小説「海と陸の彼方へ」
第十章ヘクターとルイスの対イギリス共同作戦
第7話国内４つ巴の争い「九江と廬山②」
前書き
このエピソードでは、中国の運命を左右する覇王、ルイスとその父親ヘクターが直面する内外の複雑な情勢を通して、当時の国際関係の緊張と個人の運命が密接に絡み合う様子が描かれています。特に、外国人避暑客が豹に襲われるという事件は、当時の国際社会の緊張と、自然との関係における人間の脆弱性を象徴しています。
本文
＊＊＊＊＊＊
登場人物「年齢は1936年1月1日時点」
＊＊＊＊＊＊
主人公ルイス（19歳）、中国の運命を操る覇王。巴蜀・雲南・陜西・河南・湖北及び長江沿岸諸都市、上海、杭州を領土とし、反西欧、反日、反共を掲げ、中国民族自決のための戦いを始める。
＊＊＊＊＊＊
側室
ナディア・アミール・アル・サン（43歳）。アレッサンドロ・ディアンジェロ男0歳の生母。
サリマ・ファイサル・アル・ハウ（26歳）。エミリア・ディアンジェロ女0歳の生母。
王光美（15歳）。マルコ・ディアンジェロ男0歳の生母。
側女、愛人は多数居る。いちいち書かない。
＊＊＊＊＊＊
部下
孫偉強（18歳）。ルイス商船隊隊長。李春花の息子。
ジェームズ・ハリントン (38歳)。イギリス商船提督。中国各地へ交易の旅に出ている。
エリザベス・ハリントン（35歳）。ジェームズ・ハリントン の妻。10歳の息子チャールズ、8歳の娘アン。
副官 エドワード・グリフィス(34歳)。イギリス商船副官。中国各地へ交易の旅に出ている。
ソフィア・グリフィス（32歳）。エドワード・グリフィスの妻。息子トーマス5歳。
＊＊＊＊＊＊
ルイスの資金
蓮華金融設立「資本金100億両」。小遣い111億1千万両。朱堤銀銀錠200億両「内訳は蓮華金融資本金100億両。一般会計20億両、特別会計80億両」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は80億両の予算を組み、今までに16億557万3,300両支出した。小遣いの中から、28,005両使用した。
＊＊＊＊＊＊
ルイスの家族
イタリア系の不法移民で、彼らの家族名は「ディアンジェロ」です。以下はディアンジェロ家の家族構成です：
父親ヘクター・ハミルトン（29歳）「10歳の若返り」：アンヘルから10億ドルの資金を貰い、テキサスで石油と天然ガスを発掘した。
＊＊＊＊＊＊
ヘクターの資金57億4,060万ドル。テキサスで石油精製会社「資本金5千万ドル」設立。
＊＊＊＊＊＊
紅軍の長征
中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8
中国侵略
東京書籍「世界史B」P329
辛亥革命以降
東京書籍「世界史B」P332
国民党の北伐と共産党の長征
東京書籍「世界史B」P364
山川出版社「市場の世界史」佐藤次高/岸本美緒著。P179
☆8月12日水曜日午後6時。廬山；漢陽峰山頂避暑地
ヘクターは避暑地内の国民党江西省政府四合院の母屋に怪我人を寝かせ、治療に当たった。景徳鎮から来た姉弟がこの時も大いに役に立った。景徳鎮から来た姉弟は南宋の名武将岳飛の子孫です。姉は岳蓮華と言い、聡明さと美貌で有名でした。姉の年齢は20歳です。弟は岳明軒と言い、ルイスのごとく美丈夫であり、アンヘルのように智謀に優れています。弟の年齢は16歳です。
岳蓮華は漢方薬の処方にも優れ、豹に襲われ大怪我を負った8名の男女を治療いたしました。この団体は全員西欧の人たちで、ヘクターと同じ様に漢陽峰山頂避暑地で夏の間だけ過ごす裕福な人達でした。
ヘクターは弟の岳明軒（16歳）が豹をさばきたくてウズウズしているのを見て彼に豹の処置を任せました。彼は大鉈を振るい、あっという間に豹をバラバラにしてしまいました。彼の話によると、この豹は大変珍しいもので、その毛皮や骨、内蔵は高値で売れるそうです。
＊＊＊＊＊＊
金錢豹は、ヒョウ属に分類される大型の肉食動物で、アフリカとアジアの一部に生息しています。その美しい金色の毛皮に黒い斑点や輪郭がある模様が特徴で、この模様が「金貨」に似ていることからこの名前が付けられました。非常に適応能力が高く、森林、サバンナ、山岳地帯など様々な環境で生活することができます。夜行性で、主に一人で活動し、非常に優れた登山家であり、木登りを得意とします。食性は広範囲にわたり、小型哺乳類から大型の草食動物まで様々な獲物を捕食します。
＊＊＊＊＊＊
ヘクターは6名の側女たち「イザベラ、ヘルガ、エリザベト、李明珠、アリス、ジョアンナ」に夕食を作らせ、怪我人たちにも運ばせた。
☆ヘクターと怪我人たちとの邂逅
彼らは4家族13名の人達であった。大雑把に彼らの構成を書いておこう。
豹に襲われ大怪我を負った13名人4家族の西欧人の背景はヘクターが想像した通り、20世紀中葉の廬山で避暑していた裕福な家族である。この時期の廬山は、政治的な名山としての地位を確立し、国内外から多くの避暑客を引き寄せる場所だった。豊かな西洋文化と自然美が融合する廬山に惹かれた彼らは、それぞれ独特の背景を持つ人物で構成されている。
ファミリー1：ロンドンから来た銀行家の家族。家族構成は、父親「銀行の役員」、母親「社交界の名士」、息子「オックスフォード大学生」、娘「若き芸術家」。彼らは文化と芸術への深い理解を持ち、中国の自然と文化に魅了されています。
ファミリー2： パリのファッションデザイナーとその家族。夫婦と二人の子供「双子の少年」から成る。デザイナーとしての目利きを生かし、中国の伝統的な衣服やアートに深い興味を持っている。
ファミリー3： スウェーデンの発明家とその助手「兼恋人」である一家。発明家は新しい発明のインスピレーションを得るために廬山を訪れており、助手は彼の仕事を支えながら、二人で自然の中で新たな発見を楽しんでいます。
ファミリー4： ベルギーから来た実業家の家族。父親はチョコレート工場を経営、母親は慈善活動に熱心、一人息子は天文学に興味があり、彼らは廬山の自然を観察し、そこから新たなビジネスや学問的な発見を求めています。
これらの家族は、それぞれが廬山の豊かな自然と文化から何かを学び取ろうとする、探究心旺盛で多様な背景を持つ西欧人たちです。彼らは豹の襲撃という共通の試練を経験した。
彼らは口々にヘクターの射撃の腕前の確かさを褒めてくれるが、そういったことより先ずは怪我を治すことである。ヘクターは漢方薬に造形の深い岳蓮華に彼らの治療と食事などの世話も任せた。一人では賄い切れないので6名の側女たちにも手伝わせることにした。
☆治療の様子
岳蓮華は、その深い漢方薬の知識を駆使して怪我人たちの治療にあたった。彼女が使用した漢方薬は、その人々の怪我や体質に応じて慎重に選ばれた。
薄暗い部屋の中、岳蓮華は患者一人一人の傷を丁寧に診察し、その治療に最適な漢方薬を選び出す。彼女はまず、消炎と痛みの緩和に効果的な黄連解毒湯を使い、深い傷口の感染を防いだ。さらに、血行を促進し、傷の癒合を早めるために当帰芍薬散を加え、患者の体力と免疫力の回復を促す補中益気湯も投与した。
治療の過程では、岳蓮華が患者の側で丹念に薬草を調合する様子、薬の香りが部屋を満たす様子、そして患者たちの痛みが少しずつ和らいでいく様子が描かれる。彼女の手は確かで優しく、患者たちに安心感を与えながら、漢方薬の力で彼らの体と心を癒していく。
この場面は、漢方薬の伝統的な知識と治療方法の重要性を浮き彫りにし、岳蓮華の深い造詣と患者への深い配慮を示している。彼女の治療によって、怪我人たちは徐々に回復し、この困難な時期を乗り越えるための希望を見いだした。
☆岳明軒（16歳）の更なる冒険
岳明軒はヘクターから、「金錢豹をお前にやる」と言われ、大喜びで豹を捌き、豹の毛皮、骨、目玉、内蔵「睾丸やペニス」を山麓の街に売りに出かけた。岳明軒は猟銃こそ持っていなかったが、死んだ父親からもらった鋼鉄製の棍棒を一振り持っていた。
岳明軒の第六感が、金錢豹がもう一度現れることを示していた。ヘクターが殺したのは若いオスである。通常、豹は群れをなして行動する。若いオスの両親が探しにくると思っていた。
案の定、山麓で若い女性の悲鳴が聞こえた。素早い岳明軒は女性のところに直ちに駆けつけた。女性は機敏にも大きな木の上に逃げ込み、難を逃れていた。豹のオスとメスが彼女を威嚇し、木を大きく揺さぶっている。もう一刻の猶予もない。岳明軒は棍棒を大きく振りかざし、オスの頭を一撃した。メスのほうが岳明軒に飛びかかってくる。飛び退って逃げた岳明軒を頭に棍棒の一撃を食らったオスが体制を取り戻して襲ってきた。
もう駄目だと岳明軒が諦めた瞬間、木の上から女性が助太刀をした。彼女はパチンコを持っており、石の礫をオスの頭に食らわした。命拾いした岳明軒は勇躍鋼鉄の棍棒を振り回し、オスの頭を更に一撃した。とうとう、オスは絶命し、メスはその場を去った。
岳明軒が助けた女性は廬山の南麓で古武道を教える武道家の妻34歳だった。彼女の父親65歳が古武道の創始者で、彼女の夫38歳が一番弟子に当たる。
☆午後8時。廬山の南麓；霧隠流道場
古武道の名称は「霧隠流」と言う。この流派は、自然と調和し、内なる力を引き出すことに重点を置いた武術であり、廬山の霧に覆われた環境とその神秘性を象徴している。
趙雲龍：霧隠流の創始者で、65歳。彼は長年にわたる修行と実戦の経験から、この独自の武術を生み出した。
趙紫蘭：34歳、雲龍の娘であり、彼女自身も古武道の技術に長けている。彼女は武道家の妻としてだけでなく、自身も教師としてその技を伝えている。
李風：38歳、紫蘭の夫で、霧隠流の一番弟子。風は紫蘭の父、雲龍から直接指導を受け、その技術と精神を受け継ぎ、現在は廬山の南麓で古武道の道場を運営している。
この3人は霧隠流を通じて、内面の強さと外面の技術の調和を追求し、その知恵と精神を後世に伝えることに尽力している。
岳明軒は彼らから大歓迎を受けた。娘の命の恩人ということもあったでだろうが、岳明軒の強さと俊敏さに感服したのだろう。趙紫蘭の手作りの料理を食べてから、岳明軒は殺した豹の皮剥と肉、目玉、睾丸とペニスの切り落としを行った。
趙雲龍が金錢豹の毛皮、骨、目の玉、睾丸とペニス2匹分の売却を引き受けてくれ、近くにある廬山温泉の女将38歳に話を付けてくれた。毛皮2枚100両、「骨、目の玉、睾丸とペニス」の合計50両、総合計が150両の大金を岳明軒は得ることになった。
岳明軒は売却手数料として、趙雲龍に10両を渡そうとしたが、彼は受け取らず、岳明軒に霧隠流に入門するよう頼んだ。
岳明軒は口には出さなかったが、趙紫蘭の美しさと恐れを知らぬ豪胆さに一目惚れしていたので、一も二もなく入門を決意した。
入門祝だということで、趙雲龍は岳明軒を温泉に誘ってくれた。岳明軒と趙雲龍が訪れた廬山温泉は、江西省星子県に位置し、廬山の南麓にあるアルカリ性の炭酸水素ナトリウム泉である。
この場所は古くから「星子温泉」とも呼ばれ、その美しい景観と健康に良い温泉で知られている。温泉地は二つの山に囲まれ、北に廬山、南に黄龍山があり、泉眼は廬山天沐温泉リゾート内に位置している。温泉の水は清澈で、飲用や浴用に適しており、温度は58-98℃に及ぶ。
この神秘的な場所は、かつて大師慧通が黄龍を封じた伝説の地でもあり、訪れる人々に健康と平和をもたらすと言われている。岳明軒と趙雲龍はこの伝説の地で、自然の美しさと温泉の恩恵を存分に楽しんだ。
今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。
後書き
第7話は、1936年の廬山で繰り広げられる、内外の複雑な情勢と人間の運命が交錯する物語です。この章では、外国人避暑客が豹に襲われる事件を通じて、当時の国際関係の緊張と自然との関係における人間の脆弱性を象徴的に捉えています。岳蓮華と岳明軒の兄妹に焦点を当てることで、中国の伝統と文化への深い敬意とともに、冒険と発見の物語を紡ぎ出しています。読者は、この物語を通じて、歴史の一コマに触れると同時に、人間性の深遠な探求を体験することができるでしょう。
