こんにちは。

アレテーを求めて~

今日もトコトコ( ・ω・)

弁護士の岡本卓大です。

 

 

『学んでみよう!子どもの権利( ・ω・)』

のお時間です。

 

 

1 子どもの定義

2 差別の禁止

3 子どもの最善の利益

4 締約国の実施義務

5 親の指導の尊重

6 生命への権利、生存・発達の確保

7 名前・国籍を得る権利、親を知り養育される権利

8 アイデンティティの保全

9 親からの分離禁止と分離のための手続

10 家族再会のための出入国

11 国外不法移送・不返還の防止

12 意見表明権

13 表現・情報の自由

14 思想・良心・宗教の自由

15 結社・集会の自由

16 プライバシー・通信・名誉の保護

17 適切な情報へのアクセス

18 親の第一次的養育責任と国の援助

19 親による虐待・放任・搾取からの保護

20 家庭環境を奪われた子どもの保護

21 養子縁組

22 難民の子どもの保護・援助

23 障害のある子どもの権利

24 健康・医療への権利

25 施設等に措置された子どもの定期的審査

26 社会保障への権利

27 生活水準への権利

28 教育への権利

29 教育の目的

30 少数者・先住民の子どもの権利

31 休息・余暇、遊び、文化的・芸術的生活への参加

32 経済的搾取・有害労働からの保護

33 麻薬・向精神薬からの保護

34 性的搾取・虐待からの保護

35 誘拐・売買・取引の禁止

36 他のあらゆる形態の搾取からの保護

37 死刑・拷問等の禁止、自由を奪われた子どもの適正な取り扱い

38 武力紛争における子どもの保護

39 犠牲になった子どもの心身の回復と社会復帰

40 少年司法

41 既存の権利の確保

 

 

さて、本日のテーマは、「アイデンティティの保全」です。

まずは、子どもの権利条約の条文を見てみましょう。

英語の条約文。そして、その日本語訳を紹介します。

なお、「法」として成立している「子どもの権利条約」は英文です。

日本語訳は、あくまでも日本語圏(日本だけですが)の理解を助けるための参考訳であって、

解釈の対象となり規範性を有する「法」は、あくまでも条約締結言語である英語の文言です。

「法」の世界って、めんどくさいですね( ・ω・)

 

 

(アイデンティティの保全)

Article8

1. States Parries undertake to respect the right of the child to preserve his or her identity,including nationality,name and family relations as recognized by law without unlawful interference.

2. Where a child is illegally deprived of some or all of the elements of his or her identity,States Parties shall provide appropriate assistance and protection,with a view to re-establishing speedily his or her identity.

 

第8条

1.締約国は、子どもが、不法な干渉なしに、法によって認められてた国籍、名前および家族関係を含むそのアイデンティティを保全する権利を尊重することを約束する。

2.締約国は、子どもがそのアイデンティティの要素の一部または全部を違法に剥奪される場合には、迅速にそのアイデンティティを回復させるために適当な援助および保護を与える。

 

1項では、国籍、名前、家族関係を含むアイデンティティの保全の権利を締約国が尊重することを約束すると規定されています。

2項では、アイデンティティが違法に剥奪されるときに、締約国は、アイデンティティを回復するための援助と保護を迅速に与えるという仕組みとされています。

 

この条文については、締約国への義務付けが他の条項と比べて弱いことや、

日本政府は戸籍法が整備されているので十分という態度だったようです。

しかし、実は、深刻な法整備の欠陥があります。

 

この問題に取り組んでいる病院があります。

熊本県の慈恵病院です。

 

 

同病院は、2006年から「こうのとりのゆりかご」と名付けた出産支援を行ってきています。

赤ちゃんポストとして報道もされてきたので、みなさんもご存じでしょうか?

 

法的には、「ゆりかご」に入れられた子どもは棄児という扱いになります。

対外的には子どもを産んだことをわからないようにする匿名出産が制度化されれば、

基本的には赤ちゃんポストは不要になります。

その場合に、子どもの出生に関する記録をどのように残して、

子どもにとっての家族関係のアイデンティティの保全をどのように行っていくかが検討されなければなりません。

そういう問題の本質に即した議論が日本では残念ながらされていないように感じます。

まずは、そのような問題があるということを意識することから始める必要があると思います。

 

ここで上記にリンクしたホームページから、なぜ、この問題が生じるかを引用してみましょう。

 

(以下、引用)

緊急下の妊婦から生まれた赤ちゃんの出自を知る権利の
保障等に関する検討会(略称:出自検討会)について

 

検討会の目的

検討会は、各委員の専門的な立場から、子どもの出自を知る権利に関わる課題について整理し、子どもの出自を知る権利を守るために必要な対応について意見交換を行うことにより、子どもに対する真実告知への支援及び内密出産に係わる妊婦の身元情報等の管理、保存、開示等を行うための病院による規定の制定に寄与することを目的とします。

 

検討項目

(1)子どもに対する真実告知の在り方等に関すること。
(2)子どもの出自情報の範囲に関すること。
(3)子どもの出自情報の開示手続き等に関すること。
(4)保護者等の身元情報の保存方法等に関すること。

 

発足の経緯

当院は平成19年(2007年)から「こうのとりのゆりかご」の運営を始めました。これは自ら育てることの出来ない赤ちゃんを親御さんが匿名で病院に預け入れるシステムです。ここには令和5年3月までの16年間で170名の赤ちゃんが預けられました。
また令和3年12月には内密出産が始まりました。内密出産は妊婦さんが匿名のまま病院で出産できるものです。令和5年5月までに11名の赤ちゃんが内密出産によって生まれました。
「こうのとりのゆりかご」や内密出産の目的は赤ちゃんの遺棄や殺人を防ぐことにあります。自らの妊娠や出産を周囲に知られたくないと強く願う女性に対して、匿名性を保証することにより赤ちゃんの命や健康を確保しようとするものです。
しかし、これらの取り組みには度々「赤ちゃんの出自を知る権利を損なう」という批判が寄せられました。赤ちゃんの命や健康は大事ですが、出自を知る権利も大事です。両者のバランスを取る作業は非常に難しく、これまで国内では踏み込んだ議論がなされませんでした。
そこで令和5年1月17日に当院が大西一史熊本市長に検討会の設置をお願いしました。
以下は大西市長に差し上げた要請文の抜粋です。

 

(1)内密出産や「こうのとりのゆりかご」に関連して下記の問題が存在します。

  1. 出自を知る権利が重要と言われながら、出自情報の定義が曖昧です。出自情報としまして以下の項目が考えられます。

    • 子どもの生年月日、出生日、出生場所
    • 実親の名前、生年月日、居住地、その他現在の生活状況
    • 同胞、祖父母を始め親族の情報
    • 遺伝性疾患やアレルギー、血液型など医学的情報
    • 自らの出生に先立つ妊娠の経緯
    • 実親が子を育てられず養育を他者に託した経緯
    • 実親の子に対する思い(「自分で育てたかった」「愛していた」など)
  2. 出自情報の中には、それを伝えることで子が精神的ダメージを負う可能性のものがあり、これを無条件に提供することに疑問が残ります。特に出生に先立つ妊娠の経緯にあたりまして、下記の状況には注意を要します。

    • レイプ
    • 売春
    • 近親相姦(近親姦)
    • ダブル不倫(実父、実母のいずれの家庭にとっても「いてもらっては困る子」となり得ますので、子の存在自体が否定されかねません)
  3. 真実告知の手続が曖昧です。特別養子縁組を始め社会的養護の領域では、これまで様々な取り組みがなされてきました。しかしながら「こうのとりのゆりかご」や内密出産におきましては実親が匿名性を強く求めていますので、他事例にも増して慎重に真実告知を行わなければいけません。それだけに養育者の不安も強いはずで、第三者のアドバイスが必要と考えます。

  4. 内密出産や「こうのとりのゆりかご」における出自情報の開示手続が定められていません。

    • ドイツでは内密出産における出自情報の開示手続が法律に明記されていますが、本邦では先のガイドラインでも言及されていません。開示手続の開始時期、開示内容、実親が開示に反対した場合の対応など多くの課題があります。
    • 「こうのとりのゆりかご」におきましても開示手続についての具体的指針がなく、その時々の担当者任せになっています。例えば過去には、養親から出自情報開示の依頼を受けた児童相談所の担当の方が「慈恵病院に相談して下さい」と案内された事例がありました。私どもとしましては、民間病院が独自に対応して良いものか戸惑いました。内密出産に先立って「こうのとりのゆりかご」の赤ちゃんたちは数年以内に成人年齢に達しますので、早急な準備を要します。

この他、当院が実施している内密出産において実母さんからお預かりした出自証明書の保管につきましても問題があります。現状では当院が独自で決めた手続きで出自証明書を管理していますが、内密出産についての法整備がなされたドイツでは、公的機関が法律に定められたルールに則って出自証明書を管理しています。我が国でも何らかのルールを作っていただきたいところです。

 

当院からのお願いを大西市長がお認めいただき、同年5月31日に熊本市と慈恵病院の共同設置という形で検討会の発足が発表されました。

 

検討会の運営方針

(1)この会での検討対象は「緊急下の妊婦から生まれた赤ちゃんの出自」です。国内では、これまで生殖補助医療によって生まれた子どもの出自を知る権利について議論や報道がなされてきました。しかし緊急下の妊婦から生まれた赤ちゃん(「こうのとりのゆりかご」、内密出産)と生殖補助医療により生まれた赤ちゃんでは背景が異なります。

 

  緊急下(「ゆりかご」、内密出産) 生殖補助医療
妊娠の経緯 「望まない妊娠」が多く、売春、レイプ、不倫、近親相姦などが含まれる 切望されて生まれた
妊娠の予見性 予期しない妊娠 医師からの説明を受け熟慮の末に妊娠
実親の存在 「お父さんもお母さんも分からない」 少なくとも母親とは血縁関係にある
実父 時として犯罪者や風俗のお客 医学部生を始め社会的信用のある存在
実親(実父)を匿名にする理由 赤ちゃんの命や健康の確保 精子提供者が減る

実父の存在が不明という点では共通していますが、上記のように背景が異なりますので、両者を分けて考えなければ議論が混乱すると思われます。

(2)令和5年7月2日に第1回の会議を開催し、以後委員を始め有識者、関係者へのヒヤリングを行います。その後に委員間で討議を重ね、検討項目について見解をまとめます。これらの作業を令和6年12月までに完了する予定です。

 

(引用終わり)

 

多くの人が意識せずに暮らしてせているようなことでも、

深刻な問題を抱えている人たちがいます。

正確な情報、知識もなく、感覚的な道徳感情論で、場外乱闘することなく、

きちんと国は法制度を整えていくべきだと思います。

 

読んでくださり、ありがとうございました。