小説「海と陸の彼方へ」

 

第七章西欧列強との戦い

 

第7話畹町鎮ワンチェン ヂェンの砦建設

 

前書き

第7話は、畹町鎮ワンチェン ヂェンでのルイスと王慧敏の心理的、感情的な交流を描く重要なエピソードです。ルイスは、急性虫垂炎に苦しむ王慧敏の手術を行うことになりますが、このシーンはただの医療行為以上のものを示しています。ここでは、二人の関係の新たな側面が明らかになり、互いへの理解と信頼が深まる瞬間を捉えています。

 

本文

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登場人物「1935年1月1日時点」  
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ルイス18歳:イタリア系のアメリカ移民。長征途中の中国共産党紅軍の首領毛沢東を捕縛した功績を認められ、中国国民党総統の蒋介石より、巴蜀・雲南の軍政長官を委嘱される。旅の途中で四川省南充の石油王から巴蜀・雲南王に推戴される。と言っても、元清朝の王女:王華ワン・ファが認めただけである。この物語の主人公。中国制覇の大望を抱く。
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ルイスの資金
小遣い2,668,559両。朱堤銀銀錠200億両「内訳は一般会計20億両、特別会計80億両。余剰金100億両」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は80億両の予算を組み、今までに16億366万両支出した。

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ルイスの妻:エリザベス・ハーレイ。ジョン・ハーレイ(40歳)「ブリタニア号の船長」の元妻。 年齢: 38歳 

背景: イギリスの中流家庭出身。元夫の仕事を支えるために、度々海を渡る。 

性格: 温和で思慮深く、家族を深く愛する。元夫と同様に最初はルイスに不信感を抱いていたが、彼の真摯な態度に心を動かされ、夫と別れてルイスと結婚する。 

義理の息子:ウィリアム・ハーレイ。軽戦車隊「8台」隊長。「趙麗チャオ・リー」26歳の夫。 

年齢: 16歳 

背景: 船長の息子として海上生活に慣れ親しんでいる。航海術に興味を持ち、父から学んでいる。 性格: 好奇心旺盛で活発。ルイスの冒険的な精神に魅了され、彼を尊敬するようになる。 

義理の娘:エマ・ハーレイ 

年齢: 14歳 

背景: 船長の娘として幼少期から多くの国を訪れている。異文化に対する興味が強い。 性格: 社交的で好奇心が強く、新しい環境にすぐに適応する。ルイスの持つ異文化への敬意と好奇心に共感を覚える。 

趙麗チャオ・リー」26歳:ウィリアム・ハーレイの妻。建設大臣。元昆明軍閥の一員。彼女は軍閥の中で情報の収集と分析を担当し、一味が行動を起こす前に必要な情報を提供していた。 

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ルイスには他にも妻「側室」がいる。王華ワン・ファ(45歳)、李芳蓉リー・ファンロン(37歳)、劉芸芸リウ・ユェンユェン(38歳)、陳明花チェン・ミンファ(38歳)、クロエ・デュモン(23歳)、劉秋リュウ・チウ(39歳)、劉穎リウ・イン(33歳)の7名である。別途にイスラム妻が3名「ナディア、サリマ、王光美」いる。 

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ルイスの部下。 

1.周恩来ジョウ・エンライ(37歳)。ルイスの参謀。江蘇省出身。 ・穏やかで知的な性格をしており、どんな状況でも冷静さを失わない。 

・話し方には礼儀があり、分析的で思慮深い。 

・組織的な思考を持ち、リーダーシップを取れる。 

・他者に対しては理解深く、共感を示すことができる。

 2.ナディア・アミール・アル・サン(42歳)。ルイスの第一夫人「政治担当」。上海出身。 

・自立心が強く、決断力がある女性。 

・社会的な問題に対して意識が高く、積極的に意見を表明する。 

・優雅で洗練された振る舞いを持ち、周囲に対しても敬意を払う。 

3.サリマ・ファイサル・アル・ハウ(25歳)。ルイスの第二夫人「会計担当」。江西省出身。 

・勇敢で情熱的な性格。自分の信念に強く固執する。 

・感情が豊かで、時に感情的になりやすい。 

・直感に頼ることが多く、行動的で果敢な面がある。 

4.王光美ワン・グアンメイ(14歳)。ルイスの第三夫人「軍隊担当」。山東省出身。 

・年の割には成熟しており、好奇心が強い。 

・柔軟な思考を持ち、新しい環境にも早く適応する。 

・人懐っこく、周りの人々との交流を楽しむが、時には頑固な一面も。 

5.テンパ・ティンリー(24歳)。航空長官「改良DC-2 :1,000機」パイロット。チャン・ユン(42歳)の長男。チャン・ユン(42歳)は摩梭モソ族:落水下村出身。 

6.陳浩然チェン・ハオラン(33歳)。諜報長官。年間経費10万両。部下100名。

7.李麗リー・リー40歳。側女兼農林大臣。年間経費1億両。怒族族長の元妻。果科村の手工芸品作家。

8. マウン・ティン・ナイン(16歳)。ミャンマー・ラーショー出身。科学技術庁長官兼兵器作成庁長官。専門は機械工学と電子工学。武器製作は余技。非常に知的で技術的な才能があり、新しいことに挑戦するのが好き。
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マウン・ティン・ナインの家族
父親:ソー・ティン・アウン(36歳)
・職業:小さな工房を経営する職人。
・性格:静かで思慮深く、家族を支えるために一生懸命働く。
・背景:幼い頃から木工や機械いじりが得意で、地元で評判の職人になる。

母親:アウン・サン・ミャー(34歳)
・職業:家事をしながら、地元の市場で手作りの布製品を販売。
・性格:明るく温かい心の持ち主で、家族思い。
・背景:地域の伝統的な織物を学び、その技術を活かして家計を支える。

妹:ティン・ティン・アウン(14歳)
・性格:好奇心旺盛で活発、学校での成績が良い。
・趣味:絵を描くことと読書。
・背景:兄のマウン・ティン・ナインを尊敬し、彼の発明に興味を持つ。
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9.常隆慶チャン・ロンチン(31歳)。鉱山省大臣。高名な地質学者。蔡亜男ツァイ・ヤーナン(30歳)の夫。 

妻:「蔡亜男ツァイ・ヤーナン(30歳)」。昆明軍閥の戦術家・陳冬チェン・ドンの元嫁。ルイスの元側女。

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 紅軍の長征  

中国地図 出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8     出典:朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。挿絵。

出典:朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。挿絵。

 

☆1935年9月18日水曜日の午後8時。畹町鎮ワンチェン ヂェンの前鎮長「陳大江チェン・ダージャン(40歳)」邸 ルイスは畹町鎮ワンチェン ヂェンに置く砦のことを考えていた。地元に詳しい「陳大江チェン・ダージャン(40歳)」一家の人達に聞いてみた。

 

ルイス:畹町鎮ワンチェン ヂェンにイギリス軍を防ぐ砦を建設するつもりだが、その場所は何処に置けばよいだろう?

 

陳大江チェン・ダージャン:そうですな。ここは何時も漢族の者たちが集まる場所ですので、この家を大改修して砦にすれば良いと思いますが。

 

ルイス:なるほど。この場所も人々が集まるという点ではメリットがあるな。

 

そこに大奥様の「劉秀蘭リウ・シウラン(65歳)」が四川省産の有名な緑茶「蒙頂甘露」と豆沙餅トウシャビン「甘い豆のペーストを餅で包んだもの」を持って現れ、ルイスに出してくれた。 

 

ルイス:大奥様。ご丁寧にありがとうございます。 

 

ルイス:大奥様はどう思われますか?イギリス軍を防ぐ砦を何処に築こうかと悩んでいるのですよ。

 

 

劉秀蘭リウ・シウラン:1911年にイギリス軍は、緬甸の九穀市から川を渡って攻めてきました。"九穀市の対岸「畹町鎮ワンチェン ヂェンの南側」に砦があったら、イギリス軍を追い払うことが出来たのにな"と当時悔しく感じていました。 

 

ルイス:どなたか。畹町鎮ワンチェン ヂェンの地理について教えて頂けませんか?

 

王慧敏ワン・フイミン:畹町鎮は瑞麗地域の東部に位置し、南側は緬甸の九穀市と川を隔てて接しています。この位置は、中国と緬甸の国境近くにあり、地理的に重要な地点です。 

 

王慧敏ワン・フイミン:イギリス軍が接近する可能性がある南側、特に緬甸の九穀市の対岸に砦を設けることは、防衛上の利点があります。川は自然な障壁となり、敵軍の進行を阻止しやすくなります。また、砦からは川を渡って進む敵軍の動きを容易に監視し、適切な対応を取ることが可能です。

 

王慧敏ワン・フイミン:申し訳ありません。女の身でだいそれたことを申し上げてしまいました。お聞き捨て下さい。 

 

ルイスの目がキラリと光った。"この女性は単なる田舎の美女というだけではない。戦略的な視点を有している稀有な存在かも知れぬな"とルイスは直感したが、彼女の亭主のことを考え口には出さなかった。 

 

ルイス:陳大江チェン・ダージャンさん。九穀市の対岸の土地はどなたがお持ちなのですか?

 

 陳大江チェン・ダージャン:あの土地は母の所有する土地です。特に使用していない空き地ですから、適切な価格でお売りしますよ。3,000両で如何ですかな? 

 

ルイスは言い値で購入し、そこに砦を建設することを決めた。陳大江チェン・ダージャンが土地の業者に交渉し、砦の建設費と維持費及び人件費の見積りを合算で1万両と決めてくれた。

 

 陳大江チェン・ダージャン:ルイスさん。どうせならこの家を購入されたら如何ですか?2,000両でお売りしますよ。 

 

ルイス:それは願ってもない良いお話ですが、あなた達は何処にお住みになるおつもりですか?

 

陳大江チェン・ダージャン:砦の周辺も私どもの土地なのです。ですから、砦のお隣に屋敷を構えて住むことにします。屋敷が出来上がるまでの間はこの家の離れをお借りしたいのですがよろしいですか? 

 

ルイス:どうぞ、ご自由にお使い下さい。「彝天山イー・ティエンシャン(42歳)」一家には明日にでも此処の母屋に引っ越して越させましょう。私も2,3日の間は離れの一室をお借りいたします。 

 

ルイスは「陳大江チェン・ダージャン」に小切手で2万両を支払った。これで砦問題は一旦解決した。あとは砦の責任者を誰にするかという問題が残っている。

 

陳大江チェン・ダージャンに任せようと思っていたのだが、彼は交易商人のほうが向ていると感じた。一番良いのは彼の妻「王慧敏ワン・フイミン」だが果たして引き受けてくれるかどうか疑問である。

 

☆「王慧敏ワン・フイミン(38歳)」の急病

畹町鎮ワンチェン ヂェンの夜が静かに訪れた時、王慧敏ワン・フイミンは突然激しい痛みに襲われた。彼女の苦しみは家族に緊急事態を知らせ、家中が混乱に陥

った。その様子は、静かな夜の空気を一変させ、緊迫した雰囲気を作り出した。

 

一家がパニックに陥る中、ルイスだけが冷静を保ち、王慧敏の症状を詳細に観察した。彼女の症状は、急激な腹痛、特に右下腹部の強い圧痛を示しており、ルイスはすぐに急性虫垂炎であると診断した。彼は、この状況で迅速な行動が不可欠であることを理解し、手術を行うことを決断した。

 

 

畹町鎮ワンチェン ヂェンの静かな夜、ルイスは王慧敏ワン・フイミンの急性虫垂炎に対処するため、手術を行うことになった。彼はまず、緊張した表情を浮かべる王慧敏の下腹部のムダ毛を丁寧に処理した。この行為は、手術の成功を左右する衛生的な準備の一環であり、ルイスは細心の注意を払いながら、彼女の肌を傷つけないように慎重に処理を進めた。

 

王慧敏ワン・フイミンの心理 

王慧敏ワン・フイミンはルイスによる剃毛を恥ずかしげに受け入れた。彼女の顔は羞恥心で紅潮し、目を閉じて自分の裸体を晒すことに対する内心の葛藤を隠そうとした。手術の必要性を理解しつつも、彼女の心は不安と羞恥で満たされていた。ルイスの手が彼女の肌に触れるたび、彼女はわずかに身を震わせ、深い息をついた。この瞬間、彼女は自分の脆弱さとルイスへの信頼を同時に感じていた。

 

☆ルイスの心理 

ルイスは王慧敏ワン・フイミンの剃毛を行う際、彼女の羞恥心を察しながらも、手術の成功と彼女の安全を最優先に考えていた。彼はプロフェッショナルとして、彼女の肌に触れることに対する自身の感情を抑え、完全に医療行為に集中していた。彼女の苦痛を見て、彼の内面では患者への深い同情と共に、手術の重要性が一層強く意識された。手術中、彼は時折彼女の表情を見て、彼女が感じている恐怖や不安を感じ取りながら、それを和らげようと心掛けていた。彼の手技は確実でありながらも、彼女の心身への負担を最小限に抑えるよう細心の注意を払っていた。

 

モルヒネが手に入らない状況で、ルイスは痛みを和らげるために別の選択肢を取った。彼はアメリカから持参していたコカインを使用した。コカインは、その麻酔効果により、手術中の苦痛を大幅に減少させることが出来る。彼は慎重に適量を計り、王慧敏ワン・フイミンの体に注入した。

 

コカインの効果は迅速だった。王慧敏ワン・フイミンの顔にはじめて安堵の表情が現れ、彼女の体がリラックスしていく様子が見て取れた。手術台の上で、彼女の痛みが和らぐにつれて、彼女の顔からは徐々に苦痛の表情が消え、穏やかな眠りに落ちていった。

 

ルイスは手術道具を手に取り、手術を開始した。彼の動きは正確であり、経験に裏打ちされた確かな手技で彼女の腹部を開き、炎症を起こした盲腸を慎重に摘出した。手術中、彼の集中力は途切れることがなく、彼は全ての動きを計算し尽くしていた。 

 

この手術は、ルイスの医療技術と冷静さを示すものであり、王慧敏ワン・フイミンの命を救う決定的な瞬間だった。手術が無事に終了し、彼女は命を取り留めた。この一連の出来事は、ルイスの医療技術だけでなく、彼の決断力と慈悲の心を畹町鎮の人々に深く印象づけることとなった。彼の行動は、彼と地元の人々との間の絆を一層強固にし、彼に対する尊敬と感謝の念を一層深めることとなる。

 

☆術後の王慧敏ワン・フイミン 

ルイスにとっては2回目の盲腸の摘出手術であり、出来栄えは素晴らしいものであった。縫った糸はわずかに5本であり、3日も経てば普通の生活が出来るだろう。 

 

ルイスは彼女にとっておきの妙薬「新万金丹」を十粒ほど処方した。年配の女性にとっては若返りの妙薬であり、若い女性にとっても元気溌剌となる効果てきめんの良薬でもある。焼酎に入れて飲むのであるが、寝ている彼女にもひと粒含ませ、つきっきりで看病している彼女の姑「劉秀蘭リウ・シウラン(65歳)」にもひと粒含ませた。

 

☆1935年9月19日木曜日の午前6時。畹町鎮ワンチェン ヂェンの前鎮長「陳大江チェン・ダージャン(40歳)」邸 

前夜の騒ぎで疲れ切ったルイスは朝までぐっすり眠り込んだ。目が覚めるともう朝の6時になっていた。母屋の方で何やら人の声がする。「常隆慶チャン・ロンチン(31歳)」と「蔡亜男ツァイ・ヤーナン(30歳)」の夫婦が彝族族長「彝天山イー・ティエンシャン(42歳)」と長男「彝志強イー・ジーチャン(20歳)」を連れてやって来たようだ。

 

こちらでも彼らの家族、彝族族長一家【妻「彝麗華イー・リーホァ(40歳)」、長女「彝美玲イー・メイリン(22歳)」、次男「彝明進イー・ミンジン(18歳)」】の3人が彼らを出迎えた。一挙に人数が8名に増えた。 

 

"畹町鎮ワンチェン ヂェンの前鎮長の母「 劉秀蘭リウ・シウラン(65歳)」ひとりだけだと朝食作りも大変だ" ルイスはそう思い、彼女に"僕も一緒に手伝いますよ"と声を掛けた。

 

すると彼女は"ルイスさんに貰ったお薬を飲んでから随分身体の調子が良いのよ。心配しないで私に任せておきなさい。それよりもう少しあの薬を私に分けて頂戴"と言うではないか。 

 

ルイスは彼女に50粒入った新万金丹の瓶をひとつ進呈した。すると彼女はそこからひと粒取り出して口の中に入れ、焼酎でぐいと飲み干した。ものの3分も経たないうちにてきめんに効果が現れ、彼女は大張り切りで朝食の準備に取り掛かった。 

 

ルイスは部下たちに"お前たちも手伝え"と号令をかけ、勿論ルイス自身も先頭に立って力仕事を手伝った。 

 

畹町鎮ワンチェン ヂェンでの朝、仲間たちが一堂に会し、前鎮長の母である劉秀蘭リウ・シウランの手作りの家庭料理を囲んで朝食を楽しむ。 

 

太陽がゆっくりと空を昇り、その温かな光が畹町鎮ワンチェン ヂェンの小さな家を照らし始める。朝の穏やかな時間、前鎮長の母である劉秀蘭リウ・シウランは、彼女の愛情深い手で作られた豊かな朝食をテーブルに並べる。彼女の料理は、伝統的な家庭の味が溢れ、彼女の年輪を感じさせる種類の豊富さと繊細さで満たされている。 

 

仲間たちは、この和やかな朝食に集まる。彼らの顔には笑顔が広がり、夜明けの静けさの中で、会話と笑い声が心地よく響く。食事は、シンプルでありながらも、劉秀蘭の愛情と経験が込められており、それぞれの料理からは彼女の手の温もりが伝わってくる。 

 

テーブルの上には、新鮮な野菜、香ばしい肉料理、そして地元の特産品を使った数々の料理が並び、彼らの食欲をそそる。彼らは料理を共有し、一つ一つの味を楽しみながら、日常の出来事や思い出話に花を咲かせる。この朝食の時間は、ただの食事以上のものとなり、彼らの間の絆を深め、新しい一日への活力を与えている。 

 

劉秀蘭は、テーブルの端に座り、自分の料理を楽しむ仲間たちの姿を優しい眼差しで見守る。彼女の心は、彼らの笑顔と会話で満たされ、彼らの幸せが彼女自身の幸せであるかのようだ。この朝食の時間は、畹町鎮の暖かなコミュニティの象徴となり、彼らにとって忘れられない思い出の一つとして心に残るだろう。 

 

ルイスは、彝族族長「彝天山イー・ティエンシャン(42歳)」一家に母屋を譲り、畹町鎮ワンチェン ヂェンの前鎮長「陳大江チェン・ダージャン(40歳)」一家とともに離れに移った。「常隆慶チャン・ロンチン(31歳)」と「蔡亜男ツァイ・ヤーナン(30歳)」の夫婦はルイスが訪ねてくるまで、攀枝花パンジーファで待つことになった。 ルシスは怪力を発揮し、王慧敏ワン・フイミンをベッドごと離れの彼女の部屋までゆっくりと運び入れた。

 

王慧敏ワン・フイミンの食事 

ルイスは「王慧敏ワン・フイミン(38歳)」のために少し柔らかめの食事「お粥が中心」を用意し、スプーンで一口ずつ彼女の口に入れた。術後の食事は特に大事であるが、彼女は食欲も旺盛でこの調子で行けば明日には起き上がることが出来ると思えるような順調な回復ぶりであった。

 

 

王慧敏ワン・フイミンは"お粥では足りない。麺が食べたい。ルイスさん作って持ってきて頂戴"と言う。ルイスは彼女のために雲南名物の麺を作ることにした。

 

畹町鎮の鎮長邸離れのキッチンで、ルイスは「雲南小鍋米線ユンナン シャオ グオ ミ シェン」を作り始めた。王慧敏ワン・フイミンはソファーに横たわり、ルイスが麺を作るのを眺めている。ルイスは細く柔らかい米線を丁寧に打ち、野菜、豚肉、鶏肉を用いた香り高いスープを準備した。王慧敏は、ルイスが手際よく料理する様子に驚きつつも、心からの喜びを感じていた。キッチンには二人の和やかな会話と、鍋で煮る音が響き渡っていた。

 

やがて、彼の作った雲南小鍋米線が完成し、二人はその美味しそうな料理に目を輝かせた。ルイスは特別な小鍋に麺とスープを盛り付け、テーブルに運んだ。彼らは向かい合って座り、心温まる雰囲気の中で一口一口を丁寧に味わい始めた。ルイスの作った米線は絶妙な柔らかさと味付けで、王慧敏はその深い満足感を隠せなかった。

 

食事の最中、ルイスは王慧敏に畹町鎮砦の責任者を引き受けてほしいと頼んだ。彼女はルイスの真剣な眼差しを受け、瞬間的に驚きの表情を浮かべたが、すぐに彼女の顔には穏やかな笑顔が戻った。彼の深い信頼を感じ、彼女は快くその申し出を受け入れた。

 

この朝、ルイスと王慧敏の間には特別な絆が生まれ、二人は急速に接近し始めた。キッチンの温かい灯りの下、彼らはお互いの目を見つめ合いながら、これからの未来について語り合った。この食事は、二人にとって忘れられない美しい瞬間となり、彼らの関係に新たな章を開くきっかけとなった。

 

王慧敏ワン・フイミンの回復 

ルイスとの食事のあと、王慧敏ワン・フイミンは急速な回復振りを見せた。新万金丹を含んだ効果もあっただろうが、ルイスとの仲が深まったことが一番大きかった。抜糸は明日の朝となったが、彼女はもう起き上がることも出来るようになった。

 

王慧敏ワン・フイミンは自分の方から積極的にルイスと抱き合い、旦那に内緒の密やかな関係を結んだ。ルイスは彼女の身体に配慮し、緩やかな動きに終始したが、彼女はそれでも心身ともに深い歓びを味わうことが出来た。彼女の亭主との関係など複雑な問題も残ってはいるが、彼女の気持ちは揺るがなかった。

 

 

王慧敏ワン・フイミン:ルイスさん。ラーショーと畹町鎮ワンチェン ヂェンとの間に車が通ることのできる道路を建設するって言ってたわよね。 

 

ルイス:うん。そうするつもりだ。人員は10万名くらい動員すれば良いだろう。材料はどんな物が必要かな? 

 

王慧敏ワン・フイミン:ルイスさん。見積もってみたわ。 

 

1.人員「労働者」は必要人員100,000名、単価5両とすると、50万両。 

 

2.建設材料「石、木材など」は3種類「石材・木材、セメント・コンクリート類、鉄鋼」それぞれ5万両として15万両。 

 

3.輸送費「材料輸送」は単価1.5両、数量3万として4万5千両。 

 

4.道具類「シャベル、ツルハシなど」は単価0.8両、数量2万として1万6千両。 

 

5.その他費用「食料、医薬品など」は1万5千両必要。 以上を合計すると、726,000両となるわ。

 

 

ルイスは「王慧敏ワン・フイミン(38歳)」に深い敬意の念を表すとともに彼女を強く抱きしめた。彼女は笑いながら"これこれ。私は病み上がりなのよ。少しは労りなさい"とたしなめた。 

 

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

第7話では、畹町鎮におけるルイスと王慧敏の間の心理的な交流を通じて、人間関係の複雑さと深い絆の形成を描きました。このエピソードでは、感情の細やかな描写に重点を置き、二人の関係の進展を丁寧に描いています。また、歴史的背景を踏まえつつ、キャラクターたちの個性や動機を通じて、読者が物語に深く没入できるよう努めました。次回のエピソードでは、1935年9月の新たな冒険が始まります。地質学者の常隆慶と彼の友人ルイスは、攀枝花を流れる金沙江流域の探検に出発します。彼らの目的は炭鉱の発見でしたが、運命は彼らにもっと壮大な計画を用意していたのです。新たな発見と予期せぬ展開が、彼らを待ち受けています。次章では、この壮大な冒険を通じて、キャラクターたちの成長と彼らが直面する困難やチャレンジを深掘りします。どうぞお楽しみに。