阿武隈山麓の昭和の風景と生活 <冬編>「旧正月-2」 | そそっぱい おじんつぁん

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多くの分野について、「あまり聞いたことがない考え方だが、なるほど 」と思われるような記事を少しづつ書いて行きたい。

阿武隈山麓の実家での昭和の旧正月の風景について紹介を続ける。

 

実家のわが家は小高い山の中腹にあったが、山裾につるべ井戸があったので雪道を滑りそうになりながら恐る恐る下りて行って若水を汲んだ。

井戸の水は温かくて美味しい。

 

当時はどこの家にも仏壇と神棚があったが、それらを拝んでから両親が目の前でついてくれたつきたて餅の雑煮を食べた。

 

そのあと兄弟で近所の祠(ほこら)をお参りするのが旧正月のわが家の恒例だった。

それらは 2,30cmの小さな水神さまや氏神さまの石像か石碑だったが、10ヶ所前後あった気がする。

 

ふわふわの雪が積もった全く足跡のない細い山道を歩いて一握りずつのお米を供え 拝んで周った。

 

実家の近くには結構立派な神社があったが初詣をした記憶はない。

家の仏壇と神棚を拝み近所の祠をお参りすれば神社の初詣は必要ないということだったのだろう。

 

あとは、いまと比べれば質素であったが誰もが想像する昭和の普通の正月風景であった。

 

そうそう、言い忘れた!

わが家にはいまでは決して経験ができない正月の風景があった。

旧正月の元旦の朝早くからの両親による餅つきだ。

 

これが凄まじい。

1回で5升(と記憶)つまり7.5kgものもち米を大きなセイロで蒸してから、子供がすっぽり入るような大きな木の臼(うす)でついた。

杵(きね)も子供には持ち上げられないくらい大きくて重かった。

 

当時は産めよ増やせよの時代で、わが家は 6人兄弟で祖父も入れて計 9人の大家族だった。

だから 餅もなんと12臼もついた。

 

おやじがついておふくろが返し手。

朝から晩まで続いた。

 

おやじは身長が160cmあまりの小男だったが、米俵をひょいっと肩に担いだ。

わが家は貧乏農家だったが、いま思うに当時の農家の男性はなんと強靭な身体の持ち主だったろうとつくづく感心する。

 

それはともかく、12臼の大半は「草餅」だった。

 

おふくろが春先にヨモギの新芽を摘んで乾燥させ翌年の餅つきに使った。

この大量の草餅は 1臼毎に大きな木枠にはめて伸ばして「のし餅」にした。

10枠前後を広間にずらっと並べたから壮観。

 

1,2日後に7cm×5cm程度の長四角に切って縄の間に挟んで屋外に吊るし 凍らせてから乾燥した。

それで「凍み餅」と呼んでいた。

 

これは田舎の保存食で6月頃までカビも生えずに長持ちしたのである。

水に浸して戻してから煮たり焼いたりして食べた。

 

当時はおいしいと思ったので、大人になって就職してからおふくろに送ってもらったことがあるが、正直あまりおいしくなかった。それで大半をこっそり捨てた。おふくろには内緒。

 

と話して終ろうとしたら、もうひとつ田舎の冬の食べ物を思い出した。

「凍み豆腐」と「イカ人参」。

 

「凍み豆腐」は これも名前通り凍らせてから乾燥した豆腐だ。

隣村の立子山の名産品であったが、高野豆腐とは見た目も味も全く違う。

 

私は断然「凍み豆腐」が好きだ。

 

結婚してからも毎年実家から送ってもらっていたが途中で途絶えた。

もう製造していないということだった。本当に残念。

 

ところが最近、立子山の凍み豆腐の製造が再開し販売していると教えてもらったので、ネット販売の楽天で購入してお正月に煮物にして食べた。

ところが、教えてくれた方には申し訳ないが、あまり美味しくなかった。家族からも不評。

ぺしゃぺしゃして柔らかすぎて腰がなく豆腐の延長線上のような味だった。

 

実家の兄に聞いたら「人工凍結のせいと思うので、2月になって天然凍結になれば美味しくなるだろう」と言っていた。

 

イカ人参は、するめを5,6cmの長さで3,4mmの太さに切り、ほぼ同量の人参も同じ形に切って漬物容器に入れ、酒とみりんと醤油に適宜少量の砂糖と塩とだし汁を加え、重しを載せて漬け込む。

分量は適当だ。味見をしながら調節すればよい。

 

2,3日で食べ頃になる。

部屋に置いて 1週間、冷蔵庫で保管すれば 3,4週間は日持ちすると思う。

 

するめは胴体だけを使うほうがおいしいが、もったいないので硬さや見た目を気にしなければ耳や足も使ってよい。

いまでもわが家は年末に私が写真用の押し切りカッターでするめを切り、女房に手渡してイカ人参を作ってもらっている。

 

これがまた酒の肴として絶品!

 

松前漬けに似ていると言うかもしれないが全く違う。

断然イカ人参のほうがおいしい。

 

女房は 近所や知人におすそ分けをしているようだが、とても評判が良いと聞く。

 

だれでも簡単にできるので いちど試してみることをお勧めしたい。

旦那さんが喜ぶこと請け合いだ。

 

余計なことも書いたが、まあ以上が阿武隈山麓の田舎のむかしの旧正月の様子だ。