小説「海と陸の彼方へ」

 

第九章国内の敵、国外の敵

 

第11話国内4つ巴の争い「人質家族との関わり」

 

前書き

1936年、内戦に揺れる中国。本話では、ルイスとその仲間たちが、政治的な波乱と個人的な挑戦の中でどのように生き抜いていくのかを追います。漢口の港での買い出しから始まり、南京料理の豪華な朝食の準備に至るまで、日常の中に息づく深い人間関係の構築を描き出します。この物語は、外部の世界の混乱と内面世界の葛藤が交錯する中で、人々がどのように互いに結びつき、成長していくのかを見せてくれます。読者は、ルイス、エリザベス、ソフィアの旅路を通じて、困難の中にも見出される希望と人間性の美しさを感じ取ることでしょう。

 

本文

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登場人物「1936年1月1日時点」 

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ルイス、かつては蒋介石の信任厚く巴蜀・雲南の軍政長官として任命された男。しかし、運命のいたずらか、蒋介石の側近たちの妬みにより暗殺の標的となり、彼は深い裏切りを感じざるを得なかった。それは彼の心に消えない疵となり、蒋介石への忠誠心を憎悪へと変えた。彼は秘かに力を蓄え、蒋介石の政権を地方政権へと追いやり、自らは単なる巴蜀・雲南の軍政長官から中国の運命を操る覇王へと変貌を遂げた。彼は反西欧、反日、反共を掲げ、民族自決のための戦いを始めた。 

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部下、側室、側女、愛人は多数居る。 

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愛人 紅蓮館の女将:李春花リー・チュンファ(36歳)。 

部下 孫偉強スン・ウェイチャン(18歳)。ルイス商船隊隊長。李春花リー・チュンファの息子。

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ルイスの資金 

蓮華金融設立「資本金100億両」。小遣い61億1,104万5,000両。朱堤銀銀錠200億両「内訳は一般会計20億両、特別会計80億両」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は80億両の予算を組み、今までに16億557万3,300両支出した。 

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 紅軍の長征  

中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8

 

 

中国侵略 

東京書籍「世界史B」P329

 

 

辛亥革命以降 

東京書籍「世界史B」P332

 

 

国民党の北伐と共産党の長征 

東京書籍「世界史B」P364

 

☆7月14日火曜日午前5時。漢口の港 

ルイスは人質にした二人の女性「提督の妻エリザベス・ハリントン(35歳)、副官の妻ソフィア・グリフィス(32歳)」を連れて魚河岸に買い物にでかけた。新鮮な魚介類はもちろんのこと、野菜や肉類、牛乳、チーズなどの食材も豊富に売られている。ルイスは10人分の漢口料理の食材を購入することにした。 

 

漢口料理の豪華な朝食を10人分作るために必要な食材は、鴨血粉丝汤ヤーチエフェンスータン蒸し鶏ジョンチ小籠包シャオロンバオ葱油拌面ツォン・ヨウ・バン・ミェン松子魚ソンズーユを含む複数の料理から成り立っています。各料理には鴨血、粉丝、鶏ガラスープ、豆腐、青菜、鶏肉、生姜、ネギ、豚ひき肉、小麦粉、ゼラチン、麺、しょうゆ、砂糖、鶏油「またはごま油」、松子魚、レモンなど、様々な食材が必要です。

 

これらの食材を漢口の魚河岸で多めに購入しました。

食材と購入価格

- 鶏肉「蒸し鶏用」: 25kg x 100文/kg = 2,500文
- 鴨血「鴨血粉丝汤用」: 5kg x 50文/500g = 500文
- 粉丝「鴨血粉丝汤用」: 3kg x 30文/300g = 300文
- 鶏ガラスープ「複数料理用」: 20L x 40文/L = 800文
- 豆腐「鴨血粉丝汤用」: 2kg x 20文/200g = 200文
- 青菜「複数料理用」: 2kg x 30文/200g = 300文
- 生姜「複数料理用」: 1kg x 5文/50g = 100文
- ネギ「複数料理用」: 1kg x 10文/100g = 100文
- 豚ひき肉「小籠包用」: 5kg x 60文/500g = 600文
- 小麦粉「小籠包・松子魚用」: 11kg x 55文/kg = 605文
- ゼラチン「小籠包用」: 2kg x 20文/200g = 200文
- 麺「葱油拌面用」: 10kg x 50文/kg = 500文
- しょうゆ「複数料理用」: 2L x 10文/100ml = 200文
- 砂糖「複数料理用」: 0.5kg x 5文/50g = 50文
- 鶏油「複数料理用」: 1L x 15文/100ml = 150文
- 松子魚「松子魚用」: 5kg x 75文/500g = 750文
- レモン「複数料理用」: 20個 x 10文/2個 = 100文

 総額7,555文=約7.6両

ルイスは購入した食材をもとに、漢口料理の朝食メニューとして、以下の3つの料理を選んだ。

 1. 鴨血粉丝汤ヤーチエフェンスータン
このスープは鴨血と粉丝を主成分とし、鶏ガラスープで煮込みます。鴨血は先にゆでておき、粉丝は水で戻しておきます。鶏ガラスープを沸騰させ、鴨血と粉丝、細かく切った豆腐と青菜を加え、調味料で味を整えた後、煮込んで完成です。

 2. 蒸し鶏ジョンチ
鶏肉をまるごと一羽、または好みの部位を使用し、生姜と共に蒸します。鶏肉は事前に醤油、酒、少量の塩でマリネしておくと、より味が染み込みます。蒸し時間は鶏肉の大きさにもよりますが、中心部までしっかり加熱します。蒸し上がった鶏肉を細かく裂いて、ネギ油や蒸し汁をかけて提供します。

 3. 小籠包シャオロンバオ
小麦粉で作った皮で、豚ひき肉とゼラチン化したスープの餡を包み、蒸し器で蒸して作ります。皮は滑らかで伸縮性があり、餡はジューシーで濃厚な味わいです。小籠包を作る際は、餡と一緒に入れるゼラチン化したスープがポイントで、これが蒸されると溶け出して、独特の美味しさを生み出します。

これらの料理は、漢口料理の朝食として、豊かな味わいと栄養バランスを提供する。もちろん漢口料理と言っても各地の料理を漢口流にアレンジしただけである。

二人の女性「提督の妻エリザベス・ハリントン(35歳)、副官の妻ソフィア・グリフィス(32歳)」に自分でどれか選んで作りなさいと指示した。

エリザベスは蒸し鶏ジョンチを選び、ソフィアは小籠包シャオロンバオを選んだ。ルイスは残った鴨血粉丝汤ヤーチエフェンスータンを選び、早速調理に取り掛かった。

鴨血粉丝汤ヤーチエフェンスータンの10人前のレシピと作り方は、以下の通りである。ルイスはその通りに作り中々上手く出来たと思う。

鴨血粉丝汤ヤーチエフェンスータン10人前の必要食材

- 鴨血:500g
- 粉丝:300g
- 鶏ガラスープ:2L
- 豆腐:200g
- 青菜:200g
- 生姜:50g
- ネギ:100g
- 塩、醤油、白胡椒:適量

作り方:
1. 鴨血はゆでて、一口大に切ります。粉丝は事前に水で戻しておきます。
2. 鍋に鶏ガラスープを沸かし、細かく切った生姜、ネギ、塩、醤油で調味します。
3. 鴨血と戻した粉丝、一口大に切った豆腐を加え、中火で煮込みます。
4. 青菜を加え、数分で火が通ったら、白胡椒で味を整えます。
5. 全体が温まったら、火から下ろし、ボウルに盛り付けて完成です。

このスープは、鴨血の独特な食感と粉丝の滑らかさが魅力の漢口料理です。深みのある鶏ガラスープと、豆腐、青菜の優しい味わいが加わり、栄養豊富で温かい一品になります。

エリザベスもソフィアも頑張って挑戦したが、あまり良い出来栄えではなかった。

ルイスはふたりの失敗の原因を推測した。彼女たちが作るところをあまり良く見ていなかったが、おそらくこうだろう。

エリザベスが蒸し鶏を作った際の失敗の原因は、マリネの時間を誤ったことにあります。彼女は、鶏肉を醤油、米酒、塩でマリネする工程を急いでしまい、実際には数10分しかマリネせず、その結果、鶏肉が十分に味を吸収しなかったのです。さらに、蒸し時間も短縮してしまい、鶏肉の中心部まで熱が通らず、部分的に生の状態で残ってしまいました。

一方、ソフィアが作った小籠包の失敗の原因は、皮と具材のバランスが取れていなかったことです。彼女は、皮を非常に薄く作り過ぎたため、蒸す過程で皮が破れてしまい、中の具が流れ出てしまいました。また、具材に含まれるゼラチンの量を間違え、期待したほどジューシーにならず、小籠包本来の美味しさを引き出せませんでした。これらの細かな手順の見落としが、ふたりの料理の出来栄えに影響を及ぼしたのです。

しょんぼりしているふたりにルイスは「心配するな。蒸し鶏の方はマリネする時間が無かった所為だし、小籠包の方は俺がもう一度作り直してやる」と言い、ふたりに手伝わせて小籠包をルイス自ら作り上げた。また蒸し鶏の方はマリネを十分時間を掛けて行うため、明日の朝食用に作り置きにした。蒸す時間もたっぷり必要だからだ。

ルイスは小籠包の作り方をふたりに手取り足取り、丁寧に指導した。レシピと作り方は以下の通りである。

小籠包シャオロンバオの10人前レシピでは、以下の食材を使用します。

- 豚ひき肉:500g
- ゼラチン(鶏ガラスープを固めたもの):200g
- 小麦粉:1.1kg「皮用」
- 生姜:50g
- ネギ:100g
- しょうゆ:100ml
- 砂糖:50g
- 鶏油「またはごま油」:100ml
- 塩:適量
- 水:適量「皮の生地とゼラチンを作るため」

作り方:
1. ゼラチンを作るために鶏ガラスープを煮詰め、冷やして固めます。
2. 豚ひき肉にみじん切りの生姜、ネギ、しょうゆ、砂糖、鶏油、塩を加えてよく混ぜ、ゼラチンを小さく切って混ぜ合わせます。
3. 小麦粉に水を加えて柔らかい生地を練り、小さな円形に伸ばします。
4. 生地の中央に肉とゼラチンの餡を置き、皮を上から折りたたんで包み、蒸し器で約10分蒸します。

このレシピで作る小籠包シャオロンバオは、肉汁がジューシーで、皮が薄くてもちもちしているのが特徴です。

漢口の港での買い出し後、ルイスと人質の提督一家及び副官一家「提督と副官以外」は、漢口料理の豪華な朝食を共に頂いた。この食事の準備とその後の飲食を通じて、ルイス、エリザベス、ソフィアの間には、かつてない親密さが芽生えた。

料理を選び、互いの手助けをしながら、彼らは困難を乗り越え、お互いを深く理解する機会を得た。エリザベスとソフィアの料理は完璧ではなかったが、ルイスの手助けを借りてふたりはその失敗から学び、次の食事に向けて改善を図った。この経験は、彼らが深い絆を築くきっかけとなった。

提督の妻エリザベスは、社交界の華と讃えられるだけあって気品のある権高な美人であった。身長は178cm、体重は56kg、B88、W58、H95という理想の体型で結婚前はモデルを務めていた。

副官の妻ソフィアは、美人ではあるがいわゆる中間層の出身であり、気さくで明るい女性であった。身長は170cm、体重は63kg、B100、W60、H105といういわば豊満体型の女性であった。

ルイスはどちらが好みというわけでもなかったが、ソフィアのほうが話しかけやすいタイプと言えるだろう。

朝7時。徽州商人:胡文達フー・ウェンダから連絡があり、漢口で新築している屋敷に仮母屋が出来たそうだ。ただし、「侍女とか執事、料理人、庭師、運転手などの住まう離れが出来ていないから、料理は暫く自分で作ってくれ」と言う。

ルイスたちは早速不自由な船内から仮母屋へ引っ越しすることにした。

☆漢口の仮母屋
漢口の森の中に佇むこの仮母屋は、ルイスたちにとって新たな拠点となった。夜には柔らかな灯りが窓から漏れ、暖かさと安心感を与えるだろう。ルイスはこのログハウスの頑丈さと、周囲の自然に溶け込む素朴さを評価し、ここが彼らの秘密基地であると感じている。

エリザベスは、木の温もりが満ちる居間に心を動かされ、家族が安全に過ごせる場所であると感じ安堵している。ソフィアはこのログハウスの静寂と隔離された場所が、子どもたちにとって探究心を育む舞台になると考え、喜びを感じている。

子どもたちは、この新しい家が冒険の始まりのようでワクワクしている。彼らにとって、このログハウスは、新たな生活のスタートラインとなるのだ。

二人の子供「一人は10歳の息子チャールズ、もう一人は8歳の娘アン」がエリザベスとソフィアの息子トーマス「5歳、好奇心旺盛で活発な子供」を誘って森の中を探検に行こうという。

ソフィアはまだ5歳のトーマスを心配し、「あなた達とお母さんだけで行ってらっしゃい」と答えた。ルイスはエリザベスと二人の息子に船内から持ってきた沢山の小籠包とサンドイッチ及びお茶を渡し、送り出した。

トーマスは仮母屋の周りで一人遊びをし始めた。ルイスとソフィアは紅茶と餅菓子をテラスに持ち出し、思い思いに時間を過ごす。

ソフィア:ルイスさん。私達は何時になったら解放されるの?

ルイス:亭主たちが商館から良い情報を持ってきたらすぐにでも解放してやるよ。

ソフィア:でもエリザベスが子どもたちと一緒に逃げたらどうするの?ここは漢口でしょう?街中に逃げればすぐに商館に逃げられるわ。

ルイス:では一度試して見るんだな。森とは言ってもな。逃げ道なんか無いのさ。俺の持ち物だから周囲は封鎖してある。

ソフィア:ふん。抜け目のない冷酷な男だったのね。料理するときだけ紳士的な態度をしてさ。私達がどんな悪いことをしたって言うのよ。

ルイス:俺には色々言い分があるが、ひとつだけ言ってやろう。お前たちがイギリスの商船でしかも積み荷の中に「ケシの花、アヘン、モルヒネ、ヘロイン」が大量に積み込まれていた。それが俺にとって都合が悪いのさ。

ソフィア:アヘン戦争以来、イギリスのどんな商船だってやっていることよ。中国政府「最初は清朝、次は国民党」だって黙認しているじゃないの。

ルイス:他のやつが黙認しても俺は黙っていないのさ。

ソフィア:イギリス商館には治外法権があるわ。亭主たちが商館に行き、訴えれば貴方は逮捕されるわよ。

ルイス:そうさせないようにお前達を人質に取っているんだよ。

ソフィア:ふん。卑怯な男。女子供を人質に取るなんて。

ルイス:「アヘン、モルヒネ、ヘロイン」がケシの花から作られる依存性の強い毒物だということは、お前たちも知っているはずだ。お前たちのやっている卑怯な行為に比べたら俺のやっていることなんてほんのちっぽけなことだよ。あんたも可愛い顔はしているが、一端いっぱしの大人だろう。重々分かっているはずだ。

ソフィアは言い返したい気持ちはあったが、どうもルイスの言っていることの方が正当性があるように感じ、言い返さなかった。

やがて昼食の時間となり、エリザベスたちはまだ帰ってこなかった。ルイスが途中まで彼女たちを迎えに行き、ソフィアは蒸し鶏ジョンチ料理を作り始めた。朝食のとき、ルイスに丁寧に教えてもらい、マリネの時間も十分取り、蒸す時間も確保した。ルイスに教えてもらったレシピと作り方は以下の通りである。

蒸し鶏ジョンチの10人前レシピでは、以下の食材を使用します。

- 鶏肉「胸肉またはもも肉」:約2kg「100g×20片」
- 生姜:50g
- ネギ:100g
- 塩:適量
- 鶏ガラスープ:適量「鶏肉を蒸す際に使用」
- ごま油:適量

作り方:
1. 鶏肉は一晩前に塩で下味をつけておきます。
2. 生姜とネギはそれぞれみじん切りにして、鶏肉の上に散らします。
3. 蒸し器に鶏ガラスープを少し加え、鶏肉を入れて中火で約20分蒸します。
4. 鶏肉が蒸し上がったら取り出し、少し冷ましてから手で適当な大きさに裂きます。
5. 裂いた鶏肉にごま油を少し振りかけ、再び生姜とネギを上から散らして完成です。

このレシピは、鶏肉の柔らかさと生姜、ネギの香りが特徴です。ごま油で仕上げることで、さらに風味が増します。

鶏肉を一晩前に塩で下味をつけておくことまでは出来なかったが、あとは何とか上手に出来たように思う。ちょうどその時、ルイスがエリザベスと子どもたちを連れて帰ってきた。

ソフィアはルイスとエリザベスが仲良く語らいながら一緒に帰ってくる光景を見て心穏やかでは無かった。「ルイスの奴め。さっきあれほど私と討論を交わした間柄だったのに。いつの間にエリザベスと会話をする間柄になったのか?」

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

第11話を通して、ルイスと彼を取り巻く人々の間に生まれた絆の強さが示されました。困難な状況の中でも、彼らは互いに支え合いながら成長していくことが描かれています。次エピソードでは、ルイスたちの新たな試練と、それに対する彼らの対応を描きます。彼らの運命がどのように展開していくのか、引き続き見守っていただければと思います。次回は長江デルタ地帯の近代化プロジェクトに対抗する地元企業との接触がテーマです。今回のテーマ「人質家族との関わり」とはうって代わり、イギリス資本との対抗がテーマです。