小さなSOS見つけて 一つのあざが救済糸口に
2019年03月23日 06時00分 西日本
 福岡県筑紫野市で8歳の長女を水風呂に入れて殺害しようとしたとして、母親と内縁の夫が殺人未遂容疑で逮捕されて1週間が過ぎた。「うそをつかない」などと誓約書を書かせ、約束を破ると痕が残らない水風呂に入れ、他言しないよう口止めも-。自宅に閉じ込めて謝罪文を書かせた東京都目黒区の事件や、冷水シャワーを執拗(しつよう)に浴びせた千葉県野田市の事件とも重なる「しつけ」と称した虐待の陰湿化。外部から見えにくい虐待がさらに巧妙化し、早期発見をより難しくしている。

 「親に止められているから…」。1月25日、小学校で体のあざについて聞かれた長女は口ごもった。同日に児童相談所に保護され、やっと虐待を告白した。「幼少の子にとって親の言葉は誰よりも重い。口止めされたら言えないだろう」。筑紫野署幹部は推し量る。

 捜査関係者によると、母親(29)と八尋潤容疑者(29)は「やくそくをわすれない」などの誓約書を複数回書かせて机の前に貼らせ、守らなかった数に応じて水風呂の入水時間を決めたという。

 昨年12月29日には両手両足を縛って浴槽いっぱいの水風呂に入れた。意識を失った長女に蘇生措置をしたり、救急車を呼んだりすることもなかった。八尋容疑者は水風呂を選んだ理由をこう供述している。

 「たたいてあざが残るといけないと思った」

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 「もうおねがい ゆるして」「もうぜったいぜったいやらないからね」。目黒区の事件で、亡くなった5歳女児は謝罪文を書き残した。両親から午前4時に起床して書き取りなどを命じられ、学校にも通わせてもらえなかった。野田市で10歳女児が死亡した事件では、一度は女児が学校のアンケートで虐待を訴えたが、父親が「お父さんにたたかれたというのはうそ」と女児に書かせた書面を児相に提出していた。

 西南学院大の安部計彦教授(児童福祉)は「親が逮捕される虐待事件が近年大きく報道され、親は傷を隠したり、見つからないようなやり方をしたりと巧妙化している」と指摘する。

 真冬に水温11度の水風呂に入れた筑紫野市の事件でも「溺死や凍死の可能性があった」(同署幹部)。長女の命を救えたのは、教諭がたった一つのあざを見逃さなかったからだった。

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 長女のあざを見つけた1月25日、教諭はすぐに教頭に報告した。衣服をめくると別のあざもあったため児相に通告。筑紫野市教育委員会の担当者は「普段は衣服の下まで確認することはない。最悪の事態を防げて良かった」と胸をなで下ろした。

 この小学校は毎月、いじめ被害などを尋ねるアンケートを実施していたが、長女が虐待を訴えることはなかった。児相は2017年秋、長女の体の傷を確認し、母親を指導。18年春に家庭訪問した際には異常はなかったという。

 福岡県と県警は今年1月から、重大事案でなくとも注意が必要な虐待情報まで共有するようにした。ただ、17年当時は事件性のある事案や親が抵抗するケースに限定しており、児相は県警に伝えていなかった。

 虐待の早期発見のため、高知県や大分県など少なくとも全国12自治体は警察と虐待情報の全てを共有。一方で、「逮捕されるかも」と児相への相談や情報提供をためらうケースが出るのではないかと、全件共有には慎重論も根強い。

 安部教授は「親への恐怖心や羞恥心から虐待を隠そうとする子どももいるため、学校のアンケートも限界がある。教諭や地域の大人たちが『家に帰りたがらない』などの小さな異変を見逃さないようにするしかない」と語る。