両国での用事を済ませた帰り、ここまで来たのだから国技館を見ておこうと、
ホテル前に立つ警備員に道順を伺い、暮れ泥む道を歩いた。
今度いつ来るのか判らないし、もう二度と両国へは来ないかもしれない、
やはり国技館まで来たのだから力士も見たい。
警備員の示す裏道を歩いて両国駅近くまで来たその時、髷を結った浴衣姿の力士を発見。
ただ目撃しただけなのに、不思議と得られる高揚感は両国で見かけたということからくる
ものなのだろうか、テーマパークでキャラクターに遭遇した時の、あの幸福感にも似ている。
地元の者には日常なことなのだと思われるが、ふらりと立ち寄った程度の者が会えるとは、
番付も醜名も知らない力士であろうとも、ただ一瞬であろうとも、自らの幸運を歓び、
奇跡であるとまで思わせる力があった。
そして、思う。
力士のことをお相撲さんと呼ぶのはどうしてだろう。
相撲をするからという点では間違いないのだが、他の競技では競技名では呼ばないものだ。
野球さん、サッカーさん、テニスさんなどとは呼ばないし、
日本産の競技に限定して考えても、柔道さん、剣道さん、弓道さんとは言わない。
歴史的に古いからなのか、鳥獣戯画にも出てくるからなのか、元々は神事だったがゆえか。
見ただけでご利益がありそうなクマリを見つめるような目で、駅へ向かうお相撲さんを見送った。
