小説「海と陸の彼方へ」
第七章西欧列強との戦い
第11話人身売買集団の暗躍①
前書き
1935年の中国は、内戦と列強の圧力に苦しむ国でした。この動乱の時代に、ルイスという若き野心家は、紛糾する情勢を自らの野望の糧とする道を見出します。ルイスは四川省南充の石油王から巴蜀・雲南王に推戴され、多くの家族や部下を持つ複雑な人間関係を抱えています。彼は紛糾する情勢を自らの野望の糧とし、本エピソードでは若き野心家ルイスが人身売買集団「影蛇」との戦いに挑みます。
本文
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登場人物「1935年1月1日時点」
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ルイス18歳:イタリア系のアメリカ移民。長征途中の中国共産党紅軍の首領毛沢東を捕縛した功績を認められ、中国国民党総統の蒋介石より、巴蜀・雲南の軍政長官を委嘱される。旅の途中で四川省南充の石油王から巴蜀・雲南王に推戴される。と言っても、元清朝の王女:王華(ワン・ファ)が認めただけである。この物語の主人公。中国制覇の大望を抱く。鉱山省大臣を兼ねる。
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ルイスの資金
小遣い1億266万8,559両。朱堤銀銀錠200億両「内訳は一般会計20億両、特別会計80億両。余剰金100億両」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は80億両の予算を組み、今までに16億452万7千両支出した。前話に於ける支出は以下の通りである。
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市場での買い付け
1.無煙炭: 2,000トン「20,000両」
2.各種鉱石「鉄、銅、鉛、亜鉛、錫」: 各5,000トン 「250,000両」「単価は1トン当たり10両」
3.希少鉱石「金、銀、バナジウム、チタンマグネタイト」各250トン「40,000両」「単価は1トン当たり40両」
4.地元の特産品「果物、野菜、穀物、香辛料」: 合計で30,000両
5.手工芸品「陶器、絹織物、刺繍品」: 合計で10,000両
6.薬草と伝統薬: 10,000両
7.家畜「馬、牛、豚、羊、山羊、鶏」: 各10,000両、計60,000両
8.地元の酒10,000瓶「1,000両」と茶500トン「 5,000両」、計6,000両
9.木材500トン及び石材500トンと建築材料「石灰石500トン、粘土500トン」: 20,000両
総額: 446,000両
よって、特別会計の支出額は16億497万3,000両である。
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ルイスの妻:エリザベス・ハーレイ。ジョン・ハーレイ(40歳)「ブリタニア号の船長」の元妻。 年齢: 38歳
背景: イギリスの中流家庭出身。元夫の仕事を支えるために、度々海を渡る。
性格: 温和で思慮深く、家族を深く愛する。元夫と同様に最初はルイスに不信感を抱いていたが、彼の真摯な態度に心を動かされ、夫と別れてルイスと結婚する。
義理の息子:ウィリアム・ハーレイ。軽戦車隊「8台」隊長。「趙麗」26歳の夫。
年齢: 16歳
背景: 船長の息子として海上生活に慣れ親しんでいる。航海術に興味を持ち、父から学んでいる。 性格: 好奇心旺盛で活発。ルイスの冒険的な精神に魅了され、彼を尊敬するようになる。
義理の娘:エマ・ハーレイ
年齢: 14歳
背景: 船長の娘として幼少期から多くの国を訪れている。異文化に対する興味が強い。 性格: 社交的で好奇心が強く、新しい環境にすぐに適応する。ルイスの持つ異文化への敬意と好奇心に共感を覚える。
「趙麗」26歳:ウィリアム・ハーレイの妻。建設大臣。元昆明軍閥の一員。彼女は軍閥の中で情報の収集と分析を担当し、一味が行動を起こす前に必要な情報を提供していた。
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ルイスには他にも妻「側室」がいる。王華(45歳)、李芳蓉(37歳)、劉芸芸(38歳)、陳明花(38歳)、クロエ・デュモン(23歳)、劉秋(39歳)、劉穎(33歳)の7名である。別途にイスラム妻が3名「ナディア、サリマ、王光美」いる。
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ルイスの部下。
1.周恩来(37歳)。ルイスの参謀。江蘇省出身。 ・穏やかで知的な性格をしており、どんな状況でも冷静さを失わない。
・話し方には礼儀があり、分析的で思慮深い。
・組織的な思考を持ち、リーダーシップを取れる。
・他者に対しては理解深く、共感を示すことができる。
2.ナディア・アミール・アル・サン(42歳)。ルイスの第一夫人「政治担当」。上海出身。
・自立心が強く、決断力がある女性。
・社会的な問題に対して意識が高く、積極的に意見を表明する。
・優雅で洗練された振る舞いを持ち、周囲に対しても敬意を払う。
3.サリマ・ファイサル・アル・ハウ(25歳)。ルイスの第二夫人「会計担当」。江西省出身。
・勇敢で情熱的な性格。自分の信念に強く固執する。
・感情が豊かで、時に感情的になりやすい。
・直感に頼ることが多く、行動的で果敢な面がある。
4.王光美(14歳)。ルイスの第三夫人「軍隊担当」。山東省出身。
・年の割には成熟しており、好奇心が強い。
・柔軟な思考を持ち、新しい環境にも早く適応する。
・人懐っこく、周りの人々との交流を楽しむが、時には頑固な一面も。
5.テンパ・ティンリー(24歳)。航空長官「改良DC-2 :1,000機」パイロット。チャン・ユン(42歳)の長男。チャン・ユン(42歳)は摩梭族:落水下村出身。
6.陳浩然(33歳)。諜報長官。年間経費10万両。部下100名。
7.李麗40歳。側女兼農林大臣。年間経費1億両。怒族族長の元妻。果科村の手工芸品作家。
8. マウン・ティン・ナイン(16歳)。ミャンマー・ラーショー出身。科学技術庁長官兼兵器作成庁長官。専門は機械工学と電子工学。武器製作は余技。非常に知的で技術的な才能があり、新しいことに挑戦するのが好き。
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マウン・ティン・ナインの家族
父親:ソー・ティン・アウン(36歳)
・職業:小さな工房を経営する職人。
・性格:静かで思慮深く、家族を支えるために一生懸命働く。
・背景:幼い頃から木工や機械いじりが得意で、地元で評判の職人になる。
母親:アウン・サン・ミャー(34歳)
・職業:家事をしながら、地元の市場で手作りの布製品を販売。
・性格:明るく温かい心の持ち主で、家族思い。
・背景:地域の伝統的な織物を学び、その技術を活かして家計を支える。
妹:ティン・ティン・アウン(14歳)
・性格:好奇心旺盛で活発、学校での成績が良い。
・趣味:絵を描くことと読書。
・背景:兄のマウン・ティン・ナインを尊敬し、彼の発明に興味を持つ。
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9.常隆慶(31歳)。前鉱山省大臣。高名な地質学者。蔡亜男(30歳)の前夫。 国王侮辱罪で禁錮3年の刑に服している。
10.蔡亜男(30歳)。昆明軍閥の戦術家・陳冬の元嫁。ルイスの側女。
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紅軍の長征
中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8 出典:朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。挿絵。
出典:朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。挿絵。
☆1935年10月27日日曜日の午後5時。攀枝花:常隆慶邸敷地内 ルイスは、梅花が出ていったあと、耕運機を用いて農地を耕し、種蒔きの下準備を行った。彼女は「乳搾りをしなくちゃ」と出て行ったので、ルイスも乳搾りの現場を見てみたいと思い酪農場まで出かけた。
ルイスが搾乳場に到着した時、彼の目に飛び込んできたのは、伝統的な中国の農村の景色であった。そこでは梅花が、穏やかな牛に寄り添いながら、丁寧に乳を搾っていた。彼女の服装は素朴でありながらも、都会的な洗練を感じさせるものだった。彼女は、ゆったりとした織物のトップに、カジュアルなショートデニムを合わせており、そのスタイルは明るい日差しの下で一層映えていた。
彼女の様子は、自信に満ちた落ち着き払ったものであった。梅花は作業に集中しながらも、周囲への注意を怠らず、それでいて動物たちには優しさをもって接していた。彼女の動きは慣れたもので、牛乳が木製のバケツに滴り落ちる音は、農村の平和な雰囲気と調和していた。その場の空気は静かで、梅花の存在がそこにいる全てを引き立てていた。
ルイスは、そんな彼女を見て、ただならぬ感銘を受けた。梅花の一挙一動は、彼女がその土地と深い繋がりを持っていることを示しており、また彼女の手仕事に対する尊敬の念を抱かせるに十分なものだった。彼女は、古き良き時代の象徴であり、現代の息吹をも感じさせる存在であった。
ルイス:やあ。梅花。作業はまだ掛かるのかい?
梅花:あら若旦那さま。もう少しで終わりますけど、うちの中年オヤジが怒るので今日は若旦那のお相手は出来ませんよ。
ルイス:ルイス:残念だな。さっきは中途半端に終わったから、もう一戦交えようと思い、ここまで来たのだ。
ルイス:うちの中年オヤジとは、誰のことだ?
梅花:私の亭主のことですよ。57歳ですから、中年オヤジというより、老人と言ったほうが良いわね。
ルイス:57歳だって!!何でお前はそんな年寄と結婚したんだい?いくらでも若い男は居ただろうに。今からでも遅くないから別れてしまえば良いよ。
梅花:ところがそうはいかないんですよ。私は10年前に女衒から10両で私の亭主に売られたんですよ。
ルイス:何だと。それは聞き捨てならんな。女衒とはどういう意味だ。
梅花:若旦那も世間知らずだね。何十年も前から人身売買する集団が中国各地で横行しているんですよ。
梅花:女衒というのは仲介人のことだよ。
ルイス:人身売買集団と嫁の来ての無い農民や牧夫、鉱夫などを仲介して手数料を取っているヤツのことだな。
ルイス:お前はどうやって攫われたんだ?
梅花:幼き日々、西昌の山々に囲まれた村で育ちました。13歳の夏の日、父が牛を追っている間に、母と私は畑で働いていました。突然、見知らぬ男たちが現れ、私たちは抵抗する間もなく彼らに連れ去られました。両親との別れから、闇の中で過ごした数週間、そしてある男に売り渡されたその日まで、私の心は絶望で満たされていました。しかし、そこで私は生き延びる術を学び、彼の家での生活を通じて、この土地との深いつながりを育ててきました。
ルイス:そうだったのか。お前も苦労したのだな。良し。俺に任せておけ。
梅花:若旦那様。何をするつもりですか。連中は組織も大きく抵抗しようとしたら殺されますよ。
ルイス:心配するな。黙ってお前の亭主のところへ俺を連れて行け。
☆午後5時半。李明邸
ルイス:邪魔するぞ。お前が李明か?
李明:左様でございますが。お宅様はどなた様ですかな?
ルイス:俺はルイスっていうんだが、この敷地の地主だ。農園や牧場の経営者でもある。
李明:この農園と牧場の持ち主は地質学者の「常隆慶」というお人だ。あんたじゃない。
ルイスは黙って土地の権利書を彼に見せた。
ルイス:信じようと信じまいとお前の勝手だが、もし信じないと言うならお前は首だ。とっととこの家から出ていけ。
李明:若旦那様。私が悪うございました。貴方様の仰ることに従います。どうかお許し下さい。おい、梅花。何をそこで突っ立っているんだ。若旦那様に早くお茶をお出ししろ。
ルイス:お茶はいただくが、梅花も俺が貰っていく。10年前に10両で彼女を買ったそうだな。 ルイスは李明に10両支払い、証文を出せと言った。
李明:若旦那様。10年前には10両でしたが、その女には元手が掛かっておりましてね。金利も付きますし、100両は貰いませんと割が合いません。
ルイス:何だと。10年間タダ働きをさせた挙げ句、身体まで自由にしやがって、お前が金を払う立場だろうが。つべこべ抜かすと首根っこをへし折ってしまうぞ。
ルイスは李明の首を掴んでへし折ろうとしたが、彼がルイスの両手を叩いてギブアップの印を示したのでその場は許してやった。ルイスは彼から梅花の売買証文を受け取った。
☆ 影蛇「人身売買集団」
梅花の売買証文からは大したことが分からなかった。人身売買集団の名前が「 影蛇」だという事とアジトは徳昌:螺髻山の山麓にあると言うことだけである。
ルイス:梅花。お前は何か知らないか?
梅花:ルイスさん、螺髻山について聞いたことがありますか?四川省にある長くて荘厳な山で、私たちの地元、西昌から南に約30キロのところにあります。南北に70キロ、東西に35キロも広がっていて、山脈には4359メートルの高峰がそびえています。この山は、その雄大さで知られ、多くの集落がその斜面に暮らしているんです。そして、この螺髻山の麓に、その盗賊たちの隠れ家があると聞きました。山の奥深く、人目につきにくい場所ですから、彼らにとっては完璧な隠れ場所になっているんですよ。
ルイス:霊関道を通って、攀枝花→会理→徳昌→西昌の順で探索してみよう。
梅花:私も連れて行って頂けますか?
ルイス:勿論だ。お前が嫌でなければ俺の側女となり、影蛇退治の旅に同行せよ。
梅花:わーい!嬉しい!またお殿様に抱かれるのね。嬉しすぎます!!
ルイス:おい。昼間っから露骨なことを言うんじゃないぞ。それより、お前の住むところを決めてやらないといかんな。
ルイス:そうだ。畜産牧場の経営者が住む母屋があるだろう。お前が女主人となって母屋に住んだら良い。
梅花:確かに母屋は誰も住んでいませんけど、私のような渋茶色の顔をしたおんなが住むところではございません。
ルイス:渋茶色であろうと真っ黒であろうと構わん。肌の色などどうでも良い。外仕事をすれば肌の色がくすむのは当然のことだ。どうしても紫外線を浴びるから。それに俺はお前の洗濯たらいのような大きいお尻が大好きだ。
梅花:そう言って下さると私は感激して泣いてしまいます。
ルイス:これ。泣くでない。
☆午後6時。畜産牧場の母屋。
梅花はルイスのために心を込めて夕食を準備し始めた。ルイスは思いついて、螺髻山脈の地図を取り出し、梅花に見せた。梅花はその地図に赤い印と白い印を付け、思い出したようにぽつりぽつりと話しだした。
梅花:この赤いマークのある場所、西昌の南にあるこの辺り、山の斜面に小さな集落があってね。あそこには幼い頃に行ったことがあるわ。記憶があいまいだけど、山の形がとても特徴的で、忘れられないの。
梅花:ああ、この白いマークのある辺り、普格と德昌の間のこの地点は、一度迷い込んだことがあるわ。山々が連なっていて、とても印象的な風景だったわ。
ルイスは赤いマークの付いた場所は梅花が影蛇「人身売買集団」に拐われた場所、白いマークの付いた場所こそ求めるアジトに違いないと見当を付けた。
順番からすれば白いマークから探すべきだが、そうすると女衒を逃してしまう可能性がある。徳昌を通り越して、先に西昌へ行こう。
夕食の後、梅花を連れて、飛行機で西昌へ行くことを決めた。梅花にそう告げると、彼女は故郷に帰ることが出来ると大喜びし、夕食の支度にも身が入ったようだ。
夕暮れ時、畜産牧場の母屋では温かな光が窓から溢れていた。梅花は厨房で忙しく動き回りながら、ルイスのために夕食を準備していた。彼女の手際の良さは、まるで愛情を形にするかのよう。メニューには四川省の風土が息づく、彼女の手作りの家庭料理が並ぶ。辛味と香り高い麻婆豆腐、蒸し鶏に香る生姜、そして野菜の旨みが引き立つ清湯がテーブルを飾った。
彼女は、料理をするたびに、小さな笑みを浮かべる。その笑顔は、ルイスにとってもこの上ない慰めとなっていた。二人の間には、言葉以上の絆が感じられ、彼らの仲睦まじさは、まるで古くからの知人のよう。ルイスが螺髻山脈の地図を取り出して見せると、梅花の目は一層輝きを増し、彼女の記憶から蘇る地の話を始めた。それは、彼女の幼い頃の思い出と絡み合い、彼女がその土地をどれほど愛しているかが伝わってきた。
食事が進むにつれて、彼女の喜びはさらに増していく。ルイスが飛行機で西昌への旅を提案すると、彼女はまるで子どものようにはしゃぎ、彼の提案を喜んで受け入れた。夕食の支度にも、その喜びが伝わってくるかのように、彼女の動きには一層の活気が生まれていた。
ルイスは、彼女のこの変わらぬ明るさと前向きな姿勢を見て、心の中で彼女をさらに深く寵愛した。そして梅花もまた、ルイスの提案によって、新たな未来が開けることを期待していたに違いない。
ルイスと梅花の細やかな情愛が感じられるその日の一夜の詳細は語らない。梅花の苦しかった10年の月日はルイスとの今後の明るい未来への期待でかき消されたことだけは言っておこう。
☆翌朝。10月28日月曜日午前8時。ルイスと梅花は西昌へ向かって出発した。ルイスにとっては2度目だが、梅花の断っての願いで、草原に降り立ったあとは市場へ向かうつもりである。
彼女はにぎやかな西昌の市場へもう一度行ってみたいという願望を持っていた。幼い頃に両親に連れて行ってもらった記憶を思い出に辛い生活に耐えていたのだから。
ルイスの方も黒色火薬の原料「木炭、硝石、硫黄」を調達する必要があった。それぞれ500トンずつ買い付けよう。値段は会理と同様1トン10両で買い付けよう。
早朝の光がほんのりと空を染め上げる中、ルイスと梅花は攀枝花を後にして、西昌へと旅立った。プロペラの唸りを背に、小型の飛行機は草原の上を軽やかに滑走し、やがて静かに空へと昇って行った。梅花の顔には、幼い日の記憶と新たな希望が交錯する複雑な表情が浮かんでいる。
西昌に降り立つと、二人はすぐさま市場へと向かった。市場は早朝から活気に満ちており、農家たちが新鮮な果物や野菜を売りに出していた。色とりどりの布製品、香り高い香辛料、そして四川特有の工芸品が店先を飾り、人々の笑顔と交渉の声が飛び交っている。
梅花は目を輝かせながら市場を歩き、幼い日に両親と訪れた場所を思い出していたかのように、各店舗を興味深く見て回る。彼女の喜びは、辛い日々を乗り越えた強さと、忘れられない故郷の思い出に寄り添っているようだった。
一方のルイスは、目的の物資―黒色火薬の原料を探しに忙しく動き回っていた。木炭、硝石、硫黄をそれぞれ500トン、合理的な価格で調達しようと、商人たちと巧みに交渉を重ねていた。彼の商才は、会理での取引と同じく、1トン10両での買付けに成功することを目指している。
市場の喧騒の中で、ルイスと梅花はそれぞれの目的を果たしながらも、お互いにとって大切な一時を共有していた。市場の賑わい、人々の温もり、そして相互の信頼感が、二人の間に確かな絆を築いていった。
梅花はルイスと一緒に買物を楽しみ、ルイスから様々な衣装や装飾品「500両相当」をプレゼントして貰った。ルイスの方も木炭は1トン当たり5両という破格の値段で500トン買い付けた。残念ながら硫黄は1トン当たり20両、硝石は1トン当たり30両もしたが、数量の方は500トンずつ買い付けることが出来た。総額で28,000両の買い物である。荷物の方は馬車で攀枝花まで運んで貰っている。
梅花は市場の人達とそれとなく話を交わし、赤いマークのある集落の名前を聞き出した。ふたりは西昌の街の宿屋に泊まり、明日の朝その集落へ向かうことに決めた。
今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。
後書き
読者の皆様へ、第11話をお読みいただき、誠にありがとうございました。本エピソードでは、混沌とした時代の中でルイスと梅花(メイファ)という二人の強い絆が芽生える瞬間を描きました。彼らの前には数々の困難が立ちはだかりますが、互いへの深い信頼と支え合う力が、未来への希望の光を灯し続けます。次エピソードでは、ルイスと梅花(メイファ)が新たな旅路を歩み始める様子を、より一層深く掘り下げてご紹介する予定です。彼らが直面する困難、そして彼らの心の成長を、どうぞお楽しみに。読者にとって、主人公たちの内面の成長と彼らの過去の乗り越え方は、物語の中核をなす要素です。梅花(メイファ)の人生の新たな章が始まることへの期待と共に、ルイスの決意と行動の描写をより一層鮮明にすることで、彼らの物語に更なる深みを与えることができるでしょう。物語の中に登場する人々の相互作用と心の動きに焦点を当て、読者に感情移入していただけるような物語を目指して参ります。次回のエピソードにご期待ください。