小説「海と陸の彼方へ」
第八章新たな敵（中国国民党）との戦い
第15話近隣との戦い始まる⑩「彬長炭鉱への潜入（続々）」
前書き
本エピソードでは、家族の中心である王華が、伝統と現代、東と西の交差点に立ち、自らの未来を決定する運命的な瞬間を迎えています。彼女の決断は、家族内の力学を揺るがし、愛と尊重、そして文化の枠を超えた理解を求める物語へと読者を誘います。この深い葛藤と人間関係の織り成す物語は、情感豊かな筆致で描かれ、読者の心を捉えます。
本文
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登場人物「1936年1月1日時点」
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ルイス19歳：イタリア系のアメリカ移民。長征途中の中国共産党紅軍の首領毛沢東を捕縛した功績を認められ、中国国民党総統の蒋介石より、巴蜀・雲南の軍政長官を委嘱される。旅の途中で四川省南充の石油王から巴蜀・雲南王に推戴される。と言っても、元清朝の王女：王華が認めただけである。この物語の主人公。中国制覇の大望を抱く。鉱山省大臣を兼ねる。実の弟アンヘルの名を借りて彬長炭鉱への潜入を果たす。
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ルイスの資金 蓮華金融設立「資本金100億両」。小遣い1億112万8,100両。朱堤銀銀錠200億両「内訳は一般会計20億両、特別会計80億両」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は80億両の予算を組み、今までに16億557万3,300両支出した。
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ルイスの友人
李婉清（20歳）。彬州太極湾：ケシの花農園の農婦。農夫張偉（20歳）の妻。
楊秀英（37歳）。張偉（20歳）の母親。李婉清の姑。
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紅軍の長征
中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8
☆5月22日金曜日午前6時。開封：王徳明邸離れ
アンヘル（ルイス）は昨晩王華（40歳）のご両親から行き届いたもてなしを受け、侍女に案内された離れの一室で翌朝までぐっすりと眠ることが出来た。彼が何も知らず眠っている間に重大なことが決められようとしていた。
王華は食卓を囲む家族に目を向け、深呼吸をした。彼女の声はしっかりとしていたが、その言葉には微かな震えがあり、その瞳には決意と不安が混在していた。彼女は静かに言った。「父上、母上、私の心は決まりました。劉鵬飛との生活を終え、アンヘル（ルイス）を家族として迎えたいのです」
王徳明はその言葉に驚き、怒りを露わにした。「愚かなことを言うな！彼は外国人だ。我が家の伝統を踏みにじる気か？」
しかし、李淑芬は静かに微笑みながら、包容力のある言葉で場を和らげた。「夫よ、これは華の決断だ。彼女が選ぶ道を尊重すべきだわ。アンヘル（ルイス）君は開封扁食の作り方を丁寧に尋ねるなど、敬意を示している。私たちが過度に干渉することはないわ」
この会話は、家族内の緊張と葛藤、そして理解と受容の狭間を描いている。王華の決意、父の保守的な態度、そして母の温かい理解が、この重要な瞬間に複雑に絡み合っている。
朝の光が王徳明邸の厨房に差し込む中、王華と李淑芬は開封の朝食を作る準備に忙しく取り組んでいた。静かな厨房には、料理の下ごしらえに集中するふたりの姿があり、その間にアンヘル（ルイス）の活発な動きが加わった。
☆アンヘル（ルイス）の朝食サポート
アンヘル（ルイス）は、料理への慣れない手つきながらも、献身的に彼女たちをサポートしていた。彼の姿勢は、王華と李淑芬に好印象を与え、彼らの日常に新鮮な風を吹き込んだ。この日の献立には、燕尾烧饼、豆腐脑、油茶、小笼包子が含まれており、それぞれが開封の伝統的な朝食を代表する料理である。
彼らは、燕尾烧饼をセサミでコーティングし、豆腐脑には細かく刻んだ香菜やニラ、辣油を加え、油茶を煮立てて香ばしい香りを引き出し、小笼包子には肉汁をたっぷり含ませた。厨房には、調理される料理から立ち上る香りが満ち、新しい一日の始まりを告げていた。
その頃には、アンヘル（ルイス）と母親の李淑芬は娘の王華がヤキモチを焼くほど仲良くなっており、ふたりで誰はばかること無く軽口を叩き合っていた。
李淑芬：アンヘル（ルイス）ちゃん。豆腐脑のレシピと作り方を教えてあげようか？
アンヘル（ルイス）：本当ですか？よろしくお願いします。
アンヘル（ルイス）はメモを握りしめながら、李淑芬の教えることを真剣に聞いた。
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豆腐脑は、滑らかな豆腐に香り豊かな調味料をかけた、シンプルながらも心温まる料理なの。家庭で作ることもでき、朝食には最適ね。詳しいレシピと作り方を説明するわ。メモをしておいてね。
1️⃣ 材料：
- 豆腐脑：
- シルク豆腐「絹ごし豆腐」： 300g
- 調味料：
- 醤油： 大さじ1
- 麻油「ごま油」： 小さじ1
- 塩： 小さじ1/4
- 砂糖： 小さじ1/4
- 水： 100ml
- 片栗粉： 小さじ1「水に溶かして水溶き片栗粉を作る」
- 辣油「ラー油」： 適量「好みで」
- トッピング：
- 香菜「コリアンダー」： 適量「細かく切る」
- ニラ： 適量「細かく切る」
- しょうが： 少量「みじん切り」
2️⃣ 豆腐脑の作り方：
1. 豆腐の準備：
- シルク豆腐を水切りし、崩れないように注意しながら、大きな皿に移す。
2. 調味料を準備：
- 中火で小鍋を熱し、醤油、麻油、塩、砂糖、水を加えて温める。
- 水溶き片栗粉を少しずつ加えながら、とろみがつくまでよくかき混ぜる。
3. 豆腐に調味料をかける：
- 豆腐の上に温かい調味料をゆっくりとかける。
4. トッピングを加える：
- みじん切りにした香菜、ニラ、しょうがを豆腐の上に散らす。
- 好みに応じて辣油を加える。
5. サービング：
- すぐにサーブする。温かいうちに食べると、豆腐脑の滑らかさと調味料の香りが最高に楽しめるの。
豆腐脑はシンプルながら奥深い味わいがあり、朝食にぴったりの料理なのよ。家で作る場合は、特にトッピングや辣油の量を調整して、自分の好みの味に仕上げることができるわ。
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アンヘル（ルイス）と妻とのやりとりを黙って聞いていた父親：王徳明は「男のくせに料理を手伝うとはなんて奴だと思っていたが、どうも此奴は研究熱心な性格らしい。娘との結婚には反対だがもう少し様子を見てやろう」と考えた。
王徳明：アンヘル（ルイス）君。君は色々と研究熱心な性格のようだな。どうだ。私と格闘をやってみないか？私も昔は清王朝一の腕前だったのだ。
アンヘル（ルイス）：食後の腹ごなしにひとつやりましょう。お手柔らかにお願いしますよ。
王徳明の体力が尽きるまでふたりは思う存分戦ったが、30戦して王徳明は一度も勝てなかった。彼はギブアップし、アンヘル（ルイス）の強さを認めた。
☆王華の求婚
父親がアンヘル（ルイス）の能力を認めたことを察した王華は即座にアンヘル（ルイス）に求婚した。彼女はアンヘル（ルイス）が一も二もなく結婚に応じると思い込んでいたのだが、アンヘル（ルイス）は顔色を曇らせこう言った。「事情があり、君と結婚するわけには行かない。悪く思うな」
彼女は父親と母親に泣きつき、何とかアンヘル（ルイス）を説得してくれと頼み込んだ。此処はアンヘル（ルイス）と仲の良い母親：李淑芬（60歳）の出番である。
李淑芬：アンヘル（ルイス）ちゃん。私達はてっきりあなた達が愛し合っていると思っていたわ。そうじゃなかったの？
アンヘル（ルイス）：個人の感情だけでは済まない問題を抱えておりましてね。簡単では無いのですよ。
李淑芬：問題というのは何なの？私だけに離して頂戴。悪いようにはしないから。
アンヘル（ルイス）はやむを得ず、自分がアンヘルではなく、巴蜀・雲南・陜西を支配する国王ルイスであることを彼女に告げた。こうなればルイスも引っ込みがつかない。
李淑芬は夫の王徳明に相談し、国王ルイスの後ろ盾になる策を練った。彼女は、娘の王華を河南王妃にすることで、一族が国王ルイスの強力な支持者となるという条件を提示した。この計画をアンヘル改め国王ルイスに伝えたところ、彼は考え込んだ末に同意した。
王華は河南王妃となることに大いに喜び、母親の機知に満足し、新たな立場を心から受け入れた。この一連の出来事は、家族内の政略と個人の望みが複雑に絡み合う様子を鮮やかに描いている。
☆午前10時。王徳明は鄭州の劉鵬飛に電話で連絡し、今から伺うと申し入れた。
劉鵬飛は義父殿が何のようだろう？といぶかしがった。もてなしの準備をせよと子供たちに指示しようとしたが息子も娘も出かけていて不在であった。実は前もって王華が息子と娘を開封に来いと言っておいたのである。当然離婚の準備である。劉鵬飛の方はまさか離縁を言い渡されるとは思ってもいなかった。
☆午後3時。鄭州：劉鵬飛邸
王徳明と李淑芬の前に劉鵬飛（43歳）と弟の劉建華（38歳）のふたりが平伏している。
王徳明は割れんがばかりの大声を出し、「劉鵬飛よ。お前は私の娘王華を常日頃労らぬばかりか、側室を抱え、妾を3人も持ち、正室たる王華の立場を揺るがせた。よって、お前の駙馬の地位を解き、平の官吏とする。以上」と告げた。
劉鵬飛：お義父様。お待ち下され。確かに私は側室を入れ、妾を抱えました。しかしながら、旧清朝ではこのようなことは貴人であれば誰でもやっていることでございます。私だけではございません。
王徳明：黙れ。王華を誰と心得る。私の娘だぞ。元を正せば王女と崇め奉られる身。その事を忘れたか！！
李淑芬：そうよ。王華が跡継ぎを産まなかったなら、貴方が側室を入れ、妾を囲うことにも正当性があるけど、長男：劉偉（20歳）と長女：劉美琳（18歳）をもうけているじゃないの！！
王徳明：その通りだ。お前たち、さっさとこの家を出ていけ！！
劉建華：兄さん。もう良いよ。諦めよう。だがな。爺さん。あんたにはこの家の財産は渡さないよ。欲しければ力ずくで取ってみろ！！
最後は喧嘩別れして、両親は劉鵬飛邸を出て行った。
ルイスは西安にいる梅琳に連絡し、飛行機10機「軽戦車10台付き」を用意させ、開封：王徳明邸まで来るように指示した。国王ルイスだとばれたらばれたで良いこともある。
その晩、全員が揃った時、国王ルイスは鄭州：劉鵬飛邸襲撃の命令を下した。劉鵬飛邸にも広い敷地があり、飛行機10台くらい楽々停められる。
☆5月23日土曜日午前2時。鄭州：劉鵬飛邸空閑地
深夜、劉鵬飛邸の空閑地には10機の飛行機が次々と着陸し、ルイスの軽戦車が続々と現れた。軽戦車にはルイスと副官：梅琳がそれぞれ指揮を執り、ルイスの車には王華の長男：劉偉が同乗し、梅琳の車には長女：劉美琳が同乗している。彼らの突然の出現は、劉鵬飛邸を混乱に陥れ、ルイスの電光石火の攻撃が開始された。
劉鵬飛とその兵たちは懸命に抵抗したが、軽戦車の前には無力だった。最終的に、劉鵬飛とその弟：劉建華はルイスに捕らえられ、王徳明の怒りによって処刑された。
ルイスは人道的な一面を見せ、劉鵬飛の側室と妾3人を助け、彼女たちを逃がした。一方で、劉建華の妻：劉秋華は捕虜となった。彼女には幸い子供はおらず、この戦いで直接の被害を受けることはなかった。彼女は38歳の劉建華の傍らで、家族を支える妻としての役割を果たしてきた。しかし、この夜の出来事は彼女の人生にとって予想もしなかった転機となり、新たな運命の始まりを告げるものだった。
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空閑地
１ 利用されずに放置されている土地。空き地。
２ まだ開墾・整地されていない荒れ地。
３ 荘園制下の免租地
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ここでは2番目の意味だろう。
戦いの後、劉鵬飛邸の日常は戦前と変わらぬ平穏を取り戻しつつあった。劉鵬飛と劉建華の死によって生じた空虚感を除けば、屋敷の住人たちは以前と変わらぬ生活を送っている。
ルイスは、死者二人の火葬と弔いを手短に済ませ、日常への復帰を促した。梅琳たちは西安へ、王華の両親は開封へと帰還し、屋敷にはルイス、王華、劉偉、劉美琳、そして劉秋華が残された。
劉偉は料理に無関心で、朝食の準備には手を貸さない。そのため、積極的に料理を始めたのは劉秋華だった。彼女は新たな居場所を求め、必死に適応しようとしていた。ルイスは劉秋華に同情し、王華と劉美琳に彼女を手伝うようにと命じた。
劉秋華は不安と決意を胸に、新しい生活への適応を試みている。彼女は自らの居場所を確立しようと、料理を通じて家族への貢献を心がけている。ルイスは彼女の努力を認め、彼女がこの新しい環境に溶け込めるようにと考えていた。王華と劉美琳も、劉秋華の状況を理解し、彼女を支えるように努めている。このようにして、屋敷内では新たな絆が形成されつつあり、それぞれが新しい日常との折り合いをつけようとしている。
ルイスは劉秋華に対し、この家での新しい役割と居場所を確立する手助けをしたいと思った。彼の計画は、雲南料理の精巧な世界を通じて劉秋華に新たなスキルと自信を与えることだった。彼は、過橋米線の準備から始め、鶏肉、野菜、そしてその地域特有のスパイスを使って、この伝統的な料理をどのように作るかを丁寧に指導した。
彼らはキッチンで共に立ち、ルイスは劉秋華に撈撈飯の作り方も教え、様々な具材の組み合わせ方を示した。雲南烤乳扇の燻製と焼き方は特に興味を引き、劉秋華はその独特の食感と味わいに魅了された。香辣牛肉の調理では、ルイスが香り高いスパイスと辛味のバランスをどのように取るかを教えた。
この料理教室によって、彼女は自身の新しい生活における役割を見出し、家族の一員としての自信を深めた。ルイスの優しさと教えることへの情熱は、彼女が家族内での新しいスタートを切るのに大きな助けとなった。
劉秋華はルイスに多大な感謝と思慕の念を抱いた。彼女は思い切ってルイスに過橋米線のレシピと作り方を聞いた。彼女はルイスが教えてくれたならばルイスに愛を告白しようと決意していた。ルイスはあっさり教えてくれ、彼女は安堵の気持ちと嬉しさで泣き伏してしまった。
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過橋米線は、雲南省の伝統的な料理で、独特の味わいと食べ方で知られている。この料理は、熱々のスープに生の食材を入れて煮ることで仕上げる、とてもシンプルで美味しい一品である。基本的なレシピと作り方を説明しよう。
1️⃣ 材料「4人分」：
- スープ：
- 鶏ガラ： 1個
- 生姜： 1片
- 長ねぎ： 1本
- 水： 約2リットル
- 米線：
- 乾燥または生の米線： 400g
- 具材：
- 鶏肉「薄切り」： 200g
- 豚肉「薄切り」： 200g
- えび「殻を剥いて背わたを取る」： 100g
- クワイ「生または蒸し、薄切り」： 2本
- 豆腐「小さく切る」： 200g
- ほうれん草または青菜： 100g
- しいたけ「薄切り」： 4個
- 薬味：
- 醤油： 適量
- 塩： 適量
- 花椒油「または辣油」： 適量
- 生姜「みじん切り」： 適量
- 長ねぎ「みじん切り」： 適量
2️⃣ 作り方：
1. スープを作る：
- 鶏ガラ、生姜、長ねぎを鍋に入れ、水を加えて火にかける。
- 沸騰したら弱火にし、アクを取りながら1〜2時間煮込む。
- スープをこして、塩で味を調える。
2. 米線を下処理する：
- 乾燥米線の場合は、パッケージの指示に従って戻す。
- 生の米線の場合は、軽く湯通しする。
3. 具材を準備する：
- 具材は全て食べやすい大きさに切り、皿に並べる。
4. 食材を盛り付ける：
- 個別のボウルや皿に、生の鶏肉、豚肉、えび、野菜などを配置する。
5. 熱々のスープを注ぐ：
- 食べる直前に、熱々のスープを具材が入ったボウルに注ぐ。これにより、具材が調理される。
6. 薬味を加える：
- 各自で、醤油、花椒油、生姜、長ねぎなどの薬味を好みに応じて加える。
過橋米線の特徴は、新鮮な具材が熱々のスープで瞬時に調理される点にあります。これにより、具材の風味が引き立ち、非常に滑らかで美味しいスープが完成します。自宅でこの料理を作る際は、好みの具材を自由にアレンジしたら良い。
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今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。
後書き
この物語は、文化や伝統、そして個人の選択が交錯する複雑な世界を舞台にしています。主人公たちの決断が引き起こす波紋は、家族だけでなく、より広い社会にも影響を与え、読者にとって深い考察の余地を残します。この物語は、愛と尊重、そして理解を通じて、文化の枠を超えた絆の可能性を探求しています。
