小中学校で自殺予防授業
新屋絵理 2019年3月31日15時00分 朝日
 心のSOSを発し、受け止めよう――。北九州市は2018年度、市内全ての小学6年生と中学2年生に自殺予防のための授業をした。子どもにメンタルヘルスの大切さを伝えるだけでなく、教員が知識を深め、学校生活全般での予防効果を高めるねらいもある。

 2月上旬、同市八幡西区の穴生小学校で、6年生の児童30人が2パターンのシナリオを読んでいた。

 中学進学を前に「親に勉強しろと言われた」と不安がるミホちゃん。友達のサクラちゃんが言葉を返す中、一つのシナリオは「勉強しろって言われたんだ。嫌やろ?」。もう一方は「勉強時間増やすしかないんじゃない?」。グループごとにミホちゃんの思いを話し合い、「同じ立場にならないとだめ」や「あとのほうだと『もういい』って思う」などの意見が出た。

 担任の中雄紀之教諭(44)は「大事なのは、うなずく、相づち、おうむ返し」と説明。「中学校では親や先生に言えない悩みが出てくる。理解してくれるのは仲間です」

 授業に取り組むきっかけは10年前。市は自殺予防のための子ども向けのリーフレットを作った。「ごはんがおいしいか」「すぐ涙が出るか」などの質問に答え、「こころのもやもや度」をチェック。もやもや度が高い場合の相談先や、友達に相談された時の話の聴き方も紹介している。

 このリーフレットを活用するために教員研修や模擬授業を始めた。「どう教えたらいいかわからない」と戸惑う声もあったが、スクールカウンセラー(SC)を中心に指導方法の研究を重ね、今年度は市内の小学6年と中学2年に授業をした。SCと担任が協力し、総合的な学習などを使う。

 中雄教諭はこの日、児童に身近な中学進学を題材にした。「クラスの雰囲気や児童に合わせた授業を作る難しさがある」と話す。授業の最後にはリーフレットを配布。自殺予防教育に取り組む市のSCのシャルマ直美さん(58)が「相談は恥ずかしいことじゃない」「相談されたら秘密を守り、友達が消えてしまいたいと思っていたら大人に話して」と語りかけた。

 シャルマさんによると、自殺予防教育は外部の専門家を招くことが多い。だが教員が授業で知識を深めると、他の科目でも予防の視点が取り込まれるほか、子どもの異変に気づくことにもつながる。「自殺予防の視点が学校の文化になることを期待したい」と話す。市は19年度も授業を継続するという。(新屋絵理)