大阪経済大学はこのほど、社会人を対象とする公開講座「北浜・実践経営塾」を開催しました。今年度第3回となる今回のゲスト講師は、エイチ・ツー・オー(H2O)リテイリングの鈴木篤社長で、「H2Oリテイリンググループの関西ドミナント化戦略」と題して講演していただきました。

 
H2Oリテイリングは2007年に阪急百貨店と阪神百貨店が経営統合して誕生し、現在は阪急阪神百貨店をはじめ、イズミヤなどの食品事業、不動産事業、ホテルなどを傘下に持っています。阪急百貨店は1929年に小林一三が創業したものですが、世界で初めてのターミナル型百貨店となりました。小林一三は鉄道開発と沿線の住宅開発を一体的に進め、その後の私鉄経営のモデルとなったことは有名ですが、そのほかにも宝塚歌劇団、都心のビジネスホテル(第一ホテル)など、小林一三が手がけた事業で日本初となったものが多数あります。住宅開発に際して住宅ローンを日本で初めて導入したのも小林一三でした。

鈴木社長は講演でまず、こうした小林一三の「連鎖経営」の考え方、H2Oリテイリングを含む阪急阪神東宝グループの歴史と全体像を説明しました。これを聞いて、現在のH2Oとグループ全体に小林一三の“DNA”が受け継がれていることを感じ取ることができました。

最近の百貨店業界の売り上げはコンビニやネット販売に追い抜かれ、低迷が続いています。H2Oはこれに対応して長期事業計画で「百貨店一本足打法からの脱却」を掲げています。しかし鈴木社長は「これは決して“脱・百貨店”ではない。百貨店事業に磨きをかけ、加えて他の事業を伸ばす」と強調していました。

長期事業計画は3段階に分かれており、まず第1段階は20052014年度で取り組んだもので、ずばり「百貨店事業の強化」。その中核となったのが、阪急梅田本店の建て替えでした。新本店では、売り場面積の20%を情報発信・サービスの空間(つまりモノを売らない空間)にするとの方針を貫き、ホールやギャラリーなどを広く取って、ここでさまざまなイベントを開催しています。

鈴木社長によると「これらを売り場にすれば売り上げがもっと上がるなどとつい考えてしまいがちだが、あくまでも価値を提供しワクワクする空間にすることに徹した」そうです。

その結果、新本店グランドオープン後の2013年度から売上高はぐんと増加したということです。「百貨店事業の強化」という目標は達成されたわけです。

 長期計画の第2段階は「関西ドミナント化戦略」で、20152024年で進行中です。ドミナント化戦略とは、一定の商圏内で高いシェア獲得を目指し集中的に立地展開する戦略のことで、H2Oは梅田などの都心、都市部の商業拠点地区(神戸・三ノ宮、兵庫・西宮など)、中型商業施設(郊外百貨店、各地のスーパー・ショッピングセンターなど)などの店舗を整備していく計画です。

 この戦略に沿って、梅田では阪急本店の建て替えに続いて、阪神百貨店本店の建て替え工事が進行中です。新本店が完成する2021年には梅田駅前の光景も随分と変わることになるでしょう。

阪急百貨店本店(左側)と建て替え工事中の阪神百貨店本店(右側)=大阪・梅田

               

また2014年に経営統合したイズミヤの店舗をはじめ、各店舗の立地や規模、業態の最適化を図り店舗網の再構築を進めるとともに、同グループで発行するSポイントの拡大や電子マネーの導入なども推進します。これらによって、百貨店以外の事業(食品など)の強化を図り、生活総合産業を構築するとしています。セブン&アイホールディングスとの業務提携もその一環です。

 第2段階の後には、2025年~2034の第3段階で海外事業の展開を推進します。すでに阪急百貨店は中国の浙江省寧波市に大規模店舗を建設中で、2018年秋完成の予定です。鈴木社長は「寧波市は中国で9番目の大都市で、大型商業施設がまだないため、進出のメリットが大きい。リスクも比較的小さいと見ている」と進出の狙いを説明してくれました。今後の日本は少子高齢化と人口減少がますます進み小売市場が縮小していくことは避けられませんから、海外事業強化の重要性は一段と高まるでしょう。

百貨店各社は今、消費低迷や少子高齢化、小売業界内の他業態との競争激化など厳しい環境に置かれています。その中にあってH2Oが、前述の通り小林一三の“DNA”を受け継いで長期計画をどのように実現していくか、鈴木社長の手腕に期待がかかります。

今回の「北浜・実践経営塾」も多くの方が参加し、鈴木社長の講演を熱心に聞いていました。毎回コーディネーターとして進行役をつとめる立場としては、講演後になるべく希望者全員が質問できる時間をとりたいのですが、質疑応答の時間になると多くの人からが上がり、時間が足りないほどでした。

 

次回は104日(水)、ゲスト講師は靴下の小売りチェーン、タビオの越智勝寛社長です。ご期待ください!

   http://www.osaka-ue.ac.jp/education/kitahama/jissen/