最近大阪の方の職員の入れ墨についての話題が出ていますが、公務員でどうなのかという議論はさておき、ワンポイントのタトゥーも含めると「体に墨を入れている人」は、一般の方が想像している以上に多いのではないかと思います。

私の前職はネイル関係でした。


お店だけでなくイベント場などの開放的なところに出向いて仕事をしていると、予想外のお客さんが来たりもします。

仕事で行ったことのある場所は、出店、出張を交えると数え切れないほどあります。
5年に及ぶ長い契約のところもあれば、期間を区切った出店のところもありました。
宝石の展示会にホテルのスイートルームを貸し切ったところに呼ばれて行ったこともあります。
お台場、銀座、池袋、赤坂、立川、吉祥寺、品川、五反田、日本橋、天王洲アイル、八王子、松戸、水道橋、飯田橋、亀戸、お茶の水、高田の馬場、千葉、稲毛、本八幡、小岩、その他の地方、一番遠くはインドまで。


ですから、普通のお勤め人よりは 珍しいものを見たり、出会うはずも無い人との出会いも やや多かったと思います。




場所によってもお客様の層はまちまちでした。
当時は携帯にアートも請け負っていましたので、お客様の男女比は3対7くらい。
もちろん7割の方は女性です。

3割の男性客のうちに 少数ですが「その筋の人」が混じっていました。

場所がらもあったと思いますが 日によって男性客の全てが「その筋の人」であることもありました。


ネイルの仕事をしているのにこんなことが?


口コミです。
続いた時期がありました。


で、あるときに「これと同じようなのを描いてくれ」と言って店内の端っこに私を呼び出して やにわにシャツをまくり上げて背中の彫り物を指して図柄を注文する兄ちゃんがいました。

びっくりしましたよ。
本物を至近距離で。


「はぁーっ。何と言う色彩でしょう」
自分の見たのは極彩色の龍でした。

墨の色。
ぼかし。
濃淡。
紅、藍、翠。

龍を際立たせるように 散らした牡丹の華。
花びらの奥行きを出すために 緋色と淡い桃色が競い合っていました。

桃色じゃない。
この絵画はキャンバスが白じゃないから桃色に見えるところは 肌の色なのかも知れない。




絵画を見ているようでした。
立派な絵でした。
和彫りの奥深さを見せつけられたような思いがしました。



急いで構図をデッサンして席に戻り、携帯の裏面に描き始めましたが、どうしても龍の目の辺りが上手く描けませんでした。
龍の動きの方は描き留められましたが、急いでいたので顔は輪郭をささっと描いただけでした。


イベント会場の店内でしょう。
先程、なるべく人目につかないところで背中のものをデッサン帳に描き写しました。
あんまりこそこそすると 却って怪しいので平常心で目立たぬように大胆に。
しかしそこは、他のお客さんの視線もありますから最短のやり方でデッサンしました。
いい加減に描いたつもりはありませんが、見落としもありました。
文字で言ったら走り書きのメモのような感じだったので。


そこで大変言いにくかったのですが、携帯に描き出した私の手元を覗き込んでいた「その道の人」に「もう一度見せて頂いて良いでしょうか?」と、おずおず聞いてみました。

「お。いいよ」
「いいよっ」
快い二つ返事。


なんだかなぁ。
趣味で上半身をまくり上げたところを見せてもらっているようで、こっちは恥ずかしかった。
違いますよ。
おばぁが兄ちゃんを脅してセミヌードにさせているところじゃないですから。



急いだら結局二度手間になる。
将に「急がば回れ」です。
これ以来、「デッサンは迅速にポイントを外さない」を鉄則にしました。



だけどこの時に、入れ墨は本来「見せたいもの」と言うか「見せてなんぼのもの」なんだなぁと思いました。


人が見るから価値がある。

ですから背中のような見えないところに入れていても、ここぞというときに人の目にさらすから意味がある。
ワンポイントだったら、見えないところに入れていては、本来の効果が薄れるというものです。









つづく