小説「海と陸の彼方へ」

 

第十章ヘクターとルイスの対イギリス共同作戦

 

第2話国内4つ巴の争い「租界名士文化協会の内紛②」

 

前書き

1936年の中国を舞台に、主人公ルイスとその側室、部下たちが繰り広げる国内の複雑な権力闘争と内紛を描いています。ルイスは中国の運命を操る覇王として、広大な領土を有し、反西欧、反日、反共を掲げて中国民族自決のための戦いを進めています。本エピソードでは、その中で租界名士文化協会の内紛に焦点を当て、ルイスが如何にしてその複雑な人間関係を操り、自らの目的を達成するかが描かれます。

 

本文

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登場人物「年齢は1936年1月1日時点」 

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主人公ルイス(19歳)、中国の運命を操る覇王。巴蜀・雲南・陜西・河南・湖北及び長江沿岸諸都市、上海、杭州を領土とし、反西欧、反日、反共を掲げ、中国民族自決のための戦いを始める。 

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側室 

ナディア・アミール・アル・サン(43歳)。アレッサンドロ・ディアンジェロ男0歳の生母。 

サリマ・ファイサル・アル・ハウ(26歳)。エミリア・ディアンジェロ女0歳の生母。 

王光美ワン・グアンメイ(15歳)。マルコ・ディアンジェロ男0歳の生母。 

側女、愛人は多数居る。いちいち書かない。 

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部下 

孫偉強スン・ウェイチャン(18歳)。ルイス商船隊隊長。李春花リー・チュンファの息子。 

ジェームズ・ハリントン (38歳)。イギリス商船提督。中国各地へ交易の旅に出ている。 

エリザベス・ハリントン(35歳)。ジェームズ・ハリントン の妻。10歳の息子チャールズ、8歳の娘アン。 

副官 エドワード・グリフィス(34歳)。イギリス商船副官。中国各地へ交易の旅に出ている。 

ソフィア・グリフィス(32歳)。エドワード・グリフィスの妻。息子トーマス5歳。 

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ルイスの資金 

蓮華金融設立「資本金100億両」。小遣い111億1千万両。朱堤銀銀錠200億両「内訳は蓮華金融資本金100億両。一般会計20億両、特別会計80億両」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は80億両の予算を組み、今までに16億557万3,300両支出した。 小遣いの中から、28,005両使用した。

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 紅軍の長征  

中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8

 

 

中国侵略 

東京書籍「世界史B」P329

 

 

辛亥革命以降 

東京書籍「世界史B」P332

 

 

国民党の北伐と共産党の長征 

東京書籍「世界史B」P364

 

☆8月6日木曜日午後5時。ジョン・スミス邸
途中で、ジョン・スミスが屋敷中の下男や侍女たち全員を投入してくれたので、何とか本日のノルマ精製コカイン40万包「1包20ミリグラム入り」を製造することが出来た。

ルイスはメアリー(29歳)と一緒に漢口のルイス邸に戻り、今後の対策を練ることにした。道中でキャサリン・スミスが停めた長江の岸辺に停車し、メアリーと暫しの情事を楽しむことにした。メアリーも長時間の作業でコカインの粉末を自然に吸い込み、極度に催していたからである。

ルイスは彼女を徹底的に満足させたばかりか、新万金丹の丸薬も含ませ、メアリーの心身の活発化を図った。メアリーはルイスの虜となり、以降は何でもルイスの命令に忠実に従うようになった。

☆メアリーとの会話
屋敷に戻ったルイスは居室でメアリーにコカインの密売組織黒曜会「Black Beryl Society」の概要を聞いた。

ルイスは、椅子に深く腰を下ろしながら、部屋の隅に立つメアリーをじっと見つめた。彼女の顔には疲れが見えるものの、目には決意の光が宿っていた。彼は静かに言葉を紡ぎ始める。

”黒曜会の構造と活動について、詳細な説明をありがとう。しかし、我々が真に理解すべきは、その供給源だ。営業部長がどこからコカインを仕入れているのか、これが我々の次なる疑問だ”

メアリーは頷き、彼女の瞳はさらに輝きを増した。”確かに、その情報は組織の核心に迫るものです。営業部長は複数のルートを使い、厳重な秘密主義の下、取引を行っています。彼の動きを探ることが、黒曜会の弱点を突く鍵となるでしょう”

ルイスは一瞬、考え込むように眉をひそめた後、再びメアリーに視線を戻した。”その男の家族構成について、何か知っているか?そして、会長とその妻の名前を教えてくれ。彼らの人間関係が、この謎を解く手がかりになるかもしれない”

メアリーは深く息を吸い、答えを準備した。”営業部長には妻と二人の子供がいますが、彼らは表の世界とは一線を画しています。一方、会長とその妻は、租界社会における著名人です。会長はアレクサンダー・ウィルソン(38歳)、妻はマーガレット・ウィルソン(35歳)と言います。二人とも、租界名士文化協会で重要な役割を果たしており、その立場を利用して組織の活動を支えています”

ルイスはその情報をメモに取りながら、次なる行動計画を練り始めた。彼の目には、闇の組織に立ち向かう決意が燃えていた。

ルイスはメアリーの説明を聞き、ますます、黒曜会の営業部長について調べる必要があると思った。しかし、彼は一切の情報を隠している。そこでルイスは黒曜会の会長夫人マーガレット・ウィルソン(35歳)と知り合い、彼女を通して黒曜会の営業部長の情報を掴むことが出来るのではないかと考えた。ルイスは租界名士文化協会会長のキャサリン・スミスに電話して、マーガレット・ウィルソンの人となりを聞くことにした。メアリーの情報では大層な美人だということだが。趣味などが分かれば良いのだが。

キャサリン・スミスは、電話の向こうで穏やかな声を響かせながら話し始めた。”マーガレット・ウィルソンですか?彼女は確かに大層な美人で、社交界では非常に知られた存在です。趣味に関しては、美術と文学に深い関心を持っており、特に近代画家の作品と19世紀の英国文学に魅了されています。また、租界名士文化協会の慈善活動にも積極的に参加しており、その優雅な人柄は多くの人々に愛されています。彼女との関わりは、あなたが望む情報を得るための貴重な機会となり得るでしょう”キャサリンの言葉は、ルイスにとって新たな道を開く鍵となりそうだった。

☆8月6日木曜日午後8時。イギリス租界のとある画廊
初めて訪れた画廊だが、パーティ帰りの紳士・淑女と思しき男女が大勢訪れていた。非売品と書かれた数点の作品の前に群がっている。作品は有名な近代画家の作品「初期の秀作」ばかりであった。以下の3名である。

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1. ヨハネス・フェルメール:オランダの画家で、「オランダ黄金時代」と呼ばれる時代に活躍しました。フェルメールは風俗画や風景画において、日常生活を繊細かつ静謐に描き出しました。代表作には『真珠の耳飾りの少女』や『牛乳を注ぐ女』があります。

2. サルバドール・ダリ:スペインの画家で、シュルレアリズム運動の代表的な画家の一人です。ダリの作品は夢のようなシーンや不思議なイメージで知られています。代表作には『記憶の固執』や『レダ・アトミカ』、『象』などがあります。

3. エドヴァルド・ムンク:ノルウェーの画家で、表現主義の先駆者とされています。ムンクの作品は、恐怖や不安、悲しみといった人間の内面を描いたものが多いです。最も有名な作品『叫び』は、人間の内面の叫びを象徴的に表現したものとして世界的に知られています。
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ルイスが興味深く彼らの初期の作品を見ていると、ルイスと同じ様に一人で作品を眺めている目の覚めるような美貌の貴婦人に出会った。元より、彼女がマーガレット・ウィルソン(35歳)だとは知る由もなく、ルイスは自然に彼女に話しかけた。彼女も若く逞しいルイスに興味を抱いてくれたようで、近くのカフェでお話を継続することになった。

ふたりは趣味が合い、特に19世紀の英国文学についての造詣が互いに深かった。ルイスは夢中になり、ジェーン・オースチンの『高慢と偏見』、チャールズ・ディケンズの『クリスマス・キャロル』、シャーロット・ブロンテの『ジェーン・エア』、メアリー・シェリーの『フランケンシュタイン』について論じた。

特にルイスがジェーン・オースチンの『高慢と偏見』について論評したことがきっかけとなり、マーガレット・ウィルソン(35歳)は明日の「新進芸術家展覧会」にルイスを誘ってくれた。

その頃にはルイスも彼女の輝くばかりの美貌に負け、彼女が「黒曜会」の会長の妻だということはすっかり忘れてしまっていた。だがこのことが却ってルイスにとって良い結果を生んだようである。ルイスの彼女に対する愛情は計算ずくではなく、真の愛であり、彼女にもそれが敏感に分かったからだ。

ルイスとマーガレット・ウィルソン(35歳)は仲良く腕を組み、画廊の外に出ました。ふたりはそこで別れねばならず、別れがたいふたりは裏通りに入り、長々と愛のキスを交わしました。その後、家まで送るというルイスを説得し、マーガレットは通りでタクシーを停め、自宅に帰りました。

彼らが裏通りで長々とキスを交わしている光景をじっと見つめているカップルがいました。後花樓の篤安裏天一茶園で京劇と漢劇の合同公演を楽しんでいたヘクターと張美麗チャン・メイリ副会長です。このふたりはとっくの昔に良い仲になっていたのです。

ヘクターと張美麗チャン・メイリもそこで別れ、ヘクターはマーガレット・ウィルソン(35歳)が乗ったタクシーのあとをアメ車で追いかけます。

タクシーは後花樓の熊家巷口のアレクサンダー・ウィルソン邸「黒曜会会長邸」に停車した。ヘクターは近くで待機し、その屋敷に出入りする人物を監視した。

夜の10時、一台の黒塗りの車が屋敷から静かに出発した。その車は何か怪しげな雰囲気をまとっている。ヘクターは迷うことなく、その車の後をつけた。彼の乗る鮮やかな赤いアメリカ車と黒塗りの車は、夜の街をフルスピードで駆け抜ける。イギリス租界の繁華街を抜け、歴史ある建物が立ち並ぶ通りを疾走し、カーチェイスは激しさを増す。長江と漢江が交わる地点で、ヘクターはついに黒塗りの車を追い詰める。しかし、車から降りた相手は機関銃をヘクターに向けて発砲。危うく命を落とすところだったが、ヘクターは素早く身をかわし、その場を離れることを決意する。この緊迫した一連の出来事は、1936年の中国、特にイギリス租界の独特な雰囲気とともに、夜の都市の生活と危険が入り混じる様子を生々しく描き出しています。

☆現場検証
再度、長江と漢江が交わる地点を訪れたヘクターは、地面に落ちている一枚の古びた写真を見つけました。それは、ある男性と見知らぬ子供が仲良く写っている家族写真で、裏面には住所が手書きで記されていました。この手がかりを頼りに、ヘクターはその住所へと急行しました。到着するや否や、彼は慎重に周囲を確認し、男が住むと思われる家のドアを叩きました。ドアが開くと、写真に写っていたのと同じ男性が現れました。

この男はルイスが探し求めていた黒曜会の営業部長 (元貿易商、40歳)でした。コカインの販売網と顧客管理を担当。裏社会の繋がりを駆使し、商品の流通をスムーズにする役割を持っています。

男はヘクターの顔を見るなり、その場を逃げ出しました。機関銃を持っていない男は無力でした。ヘクターは猛然と逃げる男を追いかけ、生け捕りにしました。ルイスがイギリス租界の警察署長をジョン・スミスから拝命したとき、ヘクターもイギリス租界の副署長を拝命していたのです。ヘクターは男と男の妻のふたりを拘束しました。

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

この物語は、1936年の中国を舞台に、混沌とした時代背景の中で個々が直面する内的及び外的葛藤を描き出しています。主人公ルイスの奮闘は、当時の社会的、政治的状況を反映しつつ、人間の普遍的な情熱や葛藤を鮮明に浮かび上がらせます。読者に対して、この物語を通じて、過去の歴史が今日の私たちにもたらす教訓や、人間性の深い洞察を提供したいと願っています。登場人物の成長と変化を追いながら、読者自身の内面と向き合う機会を提供することで、単なる歴史小説を超えた価値を生み出そうとしています。