小説「海と陸の彼方へ」

 

第十章ヘクターとルイスの対イギリス共同作戦

 

第19話岳明軒(ユエ・ミンシュエン)と交易の旅⑪

 

前書き

中国の混沌とした時代背景の中で、一人の若き英雄がその運命を切り拓いていく物語。本話では、岳明軒(ユエ・ミンシュエン)とその側女たちが、交易の旅を通じて様々な文化と出会い、新たな交流を深めていく様子を描きます。漢口の小売市場で行われる競売を舞台に、岳明軒の商才と彼の周りの人々の絆が試されます。本話は、彼らがどのようにして困難を乗り越え、予期せぬ成功を収めるのか、その過程を丁寧に綴っています。

 

本文

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登場人物「年齢は1936年1月1日時点」 

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主人公ルイス(19歳)、中国の運命を操る覇王。巴蜀・雲南・陜西・河南・湖北及び長江沿岸諸都市、上海、杭州を領土とし、反西欧、反日、反共を掲げ、中国民族自決のための戦いを始める。 

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側室 

ナディア・アミール・アル・サン(43歳)。アレッサンドロ・ディアンジェロ男0歳の生母。 

サリマ・ファイサル・アル・ハウ(26歳)。エミリア・ディアンジェロ女0歳の生母。 

王光美ワン・グアンメイ(15歳)。マルコ・ディアンジェロ男0歳の生母。 

側女、愛人は多数居る。いちいち書かない。 

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ヘクターの部下 

岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)。彼は南宋の英雄・岳飛の血を引く末裔として、洪水のため両親を失いながらも、自身の運命を探求し続ける。棍棒の使い手。俊敏かつ頭脳明晰。文武両道の逞しき若者。 

岳蓮華ユエ・リエンファ(20歳)。岳明軒ユエ・ミンシュエンの姉。抜群の美貌を誇るが、実は中国漢方薬の大家。

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岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の側女そばめたち ドイツ商人の妻ヘルガ・バウアーマン39歳、オランダ商人の妻エリザベト・ヴァン・デル・メール26歳、中国商人の妻:李明珠リー・ミンジュ32歳。元ヘクターの側女であったが、自ら望んで若い岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の側女そばめとなった。全員交易の旅に出ている。第18話の冒頭で全員、岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」に昇格した。 

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古武道:霧隠流むぎんりゅうの創始者 趙雲龍チョウ・ウンリョン(65歳)。彼は長年にわたる修行と実戦の経験から、この独自の武術を生み出した。 

趙紫蘭チョウ・シラン(34歳)。雲龍の娘であり、彼女自身も古武道の技術に長けている。岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめ。第18話の冒頭で、岳明軒ユエ・ミンシュエン(16歳)の妻「側室」に昇格した。

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エリザベス・ウィンザム(41歳)。イングランド人。銀行家の元妻。社交界で名高い名士。優れた美的センスを持ち、古典音楽と美術をこよなく愛する。慈善活動にも熱心に取り組んでいる。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」 

趙麗華ジャオ・リーファ(18歳)。エリザベス・ウィンザム付きのメイド。 

メアリー・ウェルビー(21歳)。エミリー・ウェルビーの義理の息子:アーサー・ウェルビー(24歳)の元妻。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」。各都市の交易品に詳しく、岳明軒ユエ・ミンシュエンのお気に入り。 

李小雲リー・シャオユン(20歳)。メアリー・ウェルビー付きのメイド。 

周麗ジョウ・リー(29歳)。富順県貢井の出身。地質学者。同じく地質学者の李鴻リー・ホン(31歳)の元妻。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」。 

王明珠ワン・ミンジュ(19歳)。周麗ジョウ・リー付きのメイド。

アンナ・モーリー(32歳)。イギリス人。紡績工場の経営者。岳明軒ユエ・ミンシュエンの妻「側室」。

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司祭補:エミリー・ウェルビー(32歳)。イギリス正教会九江支部司教ジョン・ウェルビー(58歳)の元妻。岳明軒ユエ・ミンシュエンの愛人。 エリザベート・ファン・ハウテン(25歳)。オランダ人。海賊:張銘チャン・ミンの元側室。岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめ。 

ソフィー・モロー(22歳)。エリザベート・ファン・ハウテン付きのメイド。 

アナスタシア・ロマノフ(28歳)。ロシア人。海賊:張銘チャン・ミンの元側室。岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめ。 

アンナ・イワノワ(23歳)。アナスタシア・ロマノフ付きのメイド。 

ジュリエット・ドュボワ(21歳)。フランス人。海賊:張銘チャン・ミンの元側室。岳明軒ユエ・ミンシュエン側女そばめ。 

エリザベート・シュミット(21歳)。ジュリエット・ドュボワ付きのメイド。 

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側女そばめを兼ねた侍女。 

マリア・ヴェーバー(28歳)。ドイツ人。

劉芳リウ・ファン(25歳)。中国人。

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 紅軍の長征  

中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8

 

 

中国侵略 

東京書籍「世界史B」P329

 

 

辛亥革命以降 

東京書籍「世界史B」P332

 

 

国民党の北伐と共産党の長征 

東京書籍「世界史B」P364



山川出版社「市場の世界史」佐藤次高/岸本美緒著。P179

 

☆8月24日月曜日午前6時。漢口:旧清朝王族の屋敷母屋 

今朝の食事担当は側女のアナスタシア・ロマノフ(28歳)とメイドのアンナ・イワノワ(23歳)である。ロシア料理は初めてなので、岳明軒ユエ・ミンシュエンは大変楽しみにしていた。 

 

朝の光が窓辺を照らす中、公爵:岳明軒ユエ・ミンシュエンの居室は、ロシア料理の準備で賑わっていた。側女のアナスタシア・ロマノフとメイドのアンナ・イワノワは、緊張しながらも興奮を隠せずにいた。この日のメニューには、コトレータ・ポジャルスカヤ、シチー、クーリビャーク、そして黒キャビアが含まれており、それぞれがロシアの豪華な食文化を反映した料理である 。 

 

アナスタシアは、公爵にロシアの伝統を味わってもらおうと、特別に鶏肉または七面鳥の肉を細かく挽き、バターとパン粉でコーティングしたコトレータ・ポジャルスカヤを丁寧に焼き上げた。その一方で、アンナはキャベツと肉を使った濃厚なシチーを煮込んでいた。部屋は、焼き上がる肉の芳ばしい香りと、シチーから立ちのぼる温かみのある蒸気で満たされていた。 

 

テーブルには、魚、米、キノコ、ハードボイルドエッグを層にしてパイ生地で包んだクーリビャークが飾られ、その豪華さが朝食のテーブルを一層引き立てていた。さらに、黒キャビアが冷たいウォッカやシャンパンとともに提供されることで、食事の格を高めていた。 

 

アナスタシアとアンナは、争うようにして岳明軒に対する奉仕を競い合った。アナスタシアは自らの口で噛み砕いた食事を、口移しで公爵に与える大胆な振る舞いを見せた。この行為は、ロシア貴族の間で見られる深い愛情と献身の象徴である。一方、アンナも負けじと、飲み物を口移しで公爵に飲ませた。彼女たちのこのような行動は、公爵への深い敬意と愛情を示していた。 

 

この朝食は、岳明軒にとって初めてのロシア料理体験であり、彼の味覚に新たな発見をもたらした。アナスタシアとアンナの献身的な奉仕は、彼らの間の関係をさらに深めるものであり、この朝の光景は忘れがたい記憶として岳明軒の心に刻まれた。ロシア娘ふたりの朝食時のもてなしが気に入り、彼女たちとそれそれ親密な時間を午前中一杯過ごし、お互いに満足した。 

 

☆午前11時。 

景徳鎮の陶磁器と祁門縣、婺源縣の茶及び竹、木材、瓦、生漆、硯、墨、筆、紙などを搭載した商船4隻が九江から漢口に到着し、趙雲龍チョウ・ウンリョン(65歳)と趙紫蘭チョウ・シラン(34歳)のふたり及び岳明軒ユエ・ミンシュエンの従兄弟夫婦が到着した。従兄弟というのは、岳明軒ユエ・ミンシュエンの死んだ母親の兄の子であり、年齢は24歳である。その妻は21歳と大変若い夫婦である。 

 

従兄弟の名前は、陳康チェン・カン(24歳)で、彼の妻の名前は、陳美琳チェン・メイリン(21歳)である。 

 

陳康と美琳夫婦は、岳明軒の家族と同じく深い絆と互いに対する尊敬を持っており、若いながらもお互いを支え合い、強い結びつきを持っている。 

 

彼らは商船4隻に搭載された景徳鎮の陶磁器や祁門県、婺源県の茶など、貴重な商品を携えて漢口に到着し、趙雲龍チョウ・ウンリョン趙紫蘭チョウ・シランと共に、交易と家族の絆を深めるための新たな旅を始めた。彼らの到着は、漢口における商業活動に新たな活力をもたらし、岳明軒ユエ・ミンシュエンの事業と家族の歴史に重要な一章を加えることになる。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは出発時に、趙紫蘭チョウ・シラン(34歳)に40万両の予算を預けておいた。その枠内で購入してくれたようである。流石に見事な腕前である。以下にその内容を示しておく。 

 

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景徳鎮の陶磁器:80,000両で40トン。
祁門縣の茶:60,000両で40トン。
婺源縣の茶:48,000両で40トン。
竹:20,000両で200トン。
木材:40,000両で80トン。
瓦:16,000両で40トン。
生漆:32,000両で40トン。
硯::24,000両で24トン。
墨:20,000両で20トン。
筆:28,000両で28トン。
紙:32,000両で32トン。

総費用:40万両
総トン数:584トン
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岳明軒ユエ・ミンシュエン趙紫蘭チョウ・シラン(34歳)だけを連れて、漢口の小売市場へ出かけた。漢口の喧騒と人々の熱気に包まれた市場で、岳明軒は趙紫蘭と共に品物の目録を手に持ち、商人たちの前に立った。市場の中心に設けられた仮設の競売場では、数多の商人や好奇心旺盛な群衆が集まり、岳明軒たちの品物に興味津々の様子であった。 

 

まず景徳鎮の陶磁器が競売にかけられる。岳明軒が「80,000両で40トンの高品質な陶磁器です。我々の土地の名誉を背負い、遥か遠くまでその美しさを伝える品です」と説明すると、競売会場は驚嘆の声で満ちた。競りの結果、陶磁器は320,000両で売却され、出品価格の4倍の高値がついた。 

 

次に、祁門縣と婺源縣の茶がそれぞれ競売にかけられた。岳明軒は「この茶葉は、祁門縣と婺源縣の豊かな大地が育んだ至宝です。一口飲めば、その風味の深さと香りの豊かさに心奪われることでしょう」と熱弁。祁門縣の茶は180,000両、婺源縣の茶は192,000両で落札され、それぞれ3倍と4倍の価格で売却された。 

 

竹や木材、瓦などの建材も競売にかけられ、特に竹はその軽さと強度から大変な人気を博し、40,000両での落札となり、倍の価格で売却された。木材は120,000両、瓦は48,000両でそれぞれ売却され、多くの商人から高い評価を受けた。 

 

生漆や硯、墨、筆、紙といった文房四宝も例外なく高値で競り落とされ、特に墨と筆は詩人や学者たちから熱狂的な支持を受け、墨は60,000両、筆は84,000両で売却された。紙も同様に、64,000両での高額で落札された。 

 

競売が終わる頃、岳明軒と趙紫蘭は総額1,536,000両という驚異的な売上を上げることに成功した。この日の競売は、彼らの商才と品物の質の高さが、漢口の市場に新たな伝説を刻んだ瞬間であった。商人たちの間でも、「岳明軒と趙紫蘭の競売」は長く語り継がれることとなった。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは、従兄弟夫婦に競りの首尾を報告し、成功を喜びあった。お祝いにイギリス租界のレストランで食事をしようと誘った。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは、成功の祝いとして、従兄弟の陳康とその妻の美琳をイギリス租界にある「クイーンズ・エンブレイス」という名のレストランへと招待した。このレストランは、洗練された英国風の内装と、伝統的なイギリス料理と現代的な中国料理を見事に融合させたメニューで知られており、漢口の外国人コミュニティの間では特に人気の高い場所だった。 

 

彼らがレストランに到着すると、重厚感のある木製の扉がゆっくりと開かれ、内部からは温かな灯りが漏れ出していた。エントランスを飾る鮮やかな花々が、来客を暖かく迎え入れる。彼らが席に着くと、エレガントなドレスを纏ったウェイトレスが笑顔で迎え、彼らを窓際のベストシートへと案内した。窓の外には、イギリス租界の静かな街並みが広がり、落ち着いた雰囲気の中で食事を楽しむことができた。 

 

テーブルには白いリネンのクロスが敷かれ、銀のカトラリーとクリスタルのグラスが丁寧にセットされている。彼らはまず、冷えたシャンパンで乾杯し、この日の成功を祝った。続いて、スモークサーモンの前菜、ビーフウェリントン、ローストビーフといった伝統的なイギリス料理と、鮮やかな彩りの野菜と共に供される広東風の海鮮料理が次々と運ばれてきた。各料理は、見た目にも美しく、味わい深い逸品ばかりだった。 

 

会話は、商船が漢口に到着した際の喜びや、市場での競売の興奮、そして今後の計画についての期待で満ちていた。陳康と美琳は、岳明軒の計画と成功に深い関心を示し、今後の繁栄への確信を新たにした。彼らはまた、レストランの雰囲気や料理の美味しさを讃え合い、こうした機会を持てたことに感謝の気持ちを共有した。 

 

食事の最後には、イギリスの伝統的なデザート、パブロヴァと紅茶が供され、彼らは甘美な味わいとともに、ゆったりとした時間を過ごした。岳明軒は、従兄弟夫婦との絆を深め、共に新たな歴史を創り上げていく決意を新たにした。この昼食会は、彼らにとって忘れられない記憶となり、未来への確かな一歩となった。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエンは、従兄弟夫婦に報奨金として500両ずつ支給し、次の交易についても40万両の予算内で行ってくれと頼んだ。彼らは快く了承し、イギリス租界の町並みを見学すると言って、岳明軒ユエ・ミンシュエンたちと別れた。 

 

1,536,000両の売上から、40万1千両を差し引いても1,135,000両の純益が残り、岳明軒ユエ・ミンシュエンと妻「側室」の趙紫蘭チョウ・シランは次の航海の計画に頭を切り替えた。 

 

☆紅茶を飲みながらの夫婦の会話 

趙紫蘭チョウ・シラン明軒ミンシュエンちゃん。重慶へはそろそろ行くの?ルイス王から南充へ行けと言われているんでしょう? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:うん。明日の朝一番で宜昌へ向けて出発するつもりだ。 

 

趙紫蘭チョウ・シラン:宜昌に行くのなら、長江と清江の合流する宜都から清江に入り、恩施、利川へも行くんでしょう? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そのコースはメアリー・ウェルビー(21歳)に任せるつもりだ。

 

趙紫蘭チョウ・シラン:ああ。鉱産物の好きな子ね。明軒ミンシュエンちゃんのお気に入りの子だったわね。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:俺は先に宜昌から重慶へ向かう。 

 

趙紫蘭チョウ・シラン:重慶へ行ったら行ったで何処へ先に行こうか迷うわね。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうなんだ。瀘州から沱江経由で自貢「自流井・貢井などの塩の産地」から内江、成都へ行けるし、自貢からはあの有名な宜賓イービンへ行ける。 

 

趙紫蘭チョウ・シラン宜賓イービンと言うと白酒位しか知らないわ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:僕も、金沙江と岷江及び長江が一緒になるところとしか知らないけど、白酒の名前が五糧液というくらいは知っている。 

 

趙紫蘭チョウ・シラン:あ!それは私も父から聞いたわ。確か、5種類の穀物「高粱、もち米、うるち米、とうもろこし、小麦」を原料とするんだったよね。

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうなんだ。とうもろこしが南米から入ってくるまでは小米を使っていたそうだけど。宜賓イービンからは岷江経由で成都へも行ける。 

 

趙紫蘭チョウ・シラン明軒ミンシュエンちゃん。こうしようよ。先ず、宜昌から重慶へ行く。重慶からは嘉陵江沿いに南充へ行く。 

 

趙紫蘭チョウ・シラン:旧清朝の王族で南充の石油王:王華ワン・ファ様を攻略したら、重慶に戻る。 

 

趙紫蘭チョウ・シラン:次は、瀘州から沱江経由で自貢「自流井・貢井などの塩の産地」から内江、成都へ行く。 

 

趙紫蘭チョウ・シラン:成都からは岷江経由で宜賓イービンへ行き、瀘州から重慶を目指す。効率が良いと思わない? 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうだな。大枠はそれで行こう。ただし、重慶や南充では少し時間を取ってやらねばならないことがある。 

 

趙紫蘭チョウ・シラン:時間を費やすのはいくら費やしても良いわよ。交易の旅には時間も掛かるし、私達も仕事以外にあちこち見て歩きたいわ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そう言えば、お父さんはどうしたの?一緒に帰ってきたんだろう? 

 

趙紫蘭チョウ・シラン:そうか。明軒ミンシュエンちゃんには言ってなかったわね。お父さんは南充の石油王:王華ワン・ファ様の偵察に行っているのよ。ルイス様から密命があってね。飛行機まで1機くれたのよ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうなの?飛行機っていくら位するものなのかな?僕も買いたいな。 

 

趙紫蘭チョウ・シラン:商社へ行ってパイロット付きで買えば良いのよ。 

 

岳明軒ユエ・ミンシュエン:そうしようか? 

 

ふたりは漢正街の怡和洋行へ行き、飛行機が1機欲しいと相談した。先だっての一億両の預金が物を言い、只で1機、パイロット付きでくれるという。有り難く頂いておき、早速ふたりで南充へと移動した。もちろん、エリザベス・ウィンザム(41歳)にはその旨連絡しておいた。 

 

☆南充飛行場到着 

ルイス王が建設した飛行場にはその日の午後8時には到着した。片道3,4時間だから飛行機は楽である。趙紫蘭チョウ・シランは父親の泊まっている宿屋に泊まり、岳明軒ユエ・ミンシュエンだけが石油・液化天然ガス「LNG」を取り扱う交易商人として、南充石油王:王華ワン・ファの家を訪れることにした。パイロットには、電話連絡するまで漢口のルイス邸「旧清朝王族邸」で待機せよと指示しておいた。 

 

ルイス王の話では、エリザベス・ハーレイ(39歳)様は巴王妃として重慶のお城に住まわれている。南充石油王:王華ワン・ファ(46歳)様のお屋敷には、大奥様:王華ワン・ファ(46歳)、若奥様:李芳蓉リー・ファンロン(38歳)、当主の妹:劉芸芸リウ・ユェンユェン(39歳)の3名がお暮らしである。

 

☆8月24日月曜日午後9時。南充石油王のお屋敷 

岳明軒ユエ・ミンシュエンが表戸をどんどんと叩き、大声で「どなたかいらっしゃいませんか?」と怒鳴ると、小坊主が迷惑そうに「こんな深夜に何のようだ?」と聞く。戸は開けてくれないので、「一晩だけ泊めて下さい。決してご迷惑は掛けません」と丁重にお願いするとやっと戸を開けてくれ、門の傍の物置小屋を貸してくれた。 

 

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

本話では、岳明軒と趙紫蘭が漢口の市場で見せた卓越した商才と、彼らが築き上げる家族や親族との深い絆が描かれました。彼らの物語は、経済活動を超えた人間関係の価値を教えてくれます。また、未来への展望を持ち続け、常に前進しようとする彼らの姿勢は、読者にとって大きな鼓舞となるでしょう。物語は彼らが新たな旅へと踏み出すところで終わりますが、彼らの冒険はまだ始まったばかりです。次話では、彼らがどのような新たな挑戦に直面し、どのようにしてそれを乗り越えていくのか、その旅路にご期待ください。