首元に突きつけた包丁は、冷たかった。




変に落ち着いていた。




やっぱりもうダメだ。




そんな落胆などという言葉では表現できない決意を抱えて、台所に立っていた。





真夜中、一人で。




横の部屋では両親が眠っている。




その数時間前、親と大喧嘩をしていた。




内容すら覚えていないほど些細な事だったと思う。




一番身近な親ですらわかってくれない。

一番わかって欲しい人に分かってもらえない。

説明しても反論されるだけ。




わかり合えない虚しい思いをいつも抱えていた。





なんの取り柄もなく、社会にも出られず、ただ寝て起きて、食べて。




調子が悪くなれば起き上がることも食べることもできない。



人並みに生きられないことを恥じて、自分を責めるしかなできなかった。




「このまま力を入れれば、すべてが終わる」






そんなこころの声がこだましていた。





哀しいはずなのに、涙を流すこころすら枯れているように感じた。





とてもドライに、「どうしようかな」と考えていた。




痛いだろうな、やっぱり。





大きく息を吸って、大きくため息をついた。





痛いからやっぱりやめとこう。





結局、包丁を元に戻し、すごすごと布団へと帰った。




体を横にしても、瞳はまばたきもせず大きく見開いたままだった。




いつの間にか眠っていて、気がついたときには朝になっていた。




それが、現実のことだったのかどうかもよく覚えていない。




ただ、物悲しく、浅い呼吸の中で目からはしずくがこぼれていた。




とても虚しく、何の希望も持てず、覇気のない心とからだ。






多分、15年以上前の出来事。

覚えているのは、そんな断片的なものだ。




なぜ、いま、僕がこんな話をするのか。




今、生きているから。



そして、伝えたいから。




そんな僕でも笑えるようになったから。




こころから笑えるようになったから。




幸せはすぐそばに🍀



天地人に感謝

生かされている事に感謝