小説「海と陸の彼方へ」

 

第八章新たな敵(中国国民党)との戦い

 

第1話戦いに次ぐ戦い「雅安攻撃③」

 

前書き

このエピソードでは、ルイスとその側女たち、特に張文瑶チャン・ウェンヤオ凜々花リンリンファの関係が深く探求されます。ルイスが国民党軍との衝突に直面し、彼の側女たちが彼の戦略と情熱の中でどのような役割を果たすのか、その複雑な関係性が描かれています。この物語は、愛と忠誠、そして野心と権力の間の緊張を通じて、人間の感情の深みを探ります。

 

本文

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登場人物「1936年1月1日時点」 

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ルイス19歳:イタリア系のアメリカ移民。長征途中の中国共産党紅軍の首領毛沢東を捕縛した功績を認められ、中国国民党総統の蒋介石より、巴蜀・雲南の軍政長官を委嘱される。旅の途中で四川省南充の石油王から巴蜀・雲南王に推戴される。と言っても、元清朝の王女:王華ワン・ファが認めただけである。この物語の主人公。中国制覇の大望を抱く。鉱山省大臣を兼ねる。 

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ルイスの資金 小遣い1億225万3,100両。朱堤銀銀錠200億両「内訳は一般会計20億両、特別会計80億両。余剰金100億両」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は80億両の予算を組み、今までに16億557万3,300両支出した。前話に於ける支出は、特にない。 

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張林静チャン・リンジン(41歳)。ルイスの側女そばめ。交易担当大臣。汚職で捕まった徳昌デチェン前県令張偉民チャン・ウェイミンの元妻。絶世の美女で野心家。ルイスの側女そばめから成り上がり、王妃から皇后の地位を得るべく懸命に努力する。 

張文瑶チャン・ウェンヤオ(19歳)。ルイスの側女そばめ。鉱山省副大臣。張林静チャン・リンジンの長女。母の野心に協力する。容貌も優れているが中国でも最優秀の知能を持つ。 

凜々花リンリンファ(37歳)。ルイスの側女そばめ。彝族族長果基小葉丹グォジーシャオイェダンの元妻。美しさと知性で知られ、族長の元右腕。

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 紅軍の長征  

中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8 

出典:朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。挿絵。

 

ルイスたちは石棉県城からほど近い安順場「大渡河南岸」に到着し、大渡河を渡らんとした。大渡河の中流は幅が広く、船がなくては人馬も到底渡ることは出来ない。ルイスは困りきっていたが、諜報長官陳浩然チェン・ハオランが見事な計らいをみせた。地元の農民たちとの協力で軽戦車も運べる大きな木船を一艘造ってくれたのである。 

 

ルイスは、不穏な空気を背に大渡河の南岸に立っていた。彼の前には大きな木船が波に揺れ、軽戦車が静かにその体を映している。しかし、対岸の北岸からは国民党軍10万の気配が、厳しい緊張を漂わせていた。ルイスは一瞬の静寂の中で心を落ち着け、戦いへの決意を新たにした。彼の瞳には、未来への確固たる信念が映っていた。

 

諜報長官陳浩然チェン・ハオランの計らいにより、この一隻の船がルイスの手に渡った。軽戦車を乗せて対岸へと渡ることができる貴重な手段である。しかし、その前に敵の攻撃が始まった。国民党軍の圧倒的な数の兵士が激しい攻撃を仕掛けてきたのだ。 

 

砲火と銃声が夜空を切り裂く中、ルイス軍は激しい攻撃に晒された。砲火は夜の帳を引き裂き、銃声は遠く霧の中で響く雷のように、恐怖とともに胸を震わせる。前線の兵士たちは、敵の猛烈な火力に押されながらも、ルイスの冷静な指揮のもと一丸となって抵抗した。機関銃の掃射で応戦し、地形を利用した陣地からの反撃を行った。戦況は一進一退の攻防が続き、ルイス軍は苦戦を強いられたが、戦士たちの勇気と連携により、徐々に国民党軍の進撃を食い止め始めた。 

 

しかし、国民党軍には策略の名手がいて、彼はルイスの軍略を鋭く見透かし、巧妙な戦術で応戦を展開した。彼はルイスの弱点をつき、側女であり鉱山省副大臣でもある張林静チャン・リンジンを捕虜にした。ルイスは側女の危機を前に、戦局を一変させる決断を迫られた。

 

 「彼女を助けたければ、降伏せよ」という将校の声は、冬の冷酷な霜の如くルイスの魂を凍りつかせた。しかし、張林静チャン・リンジンはただの側女ではなかった。彼女は敵の隙をついて、将校の手を力強く噛み、その場から逃れ出したのである。 

 

張林静チャン・リンジンの勇敢な行動により、ルイスは一息ついて、胸の中の緊張が解けるのを感じた。そして、彼は敵を追い詰める決意を固めた。軽戦車が轟音を立てながら木船に乗せられ、大渡河を渡り始めた。ルイス軍は新たな勢いで攻撃を加え、国民党軍を圧倒した。敵は次第に押し込まれ、最終的に降伏へと追い込まれた。 

 

この勝利は単なる戦果ではなく、ルイスと彼の仲間たち、特に張文瑶の勇気と知恵の証明であり、彼らの不屈の絆の力を世に示した瞬間であった。大渡河の波は静かに彼らの勝利を見守り続けた。 

 

☆1936年1月3日金曜日午前5時。北岸の桃子坪にある敵守軍陣地 

ルイスが国民党軍10万名のうち、8万名を傘下に入れ、敵の幹部たちを石棉県の金属鉱山に送り込んでから数日が過ぎ、年が明けた。ルイス軍は10万名の大部隊に膨れ上がり、ルイス軍の名声は中国中に広がった。地元の爾蘇木雅藏族から招待を受けた。 

 

ルイス:凜々花リンリンファよ。爾蘇木雅藏族とはどういう部族だ。知っていることを教えてくれ。 

 

凜々花リンリンファ:爾蘇木雅藏族は中国四川省の康定市周辺に住む少数民族です。彼らは農業や牧畜を生業とし、チベット文化の影響を受けた独自の文化と伝統を持っています。仏教は彼らの社会にとって大切なものです。 

 

凜々花リンリンファ:彼らの文化は、伝統的な服装、音楽、ダンスによって表され、特に祭りや儀式の際にはこれらが重要な役割を果たします。また、自然と調和する生活を大切にし、自然環境を守ることに努めています。彼らは自分たちのアイデンティティを大切にし、伝統を守り続けようとしています。 

 

ルイス:そうか。今度はお前が外交団となり、爾蘇木雅藏族との同盟を締結して来い。 

 

凜々花リンリンファはルイスの命を受け、一人静かに夜の空を見上げた。彼女の心は葛藤で満ちていた。 

 

「またしても無実の人々を巻き込んでしまうのか。自らの手で……」

 

 彼女は深くため息をつき、悲痛な表情を浮かべた。しかし、やがて彼女は決意の光を瞳に宿し、 

 

「しかし、これが爾蘇木雅藏族を守る唯一の道。ルイス様と敵対すれば、爾蘇木雅藏族は滅びるだろう。たとえ痛みを伴う選択でも、私は元彝族族長の妻として、また一人の母として、最良の道を選ばなくてはならない」 

 

と心に誓った。 

 

☆接待という名の部族存続策 

静まり返った宴会場には、細やかな緊張が張り詰めていた。壁に沿って配置された火盆から立ち昇る煙が、空間を神秘的に彩り、揺らめく炎の光が人々の表情を照らし出していた。座を固めた爾蘇木雅藏族の族長である張贊林ジャン・ザンリンは、深い思索に沈んでいた。彼の30歳の顔には、部族を取り巻く危機の重みが刻まれていた。 

 

張贊林ジャン・ザンリンの隣には、美しさと強さを併せ持つ妻、梅 琳メイ・リンが座っていた。彼女は26歳、悲しみを含んだ瞳で夫を見つめ、その手をそっと握りしめていた。この夫婦の運命が、まさに一つの厳しい決断によって変わろうとしていた。 

 

部族の未来を守るため、張贊林ジャン・ザンリンはルイス軍との不戦同盟を求めていた。しかし、その代償はあまりにも重い。凜々花から突きつけられた条件は、族長の妻梅 琳メイ・リンをルイスの側女に差し出すこと、さらには部族の所得の1割を貢納することだった。 

 

彼の心は、部族の未来と愛する妻への義務の狭間で揺れていた。彼の愛は深く、部族への忠誠は揺るぎないものだったが、この選択は彼の魂を引き裂くものだった。梅 琳メイ・リンへの愛と尊敬は、彼がこれまで経験した中で最も強い情熱の一つである。彼女はただの妻ではない、彼の人生の光であり、部族の母であった。彼の眼差しは、彼女の優美な姿と彼の心の奥底に刻まれた彼女の笑顔に留まった。 

 

一方で、梅 琳メイ・リンもまた深い葛藤に苦しんでいた。彼女は夫の決断を支える強い意志を示しながらも、自らの運命に対する不安と恐怖を隠すことができなかった。彼女の心は愛する夫との別れ、そして未知の将来への恐れで満ちていた。 

 

しかし、彼女の内面には、夫と部族のためにこの苦難を乗り越える強さが秘められていた。彼女の涙はその内面の葛藤を物語っており、彼女の瞳からは静かに涙がこぼれ落ち、冷たい冬の夜空に溶け込んだ星のように、静かでありながらその輝きで周囲を照らした。 

 

張贊林ジャン・ザンリンは、妻梅 琳メイ・リンの手を握りしめながら、彼女の瞳に深い愛情と詫びの意を込めて見つめ返した。彼の声は揺るぎなく、部族の人々に強い決意を感じさせた。しかし、その決意の裏では、彼の心は複雑な感情で満ち溢れていた。彼は自らの愛と部族の未来の間で最も重い選択を下したのだ。 

 

宴会場には他にも部族の重鎮たちが集まっていたが、その目は全て、族長張贊林ジャン・ザンリンに注がれていた。彼の肩には族の運命が重くのしかかり、その表情は決断の重さを物語っていた。 

 

静寂を切り裂くように、族長の声が宴会場に響いた。 

 

「我が愛する妻、梅 琳メイ・リンをルイス軍へ差し出すこと、そして我々の所得の1割を貢納すること、これが我々の部族の未来を守るための条件として、私は受け入れる」

 

梅 琳メイ・リンの瞳からは静かに涙がこぼれ落ちた。彼女の涙は冷たい冬の夜空に溶け込んだ星のように、静かでありながらその輝きで周囲を照らす。しかし、彼女は頷き、夫の決断を支える強い意志を示した。宴会場の空気は一層重くなり、部族の人々はこの二人の強い絆に心を打たれながらも、深い悲しみに包まれていた。 

 

この日、爾蘇木雅藏族の運命が新たな道を歩み始めた。そして、張贊林ジャン・ザンリン梅 琳メイ・リンの愛の物語は、部族の中で語り継がれることとなる。それは、厳しい選択を通じても、変わらぬ愛と忠誠を示した夫婦の物語であった。 

 

☆1936年1月5日日曜日午前5時。北岸の桃子坪:ルイス軍砦 

凜々花リンリンファが爾蘇木雅藏族族長の妻梅 琳メイ・リン(26歳)を伴い、砦に帰還した時、ルイスは交渉が上手く行ったことを確信した。側女たち3名は競ってルイスの朝食を準備し始めた。 

 

ルイスは昨晩、張文瑶チャン・ウェンヤオ(19歳)を胸に抱きながら、雅安の国民党軍が何処に潜んでいるかをじっと考えていた。彼らの打つ手は籠城か迎撃か。おそらくは迎撃だろう。ルイス軍の大砲や軽戦車の威力は知っているはずだ。籠城すれば100%負ける。迎撃するとすれば何処だろう? 

 

一晩経っても結論は出なかった。優秀な張文瑶チャン・ウェンヤオにしても同じであった。幾ら頭が良くても地理が全く分からなければどうにもならない。 

 

朝の光が優しく部屋を照らし始めた頃、ルイスと彼の側女たちは朝食の席についていた。部屋は贅沢に装飾され、静かで落ち着いた空気が流れている。テーブルには、新鮮な果物、香ばしいパン、様々な種類のチーズと肉、そして香り高い紅茶が並んでいた。この朝の食事は、平穏でありながらも、微妙な緊張感を孕んでいた。 

 

ルイスはテーブルの頭に座り、彼の側面には三人の側女がいた。最も新しい側女である梅 琳メイ・リンは、緊張した面持ちで静かに座っていた。彼女の美しさは目を見張るものがあり、その瞳には未知の未来への不安が隠れていた。しかし、彼女は内面の強さを保ちつつ、優雅さを忘れないよう努めていた。 

 

一方、張文瑶チャン・ウェンヤオは、ルイスの左手に座っていた。彼女は経験豊かで、ルイスの好みを熟知しており、朝食の準備に際しても細心の注意を払っていた。彼女の動作は洗練されており、ルイスへの忠誠と奉仕の心が自然と現れていた。 

 

凜々花リンリンファは、ルイスの右手に控えめに座っていた。彼女は自信に満ちた態度を見せつつも、新しい側女である梅 琳への優しさと理解を忘れなかった。彼女はルイスの気持ちを和らげるために、控えめながらも知的な話題を提供し、朝食の雰囲気を明るく保とうと努めていた。 

 

ルイスは側女たちの間で微妙なバランスを保ちながら、彼女たち一人一人に注意を払っていた。彼の目は時折梅 琳に留まり、彼女が新しい環境に適応し、自らの役割を見つけられるよう気遣っていた。彼は側女たちの微妙な運命が、自身への仕え方と奉仕の仕方によって大きく左右されることを知っていた。そのため、彼はそれぞれの女性の個性と才能を尊重し、彼らが自らの役割を見つけ、充実した生活を送れるよう配慮していた。 

 

食事が進むにつれ、部屋には柔らかい会話と笑い声が満ちていった。しかし、その下には側女たちの運命を巡る微妙な緊張感が常に存在していた。それぞれの女性は、ルイスへの奉仕を通じて、自らの地位と未来を確固たるものにしようと、静かにしかし確固たる意志で動いていたのだった。 

 

☆ルイスの悩み 

ルイスの悩みはなおも解消されなかった。ルイスはこの辺りの地理には梅 琳メイ・リンの方が詳しいかも知れぬと考え、彼女を傍に呼んだ。 

 

ルイスは雅安の国民党軍10万名の戦略を彼女に問うた。 

 

梅 琳メイ・リン:100%とは言えませんが、おそらくは迎撃に出ると思われます。彼我の攻撃力、守備力の差を埋めるため、各地に分散し、当方の兵力を削いでくるものと考えます。 

 

ルイス:何処に潜んでいると思うか? 

 

梅 琳メイ・リン:雅安の敵軍10万が何処に居るのかを推理しました。蒙頂山、碧峯峽、上裏古鎮の何れかに潜んでいると思います。敵兵はルイス側と兵数は同じですが、馬と小銃しか持っていません。ルイス側の軽戦車隊8台、大砲100台、軽機関銃1万丁、小銃10万丁、馬5万頭に比するとかなり見劣りがします。 

 

梅 琳メイ・リン:碧峯峽、蒙頂山、そして上裏古鎮の戦略的特性を考慮に入れた上で、雅安の敵軍の潜伏場所と戦略を推理すると以下のように考えられます。 

 

1. 蒙頂山: - 地理的には成都と雅安の間に位置し、茶文化、仏教文化、道教文化、祭祀文化、紅軍文化が深く根ざしている。 - 茂密な森林と険しい地形が防御に有利。ただし、ルイスの重装備を考慮すると、山岳地帯は軽戦車や大砲を配置しにくい。 

 

2. 碧峯峽: - 峡谷地帯で、非常に険しい地形をしており、敵の進軍を遅らせるのに適している。 - しかし、狭い峡谷は大砲や機関銃による砲撃に非常に脆弱である可能性がある。 

 

3. 上裏古鎮: - 文化的に重要な地域であり、民間人が多い可能性がある。このため、ルイスが攻撃に躊躇する可能性がある。 - 古鎮の道路や構造物は防御に利用できるが、ルイスの重装備に対しては十分な防御力を持ち合わせているとは言い難い。 

 

敵の戦略推測: 

1. 分散潜伏: - 敵軍は10万と数でルイスと同じであるが、装備の面で劣っている。分散して潜伏し、ルイス軍の兵力を分散させることで、ルイス軍の戦力を弱体化させる可能性がある。 - 小銃と馬を利用したゲリラ戦法を用いることで、ルイス軍の物資補給線を攻撃し、ルイス軍の行動を妨害する。 

 

2. 碧峯峽での待ち伏せ: - 碧峯峽の地形は、ルイス軍が重装備を効果的に使うことを難しくする。狭い峡谷では、大砲や機関銃の射程が限られ、敵軍に有利かもしれない。 - 峡谷の高所からの奇襲攻撃や、滝や急崖を利用した罠でルイス軍を翻弄する可能性がある。 

 

3. 上裏古鎮での市街戦: 

- 上裏古鎮では、敵軍は古鎮の複雑な地形と建物を利用して、ルイス軍との市街戦を展開する可能性がある。民間人の存在を盾に取ることもできる。 

- 市街戦では、ルイス軍の重装備の優位が相対的に減少し、敵軍は地の利を生かした戦いが可能になる。 

 

梅 琳メイ・リン:総じて、雅安の敵軍は装備の劣勢を地形や戦術の工夫で補うことを試みると思います。その中でも、碧峯峽での待ち伏せや、上裏古鎮での市街戦が最も有効な戦略であると考えらます。それにより、ルイス軍の進軍を遅らせ、可能であればルイス軍の兵力を削ぐことが狙いとなります。 

 

ルイスは梅 琳メイ・リンの話をよく分析し、上裏古鎮を通って直接雅安を攻めることにした。蒙頂山と碧峯峽には足を踏み入れない。無視するのだ。彼らも無視されれば困るだろう。雅安を落とされると兵隊に支給する食料にも困るのだ。もちろん給料も支給できない。 

 

☆1月7日火曜日午前5時。ルイス軍の進撃 

上裏古鎮の静かな朝の光景が、突如として戦火に包まれた。ルイス軍の8台の軽戦車が、町の狭い通りを轟音とともに駆け巡り、その圧倒的な姿は、まるで山河をも揺るがすかのような威圧感を放っていた。 

 

軽戦車は、その名の通り軽快に、しかし確固たる存在感を持って古鎮を支配していった。その金属の鎧は、敵兵の放つ小銃の弾丸を容易に跳ね返し、戦車の轍は石板の道を踏み固めた。軽戦車隊が通り過ぎると、石板路には深い傷跡と轟音の余韻が残された。 

 

古鎮の住人たちは、この突然の侵略に戸惑い、恐怖に震えながらも、命の恩人であるルイスに反旗を翻すことはなかった。彼らは戦火から身を守るため、また事態の収束を祈りながら、古民家や吊り脚楼の陰に身を潜めた。 

 

一方、敵兵はゲリラ戦を仕掛けてきたが、その抵抗は軽戦車隊にとっては些細なものでしかなかった。山や河がない平坦な古鎮では、軽戦車はまさに無敵であった。敵兵の放つ小銃の弾丸は、軽戦車の装甲に反射し、まるで虚しく空を舞う花火のようであった。 

 

この激しい戦いの中でも、上裏古鎮の美しい風景は崩れることはなかった。茂林や古木、小川、古橋、そして明清時代の古建築は、過ぎ去りし戦火を静かに見守るかのようにそびえ立っていた。 

 

戦いは一方的であり、ルイス軍の圧倒的な火力と装甲によって、敵兵は散発的な抵抗を試みたものの、すぐに制圧された。轟音と砲火がやがて静まり、上裏古鎮には再び平穏が訪れた。しかし、この古鎮が見た戦火の記憶は、住人たちの心に深く刻まれることとなるだろう。 

 

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

第1話「雅安攻撃③」では、ルイスとその側女たちの心理的な深淵に踏み込み、彼らの人間性と葛藤を描き出すことに成功しました。この章では、愛と忠誠、野心と権力の間の緊張感を通じて、人間の感情の深みを探るとともに、戦略と情熱が複雑に絡み合う様子を生き生きと描きました。梅 琳メイ・リン張贊林ジャン・ザンリン夫妻の決断の背景にある深い愛と苦悩、そしてルイス軍の軽戦車隊による圧倒的な戦いは、読者に強い印象を与えることでしょう。上裏古鎮の静寂と戦火のコントラストが、物語のドラマティックな面を一層際立たせています。次回の展開にご期待ください。