自殺対策推進センター理事 生活格差への対応求める

2020年6月2日 07時50分 東京新聞
 国内の自殺者、自殺死亡率(人口十万人当たりの自殺者数)は昨年まで十年連続で下がり続け、いずれも過去最少となった。ところが新型コロナウイルス感染拡大による心の不安や経済的困窮などが募り、再び増加に転じるのではないかと懸念される。 (藤英樹)
 かつて自殺者は年間三万人、自殺死亡率も二十五人を超えていた。潮目が変わったのは二〇〇六年に自殺対策基本法が制定されたこと。〇九年に市町村ごとの自殺者が公表され、予算面でもデータ面でもきめ細かな対策が取られた。昨年は自殺者二万百六十九人、自殺死亡率十六人に減った。
 コロナ発生後の三月と四月の自殺者は警察庁のまとめでそれぞれ千七百四人、千四百五十五人だった。例年三月は自殺が増える月とされているが、昨年の千八百五十六人に比べて少なかった。
 しかし「自殺リスクはむしろ高まっている」と厚生労働大臣指定法人「いのち支える自殺対策推進センター」(東京都千代田区)の清水康之・代表理事=写真=は語る。
 「今は国民すべてが生命の危機を感じ、社会全体に『乗り切ろう』という連帯感が生まれ、以前から自殺を考えていた人の中にも『ほかの人たちも同じ状況にある』と感じてほっとしている人もいる。ただし、この状況は長くは続かない」
 過去十年間の数字の推移を見ていて、気になることもある。東日本大震災が起きた二〇一一年から一二年も自殺者は約二千八百人減っているが、翌一三年にかけては五百七十五人の減少にとどまる。
 清水さんは「これから時間がたつにつれ、元の生活に戻れる人と、戻れず取り残される人との格差が広がるのが心配」と言い、追い込まれた末の死を防ぐために生活保護の受給要件緩和などを求める。
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 同センターの調査結果によると、コロナの影響で自殺対策関連の民間団体の八割が活動制限や休止に追い込まれているという。また清水さんは「悩みを抱える人がいかに短時間で必要な情報を入手できるようにするか。国と協力してサイトづくりを進めている」と言う。
 地域の実情に応じた自治体向けオンライン研修や、将来的には人工知能(AI)のデータ分析による自殺予測なども構想している。
<筑波大災害・地域精神医学・太刀川弘和教授の話> 東日本大震災をみても、二次的影響で生活が激変し、格差の広がりや孤立化から生じる「幻滅期」がやってくる。福島では一年後より二年後、三年後と自殺者が増えた。今回もコロナで入学や就職などイベントが中止され、ストレスが軽減して三月、四月の自殺者は減ったと思う。しかし、長期的には失業者数の増大や戦後最悪の経済不況により、生活困難者が増え、社会への幻滅を招くことで自殺リスクが高まることが心配される。