ、君たちは正しいと思うから〜のように作業を進めていけばいい」などとアドバイスをくれ、自分の時間を割いてサポートしてくれる存在が今の学びの場には必要だと考えます。

 

 このゼミではSPJへの3年生の取り組みや4年生の卒論検討を3年・4年の合同で行います。基本的に、毎週、4限の時間をSPJのプロジェクトに充て、5限を卒論検討に充てます。5限を終えて、3年・4年で食事に行ったりもします。このようなルーティンは、上記のような「仲間」を作りやすくします。ここで重要なのは、4年が3年の指導をする【4年→3年】という関係性ではなく、互いが学び合う【3年⇄4年】関係が成立するという点です。もちろん、SPJに初めて参加する3年生にとって、経験者である4年生の存在は心強いです。蓄積された経験のシェアができ、4年生の失敗・成功の体験を3年生が活かせるということは、長期にわたるプロジェクトとしてSPJの取り組みを進めていく上でとても力になるものです。「自分たちのプロジェクトに真剣にアドバイスをもらえた」、「自分たちの主張の整理の議論に付き合ってもらえた」と感じた3年生は、4年生の卒論検討へも真剣に向き合うことになり、良好な【3年⇄4年】関係が成立するだろうと指導教員🐻は考えています。なかなかうまくいかない年もあります(強制してつくれるものでないところが難しい点です)が、冒頭で紹介したように、今回は3年生と4年生の関係が良好であり、それが表れたのが卒論発表会後の花束贈呈であったと考えます。だから🐻は嬉しい(涙)と感じたのでした。

このような機会をつくって感謝の気持ちを表現することは良好な互酬的な関係性をつくっていくためには大切だと感じました。

 

4年生もSPJで成長する

 毎年、SPJ後のゼミでは半年間の取り組みの「振り返り」を行います。SPJは3年生の学びの場と思いきや、4年生の「振り返り」の文章の中には、「4年生の学びの場としてのSPJ」がよく表れています。

 

N.H

・今年は2回目ということもあり、必要なことを冷静かつ総合的に考えることができた。

・3年生が積極的にコミュニケーションを取ってくれたおかげで、「自分たちで進める+いつでも先輩に相談できる」理想的なサポート環境ができた。

・普段はプレゼンを「仕上げる」ことに迫られているが、第三者視点から見ることで、プレゼンのコツをゆっくりと整理できた。コツを整理したことで、昨年のプレゼンなど、自分のプレゼンに関する改善点も発見することができた。

・3年生の鬼のような体力と根性を見て、自分に根気が足りていないことを知った。現地調査や無下限ミーティングなどを重ねている3年生を見たら、自分も何か力になりたいと思った。根気は周囲の人を巻き込む力になると学んだ。

・目標を与える、期待をかけてサポートする、アメとムチを使いわける、自信を持たせる、などを通じて、自身の裏テーマ(=「負けた時に悔しいと感じるまでに3年生を熱中させる」)をクリアできた。

 

S.S

・卒論検討を含め、昨年の自分たちのSPJにおいても、「自分たちにとって都合の良いこと(議論の方向性やその落としどころ)」に執着してしまう場面があった。3年生に対するアドバイスの中では、可能な限りフラットな立場から意見を伝えるようにし、自身も意図的に考えたくないことを考えるようになったと思う。
・昨年は特に考えずアイデアを投げ、議論をかき乱したが、今年は結果としてプラスになるであろう議論の種を投げることを意識した。
・後輩たちに対するアドバイスなど、正直責任が生じることはできるだけ避けたい性格だが、責任を持った発言ができるようになったと思う。主にゼミでの学びや就活を通して、自身の自信がついたのかもしれない。

 

O.M

・昨年は特に、班員と批判的な目線で話し合うことがほとんどできなかったが、それを教訓に考えを巡らせるようになった。

・昨年よりは、全体的な締め切り等を考えることができた。

・去年の自分(たち)を反面教師に、(提言先に寄り添った考えをするように等、)後輩たちに対してアドバイスをするようになった。

・俯瞰的に考えることができたように思う。自分がそこまで深く関われていなかったのもあり、第三者的な目線で考えられた。

 

I.M

・一度経験しているからこそ、全体の流れやゴールを見据えてどの時期に何を目指せばいいか考える余裕が持てた。

・審査員がどこを見るかという視点で補強するポイントを見つけられた。

・思い付いたように喋っていた去年よりは、自分の発言の影響力や責任を感じて意見出しに慎重になった。

 4年生にとって2回目となるSPJは、少し冷静になって客観的な視点で3年生の取り組みをみることができ、自分たちの経験から、効果的な資料づくりの方法やスケジュール感についてアドバイスができるようになったりしているようです。それは、自分たちが卒論を作成していく中で必要な、論理的に思考していく力やデータで説得していく力を養うためのトレーニングの場にもなっていると考えられます。そして何よりも、「他者のために一生懸命考えることが自分の成長のためにもなり、他者のサポートを引き出すことになる」といった組織で思考していくために必要な感覚を身に付けることになると🐻は考えています。「思考の汗」を介して生涯にわたって互いに学び合える「学びの共同体」をつくっていくこと、また、そのような互酬的な関係性を卒業後に、自分の職場や生活する地域社会でつくっていくためのノウハウを獲得することがこのゼミでは目指されます。

 今回の卒論発表会やその後の打ち上げに表れたゼミメンバーの良好な雰囲気は、今後も引き継がれ、ゼミ内の学習を大きく促進していくと考えます。おそらく、今の3年生は4月になって新ゼミ生を迎えたら、自分たちがされたように新しいメンバーのサポートをしてくれるでしょう。うるさいぐらいに先輩が関わってくる可能性もあります。

 ただ、このような雰囲気は、ゼミに所属するメンバーのそれぞれに対して自主的な「同調」を求めることをここでは正直に書いておきます。今回の卒論発表会の資料は3年生が作ってくれたのですが、それはかなりの時間と労力が割かれた力作でした。また、打ち上げのビデオレターにもずいぶんとエネルギーが注がれています。社会学や文化人類学の理論が示すように、互恵的、互酬的な関係性をつくるためには時間や労力、モノ、カネなどの相互の「贈与」が必要になります。今のゼミの雰囲気は各メンバーがゼミという場で互いに「贈与」を盛んにすることによって成立しているように思います。なので、そのようなことを「面倒」であると感じるような方にはうちのゼミはお勧めできません。

 最後に、花束を贈るとかビデオレターを作成するからといって「陽キャ」ばかりが集まったゼミかというとそうではなく、どちらかというと「まじめ」な「学級委員長」「生徒会役員」キャラが多いように思うことを強調しておきます。それは、もしかしたら、担当教員🐻が生徒会長や部長に選ばれがちであったことが影響しているかもしれません(笑)。

スクリーン付きのお店で行われた卒論発表会の打ち上げでは3年生から4年生にビデオメッセージが贈られました。どれだけ4年生に感謝しているのでしょうかね?

 

卒論発表会へはゼミのOB/OGが対面やオンラインで参加してくださいました。