小説「海と陸の彼方へ」

 

第十一章新主人公岳明軒(ユエ・ミンシュエン)の活躍

 

第1話岳明軒(ユエ・ミンシュエン)、南充の石油王を救助する

 

前書き

本話では、若き英雄岳明軒が南充の石油王との運命的な出会いを果たし、未知の陰謀に立ち向かう物語が展開されます。1936年、中国四川省南充。この地は天然資源に恵まれ、特に石油と液化天然ガス(LNG)の産出で知られています。しかし、資源の富はまた、欲望と野心の火種となり得るのです。岳明軒は、南宋の英雄・岳飛の血を引く若者として、困難に立ち向かいながらも自身の運命を探求し続けます。本話では、彼の勇敢さと知恵が、ただならぬ試練にどう立ち向かうのかを描きます。

 

本文

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登場人物「年齢は1936年1月1日時点」 

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主人公ルイス(19歳)、中国の運命を操る覇王。巴蜀・雲南・陜西・河南・湖北及び長江沿岸諸都市、上海、杭州を領土とし、反西欧、反日、反共を掲げ、中国民族自決のための戦いを始める。 

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側室 

ナディア・アミール・アル・サン(43歳)。アレッサンドロ・ディアンジェロ男0歳の生母。 

サリマ・ファイサル・アル・ハウ(26歳)。エミリア・ディアンジェロ女0歳の生母。 

王光美ワン・グアンメイ(15歳)。マルコ・ディアンジェロ男0歳の生母。 

側女、愛人は多数居る。いちいち書かない。 

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ヘクターの部下 

岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)。彼は南宋の英雄・岳飛の血を引く末裔として、洪水のため両親を失いながらも、自身の運命を探求し続ける。棍棒の使い手。俊敏かつ頭脳明晰。文武両道の逞しき若者。 

岳蓮華ユエ・リエンファ(20歳)。岳明軒ユエ・ミンシュエンの姉。抜群の美貌を誇るが、実は中国漢方薬の大家。

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岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の側女そばめたち ドイツ商人の妻ヘルガ・バウアーマン39歳、オランダ商人の妻エリザベト・ヴァン・デル・メール26歳、中国商人の妻:李明珠リー・ミンジュ32歳。元ヘクターの側女であったが、自ら望んで若い岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の側女そばめとなった。全員交易の旅に出ている。第18話の冒頭で全員、岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」に昇格した。 

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古武道:霧隠流むぎんりゅうの創始者 趙雲龍チョウ・ウンリョン(65歳)。彼は長年にわたる修行と実戦の経験から、この独自の武術を生み出した。

 趙紫蘭チョウ・シラン(34歳)。雲龍の娘であり、彼女自身も古武道の技術に長けている。岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」。

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エリザベス・ウィンザム(41歳)。イングランド人。銀行家の元妻。社交界で名高い名士。優れた美的センスを持ち、古典音楽と美術をこよなく愛する。慈善活動にも熱心に取り組んでいる。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」 

趙麗華ジャオ・リーファ(18歳)。エリザベス・ウィンザム付きのメイド。 

メアリー・ウェルビー(21歳)。エミリー・ウェルビーの義理の息子:アーサー・ウェルビー(24歳)の元妻。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」。各都市の交易品に詳しく、岳明軒ユエ・ミンシュエンのお気に入り。 

李小雲リー・シャオユン(20歳)。メアリー・ウェルビー付きのメイド。 

周麗ジョウ・リー(29歳)。富順県貢井の出身。地質学者。同じく地質学者の李鴻リー・ホン(31歳)の元妻。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」。 

王明珠ワン・ミンジュ(19歳)。周麗ジョウ・リー付きのメイド。

アンナ・モーリー(32歳)。イギリス人。紡績工場の経営者。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」。

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司祭補:エミリー・ウェルビー(32歳)。イギリス正教会九江支部司教ジョン・ウェルビー(58歳)の元妻。岳明軒ユエ・ミンシュエンの愛人。 エリザベート・ファン・ハウテン(25歳)。オランダ人。海賊:張銘チャン・ミンの元側室。岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめ。 

ソフィー・モロー(22歳)。エリザベート・ファン・ハウテン付きのメイド。 

アナスタシア・ロマノフ(28歳)。ロシア人。海賊:張銘チャン・ミンの元側室。岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめ。 

アンナ・イワノワ(23歳)。アナスタシア・ロマノフ付きのメイド。 

ジュリエット・ドュボワ(21歳)。フランス人。海賊:張銘チャン・ミンの元側室。岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめ。 

エリザベート・シュミット(21歳)。ジュリエット・ドュボワ付きのメイド。 

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側女そばめを兼ねた侍女。 

マリア・ヴェーバー(28歳)。ドイツ人。

劉芳リウ・ファン(25歳)。中国人。

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 紅軍の長征  

中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8

 

 

中国侵略 

東京書籍「世界史B」P329

 

 

辛亥革命以降 

東京書籍「世界史B」P332

 

 

国民党の北伐と共産党の長征 

東京書籍「世界史B」P364



山川出版社「市場の世界史」佐藤次高/岸本美緒著。P179

 

☆8月25日火曜日午後3時。南充石油王のお屋敷 

岳明軒ユエ・ミンシュエン李小梅リー・シャオメイ(27歳)は「営山の板鴨、塩皮卵、河舒豆腐」を大量に購入し、意気揚々と帰宅した。二人の仲は皆に知れ渡っている。大旦那様が暗黙の了解「若い側室を相手にすることが出来ず、岳明軒ユエ・ミンシュエンに任せた」こともあり、李小梅リー・シャオメイは堂々とした態度を取っている。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンが購入した南充の名産品をキッチンに納めに行くと、キッチンには塩皮卵が大きな樽に積められている。樽を開ければアヒルの卵だから、それが何であるかは一目瞭然である。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは大きな樽に収められている塩皮卵「アヒルの卵の加工品」と新しく南充市場で購入した塩皮卵を手に取り、見比べてみた。 

 

大きい樽に詰められた塩皮卵は卵の殻の表面に斑点が多く、殻を剥いた後の卵白の部分が黒緑色や時々黒点が見られる。よく見ると、卵の殻の表面に赤土や稲わらなどがくっついている。 

 

今日購入した塩皮卵は、外側の泥を取り除いて卵の殻を見ると、卵の殻が完全で、灰白色で黒斑がない。裂け目のある卵は、加工過程で過剰にアルカリが浸透し、卵白の風味に影響を及ぼす可能性があるし、細菌も裂け目から侵入して松花蛋が変質する可能性がある。 

 

適切に漬け込まれた松花蛋は、卵白が明らかに弾力があり茶褐色で松枝模様があり、卵黄の外周は黒緑色や青黒色で、中心は橙赤色であることが特徴である。このような松花蛋を切り開くと、卵の断面が多彩で、色、香り、味、形がすべて良好な特徴を持っている。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンはちょうどキッチンに居た若奥様:張静怡チャン・ジンイーに聞いてみた。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:若奥様。この塩皮卵はどなたが購入されたのですか? 

 

張静怡チャン・ジンイー:ああ。それはね。王大偉ワン・ダーウェイ(41歳)様が、南充の道士様から購入された物でね。私達は食べちゃいかんと言われているものなのよ。私達も一度食べたかったのだけど。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:それでは、どなたがお食べになったのですか? 

 

張静怡チャン・ジンイー王大偉ワン・ダーウェイ様が直接、前の大奥様、若奥様、妹様の3人にお運びになっていたわ。 

 

張静怡チャン・ジンイー:でもね。御三方ともお身体をお壊しになって、今は病院に入院されているのよ。どうも不治の病のようだわ。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうでしたか。それでは、南充市場で購入したばかりの塩皮卵を今お召し上がり下さい。 

 

張静怡チャン・ジンイーは一個食べて、「これは本当に美味しいわ。幾らでも食べられるわ。貴方は中々有能ね」と褒めてくれた。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは大きな樽に入っている怪しい塩皮卵を一つくすね、離の自分の部屋まで持ち帰った。この部屋は、劉天賜リウ・ティエンスーがしばらく此処で生活せよと与えてくれたものである。 

 

☆午後4時。離れの岳明軒ユエ・ミンシュエンの部屋 

岳明軒ユエ・ミンシュエンが怪しい塩皮卵の中身と殻の成分を調べてみると、殻にも中身にも酸化鉛が大量に付着していた。元々、中国伝統の皮蛋加工レシピでは、酸化鉛が添加されているが、鉛は有害な重金属である。おそらく、前の大奥様、若奥様、妹様の3人は鉛中毒になってしまったのだろう。岳明軒ユエ・ミンシュエンは鉛中毒の治療を行う準備を早速開始した。 

 

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EDTAの投与法に関して、1936年当時の中国四川省における具体的な手順は以下の通りである。

1. EDTAの準備:EDTAの粉末を正確な量で準備する。投与量は成人に対して通常、体重1kgあたり約20mgのEDTAが必要である。

2. 溶液の作成: 精製水または沸騰させて冷ました清潔な水を使用して、EDTA粉末を溶解させる。一般的に、成人への一回の投与量として500mg〜1000mgのEDTAを、約200mlの水で溶かす。

3. 注射器の準備: 滅菌された注射器を用意する。

4. 静脈内投与: 患者の腕の静脈を選び、消毒した上で、準備したEDTA溶液をゆっくりと静脈内に注入する。投与速度は、EDTA溶液200mlを約30分から1時間かけて注入することが一般的である。

5. 治療の監視: EDTA投与後は、患者の反応を注意深く観察する。脱水症状や低血圧などの副作用の兆候に特に注意が必要である。
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準備を整えた岳明軒ユエ・ミンシュエンは離れの電話を用いて、南充の宿屋に居る、霧隠流むぎんりゅうの達人親子に「広安の病院に入院している「王華ワン・ファ李芳蓉リー・ファンロン劉芸芸リウ・ユェンユェン」の3人を宿屋に連れてきてくれ」と指示しておいた。 

 

李小梅リー・シャオメイ(27歳)が「夕食の準備が出来たから、大広間までおいで」と呼びに来た。 

 

☆午後7時。南充石油王のお屋敷:大広間 

大広間には、一家が勢揃いしていた。岳明軒ユエ・ミンシュエンは、劉天賜リウ・ティエンスー(69歳)により、一家全員と当主、劉鵬飛リウ・ペンフェイ(41歳)が心酔している南充道教の総帥夫婦に紹介された。 

 

夕食を摂りながら、大旦那:劉天賜リウ・ティエンスーが液化天然ガス「LNG」について全員に説明し、この家の財布の紐を握っている南充道教の総帥:陳光輝チェン・グアンフイ(36歳)の妻:陳麗君チェン・リージュン(32歳)の裁可を求めた。 

 

陳麗君チェン・リージュン岳明軒ユエ・ミンシュエンと言ったな。お前は石油と液化天然ガスの卸業者だとか? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:左様でございます。 

 

陳麗君チェン・リージュン:石油の1バレルあたりの価格と天然ガスの1立方メートル辺りの価格を教えて欲しい。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:私どもでは、石油の1バレルあたりの卸価格は0.5両=10,000円とし、天然ガスの1万立方メートル辺りの卸価格は5.5両=11万円と決めております。 

 

陳麗君チェン・リージュン:四川省南充地域の石油年間産出量と天然ガスの年間産出量をどのくらいに見積もっているのか? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:南充地域では特に天然ガスの埋蔵量・生産量が多いと考えており、石油年間産出量は100万バレル、天然ガスの年間産出量は100億立方メートルと見積もっております。 

 

陳麗君チェン・リージュン:するとお前は、年間50万両+550万両=600万両を支払ってくれるのだな? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:おっしゃる通りです。ただし、支払いは月単位「毎月1日」でお願いしたい。 

 

陳麗君チェン・リージュン:毎月1日に50万両手に入るという訳か。気に入った。先の見通しが立つから当方としてもやりやすい。液化天然ガスの化学工場の建設を許可しよう。8万両だったな。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:ご心配なされるな。もう私が支払っておきました。9月から作動いたします。 

 

陳麗君チェン・リージュン:そうか。手回しの良い男だな。見ると若く逞しい。私の男にしたくなったぞ。 

 

劉天賜リウ・ティエンスー陳麗君チェン・リージュン様。ご冗談が過ぎますぞ。それくらいになされませ。 

 

劉天賜リウ・ティエンスーは、岳明軒ユエ・ミンシュエンをその他の一家の者たちにひとりひとり紹介して回った。 

 

南充道教の総帥陳光輝チェン・グアンフイ(36歳)、陳麗君チェン・リージュン(32歳)、当主:劉鵬飛リウ・ペンフェイ(41歳)、当主の元妹婿:王大偉ワン・ダーウェイ(41歳)の4人は別室にこもり、密談をしているようだ。 

 

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道教について
中国の道教の僧侶のことを道士と言います。道士は中国古代の宗教である道教の実践者であり、自然と調和する生き方や精神の修養、不老不死の探求などを目指す存在です。彼らは多様な宗教的儀式、占い、気功、太極拳、錬丹術「内丹術と外丹術」などの実践を行います。また、道士は寺院や道观「道教寺院」で生活し、道教の教えを広め、信者や一般の人々に対して指導や相談役を務めることもあります。
道士の妻帯
道教において、修行や生活のスタイルは実に多様であり、すべての道士が厳しい戒律に従って独身を貫くわけではありません。特に、俗家道士「在家で修行を行う道士」の中には結婚して家庭を持ち、社会の一員として生活しながら道教の実践を行う者もいます。これに対して、出家して寺院や道観に住む道士の中には独身を選ぶ者もいますが、これは個人の選択や所属する宗派の規則により異なります。したがって、道士が妻帯するかどうかはその人の選択や宗派の教えに依存すると言えます。
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岳明軒ユエ・ミンシュエンは、王大偉ワン・ダーウェイの奥様:鄭艶芳チョン・イェンファン(40歳)に声を掛けられた。彼女は、全体に細かいリブ編みが施された黒のミニドレスを着用しており、ドレスは体のラインにぴったりと沿ったデザインだ。彼女は耳に大きなフープイヤリングをしており、口紅は鮮やかな赤色で、ヘアスタイルは低い位置でまとめたポニーテールにしている。彼女はまた、黒のシアーなストッキングを履いており、足元はブラックのハイヒールである。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは、彼女のあまりの美しさに顔を赤らめ声も出せなかった。 

 

鄭艶芳チョン・イェンファン:あら、どうしたの?陳麗君チェン・リージュンさんとは良く話していたでしょう? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:奥様が美しすぎて声が出ないのです。 

 

鄭艶芳チョン・イェンファン:それは褒め言葉なの? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは少し落ち着きを取り戻し、やっと声が出るようになった。必死になり、思いつく限りの語彙を用いて彼女の美しさを表現しようと試みた。

 

鄭艶芳チョン・イェンファンは、岳明軒ユエ・ミンシュエンの必死の愛情表現がおかしかったらしくコロコロと良く笑った。どうやら、鄭艶芳チョン・イェンファン岳明軒ユエ・ミンシュエンのことが気に入ったようである。 

 

鄭艶芳チョン・イェンファン岳明軒ユエ・ミンシュエンちゃん。貴方、閬中古城へ行った事がある? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:いえ。ありません。どういうところなんですか? 

 

鄭艶芳チョン・イェンファン:閬中古城は、四川省の北東の端っこにある、超古い街なのよ。昔昔、中国の強い国だった巴国や蜀国の大事な要塞で、お正月の文化が色濃く残っているところだって有名。それにね、中国の四大古城の一つに数えられてるんだって。 

 

鄭艶芳チョン・イェンファン:この城はね、4.59平方キロメートルもあって、その中の2平方キロメートルは超大事な文化遺産エリアなの。そこには、張飛廟とか永安寺とか、たくさんのすごい古い建物があって、ぜんぶ国が大切に守ってるのよ。 

 

鄭艶芳チョン・イェンファン:閬中古城はすごい賞をいっぱいもらってて、国からも文化名城って認められてるの。だから、観光客にも大人気で、特にお正月になるといろんなイベントがあって盛り上がるのよ。 

 

鄭艶芳チョン・イェンファン:あとね、ここには風水がめちゃくちゃ良い場所があって、古い家とか通りがチェスボードみたいにきれいに整然と並んでるの。風水っていうのは、昔の人が自然の力をうまく生活に取り入れようとした考え方で、閬中古城はそれがうまくできてるって超有名なの。 

 

鄭艶芳チョン・イェンファン:お寺や祠堂もたくさんあるから、歴史が好きな人にはたまらないところだよ。中でも張飛廟っていうのは、三国時代の有名な武将の張飛を祀った場所で、今でもたくさんの人がお参りに来るの。明日、私と一緒に行こうよ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:もちろんです。鄭艶芳チョン・イェンファンさんと一緒なら何処にでも行きますよ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン鄭艶芳チョン・イェンファンとのデートの約束を取り付け、大喜びしたが、此処に来た本来の目的を忘れてはいなかった。 

 

李小梅リー・シャオメイに「液化天然ガス工場建設予定地を見てくるから帰りは遅くなります」と告げておき、南充の宿屋まで走った。 

 

☆午後9時。南充の宿屋。 

大奥様:王華ワン・ファ(46歳)、若奥様:李芳蓉リー・ファンロン(38歳)、当主の妹:劉芸芸リウ・ユェンユェン(39歳)の3名が並んで床に伏していた。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは、中国四川省で鉛中毒の治療を始めた。EDTAという特殊な化学物質を使った治療法を行う。EDTAは重金属を体外に排出する効果があるため、鉛中毒治療に適している。治療のためにまずはEDTAの粉末を正確に量って、それを清潔な水で溶かした。成人の標準的な量は、体重1キログラムあたり約20ミリグラムである。彼女たちの体重は50キロ程度と見積もり、1,000ミリグラムの溶液を3つ用意した。 

 

次に、滅菌された注射器にこの溶液を入れた。そして、患者の静脈を選んで消毒した後、その溶液を静脈内に注入するわけだが、これが少し時間がかかる作業で、約30分から1時間ほどを要した。 

 

患者の安全を守るためには、注入の速度を調節しながら慎重に行わなければならない。そして、注入後は患者がどう反応するかを見守る必要がある。万が一の副作用に備えて、患者さんの体調を注意深く観察し続ける必要がある。

 

 岳明軒ユエ・ミンシュエンがこのような手順で治療を行ったのは、大奥様、若奥様、妹様の3人が鉛中毒に苦しんでいたからだ。彼女たちは皮蛋を食べた後に体調を崩し、広安の病院に入院していたのだが、岳明軒ユエ・ミンシュエンは彼女たちが食べた皮蛋に酸化鉛が大量に含まれていることを発見し、その鉛中毒が原因だと看破した。このまま此処に放置すると彼女たちの命が危ない。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは霧隠流の達人親子に連絡し、彼女たちを宿屋に連れてきてもらい、治療を始める準備を進めた。彼はこの重大な任務を遂行するために、夕食の後すぐに宿屋へと向かった。そこでは3人の女性が床に横たわっており、岳明軒ユエ・ミンシュエンによる治療の始まりを待っていた。 

 

幸い、一度目の投薬は上手く行き、彼女たちは意識を取り戻した。あと、2,3回の投薬で元気を回復するだろう。 

 

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

岳明軒の南充での冒険は、彼が鉛中毒の治療を始めたところで一段落します。彼の旅は、彼の周囲の人々にも影響を及ぼし、彼らの運命を変えます。物語は岳明軒の次なる一歩を待っています。彼の知識と決意が次話でどのような結果をもたらすのか、読者の皆様には期待していただきたい。物語はまだ終わりません。次の展開をどうぞお楽しみに。