小説「海と陸の彼方へ」
第九章国内の敵、国外の敵
第4話国内４つ巴の争い「武漢の陰謀」
前書き
このエピソードでは、1936年の利川を舞台に、ルイスとその周囲の人々、特に彼の家族内での複雑な関係性と内面の動きを描いています。政治的緊張が高まる中で、ルイスの家族内での人間関係も微妙な変化を見せる。特に、ルイスの長女・趙麗華が見せる成熟した交渉術と彼女とルイスの間に生まれる特別な絆が物語の中心を成しています。さらに、玲瓏が感じる複雑な感情も物語に深みを加えています。家族の愛と忠誠心、個人の野望と恐怖が交錯する中で、彼らの選択がどのように彼ら自身と周囲の人々の運命を形作っていくのかが見所です。
本文
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登場人物「1936年1月1日時点」
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ルイス：蒋介石により巴蜀・雲南の軍政長官に任命されたが、後に国民党からの暗殺指令を受け、蒋介石に反逆。現在は蒋介石の政権を地方政権にまで衰退させ、自身の勢力を急速に拡大している。
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ルイスの資金
蓮華金融設立「資本金100億両」。小遣い61億1,109万8,000両。朱堤銀銀錠200億両「内訳は一般会計20億両、特別会計80億両」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は80億両の予算を組み、今までに16億557万3,300両支出した。
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梅琳（26歳）。ルイス直属の軍事司令官兼側室。西安明城在住。爾蘇木雅藏族張贊林の元妻。美しさと強さを併せ持つアマゾネス。
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王蓉（38歳）：ルイスの側室の一人であり、土家族の出身。彼女の家族は土家族の首長の家系に連なり、ルイスと土家族との関係において重要な役割を果たす。
玲瓏（46歳）：ルイスの側室のひとり。黒山軍閥の首領：趙天虎（52歳）の元妻。
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ルイスの側女
李美麗（35歳）。旧清朝王族陳家次男陳偉強（38歳）の元妻。黒山軍閥の首領趙天虎の元愛人。
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紅軍の長征
中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8
☆6月20日土曜日午後3時。湖北省恩施山地セレン鉱床作業場
ルイスたちが出発しようとした矢先に、玲瓏（46歳）の長女夫妻が利川の繁華街から戻ってきた。利川の特産品を購入してきたようだ。
趙麗華：殿様。買い付けて参りました。明細を書きます。
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5万両「約10億円」の予算で購入した特産品の明細を以下に示します。
1. 利川黄連 - 1kgあたり1,000両「約2,000万円」
- 購入量: 10kg
- 合計: 10,000両「約2億円」
2. 利川蓴菜 - 1トンあたり500両「約1,000万円」
- 購入量: 5トン
- 合計: 2,500両「約5億円」
3. 利川山薬 - 500gあたり2,000両「約4,000万円」
- 購入量: 5kg
- 合計: 20,000両「約4億円」
4. 利川柏手袋 - 1組あたり50両「約10万円」
- 購入量: 200組
- 合計: 10,000両「約2億円」
5. 利川銀細工 - 1品あたり100両「約20万円」
- 購入量: 50品
- 合計: 5,000両「約1億円」
合計予算は約10億円になり、これらの特産品を通じて、利川地方の文化や伝統を豊かに反映した購入を行ったことになります。これらの品々は、利川地方の自然資源の豊かさ、職人技の高さ、そして地域経済への貢献を象徴しています。
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ルイスは長女：趙麗華に確認した。
「この購入品のバランスは誰が考えたのか？」
趙麗華：私が利川市場に出向き、特産品の品目、数量及び価格をすべて調べ上げ、現時点での最安価格で買い上げました。今後も大量に購入する予定だから3割引にせよと交渉いたしました。
ルイスは長女の機敏さと市場を調べ上げる勤勉さや商人との交渉術を非常に高く評価し、彼女を直属の交易担当秘書に抜擢した。彼女を居室に呼び、今回の褒美として数々の品物をプレゼントした。
ルイスは趙麗華へ贈るべきプレゼントとして、高級感と時代を象徴するアイテムを選んだ。
1. ミニドレス: エルザ・スキャパレッリのデザインによる、ビビッドな色彩のドレス「色はショッキングピンク」を選んだ。スキャパレッリは1930年代に活躍し、ファッション界に革新的なアイデアをもたらしたデザイナーである。彼女は"shocking pink"と呼ばれる鮮やかなピンク色を流行させた。ドレスはこの象徴的なピンクで、若々しく華やかな印象を与えることだろう。
2. インナーウェアセット: 1930年代のファッションは、下着がスタイルを形作る重要な要素だった。当時のトレンドに基づいて、高級シルク製のインナーウェアセットを選んだ。シルクは滑らかで肌触りが良く、豪華な着心地を提供する。色はエレガントなミッドナイトブルーにした。
3. 装飾品: カルティエのダイヤモンドネックレスを選んだ。Cartierはその時代のファッションにおいて重要な役割を果たしていた。ダイヤモンドネックレスは、どの時代にもマッチする永遠の魅力を持ち、趙麗華の洗練された美しさを引き立てるだろう。
4. 化粧品: Chanel「シャネル」の化粧品セットを選んだ。Chanelは1930年代に高級ファッションと化粧品の分野で重要な位置を占めていた。リップスティック、アイシャドウ、ブラッシュのセットは、趙麗華が日常的にも特別な日にも使用できるように、クラシックでありながらも現代的な色合いを選んだ。
これらの贈り物は、趙麗華の成果を称え、彼女の洗練された美しさとスタイルを高めるものである。1936年の時代背景を反映させながら、現代的な魅力と高級感を兼ね備えたアイテムの選択は、ルイスの深い愛情と尊敬の気持ちを伝えるものだ。
趙麗華はルイスからの数々の贈り物を見て卒倒しそうになったくらい喜んだ。彼女はルイスに対する感謝の気持を表す方法を思いつかず自然にルイスに抱きつき、狂おしいほどのキスの嵐を浴びせた。ルイスは驚きながらも彼女の気持ちに応え、彼女を抱きかかえて隣室に消えた。
ふたりが隣室から出てきた時には、もう夕刻が迫っており、趙麗華は母親の住む部屋に行き、夕食の準備を一緒にしようと誘った。趙麗華はルイスのために得意の香港料理を作ることを母親に提案し、賛同を得た。
利川の静かな夜、趙麗華は母・玲瓏と共に、ルイスのために特別な夕食を準備することを決意した。彼女が得意とする香港料理を通じて、家族の絆を深め、またルイスへの敬意と感謝を表現する機会となった。キッチンは活気に満ち、香ばしい香りが空気を満たす中、ルイスも料理の手伝いを申し出た。彼の料理への熱心な取り組みは、趙麗華との間にある親密さをさらに強めた。
趙麗華はルイスに手取り足取り、蝦餃のレシピと作り方を教えながら、時折りルイスが自分の唇をチュッと奪うのを黙認していた。彼女もルイスとキスするのを楽しみにしていたのである。母親の目を盗みながら、彼女もルイスの熱いキスや抱擁・愛撫を喜んで受け入れた。彼女がルイスに教えたレシピは以下の通りである。
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蝦餃のレシピ「二人前」です。このレシピは、透明でやわらかな皮と、ジューシーなエビの餡が特徴の点心です。
材料:
- エビ 200g「皮を剥き、背わたを取り除く」
- 竹の子 30g「みじん切り」
- 塩 小さじ1/4
- 白胡椒 少々
- 紹興酒 大さじ1
- ごま油 大さじ1
- 片栗粉 大さじ2
- 薄力粉 100g
- 熱湯 60ml
- BP「ベーキングパウダー」小さじ1/4「省略可」
作り方:
1. エビは半分に切り、残りはみじん切りにしてボウルに入れる。
2. 竹の子、塩、白胡椒、紹興酒、ごま油を加えてよく混ぜ、片栗粉を加えてさらに混ぜる。
3. 薄力粉とBPをボウルに入れ、熱湯を少しずつ加えながら混ぜ、滑らかな生地を作る。
4. 生地を16等分にし、各々を薄く伸ばしてラップで包み、餡を包む。
5. 蒸し器に油をひいた蒸し紙を敷き、蝦餃を並べて強火で約10分蒸す。
このレシピは基本的なガイドラインです。お好みで調味料を調整し、エビの餡に他の具材を加えることもできます。透明でやわらかな皮とジューシーなエビの組み合わせが、蝦餃の美味しさを引き立てます。
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母親である玲瓏は、娘とルイスの間に芽生えつつある深い絆を目の当たりにし、微妙な感情の揺れを感じる。彼女の目から見ると、二人の協力的な姿はまるで長年の連れ添った夫婦のようにも見えた。この夕食の準備を通じて、ルイスと趙麗華の間には、単なる友情以上の、深い理解と尊重が育まれていた。
玲瓏は、自身が感じるヤキモチを疎ましく思いながらも、彼らの関係に一石を投じることはなかった。彼女にとって、家族の幸せと結束が何よりも重要であった。夕食時、三人は並んで食卓に着き、ルイスは趙麗華の料理の腕前に感嘆した。この食事は、彼らの関係をさらに深め、互いの理解を促進する貴重な機会となった。
この一連の出来事は、家族内の微妙な感情の流れと、人間関係の複雑さを描き出している。玲瓏が感じる微妙なヤキモチは、愛する者たちの幸せを願う母親の心情を象徴しており、家族の絆の強さと、時にそれが生み出す複雑な感情の深さを表している。
☆6月21日日曜日午前9時。湖北省恩施山地セレン鉱床作業場
昨晩。副官の梅琳は側室の王蓉（38歳）一族と側女の李美麗（35歳）を恩施土司城に連れて行った。此処に残ったルイスの妻「側室」は玲瓏ひとりとなった。
その日の晩は当然玲瓏が伽を務めるべきであったが、玲瓏はルイスと自分の長女：趙麗華の間に密やかな愛情が生まれていることに気付き、身を引いた。ルイスの褥「ベッド」に現れたのは、長女：趙麗華であった。ルイスは彼女の夫のことを気にしたが、趙麗華の「私は彼と別れ、ルイス様のお側に仕えます」という言葉を信じ、昼間と同様また彼女を抱いた。
☆趙麗華の言葉
趙麗華：殿様。戦略的に重要な場所は武漢でございます。宜都の陸城ではございません。長江の沿岸を占領したとおっしゃいますが、すべての都市に軍隊を置いた訳ではありますまい。南京、上海、杭州だけではありませんか？
ルイス：その通りだ。軍隊を置きたくても統率する将校がいないのだ。
趙麗華：おそらく、武漢の国民党政府の残党は軍閥化しておりますよ。もちろん、共産党の勢力も復活しております。
ルイス：そうだな。またぞろ同じことをせねばならぬのか。
趙麗華：殿様。弱気をお出し遊ばすな。中華を統一するまでは同じことの繰り返しでございますぞ。
ルイスは彼女に励まされ、モチベーションを高めた。 ルイスが飛行機に乗り、武漢へ向かった時、助手席に乗ったのは当然趙麗華であった。
☆6月22日月曜日午後2時。湖北省武漢行政庁舎前広場
ルイスが元の国民党武漢政府の庁舎前の広場に飛行機で到着すると、そこは既に廃墟と化していた。庁舎の内部に足を踏み入れるものの、かつての栄華は影を潜め、廃墟だけが彼を出迎えた。ルイスはやむなく武漢の街へと向かい、目的もなく街中を歩き始めた。彼がそのようにしている中、元国民党の残党である暴漢たちに襲われた。しかしルイスはその怪力を発揮し、彼らを一網打尽に捕らえた。
暴漢たちが元国民党武漢政府の役人だったことを知り、ルイスは彼らから事情を聞いた。ルイス軍に打ち負かされた後、共産党の勢力が息を吹き返し、武漢の実権を奪取したという。かつての国民党員たちは、共産党政府によって税金をすべて吸い上げられ、生活の糧を失ってしまったために暴徒と化してしまったのだ。
この情報を得たルイスは、武漢の現状を深く憂慮した。共産党政府の手によって、かつての同胞たちが苦境に立たされている現実に直面し、ルイスはこの問題に対処するための新たな行動計画を練り始めた。彼の心は、武漢の街とその人々の未来を救うために、再び闘争へと向かう決意で固まりつつあった。
ルイスは捕らえた暴漢5名に50両ずつ渡し、「暫くこの金でしのげ。もう一度共産党と戦う気になったら俺を訪ねてこい」と告げて彼らを釈放した。彼らは散り散りに去っていった。ルイスも流石に暴徒と化した彼らをそのまま部下として雇う気にはなれなかった。
☆午後6時。武漢の妓楼「紅蓮館」
ルイスと趙麗華は武漢の妓楼に入り、食欲を満たすとともに此処で一泊する気になった。
紅蓮館の内装は、歴史を感じさせる深みのある赤と金色で装飾され、暖かく落ち着いた照明が空間全体に温かみを与えていた。女将の李春花（36歳）は、その美しさが妓楼の名前に恥じないほど華やかで、彼女の所作一つ一つが優雅でありながらも、どこか母性を感じさせる温かさを持っていた。趙美麗（23歳）、王小蓉（19歳）、張華麗（21歳）の三人の妓女たちは、それぞれが特有の魅力を持ち、舞や楽器の演奏でルイスと趙麗華をもてなした。趙美麗は、琴の演奏で室内に流れる音の一つ一つが心に響くような技量を披露し、王小蓉は繊細な舞でその若さと生命力を表現し、張華麗はその歌声で二人の心を和ませた。
食事は、地元武漢の食材を活かしたもので、その味わいは深く、豊かであった。特に、地元の野菜と新鮮な魚を使った料理は、ルイスと趙麗華の舌を唸らせるほどだった。食事を通じて、李春花や妓女たちは、さりげなく会話を挟みながらも、二人の間の空気を読み、心地よい時間を提供しようと努めていた。
この夕食の場面は、紅蓮館の女将や妓女たちの技量、美しさ、そして心遣いが、ルイスと趙麗華にとって忘れがたい記憶となった。
☆更なる展開
紅蓮館の温もりある灯りの下、ルイスと趙麗華は、李春花女将の細やかなもてなしを受けながら、武漢の伝統料理に舌鼓を打っていた。周りには、趙美麗、王小蓉、張華麗の三人の妓女たちが、それぞれの得意とする芸で二人の夕食を一層豊かなものにしていた。
この和やかな雰囲気の中、孫偉強（18歳）と名乗る若者がルイスたちのもとへと近づいた。彼は、その日の昼間に起きた乱闘騒ぎを目撃しており、ルイスの勇敢な行動に感銘を受け、地元の民兵組織「武漢自由軍」への参加を促した。孫偉強の語る「武漢自由軍」は、共産党政府に抵抗する武漢の若者たちによって組織されており、その目的は街の自由と安全を守ることにあると言う。
ルイスは孫偉強の熱意ある誘いと、彼らが直面している困難に思いを馳せ、趙麗華と共に次の行動を模索する。この出会いは、ルイスにとって新たな戦いへのきっかけとなり、武漢での彼の使命に更なる意義をもたらした。
☆ルイスと女将：李春花（36歳）
ルイスは先程の青年孫偉強（18歳）の気品ある態度が大変気に入った。身長も高くガッシリとしており、みてくれはイカツイのにも関わらず持って生まれた高貴な血筋が自ずと現れていた。
それは此処の女将：李春花にも同じことが言える。ルイスは先程の青年が女将の息子ではないかと思った。しかし、ルイスはそのことを彼女には伝えず、女将にそれとなく先程の青年：孫偉強（18歳）が高貴な血筋ではないかと思うと告げた。
女将の顔色は真っ赤に紅潮し、どことなく嬉しそうだった。ルイスは此処ぞとばかりに女将の美しさを褒めた。別に彼女を誘惑しようというつもりではなく、女将と親しくなり息子のことをもっと詳しく知りたかったのだ。
彼女は身長が168cmと高く、スラリとした均整の取れた良い体格をしている。おそらくは武漢一の美人であり、旧清朝の貴族の出身だろう。その気高さは隠しようがない。また彼女の持つ気さくな明るさも彼女の魅力のひとつである。
ルイスはこのことを踏まえた上で彼女に対してこう告げた。
「貴女の美しさは、武漢の夜空を照らす明るい星のようです」
「その優雅さと品格は、まるで旧清朝の宮廷から歩み出たかのよう」
「168cmの堂々たる身長とスラリとした体格は、貴女がこの地で最も輝く存在であることを物語っています」
「貴女の持つ明るさと親しみやすさは、紅蓮館の温かな光となり訪れる人々を魅了します」
数多の客からの誘惑にも一度も靡かなかった女将はルイスの口説きであっさり落ちた。
今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。
後書き
このエピソードは、1936年の利川という時代背景のもと、家族という小さな単位での人間関係の複雑さを、政治的な緊張感という大きな枠組みの中で描き出しています。ルイスと趙麗華の関係を通じて、個人の成長、家族内の絆、そして外的な圧力が人間関係に与える影響について深く掘り下げています。この物語は、歴史的背景と個人の内面との間の繊細なバランスを保ちながら、読者に多層的な体験を提供します。
