小説「海と陸の彼方へ」

 

第十一章新主人公:岳明軒ユエ・ミンシュエンの活躍

 

第17話部下たちの自貢ジーゴン行き②

 

前書き

 

 

1936年、漢口ハンコウ。巴蜀王である岳明軒ユエ・ミンシュエンは、ダイヤモンド強盗を追ってこの地に足を踏み入れました。さらに深い目的は、ルイス王に侍女にされた妻「側室」や側女たちを救出することにあります。漢口ハンコウでの彼の日々は、朝市の食堂での女将との交流や、鉱産物取引といった日常の一コマから、人々との深い絆を築く貴重な機会となります。運命に翻弄されながらも自己の道を切り拓こうとする一人の若者の成長の記録です。この話では、彼が漢口ハンコウで遭遇する様々な人物たちとの絆、そしてそれらが彼の使命とどのように絡み合っていくのかを追っていきます。

 

本文

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登場人物「年齢は1936年1月1日時点」 

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準主人公ルイス(19歳)、中国の運命を操る覇王。巴蜀・雲南・陜西・河南・湖北及び長江沿岸諸都市、上海、杭州を領土とし、反西欧、反日、反共を掲げ、中国民族自決のための戦いを始める。 

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ルイスの家族 

イタリア系の不法移民で、彼らの家族名は「ディアンジェロ」です。以下はディアンジェロ家の家族構成です: 

父親ヘクター・ハミルトン(29歳)「10歳の若返り」:アンヘルから10億ドルの資金を貰い、テキサスで石油と天然ガスを発掘した。 

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主人公:岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)。彼は南宋の英雄・岳飛の血を引く末裔として、洪水のため両親を失いながらも、自身の運命を探求し続ける。棍棒の使い手。俊敏かつ頭脳明晰。文武両道の逞しき若者。巴蜀王。南充郡王。成都公爵。 

岳蓮華ユエ・リエンファ(20歳)。岳明軒ユエ・ミンシュエンの姉。抜群の美貌を誇るが、実は中国漢方薬の大家。 

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岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」 

エリザベス・ハーレイ(39歳)。巴王妃。元ルイス王の正妻「巴王妃」。 

王華ワン・ファ(46歳)。南充郡王夫人。南充石油王。 

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岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」たち 

ドイツ商人の妻ヘルガ・バウアーマン39歳、オランダ商人の妻エリザベト・ヴァン・デル・メール26歳、中国商人の妻:李明珠リー・ミンジュ32歳。岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」。全員交易の旅に出ている。 

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鄭艶芳チョン・イェンファン(40歳)。岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」。閬中侯爵。保寧公爵夫人。 

王建国ワン・ジェンゴオ(18歳)。鄭艶芳チョン・イェンファン王大偉ワン・ダーウェイの息子。空軍隊長。 

王小美ワン・シャオメイ (16歳)。閬中行政府長官。鄭艶芳チョン・イェンファン王大偉ワン・ダーウェイの娘。 

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古武道:霧隠流むぎんりゅうの創始者 

趙雲龍チョウ・ウンリョン(65歳)。彼は長年にわたる修行と実戦の経験から、この独自の武術を生み出した。合川一等公爵兼諜報長官。 

趙紫蘭チョウ・シラン(34歳)。雲龍の娘であり、彼女自身も古武道の技術に長けている。合川三等公爵兼厚生省大臣。岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」。 

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岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の愛人たち11名。 

琴月チン・ユエ(43歳)。瀘州老窖の元経営者:霍飛フォ・フェイ(45歳)の妻。 

船民チュアン・ミンの妻たち10名。「アキ、ミナ、ソラ」(30歳)、「ユナ、サキ、レナ、カナ、エリ、ユキ、リコ」(27歳)

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 岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の側女そばめ。 

アンナ・モーリー(32歳)。イギリス人。漢口ハンコウ:漢正街・永寧巷・フランス東方匯理銀行旧頭取邸の女主人。 

マリア・ヴェーバー(28歳)。ドイツ人。漢口ハンコウ:漢正街・永寧巷・ロシア道勝銀行旧頭取邸の女主人。

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岳明軒ユエ・ミンシュエンの資金。 香港上海銀行「HSBC」の瀘州ルージョウ支店に200億両の定期預金。2億両の当座預金。小遣い300万両。 

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 紅軍の長征  

中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8

 

 

中国侵略 

東京書籍「世界史B」P329

 

 

辛亥革命以降 

東京書籍「世界史B」P332

 

 

国民党の北伐と共産党の長征 

東京書籍「世界史B」P364



山川出版社「市場の世界史」佐藤次高/岸本美緒著。P179

 

☆9月12日土曜日午後11時。漢口ハンコウの旧清朝王族邸 

瀘州ルージョウホテル「雲峰宮」屋上滑走路から飛行機で南京に向かって出発した。岳明軒ユエ・ミンシュエンは、強盗が南京に行く前に、漢口ハンコウに寄るだろうと考え直し、漢口ハンコウの旧清朝王族邸の滑走路に行った。旧清朝王族邸では、諜報長官:趙雲龍チョウ・ウンリョン(65歳)しかいなかった。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン趙雲龍チョウ・ウンリョンよ。他の妻たちの行方は分かったか? 

 

趙雲龍チョウ・ウンリョン:手を尽くして、漢口ハンコウ一帯を調べましたがいませんでした。ルイス王が何処かに移したようです。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうか。ルイス王の領土も広いからな。一度、長江の沿岸都市を虱潰しに探してみるか。 

 

翌朝、岳明軒ユエ・ミンシュエン漢口ハンコウの市場へ寄った。岳明軒ユエ・ミンシュエン漢口ハンコウの市場に隣接する朝市の食堂で朝食を摂ることにした。 

 

夜が明けたばかりの漢口ハンコウは、人々の活気で徐々に賑わいを見せ始めていた。市場の一角に位置する食堂は、地元の人々で常に賑わう朝の憩いの場である。岳明軒ユエ・ミンシュエンはこの食堂に足を踏み入れると、すぐに湯気と共に漂ってくる食事の香りに心を奪われた。店内はシンプルながらも温かみのある装飾で、一日の始まりにふさわしい落ち着いた雰囲気が漂っている。 

 

彼が注文したのは、地元湖北省の特色ある朝食メニューだ。まず、熱々の豆乳に浸された油条「揚げパンの一種」から始まる。このシンプルながらも栄養満点の料理は、朝から身体を温めるのに最適だ。次に、熱気蒸し蒸しの小籠包を手に取る。この小籠包は、皮が薄くて中の肉汁が豊富であり、一口かじると肉汁がじゅわっと口の中に広がる。地元の人々に愛される朝食の定番である。 

 

食堂の女将:張芳チャン・ファン40歳は、朝から忙しく働きながら岳明軒ユエ・ミンシュエンの姿に気づき、彼に特製の漢口ハンコウ粥を勧める。この粥は、さまざまな種類の穀物と肉、野菜をじっくりと煮込んで作られ、その滑らかな舌触りと深い味わいが特徴だ。岳明軒は感謝の意を表しながら、この心温まる粥をゆっくりと味わった。 

 

朝の光が優しく差し込む。食堂の中は、地元の人々や早朝から働く商人たちで満ちている。彼らは朝食を楽しみながら、日々の暮らしや市場での出来事について話し合っている。岳明軒ユエ・ミンシュエンはこの光景を静かに眺めながら、一日の始まりを新たな気持ちで迎えていた。 

 

この朝の時間は、岳明軒ユエ・ミンシュエンにとって漢口ハンコウの市場がもたらす豊かな文化と生活の営みを感じさせる貴重なひとときである。食堂を後にする際、彼は満足感と共に、この街での新たな一日への期待を胸に秘めていた。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:女将さん。鉱産物を取り扱っている市場はどの辺にありますか? 

 

張芳チャン・ファン:鉱産物は何時も11時半に入荷するんだ。市場が開くまで此処で待っていたら良いよ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは、女将の仕事を手伝いながら、鉱産物が入荷するのを待つことにした。張芳チャン・ファンは若い様子の良い男が隣で手伝ってくれると言うので、浮き浮きしている。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは、女将が忙しく動き回るのを手伝い、食器を運んだり、客に料理を提供したりしていた。彼の動作は機敏で、テキパキとした手際の良さで張芳チャン・ファンを驚かせた。食堂の手伝いは初めてだったが、岳明軒ユエ・ミンシュエンはすぐに仕事の流れを掴み、食堂の雰囲気に溶け込んでいく。彼らの間には徐々に親密な雰囲気が生まれていった。 

 

張芳は、若くて頼りがいのある男性がそばで働いてくれることに、心からの喜びを感じていた。彼女の顔には、久しぶりに見る嬉しそうな笑顔が浮かんでいる。仕事の合間に、二人は軽い冗談を交わし、笑い合う。この和やかな雰囲気は、周囲の客たちにも伝わり、食堂全体が明るい空気に包まれた。 

 

時間が経つにつれ、岳明軒ユエ・ミンシュエン張芳チャン・ファンの間には、自然と会話が弾むようになっていた。彼らはお互いの出身地や趣味、夢について話し合い、互いの理解を深めていった。岳明軒ユエ・ミンシュエンは、張芳チャン・ファンの強い仕事への献身と、家族を支えるための努力に深い敬意を抱いた。一方、張芳チャン・ファン岳明軒ユエ・ミンシュエンの聡明さと優しさに惹かれ、彼が抱える運命に対する強さに感銘を受けた。 

 

朝のうちには見知らぬ関係だった二人だが、午前中が終わる頃にはすっかり打ち解けていた。張芳チャン・ファン岳明軒ユエ・ミンシュエンの手伝いに感謝し、彼にとってもこの時間が忘れられない思い出となった。彼らの間に生まれた絆は、短い時間であっても、互いにとって大切なものとなった。 

 

彼は張芳チャン・ファンとの出会いを通じて、人とのつながりの大切さと、心を開いて接することの価値を改めて感じ取ることができた。 

 

☆鉱産物市場 

宜昌の鉱産物が大量に売りに出されていた。 

 

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- リン鉱石: リン鉱石は農業用肥料や火薬製造に不可欠であり、需要が高い。1トンあたりの希望売却価格は銀錠10両「約10万円」と設定してある。リン鉱石の売却量は2,000トン。総額は20,000両「約4億円」。

- 黒鉛鉱: 黒鉛は耐火材料や潤滑剤、将来の技術発展で需要が見込まれる。1トンあたりの希望売却価格は銀錠20両「約40万円」と設定してある。黒鉛鉱の売却量は1,000トン。総額は20,000両「約4億円」。

- 石英砂: 石英砂は高品質なガラス製品製造に欠かせない。1トンあたりの希望売却価格は銀錠5両「約10万円」と設定してある。石英砂の売却量はは2,000トン。総額は10,000両「約2億円」。
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岳明軒ユエ・ミンシュエンは、仲買人と交渉し、総額45,000両に値切り、小切手で支払った。鉱産物は旧清朝王族邸に運び込んでもらうことになった。此処までは目算通りに行き、何の問題もなかった。ただ鉱産物の品目と数量が以前、メアリー・ウェルビー(21歳)に頼んだものとピッタリ一致していることが不審だった。 

 

ひょっとして、ルイス王に奪われた妻たちが鉱産物を市場に売りに来たのかなと思い、市場を探したが、残念ながら影も形も見えなかった。 

 

がっくり来て、帰ろうとしているとき、後ろから肩をぽんと叩かれ、慌てて振り向くと、食堂の女将:張芳チャン・ファンさんだった。彼女は、朝5時からお昼の1時までの勤務だという。 

 

張芳チャン・ファン明軒ミンシュエンちゃん。お昼ご飯まだだろ。作ってあげるから私の家までおいで。 

 

彼女の家は市場の近くにあるのだ。 

 

張芳チャン・ファンの家で、お昼ご飯をご馳走になり、岳明軒ユエ・ミンシュエンは、大体の事情を彼女に打ち明けた。仲間の女性交易商人数名が、漢口ハンコウで誰かにさらわれたという話にしてある。 

 

張芳チャン・ファンとの語らい 

昼食を食べ終わると、張芳チャン・ファンは自ら衣服を脱ぎ、岳明軒ユエ・ミンシュエンをベッドに誘った。彼女も亭主48歳と息子22歳が南京に2年前から出稼ぎに出ており、久しぶりの性行為であった。彼女は、若く逞しい男の無限とも言える精力を受け止め、岳明軒ユエ・ミンシュエンも彼女のコリコリした筋肉質の身体を大いに楽しみ味わった。 

 

情事のあとの語らいの中で、「時々市場に売却に来る女性交易商人がいる。イギリス、ドイツの女性だ。何時も午後3時ころ来て、宜都の特産品を売っている」と彼女から聞いた。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンが時計を見ると、ピッタリ午後3時を時計の針が指しており、大慌てで家を出て市場へ向かった。 

 

☆各地の特産品売り場 

宜都イートゥの特産品を売る小さな露店で、アンナ・モーリー(32歳)とマリア・ヴェーバー(28歳)は忙しく働いていた。イギリスとドイツから来たこの二人の女性は、岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめであり侍女としても彼に仕えていた。彼女たちはある日突然兵士に囲まれ、ルイス王の奥方の住む邸宅に連れて行かれた。そのままルイス王の奥方様の侍女にされてしまった。 

 

納得のいかないふたりは隙を見つけて逃げ、漢口ハンコウから遠く離れた宜都イートゥに潜み、交易商人として生計を立て始めた。漢口ハンコウの市場に特産物売りに来る日をふたりは楽しみにしていた。二人は宜都イートゥみかん、洪山茶ホンシャンチャ宜都宜紅茶イートゥイーホンチャ、そして宜都天然富亜鉛茶イートゥティエンランフーヤチンチャといった宜都の特産品を売りながら、かつての主人:岳明軒ユエ・ミンシュエンとの楽しい生活を思い出していた。 

 

彼女たちは、自分たちが扱う特産品について客へ熱心に説明していた。宜都イートゥみかんはその甘さと種のない特徴、美しい色合いで知られ、洪山茶ホンシャンチャはその独特の香りと味わいで茶愛好家たちから高く評価されていた。宜都宜紅茶イートゥイーホンチャは、その細かくて金毫が特徴的な見た目と、甘く香り高い味わいで知られており、宜都天然富亜鉛茶イートゥティエンランフーヤチンチャは、その健康効果と美しい色合いで消費者の注目を集めていた。

 

露店は、漢口ハンコウの市場で最も人気のある場所の一つとなり、二人の知識と情熱が彼女たちの商品に反映されていた。アンナとマリアは、客との交流の中で自分たちの文化と、遠く離れた故郷の思い出を共有する機会を見つけ、彼らに特産品の背後にある物語を語り続けた。 

 

そんなある日、彼女たちは突然、岳明軒ユエ・ミンシュエンが市場を訪れているのを目にした。彼女たちと岳明軒ユエ・ミンシュエンの目が合った瞬間、時間が一瞬止まったかのように感じられた。驚きと喜びが入り混じった感情が、三人の間に流れた。彼女たちは露店を離れ、岳明軒ユエ・ミンシュエンの元へ駆け寄り、涙ながらに再会を喜んだ。長い間、互いの安否が分からない状態にあった彼らにとって、この瞬間は夢のような時であり、感情が爆発した。 

 

三人はしばらくの間、互いに抱き合い、涙を流し続けた。岳明軒ユエ・ミンシュエンは、アンナとマリアが無事であることに深い安堵を感じ、二人もまた、かつての主人である岳明軒ユエ・ミンシュエンに再び会えた喜びを噛み締めていた。この感動的な再会は、周囲の人々にも暖かい感情を与え、彼らの間には言葉では言い表せない強い絆が再確認された。 

 

再会した三人は、露店のそばの小さな茶店に座り、お互いの近況を語り合った。岳明軒ユエ・ミンシュエンはアンナとマリアに、彼女たちを見つけ出すためにどれほど多くの努力をしたかを話し、二人の女性もまた、ルイス王に奪われてからの苦労や、新しい生活に適応する過程で経験したことを共有した。話は尽きることがなく、彼らは再び一緒に時間を過ごすことの喜びを感じていた。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:ふたりに俺から頼みがある。もう一度俺のところに帰ってきてくれ。侍女はもうしなくて良い。子供を生んだときには即座に妻「側室」にしてやろう。 

 

アンナ・モーリー、マリア・ヴェーバー:ルイス王にはどう言い訳されますか? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:ルイス王とは決別することにした。お前たちの身は俺が必ず守ってやる。 

 

アンナ・モーリー(32歳)とマリア・ヴェーバー(28歳)は涙を浮かべながら、頷いた。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは気になっていることを二人に聞いた。劉芳リウ・ファン(25歳)の行方である。二人は、「漢口ハンコウを別々に逃げたが、そこからは分からない。私達は長江を西に逃げ、宜都イートゥに腰を落ち着けた。彼女は北京方面へ鉄道で行ったと思う」とだけ答えた。 

 

マリア・ヴェーバー:殿様。ルイス王と正面切って宣戦布告したわけではありませんよね。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:もちろんだ。今逆らうのは得策ではない。表面上は大人しく彼の言う事を聞いているから疑っていないはずだ。 

 

アンナ・モーリー:いえね。私たちは逃亡するまで、ルイス王の侍女でしたから、奥方様たちから色々面白いことを聞きました。

 

マリア・ヴェーバー:最近、ルイス王は奥方様や側女そばめたちをお相手にされないそうでございます。 

 

アンナ・モーリー:お殿様はいかがでございますか?そういうことはございますか? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:言いにくいことだが、俺にはそういうことはない。必ず誰かが俺の寝所にもぐり込んでくる。 

 

マリア、アンナ:そうでございましょう?ルイス王は、お病気なのかも知れませんね。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:いずれにしても、お前たちの住む場所を探しに行こう。旧清朝王族邸はルイス王に頂いた屋敷であり、長く暮らす場所ではない。 

 

マリア、アンナ:左様でございますね。私たちも、一週間ほどはルイス王の侍女として奥様方のお世話をいたしましたので、顔をうっすらと覚えているお方もいらっしゃるやも知れませぬ。旧清朝王族邸より、他の屋敷で暮らすほうが安心でございます。 

 

3人は、漢口ハンコウ商店街の不動産屋を訪れ、居抜きの物件を探した。漢正街・永寧巷に、フランスの東方匯理銀行の頭取が住んでいた豪邸とロシアの道勝銀行の頭取が住んでいた豪邸が売りに出されている。隣同士の物件だし、従業員も揃っている。価格もいずれも5,000両と手頃なのでそこを購入することにした。 

 

☆午後6時。漢口ハンコウ:漢正街・永寧巷・フランス東方匯理銀行の頭取邸「以後はマリア邸とする」 

午後6時、漢口の静謐な漢正街に位置する、かつてフランス東方匯理銀行の頭取が居住していた邸宅では、一風異なる準備が進められていた。この豪華な邸宅は、現在、岳明軒ユエ・ミンシュエンとその妻、マリア・ヴェーバー、さらに隣邸の女主人アンナ・モーリーのための特別な晩餐会の場となっている。邸宅は、以後「マリア邸」と呼ばれることとなる。 

 

マリア邸の庭には、繊細に手入れされた花々が咲き誇り、夕暮れ時にはライトアップされて幻想的な雰囲気を醸し出していた。フランスからやって来た従業員たち――執事、侍女、料理人、庭師、そしてボディガード兼運転手――は、その準備に余念がない。

 

料理人はキッチンで最後の仕上げを行っており、この晩のメニューはフランス料理の粋を集めたものだった。前菜としては、フォアグラのテリーヌにフィグのコンポート、そして新鮮な牡蠣のフレッシュマリネが振る舞われる。続いて、滑らかな口当たりのビシソワーズが供され、メインディッシュには、皮目をパリッと焼いたサーモンのポワレにソース・オランデーズをかけ、その後には鴨のコンフィとビーフ・ウェリントンが続きます。サラダ、フランス産チーズの盛り合わせ、そしてデザートにはクレームブリュレとタルト・タタンが用意されており、シャンパーニュと厳選されたフランスワインがそれぞれの料理を引き立てる。 

 

夕食のテーブルは、白いテーブルクロスで覆われ、銀の食器とクリスタルのグラスが輝いている。中央には、季節の花々で構成された華やかな花束が飾られており、ロウソクの灯りが優しく空間を照らし出していた。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンとマリア、そしてアンナは、フランス人スタッフにうやうやしくかつ温かく迎えられ、彼らはこの特別な晩餐を楽しみにしていた。食事が始まると、会話は弾み、美しい音楽が流れる中、彼らは絶品の料理とともに、互いの交流を深めて行く。 

 

この夜は、岳明軒ユエ・ミンシュエンとマリア、アンナにとって、彼らが過ごす多くの夜の中でも特に記憶に残るものとなった。豪華なフランス料理、優雅な雰囲気、そして心からの歓迎が、彼らにとってかけがえのない時間を紡ぎ出していったのである。 

 

☆アンナ・モーリー(32歳)とマリア・ヴェーバー(28歳)のふたりとの同衾 

久しぶりの再開ということもあり、アンナ・モーリー(32歳)は隣の家には帰りたがらなかった。今夜だけは、岳明軒ユエ・ミンシュエンと一緒に過ごしたいという。やむを得ず、岳明軒ユエ・ミンシュエンはふたりを抱いて眠ることにした。 

 

☆交接後の語らい 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは、アンナ・モーリー(32歳)とマリア・ヴェーバー(28歳)のふたりを侍らせながら、質問した。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:お前たちが売却しようとした品物の原価はいくらだ? 

 

アンナ・モーリー、マリア・ヴェーバー:私たちは、宜都イートゥの市場で総計19.25両使いました。内訳は、以下の通りです。 

 

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宜都みかん: 100個、合計で 7.5両
洪山茶: 50個、合計で 5.0両
宜都宜紅茶: 30個、合計で 3.75両
宜都天然富亜鉛茶: 20個、合計で 3.0両
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岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうか。それでは原価の10倍で俺が買ってやる。192.5両だな。 

 

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宜都みかん: 1000個、合計で 75両
洪山茶: 500個、合計で 50両
宜都宜紅茶: 300個、合計で 37.5両
宜都天然富亜鉛茶: 200個、合計で 30両
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アンナ・モーリー、マリア・ヴェーバー:まあ。それでは私たち、大儲けですわ。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:お前たちには特別にボーナスを一人5,000両渡すことにする。これは今後のお前たちの年俸1,000両、賞与1,000両とは別に支給してやる。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは、ふたりに14,192.5両の現金を車から取り出して支給した。 

 

アンナ・モーリー、マリア・ヴェーバー:御殿様。このお金の一部を使ってメイドを雇っても良いですか?「紫禁の夢」茶楼で明日の午後3時から、妻売りが始まると聞きました。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうか。俺は他に用事があるからお前たちだけでやれば良い。出来るだけ、20代の妻たちを選ぶのだぞ。 

 

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

岳明軒ユエ・ミンシュエン漢口ハンコウでの滞在は、彼にとって多くの試練となりました。ダイヤモンド強盗を追う過程で、彼は市場で特産品を販売していた側女たちとの再会を果たします。この感動的な再会は、岳明軒ユエ・ミンシュエンの長い旅の中で一筋の光となりました。彼女たちが無事であったことに安堵し、そして再び彼らが一緒になれる喜びを分かち合いました。岳明軒は、彼女たちの新しい住居を購入する決断を下します。