近現代史の本 おすすめ

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史観の偏りがない本をご紹介しています。yahoo知恵ノートに2016年から掲載してきたものが母体です。

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『津波の霊たち』 リチャード・ロイド・パリー著 ハヤカワ文庫 NF

「3・11」が風化しない歴史となるために   

 ルポ、すなわちルポルタージュには現地取材報告、もしくは客観的な記録文学としての意味合いがあり、まさしく本書はこの2つの側面を持っています。

 

 まず、石巻市立大川小学校で犠牲となった74人の児童とその遺族、関係者への取材です。この件に関しては避難誘導の問題が震災後大きく報じられ、訴訟にも発展しました。本書では当事者の言葉からその経緯を深く知ることができます。そこから、教訓や非難の意見を持つことはもちろん可能です。ですが、そこで終わらせず、被災者と読者各々の心の持ちように行き着くことの大切さを本書は教えてくれます。

 

 それが、今一つのスピリチュアルな面です。憑依を受けた人を除霊する僧侶や霊的な体験をした人々の行動や言葉を通して語られること。それは、極限状況の人間に追い打ちをかける身近な人の死。その悔い、わだかまり。過酷な現実を受け容れるには、あまりに大きな精神的負担から生じるストレスやトラウマに接するとき、著者同様、非科学的なものには興味がない私であってもおのずと考えさせられ、ここに本書のノンフィクション文学としての価値を感じます。

 

 被災者に寄り添い、ともに歩く。そんな金田住職の行動と同様の姿勢が本書でも貫かれていますが、それでも取材後半に至って、著者は心に怒りの叫びを上げます。

 

 私としては、日本人の受容の精神にはもううんざりだった。過剰なまでの我慢にも飽き飽きしていた。そんな日本に今必要なのは(取材で出会った)怒りに満ち、批判的で、決然とした人々。死の真相を追い求める闘いが負け戦になろうとも、自らの地位や立場に関係なく立ち上がって闘う人々だった。

 

 その後の住職とのやり取りで、著者は「死の受容」へ向けて再び落ち着きを取り戻すのですが、忍耐強い日本人の行動が海外から称賛されたことを無邪気に誇っていた私は、自らの薄っぺらさを恥じずにはいられませんでした。

 

 著者は滞日二十年以上となる英「タイムズ」紙の東京支局長。現地取材に6年を費やし、被災者との信頼関係を得て書かれた本書は本来外国人向けですが、日本人が書けば、理屈をこねるか感情を煽るか何れか一辺倒に陥りがちな類書と異なり、見事にバランスが取れています。また、無宗教と言われる日本人の先祖信仰にも理解が深く、その点も評価できると思います。

 

 被災者について、ただ可哀想とか大変だったね、と読者には終わらせない、心の重石を読後に感じます。それは、いつどこで大地震が起きてもおかしくはないこの国に住む我々にとって、各々が免れ得ない覚悟にも繋がるのではないでしょうか。

 

 本書は単行本として2018年に刊行。本年(2021年)1月に文庫化されています。