思いもかけず子グマに出会った翌日のことです。


その日は森林浴を兼ねて遊歩道の散策をする予定になっていました。


いくつかある遊歩道の中で、比較的初級者向けの
往復でも1時間程度の所を選んでありました。


ただ、一つだけ問題が出て来ました。
そうです。あの子グマです。
昨日子グマを見た場所は、その遊歩道に近いのです。


もともとクマやイノシシ、マムシなど生息している
場所だということは百も承知です。


でも、実際にクマを間近で目撃し、実感してしまうと
今度は、家族3人だけで歩いて危なくないかどうかが
急に気になり始めました。


娘は怖いからやめようと言います。
パパは家族に万一のことがあっては大変なので
やめるべきか、それでも行ってみるべきかと迷います。
ママはせっかく来たのだから鈴をつけて行こうと言います。


ビジターセンターで聞いて見ることにしました。
クマを見たことも話して相談すると
クマは元来臆病なので、鈴をつけて賑やかに行けば
多分大丈夫とのことで、鈴を3個貸してくれました。


ガイドさんを頼めないか聞いても、その日は人手がなくて
無理とのこと。行くなら家族だけで行かざるを得ません。


昨日遊歩道の入り口を下見したところでは
幸か不幸かほとんど人影はありませんでした。


ビジターセンターを出てからもしばらく休憩し
あれこれ考えて散々迷った挙句
結局行ってみることにしました。


入り口で車を降りて一応記念写真をとって
3人でひたすら鈴を鳴らして大声を出して
周りをキョロキョロ見て聞き耳も立てて
なるべく3人で離れないように
一歩一歩少しずつ森の中に入っていきました。


娘は怖くて泣きそうな顔です。
怖い怖い、帰ろう帰ろうと、言い続けています。


はじめは優しく勇気づけていたパパとママも
娘があまりにもビクビクしているのをみて
言いました。


きちんと調べて、ガイドさんにも確認して
鈴もつけて来ているから、大丈夫。


怖いと思うからどんどん怖くなる。
きちんと調べて、大丈夫だから行こうと決めたら
怖がらずに勇気を出して歩けばいいんだ。


世の中怖いものや不安なことなんていくらでもあるけど
これを乗り越える強さや勇気を持つことも大切なんだ。


クマの話が、いつの間にか人生の話に化けて
娘にハッパをかけています。


娘にとってはとんだ災難です。


鈴を鳴らして行けば大丈夫と聞いても
ほとんどひと気のない遊歩道を歩くのは勇気が要ります。


それに自分が行きたいと言い出した訳ではないんです。


でも、よく頑張りました。


往きは半ベソ状態でしたが、何かが吹っ切れたのか
途中からは怖いと言わなくなり、涙も止まりました。


ゴールに近づく頃には
元気な話し声と笑いが戻っていました。


きっと子グマも頑張る娘の健気な姿を見て
木陰から見守っていてくれたのかもしれません。


そして、無事にゴールで万歳の記念写真を取り
車の戻った時、無事に帰って来れて一番ホッとしたのは
実は、なんを隠そうこのパパなのでした。




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