小説「海と陸の彼方へ」

 

第六章ルイス中華の皇帝を目指す

 

第6話雲南省奪還計画②「怒龍から大理へ向かう」

 

前書き

ルイスはフランス国籍の商船「ラ・シレーヌ」を拿捕し、「怒龍」に停泊。商船は現代の貿易船として優れた設備を有していた。積荷としては、ケシの花、フランス製品、高級食材、機械部品などを搭載しており、軍資金としても金貨、宝石、金塊、銀塊が積まれていた。さらに、橋の建設に必要なコンクリート、セメント、モルタル、石材、鉄鋼も積載しており、これらは100メートルの木製橋を鉄筋コンクリート製に建て替えるのに十分な量だった。 ルイスは捕虜のなかから、橋梁設計専門家と土木設計専門家である夫婦を見つけ、彼らを責任者として雇うことに決めた。 この後、捕虜の女性が虫垂炎となり、ルイスは医者ではないながらも、彼女の命を救うために緊急手術を行った。女性の生命を救い、ルイスは手術後の達成感を感じた。クロエは牢の船長ジャン=ピエール・デュモンの若き妻であった。

 

本文

******
登場人物「1935年1月1日時点」  
アンヘル・ディアンジェロ16歳:ハーバーテックソリューションズ(HTS)の会長兼CEO。ル・クリスタル・ホテル所有「200万ドルで居抜き購入」。アンヘル航空㈱会長兼CEO「資本金10億ドル」。ヴィヴィ警備会社「資本金1千万ドル」オーナー。軍事産業への共同投資60億ドル「配当金:1,929万ドル/ 週」。現預金50億ドル「シャドウ・ネクサスから略奪」と債権「総額不明」所有。
マリア・エバ・ドゥアルテ16歳。アンヘルの妻。AMレジャー総合開発㈱「資本金1億ドル」社長兼COO。悪魔のように可愛い女。 
****** 
アンヘルの家族 
イタリア系の不法移民で、彼らの家族名は「ディアンジェロ」です。以下はディアンジェロ家の家族構成です: 
・父親ヘクター・ハミルトン(28歳)「10歳の若返り」:アンヘルから10億ドルの資金を貰い、テキサスで石油と天然ガスを発掘した。 
******
ヘクターの資金7億4,060万ドル。前々回の最後で石油精製会社の資本金を5千万ドルとして計上した。別途にエドゥワルドから50億ドルの資金を預かる。
******
・母親ローサ・ディアンジェロ(35歳):ローサ・ディアンジェロは家庭を守りながら、地域の共同体でボランティア活動を行っています。彼女は子供たちが教育を受けることを強く望んでいます。 ヘクターの浮気が発覚し、ヘクターと離婚した。
・兄ルイス・ディアンジェロ(18歳):表向きはニューヨーク市警警部兼総合建設会社NYHCの社員。 実はマフィアのアンダーボス。
・ルイスの双子の姉マリア・ディアンジェロ(18歳):マリア・ディアンジェロは地元の専門校に通っています。 ヘクターに誘われ、行動を共にすることになる。
******
ルイスの資金は小切手50億ドル。金塊50トン。銀錠50億両「内訳は一般会計20億両、特別会計30億両である」。第21章第②話までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は30億両の予算を組み、今までに8,345,599両支出した。
******
ルイスの元捕虜兵。現在は忠実な部下と妻たち。
1.周恩来(ジョウ・エンライ)(37歳)。ルイスの参謀。江蘇省出身。
・穏やかで知的な性格をしており、どんな状況でも冷静さを失わない。
・話し方には礼儀があり、分析的で思慮深い。
・組織的な思考を持ち、リーダーシップを取れる。
・他者に対しては理解深く、共感を示すことができる。
2.ナディア・アミール・アル・サン(42歳)。ルイスの第一夫人「政治担当」。上海出身。
・自立心が強く、決断力がある女性。
・社会的な問題に対して意識が高く、積極的に意見を表明する。
・優雅で洗練された振る舞いを持ち、周囲に対しても敬意を払う。
3.サリマ・ファイサル・アル・ハウ(25歳)。ルイスの第二夫人「会計担当」。江西省出身。
・勇敢で情熱的な性格。自分の信念に強く固執する。
・感情が豊かで、時に感情的になりやすい。
・直感に頼ることが多く、行動的で果敢な面がある。
4王光美(ワン・グアンメイ)(14歳)。ルイスの第三夫人「軍隊担当」。山東省出身。
・年の割には成熟しており、好奇心が強い。
・柔軟な思考を持ち、新しい環境にも早く適応する。
・人懐っこく、周りの人々との交流を楽しむが、時には頑固な一面も。
5.テンパ・ティンリー(24歳)。パイロット。チャン・ユン(42歳)の長男。チャン・ユン(42歳)は摩梭(モソ)族:落水下村出身。
******
ルイス18歳:巴蜀・雲南王と言っても、元清朝の王女:王華(ワン・ファ)が認めただけである。この物語の主人公。
ルイスの妻:エリザベス・ハーレイ。ジョン・ハーレイ(40歳)「ブリタニア号の船長」の元妻。
年齢: 38歳
背景: イギリスの中流家庭出身。元夫の仕事を支えるために、度々海を渡る。
性格: 温和で思慮深く、家族を深く愛する。元夫と同様に最初はルイスに不信感を抱いていたが、彼の真摯な態度に心を動かされ、夫と別れてルイスと結婚する。
義理の息子:ウィリアム・ハーレイ
年齢: 16歳
背景: 船長の息子として海上生活に慣れ親しんでいる。航海術に興味を持ち、父から学んでいる。
性格: 好奇心旺盛で活発。ルイスの冒険的な精神に魅了され、彼を尊敬するようになる。
義理の娘:エマ・ハーレイ
年齢: 14歳
背景: 船長の娘として幼少期から多くの国を訪れている。異文化に対する興味が強い。
性格: 社交的で好奇心が強く、新しい環境にすぐに適応する。ルイスの持つ異文化への敬意と好奇心に共感を覚える。
******
ルイスには他にも妻「側室」がいる。王華(ワン・ファ)(45歳)、李芳蓉(リー・ファンロン)(37歳)、劉芸芸(リウ・ユェンユェン)(38歳)、劉月華(リウ・ユエファ)(48歳)、陳明花(チェン・ミンファ)(38歳)の6名である。

******


ニューヨーク市の行政地図 

アメリカ合衆国東部 
昭文社「コンパクト世界地図帳」P52 


フロリダ州の地図と出典「南部にマイアミ、更に南部にホームステッドがある」 

北米「ダラスを中心として」
帝国書院「地歴高等地図」P67,68


マフィアの組織図「パブリックドメイン」


紅軍の長征

中国地図
出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8

 

☆外国商船の拿捕
7月5日金曜日、午後3時。ルイスは早朝からの外国商船との戦いを終え、博南道と交わる地点「怒龍」に船を停泊し、直ちに戦後処理を行った。拿捕したのはフランス国籍の大型商船である。

名称: "ラ・シレーヌ"(La Sirène)
・用途: 貿易船(高価値貨物の運搬に特化)
・長さ: 100メートル
・幅: 20メートル
・重量: 5,000トン
・乗員数: 300名

特徴
・推進方法: 主にディーゼルエンジンを使用。1935年当時は蒸気機関からディーゼルエンジンへの移行期であったため、より効率的なディーゼルエンジンを採用。
・航海設備: 簡易なナビゲーションシステム(海図とコンパス)、無線通信装置を備える。この時代では衛星通信やGPSは存在しないため、伝統的な航海術が重要。
・貨物室: 貨物室は広大で、特に価値の高い品物を運ぶための保安措置が施されています。物品の安全を確保するためのロックシステムや区切られた保管スペースがある。
・居住スペース: 乗員用の居住スペースは機能的であり、長期間の航海に対応。乗員の快適性を考慮した設計で、適切なベッドスペース、食堂、社交のためのスペースが含まれています。

「ラ・シレーヌ」は、その時代の貿易船として最適な機能と設備を備えています。エンジンの効率、航海術の伝統的な方法、そして乗員と貨物の安全に焦点を当てた設計が特徴です。

船の積荷:
・ケシの花500トン:約25,000両
・フランス産ワイン、ブランデー、香水、ファッションアイテム: 約300両
・芸術品「絵画、彫刻、装飾品」: 約200両
・高級食材「トリュフ、フォアグラ、チーズ類」: 約100両
・機械部品「時計部品、小型産業機械」: 約150両
・医薬品「当時の医薬品、薬用ハーブ、薬草」: 約50両
合計: 約33,000両

軍資金:
・金貨と銀貨: 約500両
・宝石「ダイヤモンド、サファイア、ルビー」: 約300両
・金塊と銀塊: 約200両
合計: 約1,000両

拿捕したフランス商船はバラストとしてコンクリート500トン、セメント100トン、モルタル50トン、石材2,000トン、鉄鋼50トンなどを積載していた。これは怒江や瀾滄江に掛かっている木の橋「全長100メートル」を建て替えるのに充分な量と言えるだろうか?

ルイスは捕らえた水夫300名に聞いてみたところ、有り難いことに橋梁設計の専門家32歳「男」と土木設計の専門家30歳「女」がいた。彼ら夫婦の意見はこうである。

******
フランス商船が積載していた材料を元に、100メートル長の木製橋を鉄筋コンクリート製の橋に建て替えるための材料量を評価します。

積載材料
コンクリート: 500トン
セメント: 100トン
モルタル: 50トン
石材: 2,000トン
鉄鋼: 50トン
橋の建設に必要な材料量「100メートル長の橋の場合」
コンクリート: 約80立方メートル「約200トン」
セメント: 約24トン
モルタル: 一般的には全体量の約5%なので、約4立方メートル
石材: およそ500立方メートル「約1,250トン」
鉄鋼: 約8トン

評価
コンクリート: 500トンのコンクリートは、建設に必要な200トンを大きく上回っています。十分な量が確保されています。
セメント: 100トンのセメントも、約24トンの必要量を上回っており、充分です。
モルタル: 50トンは4立方メートルよりも多い量であるため、十分です。
石材: 2,000トンの石材は、1,250トンの必要量を上回っており、充分です。
鉄鋼: 50トンは、必要な8トンを上回っており、十分です。
以上の評価から、拿捕した商船の積載材料は、100メートル長の木製橋を鉄筋コンクリート製の橋に建て替えるのに必要な量としては、充分であると言えます。
******

ルイスは安心し、この夫婦を橋梁・土木建設の責任者として雇用することに決めた。彼らも捕虜の身から開放されるので否とは言わなかった。
男の方は ジャン・レミー(32歳)、女の方はエレーヌ・レミー(30歳)と名乗った。

☆捕虜の女性の腹痛
ルイスがふたりに橋の建設について質問している時、捕虜の女性が腹痛を訴えた。右下腹部を押さえて七転八倒の苦しみ様である。残念なことにルイスの部隊では医者と名のつくものはいない。ラ・シレーヌ号の乗組員の中にも医者も看護婦も一人もいなかった。フランスから来るときは居たそうだが、この船が怒江へ入る時、医者も看護婦も"山奥に入るのは嫌だ"と言って逃げたそうである。やむを得ず、ルイスが女性の容態を診たが、どうも虫垂炎「俗に言う盲腸」のようである。

船内は緊張感に包まれていた。ルイスは、苦悶する女性の腹部を慎重に触診し、急速に悪化する虫垂炎の可能性を認識した。乗組員の中には医療の専門家がおらず、ルイス自身も医学の知識はほとんど持っていない。しかし、女性の命を救うため、彼は重大な決断を下す。

ルイスは手術箇所の清潔を保つため、女性の下腹部の毛を剃ることから始めた。手元にあった小型の鋭いナイフを使用し、慎重に毛を剃り取った。周囲の乗組員がランプの灯りを強め、視界を確保した。

手元にあったアルコールまたはその他の消毒液で、手術部位を清潔にした。ルイス自身も手を丁寧に洗浄し、できる限りの無菌状態を作り出す努力をした。

クロエの症状が急を告げた時、ルイスの心は混乱と決断の狭間で揺れ動いた。彼の医学知識は限られており、手術という選択は高いリスクを伴う。しかし、彼の目の前で苦しむクロエを放っておくことはできなかった。

「見様見真似」という言葉がルイスの心に浮かぶ。彼はかつて、船旅の途中で乗組員の一人が似たような症状を訴え、緊急の手術が行われたのを目撃していた。その時の医師の動きを思い出しながら、ルイスは自身の手に託された責任の重さを感じつつ、手術を決意する。

ルイスの手は震え、心臓は激しく打ち鳴らしていた。切開する場所、深さ、そして縫合の方法まで、彼は過去の記憶を頼りに手術を進めた。彼の頭の中には、自らが行う行動の一つ一つがクロエの命を左右するという重圧が絶え間なくのしかかっていた。

手術が進むにつれて、ルイスの心は二つの感情で満たされていった。一つは、クロエの命を救うことへの強い意志。もう一つは、もし手術が失敗したらという恐怖。しかし彼はこの恐怖を抑え込み、手術を完了させることに集中した。

ルイスの内面には、医者でもない自分が命を救う手術を行うという、深い葛藤があった。彼は自分自身に問いかける。「これが正しい選択なのか?」と。しかし、彼はクロエの痛みに対する共感と、彼女を救うという使命感に駆り立てられ、手術を行う決意を固めた。

ルイスはナイフを使って女性の右下腹部に約5センチの切開を行った。彼は不安定な手で、しかし必要なだけの深さで切開した。手術部位から腫れた盲腸を慎重に取り出した。ルイスは直観と観察に頼りながら、傷つけないように注意深く盲腸を取り除いた。手術が終わった後、ルイスは針と糸を使って傷口を閉じた。彼は可能な限り丁寧に縫合し、感染を防ぐために再度消毒を行った。

船内の緊迫した雰囲気は、手術の間、一層強まった。ランプの揺らめく灯りの中、ルイスの手は緊張で震えながらも、女性の命を救うための処置を進めた。周囲の乗組員たちは息を呑み、この一部始終を見守っていた。女性は苦痛に顔を歪めつつも、ルイスの手に自らの命を委ねていた。

手術が終わり、彼女が安堵の表情を浮かべると、ルイスの心は一時の安堵で満たされた。彼は自分の行動が彼女の命を救ったことに深い達成感を感じ、同時に、自分自身の限界を超えた行動に対する驚きと自責の念に苛まれた。

この一連の出来事は、ルイスにとって深い自己省察の機会となり、彼のリーダーシップと人間性に新たな側面を加えることとなった。彼は、これから先、どんな状況に直面しても、自分の決断に対する信念を持ち続けることの重要性を深く理解したのである。

女性はこの船の船長ジャン=ピエール・デュモン(28歳)の妻で、クロエ・デュモン(23歳)と名乗った。クロエは若く美しく、フランス人特有の気品と魅力を持ち、ルイスは彼女に心を奪われた。勿論、そういった感情は口には出さない。ルイスはあくまでも占領者であり、彼らは捕虜なのだ。

捕虜にした船員たちの話によると、彼らは三月ほど前に「怒龍」に到着し、ミャンマーのラシーヌ地方まで馬で往復したそうである。そこでケシの花を買い付け、泸水(ルーシュェイ)へと向かう予定だったという。

ルイスは彼らの話を聞き、不審に思った。泸水(ルーシュェイ)ではすでにアヘンの精製所は殲滅したはずだが、他にもあったのだろうか?あるとすればルイスたちが唯一捜索していない場所即ちルイス城しかない。

ルイスは恐ろしい可能性に気付いたが、このことは秘して誰にも漏らさなかった。大理の責任者の罪を追求するのが先だし、出来れば自ら告白して欲しかった。

7月5日金曜日、午後6時。ラ・シレーヌ船長室。
捕虜の中には料理人が3名も居り、彼らの指図で豪華なフランス料理が準備されている。ルイスは周恩来(ジョウ・エンライ)からの報告を聞いていた。

周恩来(ジョウ・エンライ):ミャンマーの武器商人から連絡があり、四日後オートバイク100台「前後二人乗り」を搭載した船が怒江からルイス城へ向かうそうです。

ルイス:四日後と言うと明日にも「怒龍」を通過するという事だな。

周恩来(ジョウ・エンライ):その通りです。

ルイス:お前。あの男に何時連絡したのだ?

周恩来(ジョウ・エンライ):大理へハイオクガソリンを買いに行った日です。連絡さえ付けば彼には手に入らない物はありません。値段は少し吹っかけられました。

******
・モデル:1935年式「グランド・ツアラー」
・特徴:優れた機械的信頼性、流線型のデザイン、快適な乗り心地を提供。長距離の旅行にも適している。
・エンジン:高性能4ストロークエンジン
・最高速度:時速100キロメートル
・燃料効率:リットルあたり25キロメートル

価格:
・1台あたりの価格:約300両「日本円で約600万円」
・総計(100台):約30,000両「日本円で約6億円」
******

ルイス:了解した。お前に2本の橋の建設費を2万両預けておくから、橋梁・土木建設の責任者夫婦と共同して橋を完成させろ。人夫を1,100名残しておく。俺はオートバイクが着き次第、大理に向けて出発する。

7月の半ば、怒江にかかる「怒龍橋」の建設現場では、ルイスと1,100名の人夫たちが汗を流していた。暑い日差しの下、セメントと水を混ぜ、コンクリートを作る作業が行われている。乗組員や捕虜たちも、共同で作業に参加していた。

ルイスは捕虜たちと肩を並べて働き、時には軽口を交わしながらも、彼らとの距離を縮めていった。彼は作業を通じて、彼らの技能と労力を高く評価し、尊重の念を示していた。捕虜たちも、当初の緊張が解け、ルイスと協力して作業を進めるようになっていた。

橋の建設は、橋梁・土木建設の責任者であるジャン・レミーとエレーヌ・レミー夫妻の指導のもと、順調に進んでいた。ルイスは彼らの専門知識を信頼し、建設作業の指揮を任せていた。

その頃、船内での盲腸手術から回復したクロエ・デュモンは、ルイスと軽い会話を交わす程度に元気を取り戻していた。彼女はルイスの勇気ある行動に感謝の念を抱いており、ルイスもまた、彼女の回復を心から喜んでいた。

クロエは、夫である船長ジャン=ピエール・デュモンとともに、時々ルイスを訪ね、作業の様子を見守っていた。ルイスとクロエの間には、捕虜と占領者という立場を超えた、特別な絆が芽生え始めていた。

彼女の明るさとフランス人特有の魅力は、ルイスにとって心の潤いとなっていた。二人の間の会話は、しばしば笑いに包まれ、建設現場の重労働の中での一時的な安らぎを提供していた。

やがて、待ちに待ったオートバイクが「怒龍」に到着した。ルイスはその到着を一日千秋の思いで待っており、バイクが到着するやいなや、大理へ向けて出発する準備を始めた。

オートバイクの到着は、ルイスの計画に新たな動きをもたらすものであり、彼は次なる行動への期待と緊張を内に秘めていた。

ルイスは建設現場を後にし、ジャン・レミー夫妻と捕虜たちに橋の完成を託し、大理への旅立ちを迎えた。彼の胸の中には、今後の展開への不確かな予感と、これまで築いた人間関係への感謝が交錯していた。

橋梁建設とクロエとの交流、そしてオートバイクの到着は、ルイスの運命を大きく変える出来事となった。彼はこれらの経験を胸に、新たな挑戦へと歩を進めていったのである。

7月16日の火曜日、午前10時に設定された大理役所での重要な会見は、緊張感に満ちた空間の中で静かに始まった。ルイスとジャン=ピエール・デュモンは、経験豊かな役所の責任者、李春華と対面していた。会議室の空気は、重要な交渉が控えていることを予感させるものだった。

この日の議題はケシの花の品質定めと価格の交渉。ルイスとジャン=ピエールは、オートバイクで運んできた5トンのケシの花の取引について説明していた。ジャン=ピエールは商人らしく、5トンのケシの花の仕入れ値が250両であること、さらに残りの450トンは1週間後に馬車で運ぶ予定であることを明かした。彼は運賃、危険料、そして利益を考慮に入れ、「最低1万両は得なければならない」と主張した。

李春華は彼らの話を静かに聞き、自身の経験と勘を頼りに内心で価格を検討していた。彼の表情は穏やかだったが、その眼差しは交渉の流れを鋭く捉え、彼の応答を計算していることが伺えた。

ルイスはこの交渉を慎重に見守りながら、必要に応じて自分の意見を挟んでいた。彼はジャン=ピエールを支援する一方で、李春華の反応を見極め、自らの戦略を練り上げていた。

会議が進むにつれ、李春華はついに自分の見解を述べた。「ケシの花の品質と量を確認した上で、適切な価格を提示いたします」と冷静に言葉を紡いだ。

この会見は、ルイスとジャン=ピエールにとって決定的な意味を持ち、大理の役所での交渉の結果が彼らの今後の運命を左右することになるのだった。会議室の空気は、これから始まる出来事の重要性を静かに示していた。

☆ジャン=ピエールの目論見
ルイスはその日、オートバイクに乗り、一旦「怒龍橋」の建設現場に帰っていった。一人残されたジャン=ピエールは"ルイスを上手く説得すれば、ケシの花密輸の罪を許してくれるかも知れない"と甘いことを考えていた。

"その証拠に俺を大理の街に置いていったじゃないか"。取り敢えずはケシの花450トンが到着するのを何処かの宿屋に泊まって待とう"

ジャン=ピエールは大理のしもた屋に1週間も滞在し、ルイスとケシの花45トンが到着するのを待った。

☆ルイスの行動
ルイスはジャン=ピエールが逃亡するはずがないと思っていた。理由は一つ。ケシの花の売却だ。少なく見積もっても、3,4万両はあるだろう。彼はそのうち半分を渡すから俺を釈放して欲しいと言い出すに違いない。新婚のクロエの虫垂炎のことなど彼は頭の片隅にも置いていなかった。薄情なやつだ。ルイスはクロエがどうしているかと心配になり、オートバイクで「怒龍橋」に向かっているというのに。

☆ルイスとクロエとの再会
ルイスが「怒龍橋」に到着した時、クロエはすっかり元気になっていた。土木責任者のエレーヌ・レミー(30歳)と一緒に作業をしていると聞き、ルイスは作業小屋へ向かった。

屋外のデッキで作業をしている女性の姿が見えた。女性は緑色のタンクトップを着ており、その下にはデニムのショートパンツを履いている。ショートパンツの上には、ベルトが緩く巻かれており、パンツのウエストバンドが少し見えている。足には白いスニーカーを履いており、片手に作業用のグローブを持ち、もう片方の手にはもう一つのグローブをはめていいる。

背景には木々があり、自然に囲まれた居心地の良い場所であることが分かる。デッキのフローリングは木製で、女性が作業をしていることが示唆されている。全体的にリラックスした雰囲気の中でのアクティブなシーンに見える。

ルイスが声を掛けるとクロエは振り向き、流れる汗を拭いながらルイスに輝くばかりの美しい顔をルイスに見せた。"あら、ルイスさん。お帰りなさい。役所に行ったと聞いていたけど"

ルイス:クロエさんの顔が見たくてとんぼ返りしてきたのさ。

クロエ:ルイスさんもお口が上手いのね。ところで、ジャンも一緒じゃなかったの?

ルイス:役所までは一緒だったけど出てから別れたのさ。俺はクロエさんの顔が早く見たくてオートバイクの給油だけしてすっ飛ばしてきたんだよ。ジャンは大理の宿屋に泊まると言っていたな。

クロエ:そうなの。それでは仕方がないわね。ルイスさん。私ね。貴方に聞きたいことがあるのよ。

ルイス:どんな事だい?

クロエ:私たち夫婦の今後の事よ。無罪放免してくれるの?

ルイス:無罪放免は難しいな。ジャンにはケシの花密輸の疑いが掛かっている。現にケシの花を50トンも船に搭載していたし、ミャンマーの運び屋から25,000両で購入したという証言も水夫たちから得られた。最低でも懲役10年は覚悟してもらわないといけないな。

クロエ:私を貴方の自由にしても良いと言ったら無罪放免にしてくれる?

ルイス:俺は貴女を取引の材料にするつもりはないし、俺には妻や側室、側女と只でさえ沢山女性を抱えている。揉め事を増やしたくないのさ。

クロエ:そんなに私って魅力が無いのかな?

ルイス:そうじゃない。君は物凄く魅力的だ。はっきり言って俺は君が大好きだ。だから君を取引の材料には使いたくないし、女たち同士の醜い争いに巻き込みたくないんだよ。

ルイスはクロエが大好きだったが、後宮の争いごとに巻き込むつもりはなかった。話はそれで打ち切り、ルイスは大理に向かうまでの1週間足らずをクロエの近くで過ごした。

7月23日火曜日の午後、大理の役所前は緊張で静まり返っていた。ルイスの計画が動き始めていた。彼の真の狙いは、ケシの花の取引現場を押さえ、李春華を現行犯逮捕し、彼の農場内にあるアヘン精製所の存在を暴くことにあった。

時が経ち、馬車が到着し、そこから荷物を降ろす音が響いた。それは、残りのケシの花500トン、総額4万両に及ぶ大量の取引だった。場の空気は一層重くなる。ルイスはこの瞬間を待っていた。

取引のために李春華とジャン=ピエール・デュモンが役所の外に出ると、ルイスの罠が炸裂した。役所を取り囲むように配置されたオートバイク100台と、隙間なく並ぶルイスの部隊が彼らの逃走路を塞いでいた。李春華とジャン=ピエールは状況を把握する間もなく拘束された。ルイスの計画は完璧に実行されていた。

役所前は混乱に包まれ、その中でルイスは冷静を保ち続けていた。彼の部隊は迅速かつ効果的に動き、李春華とジャン=ピエールを厳重に拘束した。彼らは無力であり、ルイスの指示に従うしかなかった。

ルイスはこの状況を見据え、李春華とジャン=ピエールを尋問する準備を整えた。彼の目は冷徹で、李春華の農場内に隠されたアヘン精製所についての情報を引き出すことに集中していた。

この日、ルイスは彼の領土内でのアヘン取引に対する強い姿勢を示した。彼の行動は、周囲に彼の影響力と決断力を明確に示し、その地位をさらに強化したのであった。役所前の混乱の中で、ルイスの計画は見事に成功を収めていた。

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

周恩来から、ミャンマーの武器商人がオートバイクを運ぶ船がオートバイク100台を怒江からルイス城へ運ぶ計画があるとの報告を受けた。このバイクは機械的信頼性が高く、快適な乗り心地を提供するものでした。 ルイスは周恩来に2万両を預け、橋梁・土木建設責任者夫妻と協力して橋建設を進めるよう命じる。オートバイクが到着次第、ルイスは大理に出発する予定である。 建設中の「怒龍橋」で、ルイスは1,100名の人夫と共に作業しており、捕虜たちも作業に協力していた。ジャン=ピエールはルイスを説得してケシの花密輸の罪を許してもらおうと考えていた。 ルイスはジャン=ピエールがケシの花を売る必要があり、逃亡はしないだろうと確信していた。盲腸で苦しむ新婚のクロエのことを顧みもしないジャン=ピエールの行動をルイスは軽蔑していた。 ルイスとクロエとの関係は親密になり、「怒龍橋」で再会した時、二人は感情を深めるが、ルイスはクロエを利用しようとせず、自分の後宮での問題を避けたいと説明した。クロエは自らの魅力を疑うも、ルイスは彼女に好意を抱いていることを認めた。 7月23日、大理役所前ではルイスの計画が動き、ケシの花取引の場を襲撃し、李春華とジャン=ピエールを現行犯逮捕した。この行動により、ルイスは領土内のアヘン取引に対する強い姿勢を見せ、影響力と決断力を強化した。