小説「海と陸の彼方へ」

 

第七章西欧列強との戦い

 

第14話人身売買集団の暗躍④

 

前書き

第14話は、西欧列強との戦いにおいて重要な転換点を迎えるエピソードです。本話では、ルイスとその部下が、暗躍する人身売買集団の暴露に迫ります。緊張感あふれる展開の中で、謝美琳シエ・メイリンとその母親、謝芳華シエ・ファンホアの運命が、ルイスの手中に握られていることが明らかになります。このエピソードは、複雑な人間関係と壮大な歴史の流れの中で、個々の選択がいかに重大な結果を生むかを描いています。

 

本文

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登場人物「1935年1月1日時点」  
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ルイス18歳:イタリア系のアメリカ移民。長征途中の中国共産党紅軍の首領毛沢東を捕縛した功績を認められ、中国国民党総統の蒋介石より、巴蜀・雲南の軍政長官を委嘱される。旅の途中で四川省南充の石油王から巴蜀・雲南王に推戴される。と言っても、元清朝の王女:王華ワン・ファが認めただけである。この物語の主人公。中国制覇の大望を抱く。鉱山省大臣を兼ねる。
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ルイスの資金
小遣い1億256万8,200両。朱堤銀銀錠200億両「内訳は一般会計20億両、特別会計80億両。余剰金100億両」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は80億両の予算を組み、今までに16億500万500両支出した。前話に於ける支出は以下の通りである。


この見積もり表は、各工具の単価と必要個数、それに基づいた合計金額を銀錠で算出しています。合計諸費用は170,500両となっています。

 

次は、トロッコと道路建設の見積もり表です。



合計の見積もり費用は14,000両となっています。各項目には具体的な説明が付されており、トロッコと道路の建設に関わる全体的なコストが網羅されています。 

 

引き続いて、鉱山発掘プロジェクトの人件費等に関する見積もり表です。



この見積もり表では、馬や馬車、労働者や専門家の年俸、宿営地の設営と維持費、食料と水の供給、通信設備と事務用品など、鉱山発掘プロジェクトに関わるさまざまな費用が計算されており、合計金額は73,300両となっています。

総合計は257,800両です。よって特別会計の総支出は、16億525万8,300両です。

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ルイスの妻:エリザベス・ハーレイ。ジョン・ハーレイ(40歳)「ブリタニア号の船長」の元妻。 年齢: 38歳 

背景: イギリスの中流家庭出身。元夫の仕事を支えるために、度々海を渡る。 

性格: 温和で思慮深く、家族を深く愛する。元夫と同様に最初はルイスに不信感を抱いていたが、彼の真摯な態度に心を動かされ、夫と別れてルイスと結婚する。 

義理の息子:ウィリアム・ハーレイ。軽戦車隊「8台」隊長。「趙麗チャオ・リー」26歳の夫。 

年齢: 16歳 

背景: 船長の息子として海上生活に慣れ親しんでいる。航海術に興味を持ち、父から学んでいる。 性格: 好奇心旺盛で活発。ルイスの冒険的な精神に魅了され、彼を尊敬するようになる。 

義理の娘:エマ・ハーレイ 

年齢: 14歳 

背景: 船長の娘として幼少期から多くの国を訪れている。異文化に対する興味が強い。 性格: 社交的で好奇心が強く、新しい環境にすぐに適応する。ルイスの持つ異文化への敬意と好奇心に共感を覚える。 

趙麗チャオ・リー」26歳:ウィリアム・ハーレイの妻。建設大臣。元昆明軍閥の一員。彼女は軍閥の中で情報の収集と分析を担当し、一味が行動を起こす前に必要な情報を提供していた。 

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ルイスには他にも妻「側室」がいる。王華ワン・ファ(45歳)、李芳蓉リー・ファンロン(37歳)、劉芸芸リウ・ユェンユェン(38歳)、陳明花チェン・ミンファ(38歳)、クロエ・デュモン(23歳)、劉秋リュウ・チウ(39歳)、劉穎リウ・イン(33歳)の7名である。別途にイスラム妻が3名「ナディア、サリマ、王光美」いる。 

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ルイスの部下。 

1.周恩来ジョウ・エンライ(37歳)。ルイスの参謀。江蘇省出身。 ・穏やかで知的な性格をしており、どんな状況でも冷静さを失わない。 

・話し方には礼儀があり、分析的で思慮深い。 

・組織的な思考を持ち、リーダーシップを取れる。 

・他者に対しては理解深く、共感を示すことができる。

 2.ナディア・アミール・アル・サン(42歳)。ルイスの第一夫人「政治担当」。上海出身。 

・自立心が強く、決断力がある女性。 

・社会的な問題に対して意識が高く、積極的に意見を表明する。 

・優雅で洗練された振る舞いを持ち、周囲に対しても敬意を払う。 

3.サリマ・ファイサル・アル・ハウ(25歳)。ルイスの第二夫人「会計担当」。江西省出身。 

・勇敢で情熱的な性格。自分の信念に強く固執する。 

・感情が豊かで、時に感情的になりやすい。 

・直感に頼ることが多く、行動的で果敢な面がある。 

4.王光美ワン・グアンメイ(14歳)。ルイスの第三夫人「軍隊担当」。山東省出身。 

・年の割には成熟しており、好奇心が強い。 

・柔軟な思考を持ち、新しい環境にも早く適応する。 

・人懐っこく、周りの人々との交流を楽しむが、時には頑固な一面も。 

5.テンパ・ティンリー(24歳)。航空長官「改良DC-2 :1,000機」パイロット。チャン・ユン(42歳)の長男。チャン・ユン(42歳)は摩梭モソ族:落水下村出身。 

6.陳浩然チェン・ハオラン(33歳)。諜報長官。年間経費10万両。部下100名。

7.李麗リー・リー40歳。側女兼農林大臣。年間経費1億両。怒族族長の元妻。果科村の手工芸品作家。

8. マウン・ティン・ナイン(16歳)。ミャンマー・ラーショー出身。科学技術庁長官兼兵器作成庁長官。専門は機械工学と電子工学。武器製作は余技。非常に知的で技術的な才能があり、新しいことに挑戦するのが好き。
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マウン・ティン・ナインの家族
父親:ソー・ティン・アウン(36歳)
・職業:小さな工房を経営する職人。
・性格:静かで思慮深く、家族を支えるために一生懸命働く。
・背景:幼い頃から木工や機械いじりが得意で、地元で評判の職人になる。

母親:アウン・サン・ミャー(34歳)
・職業:家事をしながら、地元の市場で手作りの布製品を販売。
・性格:明るく温かい心の持ち主で、家族思い。
・背景:地域の伝統的な織物を学び、その技術を活かして家計を支える。

妹:ティン・ティン・アウン(14歳)
・性格:好奇心旺盛で活発、学校での成績が良い。
・趣味:絵を描くことと読書。
・背景:兄のマウン・ティン・ナインを尊敬し、彼の発明に興味を持つ。
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9.常隆慶チャン・ロンチン(31歳)。前鉱山省大臣。高名な地質学者。蔡亜男ツァイ・ヤーナン(30歳)の前夫。 国王侮辱罪で禁錮3年の刑に服している。

10.蔡亜男ツァイ・ヤーナン(30歳)。昆明軍閥の戦術家・陳冬チェン・ドンの元嫁。ルイスの側女。

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 紅軍の長征  

中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8     出典:朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。挿絵。

出典:朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。挿絵。

 

☆11月30日日曜日午後1時。会理:首領の右腕「毒牙謝ドゥーガ・シエ(27歳)」の実家 

ルイスは毒牙謝ドゥーガ・シエ相対あいたいした。屋内の作業スペースで緊張した面持ちの20代の女性が立っている。 

 

女性はカジュアルな服装をしている。彼女は白い長袖のTシャツの上に赤と黒のチェック柄のフランネルシャツを羽織り、腰に茶色のレザーベルトを付けた青のデニムジーンズを履いている。手には黄色い作業用の手袋をはめており、建設や家内改装に取り組んでいる最中の様子である。足元には黒いブーツを履いている。 

 

背景は木材や工具が置かれた作業スペースで、大きな木製の板が前景にあり、その上には「我们建了一个户外猫屋!」という文字が記されている。猫の小屋を作っている最中だったのだろう。天井は金属製で、大きな開放的な空間が広がっている。

 

 20代の女性:家族には手を出さないで頂戴。悪いことをしたのは、私だけだから。 

 

ルイス:名前と年齢及び組織での役割を言え。 

 

20代の女性:本名は謝美琳シエ・メイリンです。27歳です。組織では官憲相手の部隊を率い、「毒牙謝ドゥーガ・シエ(27歳)」と呼ばれていました。 

 

ルイス:見た感じは、謝美琳シエ・メイリンの方がふさわしいな。とても強硬な手段もいとわない、組織の実行部隊を指揮する女とは見えない。本名同様美しさと優雅さを連想させる姿かたちだ。 

 

ルイス:家族には手を出すなと言われてもそうは行かない。家族全員拘束して裁判を受けてもらう。お前は死刑となり、残された家族は炭鉱送りとなる。 

 

謝美琳シエ・メイリンの顔色が真っ青になった。そこに彼女の母親が現れ、ルイスに哀願した。 

 

母親:私達は炭鉱送りになっても構いません。娘の命だけは助けてやって下さい。その代わり一味の名前と居場所をすべて白状いたします。 

 

謝美琳シエ・メイリン:お母さん。言わないで。私は死んでも裏切り者にはならないわ。 

 

謝美琳シエ・メイリンは横にあったナタを自分の喉首に押し当て、自らの首を掻き切ろうとした。しかし、ルイスが彼女の手を払い落とす方が早かった。 

 

ルイス:連中の居場所を教えてくれたら、命だけは助けてやろう。その代わり、お前と娘は俺の人質兼側女となり、俺に仕えろ。

 

母親:娘の命を助けてくれるなら従いましょう。私は、謝芳華シエ・ファンホアと申します。43歳です。 

 

ルイス:影蛇イン・イェンシェの首領「無情張ムジョン・チャン(38歳)」は何処に居る? 

 

謝芳華シエ・ファンホア:影蛇の首領「無情張ムジョン・チャン」の本名は張偉強チャン・ウェイチアンと言います。彼の兄は徳昌県の県令をしており、張偉民チャン・ウェイミンと言います。43歳です。 

 

謝芳華シエ・ファンホア影蛇イン・イェンシェ一味はおそらく、兄と連絡を取りながら仕事をしているものと思います。 

 

ルイス:お前はそのふたりが共謀しているというのだな。 

 

謝芳華シエ・ファンホア:その通りでございます。兄が表の顔、弟が裏の顔でございます。 

 

ルイス:俺の勘では、影蛇イン・イェンシェ一味はただの人身売買集団ではないと思う。 

 

ルイス:何故かと言えば、女衒の「馬建国マー・ジェンゴ(45歳)」が梅花メイファを売り飛ばした値段が10両だからだ。影蛇イン・イェンシェ一味から5両で買い取ったとして、一味の儲けはたったの5両だ。1万人誘拐しても5万両にしかならない。またそんなに誘拐できるはずがないし、精々1,000人が良いところだろう。 

 

謝芳華シエ・ファンホア:お殿様のおっしゃるとおりですが、それでは他にどんな悪いことをしていたのでしょう? 

 

ルイス:手っ取り早いのはアヘンの製造だな。徳昌は霊関道の要地だ。ミャンマーからケシの花を輸入するのも容易だろう。途中の山道で交易商人を襲撃したりすれば売り飛ばす人間や交易品も手に入るというわけだ。 

 

謝芳華シエ・ファンホア:この近くの山中でもアヘンの匂いがするという噂を聞いたことがあります。 

 

ルイス:探そうにも範囲が広すぎるから、連中を捕らえて白状させるのが一番良いな。上手く行けば、お前と娘以外は無罪放免にしてやっても良い。 

 

謝芳華シエ・ファンホア謝美琳シエ・メイリン:有難うございます。ふたりでお殿様に懸命にお仕えいたします。 

 

ルイス:良し。善は急げだ。早速山を降りて、徳昌デーチャンの役所に向かおう。 

 

謝芳華シエ・ファンホア:お殿様。私が龍肘山を案内しますので、馬2頭で徳昌デーチャンまで行きませんか? 

 

ルイス:そうだな。そうさせてもらおうか。飛行機は部下の誰かに徳昌デーチャンの街まで移動させよう。 

 

ルイスたちは龍肘山を馬で降りることにした。ルイスの馬には、謝芳華シエ・ファンホアを前に座らせ、ルイスが手綱を取る。謝美琳シエ・メイリンの馬には劉美麗リウ・メイリーが乗り込んだ。 

 

☆龍肘山から徳昌への旅① 

ルイスと彼に同行する三人の女性、劉美麗、謝美琳、そして謝芳華は、龍肘山の険しい斜面を慎重に下りながら、徳昌へと向かっていた。朝露に濡れた葉が光を反射し、山道は煌めく光のトンネルのようだった。道は時に細く、時に広くなり、旅の一行は寂静な山の空気の中、互いの息遣いと足音だけが聞こえる静かな世界を進んでいった。 

 

龍肘山はその名の通り、巨大な龍が肘を曲げたかのような形をしており、山々は起伏に富み、時に峻険で、時になだらかな姿を見せる。山の緑は濃く、さまざまな種類の木々が生い茂り、時折、野生の花々が彩りを加えていた。山々は古くから多くの伝説や物語を秘めており、ルイスたちはその一つ一つに思いを馳せながら歩いていた。 

 

三泊四日の旅程で、彼らは龍肘山の豊かな自然と触れ合い、時には山中の小さな温泉に身を委ね、時には高台から壮大な景色を眺めた。謝芳華の案内により、彼らは山の中の隠れた美しい場所を訪れ、地元の料理を味わい、地元の人々と交流した。山の生活はシンプルでありながら豊かで、彼らは日常の喧騒を忘れ、自然との一体感を深めていった。 

 

☆ 龍肘山から徳昌への旅② 

旅の途中、ルイスと3人の女性たちは、山の恵みを生かし、生活の知恵と食の楽しみを共有した。朝霞が谷間に満ちる頃、劉美麗、謝美琳、謝芳華は山菜やハーブ、薬草を探しに山の中を歩き回った。彼女たちの手には、山々が育んだ自然の恵みが次々と集まり、緑豊かなバスケットが彩られていった。その一方で、ルイスは狩りや川での魚釣りを通じて、彼女たちと共に食卓を囲む食材を確保した。夜が訪れる頃、火を囲みながら、それぞれが得た食材で作る料理は、山の恵みと旅の喜びを存分に味わうひとときとなった。 

 

ある日、彼女たちが山菜採りに夢中になっている最中、予期せぬ危機が訪れた。山の奥深くから、アムール虎の威嚇する低い唸り声が響き渡った。虎の目は鋭く、その肉食の本能が獲物を求めていた。虎は彼女たちに気づき、影からゆっくりと近づいてくる。恐怖で硬直する3人の女性。しかし、その瞬間、ルイスが獣の視線を感じ取り、矢を放った。一瞬の静寂の後、虎は退散し、彼女たちは救われた。この出来事は、ルイスと彼女たちの間に新たな絆を生んだ。彼はただの守護者ではなく、彼女たちの心の支えとなり、互いに深い親しみと信頼感を抱くようになった。 

 

この出来事以降、彼女たちの笑顔は以前よりも自然で明るくなり、ルイスの目も優しく彼女たちを見守るようになった。山の中で共有した危機と生の喜びは、彼らの間に言葉にできないほど深い絆を築いた。山々が見守る中、彼らは互いに支え合いながら、徳昌への旅を続けたのだった。 

 

旅の終盤に差し掛かると、徳昌の町が遠くに見えてきた。歴史あるこの町は、彼らが訪れた山々とは異なる活気と文化を持っていた。ルイスたちは山からの降下を終え、新たな地での体験に胸を躍らせながら、徳昌へと足を踏み入れた。 

 

☆ 野蜂の大群 

山道を抜けると、目の前に広がるのは徳昌デチェンの街の息をのむような美しさである。街は古代から続く交易路の要所として栄え、その歴史の深さが古い建築物や伝統的な市場の賑わいに感じられる。遠くからでも見えるのは、紅瓦青瓦の屋根が整然と並ぶ民家や、巧みに造られた石畳の通り。周囲を取り囲む山々は、四季折々の自然の彩りをこの地にもたらし、古くから伝わる伝統と自然が織り成す独特の景観を形成している。 

 

ルイスたちの旅は新たな局面を迎えた。そこでは、色とりどりの民族衣装をまとった人々が何かを追いかける姿が目に入る。謝芳華シエ・ファンホアの大声が空に響き渡り、「あそこの人たち、何をしているのかしら?」との問いかけがルイスたちの好奇心を刺激した。

 

近づくにつれ、一斉に動く人々の後ろから突如、野蜂の大群がルイスたちに襲い掛かった。防御しようにも蜂の大群は一向に逃げる気配を見せず、むしろ次から次へと新たな大群が現れる。謝芳華シエ・ファンホアの叫び声が耳に届き、「ルイスちゃん。あんたの目の前にある木を良く見なさい。蜂の巣があるわよ」と教えてくれた。 

 

先日ルイスが、謝芳華シエ・ファンホアに手を付けたものだから彼女もルイスに対して少し馴れ馴れしくなっている。 

 

この事態に、ルイスは即座に行動に移り、何とか蜂の巣を取り払った。しかし、その時点で既にルイスの顔や手足は野蜂に刺されてしまっていた。その様子を見たリス族の人々は、笑いながらルイスに声を掛け、"こちらへ来な。薬を塗ってやるから"と言い、蜂刺されの手当てを申し出た。 

 

その後、12月4日水曜日午後5時、徳昌デチェン郊外の傈僳族の村、族長の家での出来事が続く。族長の奥さん「梅琳メイ・リン(32歳)」がルイスの顔や両手両足に薬を塗り、ルイスはお礼として銀錠50両を奥さんに差し出す。銀錠が珍しいと見えた奥さんは族長を呼び、族長「龍雪恩ロン・シュエン(36歳)」はルイスたちに「あんたらは何処から来たのかね。俺等は銀錠なんか見るのは久しぶりだ」と問いかける。

 

ルイスは、蜂蜜を市場で売ると銀錠を貰えるのではないかと聞いた。すると族長が深いため息とともに語り始める。 

 

"かつては、この地は蜂蜜や蜜蝋の産地として名を馳せ、市場ではその貴重さから銀錠をたくさん手にすることができました。しかし、時の県令の命により、私たちの手に入るのは、取られた後のわずかな食料だけです。長い間、私たち傈僳族は自然と共に生き、独自の文化を育んできましたが、外からの圧力により、その伝統もまた危機に瀕しています" 

 

"村人たちが抗議しても、怖い男たちが家を壊し、女子供を拐ったりするため、文句が言えない状況です" 

 

この言葉を聞いたルイスは、この不条理な現状を変えるべく、次に県令のところへ一緒に行くことを提案した。徳昌の郊外に位置する傈僳族の村からは、深い嘆きと共に小さな希望の灯が見え隠れしはじめた。しかし、それはあくまで暗い夜空に煌めく星のようなもの。ルイスと劉美麗リウ・メイリー謝美琳シエ・メイリン謝芳華シエ・ファンホア、そして村の人々は、困難に立ち向かうための第一歩を踏み出そうとしている。 

 

☆ 傈僳族の夕食 

夕暮れ時、傈僳族の村では、心温まる一幕が繰り広げられていた。族長の奥さん、梅琳メイ・リン(32歳)は、ルイスたちを暖かく迎え入れ、心を込めた夕食の準備に取り掛かった。 

 

村の小さな厨房からは、料理の美しい香りが漂い始めた。梅琳は手際よく食材を切り、煮込み、調理していく。その間、ルイスたちは旅で得た山菜やハーブ、キノコなどの自然の恵みを提供し、一緒に料理を手伝った。また、ルイスが狩りで獲った獣の肉は、この夕食の中心となる逸品である。 

 

厨房の中は活気に満ち、笑顔と会話が飛び交う。梅琳は、皆の手を借りながら、丁寧に一品一品を仕上げていく。その姿は、母なる大地が自らの恵みを分け与えるような、温かくも力強いものだった。 

 

やがて、夕食が準備完了し、テーブルには色とりどりの料理が並ぶ。狩りで得た獣の肉は、ハーブと山菜で丁寧に味付けされ、焼き上げられている。山のキノコは、炒め物やスープになって、ふんわりとした香りを放つ。自然の恵みが、梅琳の手によって、一つの芸術作品のように変貌した。 

 

食卓を囲む皆の顔には、満足感と幸福感が溢れている。梅琳は、この夕食が、ルイスたちとの絆を深め、また、遠く異国から訪れた彼らに傈僳族の温もりを感じてもらうためのものだと心に思いながら、皆が食べる様子を優しい眼差しで見つめていた。こうして、静かに日は暮れていき、傈僳族の村では、忘れられない夕食が、新たな記憶として刻まれていったのである。 

 

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

第14話を通じて、読者はルイスとその仲間たちが直面する困難と葛藤、そして彼らの間に芽生える絆を目の当たりにします。この物語は単なる歴史的な背景を超え、人間の本質とは何か、そして個々人の選択がいかに大きな影響を及ぼすかという普遍的な問題に光を当てています。物語の中で展開される各シーンは、人生の喜びと苦悩、勇気と恐怖、そして希望と絶望が交錯する様子を鮮やかに描き出しています。傈僳族の夕食のシーンは、食事を通じて異なる文化と歴史を持つ人々がお互いを理解し、尊重し合う様子を描いたつもりです。