小説「海と陸の彼方へ」

 

第十章ヘクターとルイスの対イギリス共同作戦

 

第20話岳明軒(ユエ・ミンシュエン)と交易の旅⑫

 

前書き

時代の転換点に立つ中国、その渦中で個々の運命が交錯する。本話では、若き石油・LNG専門の卸問屋という触れ込みの英雄岳明軒が主人公。彼の前に立ちはだかるのは、中国の運命を左右する大きな力と、身近な人々との絆。四川南充の豊かな自然の中、ルイス王の命により、南充の石油王:王華(ワン・ファ)の屋敷を訪れるが、彼女はいなかった。敵対する元の夫たちにより、拉致監禁されていたのだ。岳明軒の王華(ワン・ファ)探しが開始される。

 

本文

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登場人物「年齢は1936年1月1日時点」 

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主人公ルイス(19歳)、中国の運命を操る覇王。巴蜀・雲南・陜西・河南・湖北及び長江沿岸諸都市、上海、杭州を領土とし、反西欧、反日、反共を掲げ、中国民族自決のための戦いを始める。 

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側室 

ナディア・アミール・アル・サン(43歳)。アレッサンドロ・ディアンジェロ男0歳の生母。 

サリマ・ファイサル・アル・ハウ(26歳)。エミリア・ディアンジェロ女0歳の生母。 

王光美ワン・グアンメイ(15歳)。マルコ・ディアンジェロ男0歳の生母。 

側女、愛人は多数居る。いちいち書かない。 

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ヘクターの部下 

岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)。彼は南宋の英雄・岳飛の血を引く末裔として、洪水のため両親を失いながらも、自身の運命を探求し続ける。棍棒の使い手。俊敏かつ頭脳明晰。文武両道の逞しき若者。 

岳蓮華ユエ・リエンファ(20歳)。岳明軒ユエ・ミンシュエンの姉。抜群の美貌を誇るが、実は中国漢方薬の大家。

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岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の側女そばめたち ドイツ商人の妻ヘルガ・バウアーマン39歳、オランダ商人の妻エリザベト・ヴァン・デル・メール26歳、中国商人の妻:李明珠リー・ミンジュ32歳。元ヘクターの側女であったが、自ら望んで若い岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の側女そばめとなった。全員交易の旅に出ている。第18話の冒頭で全員、岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」に昇格した。 

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古武道:霧隠流むぎんりゅうの創始者 趙雲龍チョウ・ウンリョン(65歳)。彼は長年にわたる修行と実戦の経験から、この独自の武術を生み出した。

 趙紫蘭チョウ・シラン(34歳)。雲龍の娘であり、彼女自身も古武道の技術に長けている。岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」。

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エリザベス・ウィンザム(41歳)。イングランド人。銀行家の元妻。社交界で名高い名士。優れた美的センスを持ち、古典音楽と美術をこよなく愛する。慈善活動にも熱心に取り組んでいる。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」 

趙麗華ジャオ・リーファ(18歳)。エリザベス・ウィンザム付きのメイド。 

メアリー・ウェルビー(21歳)。エミリー・ウェルビーの義理の息子:アーサー・ウェルビー(24歳)の元妻。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」。各都市の交易品に詳しく、岳明軒ユエ・ミンシュエンのお気に入り。 

李小雲リー・シャオユン(20歳)。メアリー・ウェルビー付きのメイド。 

周麗ジョウ・リー(29歳)。富順県貢井の出身。地質学者。同じく地質学者の李鴻リー・ホン(31歳)の元妻。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」。 

王明珠ワン・ミンジュ(19歳)。周麗ジョウ・リー付きのメイド。

アンナ・モーリー(32歳)。イギリス人。紡績工場の経営者。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」。

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司祭補:エミリー・ウェルビー(32歳)。イギリス正教会九江支部司教ジョン・ウェルビー(58歳)の元妻。岳明軒ユエ・ミンシュエンの愛人。 エリザベート・ファン・ハウテン(25歳)。オランダ人。海賊:張銘チャン・ミンの元側室。岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめ。 

ソフィー・モロー(22歳)。エリザベート・ファン・ハウテン付きのメイド。 

アナスタシア・ロマノフ(28歳)。ロシア人。海賊:張銘チャン・ミンの元側室。岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめ。 

アンナ・イワノワ(23歳)。アナスタシア・ロマノフ付きのメイド。 

ジュリエット・ドュボワ(21歳)。フランス人。海賊:張銘チャン・ミンの元側室。岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめ。 

エリザベート・シュミット(21歳)。ジュリエット・ドュボワ付きのメイド。 

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側女そばめを兼ねた侍女。 

マリア・ヴェーバー(28歳)。ドイツ人。

劉芳リウ・ファン(25歳)。中国人。

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 紅軍の長征  

中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8

 

 

中国侵略 

東京書籍「世界史B」P329

 

 

辛亥革命以降 

東京書籍「世界史B」P332

 

 

国民党の北伐と共産党の長征 

東京書籍「世界史B」P364



山川出版社「市場の世界史」佐藤次高/岸本美緒著。P179

 

☆8月24日月曜日午後11時。南充石油王のお屋敷:門の傍の物置小屋 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは決して歓迎されていないことは分かったが、物置部屋でもわらを敷いて寝床は作れる。その日はぐっすり寝た。 

 

☆8月25日火曜日午前5時。物置小屋 

働き者の岳明軒ユエ・ミンシュエンは朝5時に目覚めると、物置小屋をきれいに片付け、母屋のキッチンに行った。そこでは大奥様と呼ばれている李小梅リー・シャオメイ(27歳)と言う名の女性と若奥様と呼ばれている張静怡チャン・ジンイー(25歳)と言う名の女性の指示に従い、侍女たちが朝食の準備をしていた。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは侍女の一人、王雅静ワン・ヤジン(17歳)から「裏山から木材を伐採して薪にせよ」と命令され、裏山まで行った。 

 

結構な広さの裏山で、木材だけでなく、山菜や香草、ハーブなども沢山取れた。何よりも嬉しかったのは野生の猪が捕れたことだ。ぼたん鍋にすれば一家の食卓を飾る食材の一つになる。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは薪や裏山で採った食材を料理担当の侍女の一人、李紫薇リー・ズーウェイ(17歳)に渡した。侍女たちは四川料理を手慣れた様子で作っているが、岳明軒ユエ・ミンシュエンの見るところ、料理の腕は今ひとつのようである。 

 

思わず、岳明軒ユエ・ミンシュエンは「そんなやり方では駄目だよ」と一言つぶやいてしまった。敏感に聞きつけたのは大奥様の李小梅リー・シャオメイ(27歳)である。

 

李小梅リー・シャオメイ:お前の名前は何というのだ。年齢は幾つだ。どうやってこの家に入り込んだ?

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:私は、岳明軒ユエ・ミンシュエンと申します。16歳です。石油・液化天然ガス「LNG」専門の卸問屋をしております。ここのお屋敷が南充の石油王のお屋敷だと聞いて参りました。昨夜は門のそばの物置部屋に泊めていただきました。

 

李小梅リー・シャオメイ:石油は分かるが、液化天然ガス「LNG」と言うのはどういうものなのだ?私はそんな言葉を聞いたことがないぞ。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:奥様に、液化天然ガス(LNG)について簡単に説明いたします。天然ガスは、私たちが料理や暖房に使うガスの一種で、主にメタンという成分から成っています。この天然ガスをとても冷たい温度「約マイナス160度」まで冷やすと、ガスから液体に変わります。これが「液化天然ガス」、つまりLNGです。

 

李小梅リー・シャオメイ:ふむ。そこまでは良く分かったが、何故液化しなくてはならないのだ?

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:なぜ天然ガスを液化する必要があるのかというと、主に2つの大きな理由があります。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:一つは体積を減らすためです。 天然ガスを液化すると、体積が約600分の1まで減少します。これにより、大量の天然ガスをより少ないスペースで運べるようになり、輸送がとても効率的になります。例えば、南充から南京や北京にガスを運ぶときにも、この方法がとても役立つのです。

 

李小梅リー・シャオメイ:そうか。今までは周辺で消費するだけで、残りは蒸発してしまっていたからな。液化して他の地域で利用できれば随分便利になるな。少なくとも煮炊きや風呂沸かし、暖房にも使える。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:2つ目は運搬と保存がしやすくなるためです。 体積が減ると、特別なタンク車や船で、安全に長距離を運ぶことができるようになります。また、液化している間は、圧力がそれほど高くないので、保存もしやすくなるます。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:要するに、天然ガスを液化することで、運搬や保存がしやすくなり、世界中どこへでも効率的にエネルギーを届けることができるようになるのです。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:このように、LNGは私たちの生活を支える大切なエネルギー源の一つとして、運搬と利用の効率を高めるために液化されているのです。

 

李小梅リー・シャオメイはこの若く逞しい色男が、見てくれだけではなく中身も非常に聡明な男であることを見抜き、好意と興味を抱いた。

 

 李小梅リー・シャオメイ:お前は四川料理にも自信があるようだ。私にもお前の料理を教えてはくれぬか?

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:私で良ければ、お美しい奥様のために懇切丁寧にお教えいたしましょう。 

 

南充の裏山で採れた新鮮な山菜と野生の猪を用いて、岳明軒は李小梅に四川料理の粋を伝授した。

 

彼が選んだメニューは、新鮮な山菜の炒め物と蒸し野猪肉の包み焼きであり、それぞれには特別な調理法と独特の風味があった。

 

山菜は下茹でして苦味を取り、ごま油で炒めた後、醤油とオイスターソースで味付けをしている。一方、野猪肉は薄くスライスし、生姜、長ねぎ、四川胡椒と共に混ぜ合わせた後、豆腐皮または蓮の葉で包み、蒸し上げた。

 

この手順により、野生の猪肉の豊かな味わいと柔らかさ、新鮮な山菜の風味と歯ごたえを最大限に引き出している。

 

この料理の作成過程では、岳明軒が李小梅に丁寧に指導し、彼女も熱心に学んでいく中で、二人の間の距離が自然と縮まって行った。

 

料理を通じて、彼らは互いの心を開き、朝食を一緒に摂る頃には、非常に親密な関係に発展していた。口移しで料理を食べ合うほどに親しい間柄となり、二人の間には深い信頼と理解が芽生えていたのである。

 

料理という共通の活動を通じて、互いの文化や価値観を尊重し合うことができ、その過程で彼らの関係はさらに深まっていった。

 

李小梅リー・シャオメイ岳明軒ユエ・ミンシュエンの説明した液化天然ガスの話を、この屋敷の主人に相談しに行った。

 

この頃になると、岳明軒ユエ・ミンシュエンにもこの屋敷の当主がルイス王の言う南充の石油王:王華ワン・ファ(46歳)様ではないと気づいていた。

 

 岳明軒ユエ・ミンシュエンは、「では南充の石油王:王華ワン・ファ(46歳)様は何処に行ったのだろう?:と不審の念を抱き、侍女たちに聞いてみた。 

 

侍女たちに聞いても誰も答えてくれぬばかりか、王華ワン・ファと言う言葉を聞くだけで逃げ出す始末である。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンがあれこれと思案をしていると、先程のふたりの侍女たち「王雅静ワン・ヤジン(17歳)、李紫薇リー・ズーウェイ(17歳)」が岳明軒ユエ・ミンシュエンの腕を引っ張り、物置小屋に連れていった。

 

王雅静ワン・ヤジン(17歳):あんた。岳明軒ユエ・ミンシュエンと言ったわね。何で大奥様:王華ワン・ファ(46歳)様の名前を知っているの?

 

李紫薇リー・ズーウェイ(17歳):大奥様、若奥様、妹様の名前はこの家では禁句になっているのよ。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:私は、単なる交易商人ですが、ルイス王から石油・液化天然ガス「LNG」をタンカーで運んでくるように言われたのです。まさか大奥様がいないとは思いませんでした。ルイス王に連絡しなければなりません。

 

王雅静ワン・ヤジン李紫薇リー・ズーウェイ:まあ、少し待ちなさい。ルイス王に知らせると、大奥様、若奥様、妹様のお命が危ないですよ。何処に監禁されているのか分かりませんからね。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうか。先ずは救い出さねばなりませんね。何処にか監禁されているのか見当は付きませんか?

 

王雅静ワン・ヤジン李紫薇リー・ズーウェイ:私達もあちこちを調べたんだけど皆目見当が付かないのよ。 

 

李紫薇リー・ズーウェイ:あんた。大奥様とキスするほど仲良くなったのだから聞き出してみなさいよ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:それとこれとは別ですよ。ところで李小梅リー・シャオメイ様のご主人と言うのは誰のことですか? 

 

王雅静ワン・ヤジン王華ワン・ファ様に以前追い出された元の大旦那様:劉天賜リウ・ティエンスー(69歳)ですよ。 

 

李紫薇リー・ズーウェイ:ルイス王が此処を出てから舞い戻ってきて、王華ワン・ファ様を捕らえて実権を握ったのです。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:お前たちはまるで見てきたように良く知っているな。 

 

王雅静ワン・ヤジン李紫薇リー・ズーウェイ:もちろん。こうではないか?と言う推測ですけどね。 

 

☆大旦那さんからの呼び出し 

李小梅リー・シャオメイがやってきて、大旦那の劉天賜リウ・ティエンスー(69歳)に会わせると言う。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは廊下を彼女と歩きながら、聞いた。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:失礼ですけど。劉天賜リウ・ティエンスー(69歳)様とは随分歳が離れていますね。 

 

李小梅リー・シャオメイ:私もあんなジジイは嫌なんだけど。手籠めにされて泣く泣く妾になったのよ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうだったのですか。 

 

☆午前9時。大広間 

劉天賜リウ・ティエンスー岳明軒ユエ・ミンシュエンというのか。天然ガスを液化する技術を持っているそうだな? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:左様でございます。化学工場を建設せねばなりませんけど。 

 

劉天賜リウ・ティエンスー:いくらくらい掛かるのだ? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:四川省川中地域「南充を含む」一帯における小規模の化学工場「10個所」なので、LNG生産工場の建設費用は約7万5千両、一年間の運営費用は約5千両「合計8万両」と見積もりましょう。 

 

劉天賜リウ・ティエンスー:ふむ。案外少なくて済むのだな。だが、8万両にしてもある女性の決済が必要なのだ。一週間ほど待ってくれないか?

 

 岳明軒ユエ・ミンシュエン:良いですよ。その間に南充の散策でもいたしましょう。 

 

劉天賜リウ・ティエンスー:そうか。李小梅リー・シャオメイを付けてやるから可愛がってやってくれ。俺のような年寄では若い女の相手はもう出来ぬのだ。

 

 李小梅リー・シャオメイ:貴方。いやらしいことは言わないで下さい。岳明軒ユエ・ミンシュエンが恥ずかしがりますよ。 

 

李小梅リー・シャオメイ岳明軒ユエ・ミンシュエンと一緒に外に出た。 

 

李小梅リー・シャオメイ明軒ミンシュエンちゃん。幾つか南充地方の名産を教えてあげるわ。市場に買いに行きましょう。 

 

☆午前10時。南充市場 

李小梅リー・シャオメイは市場で何時も買う食材以外に幾つかの名産品を購入した。営山の板鴨、塩皮卵、河舒豆腐の3種類である。 李小梅リー・シャオメイは、砕けた恋人口調で岳明軒ユエ・ミンシュエンに説明する。 

 

1️⃣ 営山の板鴨 

李小梅リー・シャオメイ:ねえ、営山の板鴨って知ってる?千年も前からある営山ってところの自慢料理なの。金色でキラキラしてて、塩味と甘みがちょうどいいのよ。これ、すごく美味しいから、家に帰ったら二人で一緒に食べようよ。手頃な値段で日常にも、お客様をもてなすのにもぴったりだし、プレゼントにもいいんだって。生の板鴨と熟した板鴨があって、季節によって楽しめるの。冬に作った生の板鴨は、春まで美味しさが変わらないんだよ。 

 

2️⃣ 塩皮卵 

李小梅リー・シャオメイ:塩皮卵って食べたことある?四川省広安の特別な味なんだけど、塩卵と皮卵のいいとこ取りみたいな美味しさなの。朝ごはんにも、お酒のつまみにも最高。タンパク質たっぷりで体にもいいし、なんと言ってもこの味、ハマること間違いなし!特別な広安麻アヒルの卵を使って、スパイスと一緒にじっくり時間をかけて作るの。卵黄はサクサク、卵白はしっとり、一度食べたら忘れられない味わいなのよ。 

 

3️⃣ 河舒豆腐 

李小梅リー・シャオメイ:河舒豆腐については聞いたことある?四川省蓬安県から来た超柔らかい豆腐なの。見た目にも美しくて、どんな料理にも合うんだって。この豆腐、口に入れた瞬間にその柔らかさと美味しさにビックリしちゃうわ。国家から認められた特産品で、歴史も長いの。乳白色で豆の香りがふわっと広がって、本当においしいのよ。特別な大豆と清水、秘伝の技で作られてるから、その味は絶品。 

 

李小梅リー・シャオメイ:こんな感じでどうかしら?二人で一緒に楽しめる料理たちを紹介するの、すごく楽しいわね。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン李小梅リー・シャオメイは何時しか強く抱き合い、熱いキスを交わしていた。行き交う人は驚きながら大胆なふたりの抱擁する姿を凝視している。 

 

李小梅リー・シャオメイ岳明軒ユエ・ミンシュエンを市場の外れにある待合「ラブホテル」に連れ込み、そこで自宅に電話した。侍女たちに昼食の準備をして旦那様たちに届けなさいと指示をしたのである。 

 

待合で昼食と逢瀬を済ませたふたりはしばし語らい合いました。初めて身体を合わせたふたりはすでに離れがたくなっており、何時まで語り合っても尽きない様子である。 

 

李小梅リー・シャオメイ明軒ミンシュエンちゃん。化学工場の建設は早く始めたほうが良いんじゃないの? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:それはそうですね。液化天然ガス「LNG」を漢口や九江の人たちは待ち望んでいますからね。80万両は僕が建て替えておきましょう。 

 

李小梅リー・シャオメイ:交易商人って儲かるんだね。8万両も立替えられるなんて。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうですね。商船4隻だけで、40万両の資金が150万両になりましたから。 

 

李小梅リー・シャオメイ:何処で何を購入して、何処で売却したの? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:景徳鎮の陶磁器と祁門縣、婺源縣の茶及び徽州特産品として、竹、木材、瓦、生漆、硯、墨、筆、紙などを総額40万両で購入しました。それらの品物を漢口で売却したのです。 

 

李小梅リー・シャオメイ:南充で買い付けた石油・液化天然ガス「LNG」ならどの位儲かるかしらね。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:何千万両の単位で儲かりますよ。 

 

李小梅リー・シャオメイ:凄いわね。私ね。あの爺さんと別れて貴方と一緒になりたいわ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:それが本気ならそうしましょう。 

 

李小梅リー・シャオメイ:もちろん。本気よ。貴方も嘘をついちゃ嫌よ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:嘘はつきませんが、私が成人するまでは側室で我慢して下さいね。 

 

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

第20話は、岳明軒と李小梅の旅路の一つの節目を描いた物語であり、彼らの未来への期待を抱かせる終わり方となっています。この話を通して、読者は1936年の中国という時代背景と、そこで生きる人々の日常と夢に思いを馳せることができます。岳明軒と李小梅の関係がどのように発展するのか、そして南充の石油王:王華の運命がどうなるのか、今後の展開に大いに期待が寄せられます。