小説「海と陸の彼方へ」
第八章新たな敵（中国国民党）との戦い
第16話近隣との戦い始まる⑪「彬長炭鉱の調査と後始末」
前書き
時は1936年、中国の大地は混沌とした情勢の中で新たな勢力が台頭しようとしていた。彬州、古の清朝から続く陳家のもとに、一人の若者が運命を背負いし者として現れる。その若者、ルイスは過去の栄光を背に新たな時代を切り開くため、陝西省の地で新たな戦いに挑む。彬長炭鉱の調査とその没収を巡る物語は、中国国民党との戦いの序章に過ぎない。陳家とその周辺に起こる激動の日々は、ルイスの運命をどのように変えていくのか。第八章第十六話、近隣との戦いが今、始まる。
本文
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登場人物「1936年1月1日時点」
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ルイス19歳：イタリア系のアメリカ移民。長征途中の中国共産党紅軍の首領毛沢東を捕縛した功績を認められ、中国国民党総統の蒋介石より、巴蜀・雲南の軍政長官を委嘱される。旅の途中で四川省南充の石油王から巴蜀・雲南王に推戴される。と言っても、元清朝の王女：王華が認めただけである。この物語の主人公。中国制覇の大望を抱く。鉱山省大臣を兼ねる。実の弟アンヘルの名を借りて彬長炭鉱への潜入を果たす。
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ルイスの資金 蓮華金融設立「資本金100億両」。小遣い1億112万8,100両。朱堤銀銀錠200億両「内訳は一般会計20億両、特別会計80億両」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は80億両の予算を組み、今までに16億557万3,300両支出した。
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ルイスの友人
李婉清（20歳）。彬州太極湾：ケシの花農園の農婦。農夫張偉（20歳）の妻。
楊秀英（37歳）。張偉（20歳）の母親。李婉清の姑。
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紅軍の長征
中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8
☆5月24日日曜日午前8時。鄭州：劉鵬飛邸
アンヘル（ルイス）は昨日の戦いで劉鵬飛兄弟を滅ぼし、河南省の省都：鄭州を手に入れた。また旧清朝王族：王徳明一族の後ろ盾もあり、宋朝の都であった開封にも勢力を伸ばすことが出来た。
次の相手はどこになるのかまだ分かってはいないが、このまま手を拱いていては折角潜入した彬長炭鉱の所有者一族に怪しまれてしまう。
「この広大なる中国の大地を統べる者となり、西欧諸列強や東洋の強国日本からの侵略を防ぐこと」それはアメリカから中国まで移動し中国各地をつぶさに調査したアンヘル（ルイス）の実感であった 。
今、その夢を現実のものとするための道が、遂に私の前に広がっている。どれほどの困難が待ち受けていようと、私は決して後退することはない。この手で、分断されたこの国を一つに統合し、真の平和と繁栄をもたらすのだ。それが私、ルイスがこの地に足を踏み入れた真の目的であり、使命である。
アンヘル（ルイス）は河南に留まって欲しいとすがる王華を説得し、陝西省彬州・旧清朝王族陳家次男邸に戻ることにした。行く前に劉鵬飛兄弟の蓄財2,000万両を王徳明と折半し、1,000万両を受け取った。そのうち100万両は陳家の長女：陳麗華（36歳）に返却してやるつもりだ。
アンヘル（ルイス）は陳麗華に電話して様子を伺った。
陳麗華：アンヘル（ルイス）なの？どうなっているの？劉鵬飛邸がルイス軍の軽戦車に襲われて全滅したと聞いたわ。
アンヘル（ルイス）：その通りでございます。私もさすがに戦車には敵いません。戦闘のドサクサに紛れて退散してきました。劉鵬飛兄弟は旧清朝王族：王徳明に処刑され、財産も没収されましたが、陳麗華様が贈った100万両だけは金庫ごと私が馬車に積んで持ってきました。
陳麗華：そうだったの。貴方も大変な目にあったのね。良いわ。早くこちらに帰ってらっしゃい。貴方が優秀だと父と母に知らせておくわ。
アンヘル（ルイス）は船で鄭州から西安へ向かった。西安から彬州までは馬車の旅である。誰かが襲ってこないかと手ぐすね引いて待っていたが待っている時は来ないものである。順調に陝西省彬州・旧清朝王族陳家次男邸までの二泊三日の旅が終わった
☆5月27日水曜日午前10時。陝西省彬州・旧清朝王族陳家次男邸工場兼宿舎
TNT開発工場も出来上がり、ルイスはアンモニアを部下たちと一緒に製造し始めました。
工場内はアンモニアの刺激臭にまみれています。外から陳麗華（36歳）の声が聞こえます。
「こんな臭い匂いは生まれて初めてよ。私のボディガードは何を作っているのかしら？アンヘル（ルイス）。早く出てきなさい」
アンヘル（ルイス）はマスクを外して表に出ていき、陳麗華さんに挨拶した。
陳麗華：アンヘル（ルイス）ちゃんが無事で良かったわ。私随分心配したのよ。両親が呼んでいるわ。早くいらっしゃい。
旧清朝王族：陳康徳（65歳）：おお。君がアンヘル（ルイス）君か。がっしりした良い体格をしておるな。姿かたちも良いし、娘が惚れるわけだな。君にひとつ頼みたいことがあるのだ。
アンヘル（ルイス）：何でしょうか？
陳康徳：彬州では色んな鉱産物が採れるのは知っておろう。
アンヘル（ルイス）：石油や石炭が豊富に採れることは存じております。
妻：陳麗芬（62歳）：それだけじゃないのよ。鉱産資源はエネルギー鉱物、化学鉱物、建材類の鉱物の3種類があるの。
アンヘル（ルイス）：具体的にはどのようなものがあるのですか？
陳康徳：石炭、石炭ガス、石油、天然ガス、油頁岩、硫黄鉄鉱、肥料用有機質頁岩、陶器用粘土、建築用砂岩、レンガ・タイル用粘土などがある。
アンヘル（ルイス）：随分色んな種類の鉱産物が採れるのですね。私は石油と石炭及び天然ガスくらいしか分かりません。それ以外のものがどういうものか教えていただきたいのですが？
陳麗芬：お安い御用だわ。メモを取って頂戴。
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油頁岩と肥料用有機質頁岩は、地球の中で見つかる特別な種類の岩石です。
1️⃣ 油頁岩
油頁岩は、古代の海や湖の底に堆積した有機物が、長い時間をかけて圧縮され、変化してできた岩石です。この岩石は、石油や天然ガスの原料になることがあります。油頁岩からエネルギーを取り出すには、高温で加熱する必要があります。加熱すると、岩石に含まれる有機物が液体やガスに変わり、これを集めて使用します。つまり、油頁岩は「固体の石油」とも呼ばれることがあります。
2️⃣肥料用有機質頁岩
肥料用有機質頁岩は、植物の成長に必要な栄養素を含んでいる岩石です。この岩石は、主に植物の肥料として使用されます。肥料用頁岩には、植物が成長するのに必要な窒素、リン酸、カリウムなどの元素が含まれていて、これらの栄養素が土壌に加わることで、作物の生育を助けます。肥料用有機質頁岩は自然から採取され、粉砕された後、直接土壌に加えられるか、他の成分と混ぜて肥料として使用されます。
3️⃣ 共通点と違い
両方の頁岩は、地球の長い歴史の中で自然に形成されたものですが、用途が異なります。油頁岩はエネルギー資源として、肥料用有機質頁岩は農業資源として価値があります。油頁岩からは石油やガスが、肥料用頁岩からは植物の栄養素が得られるのです。 簡単に言うと、油頁岩は「地球のエネルギー貯蔵庫」、肥料用有機質頁岩は「自然の肥料工場」と考えることができます。これらの岩石は、私たちの生活や産業にとって非常に重要な役割を果たしています。
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アンヘル（ルイス）：なるほど、大いに学びになりますな。どちらも非常に重要なものでございますね。石炭ガス、陶器用粘土、建築用砂岩、レンガ・タイル用粘土について教えてください。
陳麗芬：良いわ。でも貴方一辺に聞いても大丈夫なの？私達は何十年も前から知っている知識だから平気だけど。
アンヘル（ルイス）：大丈夫です。私は心身ともに強健に出来ていますので。 陳麗芬はアンヘル（ルイス）の頼もしい言葉を聞いて安心し、どんどん答えていった。
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それぞれについて、説明するわ。
1️⃣ 石炭ガス
石炭ガスは、石炭を高温で加熱することによって生成されるガスです。このプロセスを「石炭のガス化」と呼びます。石炭ガスには、燃料として使えるメタンガスや水素ガスが含まれています。かつては、街灯の照明や家庭での料理、暖房に使われていました。今日でも、工業的なエネルギー源や化学製品の原料として利用されることがあります。
2️⃣ 陶器用粘土
陶器用粘土は、高品質の陶磁器を作るために使われる特別な種類の粘土です。この粘土は、細かい粒子でできており、高温で焼くと硬くて丈夫な陶磁器になります。陶器用粘土には、カオリンという白い粘土がよく使われます。この粘土は、白くて滑らかな仕上がりが特徴で、食器や美術品など、様々な陶磁器製品の製造に使用されます。
3️⃣ 建築用砂岩
建築用砂岩は、自然界で見られる岩石の一種で、主に砂粒が固まってできています。この岩石は、色や耐久性が様々で、建築材料として人気があります。砂岩は、建物の外壁や床、装飾的な要素などに使われます。自然な色合いと美しい質感が特徴で、歴史的な建物や現代の建築にも使用されています。
4️⃣ レンガ・タイル用粘土
レンガやタイルを作るために使用される粘土は、一般的に「レンガ粘土」と呼ばれます。この粘土は、焼くと硬くて丈夫なレンガやタイルになります。レンガやタイルは、家の建築、床や壁の仕上げ、さらには庭の装飾など、様々な用途に使われます。レンガ粘土から作られるレンガやタイルは、耐久性が高く、長持ちするため、建築材料として非常に重宝されています。 これらの素材は、私たちの生活の中で広く使用されており、それぞれが持つ特性や用途を理解することは、科学や技術、さらには芸術に関する知識を深めるのに役立ちます。
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アンヘル（ルイス）：最後にもう一つだけ教えてください。硫黄鉄鉱というのは鉄が採れるのでしょう？
陳麗芬：鉄はもちろん採れるのだけどもう一つ大変大事なものが採れるのよ。
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硫黄鉄鉱「りゅうおうてっこう」は、自然界に存在する鉱物の一種で、化学式はFeS₂「硫化鉄II」です。この鉱物は、金色がかった光沢があり、『愚者の金』「fool's gold」とも呼ばれることがあります。その名の通り、金を探している人々をしばしば惑わせることがありますが、実際には金とは全く異なる物質です。
1. 特徴と用途
硫黄鉄鉱は、その鮮やかな金属光沢と美しい結晶形を持っているため、コレクターによって収集されることがあります。しかし、この鉱物は科学や産業の分野でも重要です。
- 硫酸の製造： 硫黄鉄鉱は硫酸を製造する際の原料として利用されることがあります。鉱石を加熱することで硫黄を抽出し、その硫黄から硫酸が作られます。
- 鉄の源として： また、硫黄鉄鉱は鉄の重要な供給源の一つでもあります。鉱石から鉄を抽出する過程で、硫黄は副産物として取り除かれます。
2. 物理的特性
硫黄鉄鉱は硬く、摩擦や打撃に対しても比較的強いですが、金と異なり非常に脆いため、簡単に割れたり、粉末状になったりします。また、金とは異なり、硫黄鉄鉱は導電性が低いです。
3. 見分け方
金と硫黄鉄鉱を見分ける一つの方法は、硬さと重さを比較することです。金は非常に重く、柔らかい金属ですが、硫黄鉄鉱は比較的軽く、硬く、脆いです。また、硫黄鉄鉱は結晶構造がはっきりしていることが多く、角のある形をしています。 硫黄鉄鉱は、地球の歴史や鉱物学を学ぶ上で興味深い対象です。この鉱物を通じて、自然界の化学的なプロセスや、地球内部の物質の循環について理解を深めることができます。
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アンヘル（ルイス）：大変良く分かりました。どうも有難うございます。
陳家の家長、陳康徳とその妻、陳麗芬はアンヘル（ルイス）の能力を高く評価しており、彬長炭鉱での役割を通じて家族の利益を増進させることを期待している。彼らはアンヘル（ルイス）に対して、家族の一員としての信頼を示しつつ、炭鉱での成功を通じて家族の地位を高めることへの期待を寄せる。
陳康徳：アンヘル君、我々は君の能力に大きな期待を寄せている。君が彬長炭鉱での調査と管理において示す洞察力と行動力は、我々陳家にとって非常に価値あるものだ。君の成功は、我々家族の繁栄に直結している。我々は君を支え、必要なリソースを提供する準備ができている。君に彬長炭鉱の支配人を任せたい。引き受けてくれるか？
アンヘル（ルイス）：もちろんで御座います。早速現場へ行き、各鉱産物の産出状態を詳しく調べて参ります。
陳麗芬：アンヘル（ルイス）ちゃん。私の手料理「陜西料理」を振る舞ってあげるから食べていきなさい。
太陽の光が窓から差し込む台所で、陳麗芬は愛情を込めて昼食の準備を始めた。彼女はアンヘル（ルイス）が好む、陜西省の伝統的な料理を作ることに決めていた。まずは、肉夹馍の準備から。彼女は手作りの馍を焼き上げ、長時間煮込んだ豚肉を細かく割いて馍の間に挟む。肉の旨味が馍のもっちりした食感と見事に調和し、そのシンプルながら豊かな味わいがアンヘルの心を温かくした。
次に、凉皮を作ります。冷たい麺に酢、にんにく、辣子油をかけ、キュウリや豆芽を添えることで、さっぱりとした味わいに仕上げる。この料理はアンヘルが特に好む一品で、暑い日には最適である。
羊肉泡馍も欠かせない。陳麗芬は羊肉を丁寧に煮込み、そのスープに手でちぎった馍を加えた。スープが馍にしみ込み、羊肉の風味が濃厚に溶け込んだこの料理は、陜西料理の真髄を味わうことが出来る。
最後に、油泼面と臊子面を作る。手打ちの麺に熱い油と調味料をかけた油泼面、豚肉や野菜の炒め物をトッピングした臊子面は、アンヘルが陜西省の味を存分に楽しめるようにと陳麗芬が心を込めて作り上げた料理である。
陳麗芬はこれらの料理をテーブルに並べ、アンヘルが戻ってくるのを待つ。彼女の手料理は陜西省の豊かな歴史と文化、そして何よりも彼女のアンヘルへの深い愛情が込められている。
アンヘル（ルイス）は陳家の家長、陳康徳とその妻、陳麗芬から彬長炭鉱の支配人を命じられ、不審に感じる。
彼らの次男であり、彬長炭鉱の所有者：陳偉強の預かりしないところでアンヘル（ルイス）に支配人を命じるのは何か訳があるのではないだろうか？
陳康徳は次男が何か不正を働いているのではないかと思っているのかも知れない。もしそうなら彼らを捕縛してしまうのは良くないことだ。次男だけ罪に問い、炭鉱は実績のある彼ら夫婦と長男夫婦あるいは長女夫婦に任せるのが良いのではないかと考え始めた。
結論から先に言うと、アンヘル（ルイス）は彬長炭鉱の支配人として赴任し、彬長炭鉱の所有者：陳偉強の不正を見つけた。彼は炭鉱夫の安全を無視したばかりではなく、鉱石の横領・横流しを行っていた。
更に部下の証言に依ると、度重なる炭鉱の爆発事故で多数の鉱夫が死亡した。陳偉強は爆発事故で多数の鉱夫が死亡したことを世間に知られたくないと考え、死体を山の中に捨てた。アンヘル（ルイス）は部下の10名の炭鉱夫とともに山中を捜索した。
☆悲劇の現場
アンヘル（ルイス）が支配人として赴任した彬長炭鉱での悲劇的な発見と、その後の行動を描く。
朝霧がかかる山中、アンヘル（ルイス）と彼の部下10名は、炭鉱爆発事故の犠牲者を探すために静かに山を歩いていた。陳偉強による疑念のもと、彼らは不正と犠牲者の真実を暴く決意を固めていた。深い森の中、彼らはついに30名の遺体を見つけ、その場で深い悲しみと敬意をもって火葬した。火の前で静かに祈り、遺骨を丁寧に集める姿は、彼らの心の重さを物語っていた。
火葬の後、アンヘルと部下たちは遺骨を小さな木製の箱に納め、遺族に渡すことができない犠牲者のために、山の清らかな場所を選び埋葬した。彼らは一つ一つの墓に小さな石を並べ、故人の魂が安らかに眠れるよう祈りを捧げた。この厳かで悲痛な光景は、アンヘル（ルイス）と彼の部下たちが直面した苦難と、彼らが持つ深い正義感を象徴していた。彼らの行動は、失われた命への最後の敬意として、彬長炭鉱で起きた悲劇を決して忘れないという強い決意を表していた。
今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。
後書き
このエピソードを通じて、アンヘル（ルイス）は真のリーダーへと成長しました。彼の行動は、不正に立ち向かう勇気と、犠牲者に対する深い敬意を示しています。彬長炭鉱での事件は、彼の人生における重要な転機となり、彼の中国制覇にかける大望への道をさらに固めるものとなりました。読者の皆様には、アンヘルの今後の旅路を引き続きご注目いただければ幸いです。
