小説「海と陸の彼方へ」

 

第五章大渡河に掛かる橋

 

第30話ルイス海賊となる「外国商船との戦い」⑤

 

前書き

ルイスは、劉月華(リウ・ユエファ)(48歳)の家族を炭鉱夫たちから救出したが、彼女の夫、黄文遠(ホアン・ウェンユエン)(54歳)は彼らに拷問され、ルイスが来た時にはすでに息を引き取っていた。ルイスは捕虜にした炭鉱夫たちを役所には引き渡さず、炭鉱に取り敢えず監禁しておくことにした。周恩来(ジョウ・エンライ)に会うため戦車8台で現れた闇武器商人に相談し、遺体を病院に運び、死亡証明を取り役所に届けた。葬式などは遺族の采配に任せ、劉月華(リウ・ユエファ)の泊まっている宿の名前だけ聞いておいた。非情なようだがルイスにも闇武器商人と交渉し、有益ならば軽戦車を購入せねばならぬ。☆午後7時:妓楼「雲影閣(ユン イン ゲ)」……ルイスと周恩来(ジョウ・エンライ)はモスクワの闇武器商人イワン・アレクセーエフ(47歳)と軽戦車「ルノーFT-17」の購入について話し合った。

 

本文

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登場人物「1935年1月1日時点」  
アンヘル・ディアンジェロ16歳:ハーバーテックソリューションズ(HTS)の会長兼CEO。ル・クリスタル・ホテル所有「200万ドルで居抜き購入」。アンヘル航空㈱会長兼CEO「資本金10億ドル」。ヴィヴィ警備会社「資本金1千万ドル」オーナー。軍事産業への共同投資60億ドル「配当金:1,929万ドル/ 週」。現預金50億ドル「シャドウ・ネクサスから略奪」と債権「総額不明」所有。
マリア・エバ・ドゥアルテ16歳。アンヘルの妻。AMレジャー総合開発㈱「資本金1億ドル」社長兼COO。悪魔のように可愛い女。 
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アンヘルの家族 
イタリア系の不法移民で、彼らの家族名は「ディアンジェロ」です。以下はディアンジェロ家の家族構成です: 
・父親ヘクター・ハミルトン(28歳)「10歳の若返り」:アンヘルから10億ドルの資金を貰い、テキサスで石油と天然ガスを発掘した。 
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ヘクターの資金7億4,060万ドル。前々回の最後で石油精製会社の資本金を5千万ドルとして計上した。別途にエドゥワルドから50億ドルの資金を預かる。
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・母親ローサ・ディアンジェロ(35歳):ローサ・ディアンジェロは家庭を守りながら、地域の共同体でボランティア活動を行っています。彼女は子供たちが教育を受けることを強く望んでいます。 ヘクターの浮気が発覚し、ヘクターと離婚した。
・兄ルイス・ディアンジェロ(18歳):表向きはニューヨーク市警警部兼総合建設会社NYHCの社員。 実はマフィアのアンダーボス。
・ルイスの双子の姉マリア・ディアンジェロ(18歳):マリア・ディアンジェロは地元の専門校に通っています。 ヘクターに誘われ、行動を共にすることになる。
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ルイスの資金は小切手50億ドル。金塊50トン。銀錠50億両「内訳は一般会計20億両、特別会計30億両である」。今までに一般会計は20億両の予算のうち506万5千両支出した。特別会計は30億両の予算を組み、今までに827,799,250両支出した。前話でイギリス商船ブリタニア号とその積荷を買い取り、所有者の妻エリザベスに銀錠380,150両分の為替を支払った。またイントレピッド号の水夫たち150名にそれぞれ500両の報奨金「合計75,000両」を支払った。総計すると特別会計は30億両の予算のうち支出額は83,235,075両である。
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ルイスの元捕虜兵。現在は忠実な部下と妻たち。
1.周恩来(ジョウ・エンライ)(37歳)。ルイスの参謀。江蘇省出身。
・穏やかで知的な性格をしており、どんな状況でも冷静さを失わない。
・話し方には礼儀があり、分析的で思慮深い。
・組織的な思考を持ち、リーダーシップを取れる。
・他者に対しては理解深く、共感を示すことができる。
2.ナディア・アミール・アル・サン(42歳)。ルイスの第一夫人「政治担当」。上海出身。
・自立心が強く、決断力がある女性。
・社会的な問題に対して意識が高く、積極的に意見を表明する。
・優雅で洗練された振る舞いを持ち、周囲に対しても敬意を払う。
3.サリマ・ファイサル・アル・ハウ(25歳)。ルイスの第二夫人「会計担当」。江西省出身。
・勇敢で情熱的な性格。自分の信念に強く固執する。
・感情が豊かで、時に感情的になりやすい。
・直感に頼ることが多く、行動的で果敢な面がある。
4王光美(ワン・グアンメイ)(14歳)。ルイスの第三夫人「軍隊担当」。山東省出身。
・年の割には成熟しており、好奇心が強い。
・柔軟な思考を持ち、新しい環境にも早く適応する。
・人懐っこく、周りの人々との交流を楽しむが、時には頑固な一面も。
5.テンパ・ティンリー(24歳)。パイロット。チャン・ユン(42歳)の長男。チャン・ユン(42歳)は摩梭(モソ)族:落水下村出身。
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イギリス人捕虜
船長:ジョン・ハーレイ(John Harley)
年齢: 40歳
背景: イギリス出身の熟練した船長。厳格だが公正で、乗組員からの信頼が厚い。商船航海に長年従事しており、東アジアの海域に精通している。
性格: 最初はルイスの行動に反発していたが、その公正な行動原理と人間性に次第に感銘を受け、ルイスに忠誠を誓うようになる。
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ルイス18歳:巴蜀・雲南王と言っても、元清朝の王女:王華(ワン・ファ)が認めただけである。この物語の主人公。
ルイスの妻:エリザベス・ハーレイ。元ジョン・ハーレイ(40歳)「ブリタニア号の船長」の妻。
年齢: 38歳
背景: イギリスの中流家庭出身。元夫の仕事を支えるために、度々海を渡る。
性格: 温和で思慮深く、家族を深く愛する。元夫と同様に最初はルイスに不信感を抱いていたが、彼の真摯な態度に心を動かされ、夫と別れてルイスと結婚する。
義理の息子:ウィリアム・ハーレイ
年齢: 16歳
背景: 船長の息子として海上生活に慣れ親しんでいる。航海術に興味を持ち、父から学んでいる。
性格: 好奇心旺盛で活発。ルイスの冒険的な精神に魅了され、彼を尊敬するようになる。
義理の娘:エマ・ハーレイ(Emma Harley)
年齢: 14歳
背景: 船長の娘として幼少期から多くの国を訪れている。異文化に対する興味が強い。
性格: 社交的で好奇心が強く、新しい環境にすぐに適応する。ルイスの持つ異文化への敬意と好奇心に共感を覚える。
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ルイスには他にも妻「側室」がいる。王華(ワン・ファ)(45歳)、李芳蓉(リー・ファンロン)(37歳)、劉芸芸(リウ・ユェンユェン)(38歳)の3名である。

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ニューヨーク市の行政地図 

アメリカ合衆国東部 
昭文社「コンパクト世界地図帳」P52 


フロリダ州の地図と出典「南部にマイアミ、更に南部にホームステッドがある」 

北米「ダラスを中心として」
帝国書院「地歴高等地図」P67,68


マフィアの組織図「パブリックドメイン」


紅軍の長征

中国地図
出典 建築資料研究社「住まいの民族建築学」浅川滋男著 P8

 

6月24日月曜日午後8時半、泸水(ルーシュェイ)の病院
ルイスは、劉月華(リウ・ユエファ)(48歳)の家族を炭鉱夫たちから救出したが、彼女の夫、黄文遠(ホアン・ウェンユエン)(54歳)は彼らに拷問され、ルイスが来た時にはすでに息を引き取っていた。ルイスは捕虜にした炭鉱夫たちを役所には引き渡さず、炭鉱に取り敢えず監禁しておくことにした。

周恩来(ジョウ・エンライ)に会うため戦車8台で現れた闇武器商人に相談し、遺体を病院に運び、死亡証明を取り役所に届けた。葬式などは遺族の采配に任せ、劉月華(リウ・ユエファ)の泊まっている宿の名前だけ聞いておいた。非情なようだがルイスにも闇武器商人と交渉し、有益ならば軽戦車を購入せねばならぬ。

☆午後9時:妓楼「雲影閣(ユン イン ゲ)」
ルイスと周恩来(ジョウ・エンライ)はモスクワの闇武器商人イワン・アレクセーエフ(47歳)と軽戦車「ルノーFT-17」の購入について話し合った。

ルイス:軽戦車「ルノーFT-17」を購入したい。幾らで売るつもりなのか?

イワン・アレクセーエフ:皆さんには1台500両で購入してもらっている。

周恩来(ジョウ・エンライ):皆さんとは誰か?何処の組織のことを言っているのか?中国には軽戦車で渡れる河など存在しない。誰も買う者など居ないはずだ。

イワン・アレクセーエフ:中々鋭いですな。確かに中国では未だに購入する組織はありませんが、あなた方が橋を建設すれば中国全土を支配できますぞ。

ルイスはこの男の言っていることは事実だと思った。だが、装甲の薄さが気に入らないし、ここまでどうやって運んできたのかも疑問であった。

ルイス:イワンさん。ちょっと聞いておきたいことがある。橋を建設するのは莫大な費用と時間がかかるので現実的でない。平和になれば私がそれを実行しよう。この非常時には河を渡る以外の方法で重慶やその他の都市に供給する必要がある。

イワン・アレクセーエフ:ははーん。貴方はこの軽戦車をどこから運んできたのか知りたいのですな。泸水(ルーシュェイ)は怒江(ヌージャン)流域にあることはご存知でしょう。

ルイス:うん。それは側室の劉芸芸(リウ・ユェンユェン)(38歳)から聞いて知っている。

イワン・アレクセーエフ:怒江(ヌージャン)は、長江「揚子江」とは別の水系に属しています。怒江はチベット高原から発し、雲南省を南下してミャンマー(ビルマ)を経由してインド洋へと流れていきます。

ルイス:分かったぞ。お前はミャンマー(ビルマ)から怒江(ヌージャン)経由で運んできたのだな。

イワン・アレクセーエフ:その通りでございます。重慶には上海から長江経由で運べますよ。

ルイス:良し、1台500両で買ってやろう。その代わり、催涙弾砲「非致死性」1台、催涙弾「非致死性」100発、軽機関銃「チェコスロバキア製ブルノZBVz26」1丁及び軽機関銃「チェコスロバキア製ブルノZBVz26」用の弾倉「30発入り」10個を只でつけろ。

イワン・アレクセーエフは計算してみた。催涙弾砲「非致死性」1台の値段は150両、催涙弾「非致死性」100発の値段は50両、軽機関銃「チェコスロバキア製ブルノZBVz26」1丁の値段は25両、弾倉「30発入り」10個の値段は50両、つまり275両分をサービスで付けることになり、軽戦車の実際の値段は225両だ。これでは割に合わない。

イワン・アレクセーエフ:分かりました。軽戦車1台は250両にしましょう。他の品物の値段はこうさせて下さい。催涙弾砲「非致死性」1台の値段は150両、催涙弾「非致死性」100発の値段は50両、軽機関銃「チェコスロバキア製ブルノZBVz26」1丁の値段は25両、弾倉「30発入り」10個の値段は50両とし、別途購入していただく。

ルイスはその条件を飲み、8台全て購入した。付属品についても【催涙弾砲「非致死性」1台の値段は150両、催涙弾「非致死性」100発の値段は50両、軽機関銃「チェコスロバキア製ブルノZBVz26」1丁の値段は25両】この値段で8台分購入した。弾倉「30発入り」だけは余分に100個購入した。

ルイスが支払った金額は、軽戦車8台分2,000両、催涙弾砲「非致死性」8台分1,200両、催涙弾「非致死性」800発分400両、軽機関銃「チェコスロバキア製ブルノZBVz26」8丁分200両、弾倉「30発入り」100個分500両即ち総計で4,300両である。

何故ルイスが戦車に固執するか分かりにくいところもあると思うが、アヘン精製工場は重慶だけでなく、四川省の大きな都市全体に置かれていることが密偵の捜査により分かってきた。ルイスは軽戦車を利用し、各地に置かれたアヘン精製工場を一斉に攻撃しようと考えた。非致死性の催涙弾砲を用いて敵を混乱させ、気絶させることにより死傷者をなるべく出さないで制圧したいと考えている。しかし、敵の中には軽機関銃「チェコスロバキア製ブルノZBVz26」を使用する者もいるだろう。だから購入した軽戦車を改造し、装甲を標準の22mm程度から50mm程度まで強化したものを使用すれば軽機関銃「チェコスロバキア製ブルノZBVz26」の弾丸から身を守れると考えたのである。

ルイスはイワン・アレクセーエフに"今の軽戦車の装甲を50mmに改造して欲しい。改造費は1台につき100両出そう。出来上がった都度、上海経由で重慶まで運んで欲しい"と追加注文した。

イワン・アレクセーエフは快く承諾し、次の商品の入荷は長江経由となることも決定した。ルイスたちは商談が終わり、宴会に切り替えることにした。綺麗どころを呼んで大騒ぎをしている時、ルイスは向かいの席に、劉月華(リウ・ユエファ)(48歳)の家族がしょんぼりと遅い夕食を摂っているのを見つけた。

ルイスは立ち上がり、劉月華(リウ・ユエファ)(48歳)に声を掛けた。"劉月華(リウ・ユエファ)(48歳)さん、こちらにお泊まりだったのですね。てっきり普通の宿屋にお泊りとばかり思っていました"

劉月華(リウ・ユエファ):ルイスさん。奇遇ですね。いえ。泊まっているところは此処と違うのですよ。ただね。子供たちが意気消沈しているものだから、励ましてやろうと思ってここまで連れてきたのです。

ルイス:そうでしたか。私もついさっき商談が終わったものですから、劉月華(リウ・ユエファ)さんにひと目だけでもお目にかかりたいと思いましてね。教えていただいた宿屋まで押し掛けようかと思っていたのです。

ルイス:でも丁度良かったですよ。私達も此処に泊まりますから、劉月華(リウ・ユエファ)さんたちもご一緒に泊まりましょう。

ルイスは妓楼「雲影閣(ユン イン ゲ)」の女将を呼び、全員の宿泊を頼み、宿代を支払った。あまりのルイスのスピードに負けて、劉月華(リウ・ユエファ)も家族と一緒に泊まることを承諾した。

劉月華(リウ・ユエファ)のルックスは、ルイスが見るところ完璧だった。スタイリッシュでエレガントな彼女は、洗練されたファッションを身にまとっている。

彼女はブラックのクラシックな色のシルク製ミディドレスを着用し、高級なカシミアのコートでコーディネートしている。靴は上質なレザーヒールを履き、レザーのハンドバッグを持っている。

彼女は真珠のイヤリングやダイヤモンドのネックレスなど、上品なジュエリーを身に付け、腕には高級な腕時計が嵌められ、彼女のルックスに完璧に合わせられている。彼女の姿は自信と成熟を漂わせ、魅力的な服装で素敵にドレスアップした上品で成熟した女性の本質を完璧に体現している。

ルイス、18歳の若くハンサムな青年は、成熟した美しさを持つ劉月華(リウ・ユエファ)(48歳)に再開した瞬間から、彼女の魅力にまたもや引き込まれていた。彼は心からの尊敬と純粋な感動を込めて、劉月華に対する褒め言葉を惜しみなく心の中で彼女に呟(つぶや)いた。

"劉月華様、あなたのエレガンスと洗練された美しさには、ただただ感嘆するばかりです。あなたの内面から溢れ出る品格と知性は、本当に息をのむほどです"ルイスは、彼の心の中で生まれた深い感銘を言葉には出さず、飲み込んだ。

彼女はルイスの気持ちを彼の目の輝きで察してはいたが、現実に立ち返らざるを得なかった。夫の経営していた泸水(ルーシュェイ)の炭田で暴動が起き、暴動を起こした炭鉱夫たちを説得に帰ってきた彼女たち一家を炭鉱夫たちは拉致して炭鉱に閉じ込めたのである。

彼女の夫、黄文遠(ホアン・ウェンユエン)(54歳)は彼の所有する泸水(ルーシュェイ)の炭田の権利書を彼らに渡し、一家全員の身柄の解放を願い出た。その条件で許され、地上に出た瞬間、彼らが考えを替えたのである。

暴動の首謀者:黄文遠(ホアン・ウェンユエン)(54歳)。お前はまだ炭田を持っているだろう?残らず出せ。

黄文遠(ホアン・ウェンユエン)(54歳)は確かに連中の言う通り、他にも幾つかの炭田を持っていた。泸水-鎮寧炭田の大部分を所有していたのである。しかし、彼は権利書の在り処を彼らに教えなかった。

暴動の首謀者は権利書の在り処を白状させようとし、彼を拷問して殺した。その時にこの若きルイスが現れて彼らを拘束し、一家を救ってくれたのである。先ずは夫の埋葬と葬式を済ませねばならない。

このルイスとは以前に縁があった。彼に炭田発掘の技術を幾つか伝授したことがあったのである。彼の仕事が忙しくなり、彼は突然いなくなってしまった。彼は忘れているかも知れないが、密やかな関係を結んだこともあった。彼女は一日たりともそのことを忘れたことはなかった。

ふたりとも内心の思いを相手に伝えることはなかったが、お互いにここまでの経緯(いきさつ)を相手に伝えた。ルイスは、中国で民衆の苦しみを知り、アヘン撲滅の戦いを起こしたこととその過程でエリザベスと知り合い、愛し合うようになったこと、南充の石油王一家の大奥様に見込まれ、巴蜀と雲南の国王に推戴されたことなどを述べた。

劉月華(リウ・ユエファ)は夫が所有する泸水(ルーシュェイ)炭田で炭鉱夫の暴動が起き、それが原因で夫が殺害され、泸水(ルーシュェイ)炭田の権利書を奪われたことなどを述べた。

劉月華(リウ・ユエファ)の話を聞いたルイスの行動は素早かった。エリザベスに電話し、義理の息子のウィリアム・ハーレイ(16歳)を呼び出した。

ルイス:ウィリアム。お前の出番が来たぞ。巴蜀・雲南の王子たる勇気を示せ。

ウィリアム:ルイスさん。何をすれば良いの?

ルイス:テンパ・ティンリー(24歳)に運転して貰い、泸水(ルーシュェイ)の妓楼「雲影閣(ユン イン ゲ)」に来い。来たら話す。

電話を切ったルイスは妓楼「雲影閣(ユン イン ゲ)」に置いてあった軽戦車に乗り、泸水(ルーシュェイ)炭田まで行き、暴動の首謀者を尋問した。

彼は関節を何箇所かルイスに外され、あまりの痛さに全てを白状した。役人に突き出さなくて良かった。彼は泸水(ルーシュェイ)の役人と結託していたのである。

ルイスは彼を戦車に乗せ、役所に向かった。荒っぽいやり方だが、戦車ごと役所に突っ込み、催涙弾を官舎に放り込んだ。次々と出てくる役所の家族を本人も含めてひとり残らず拘束した。

暴動の首謀者に首実検をさせると、役所の幹部ひとりを指さした。ルイスは幹部を情け容赦なく拷問にかけ、泸水(ルーシュェイ)炭田の権利書を取り戻した。

6月25日火曜日午前5時半、泸水(ルーシュェイ)役所の官舎
全てが終わった時には、深夜1時半になっていた。ルイスは官舎の空き部屋を探してそこで眠ることにした。勿論妓楼「雲影閣(ユン イン ゲ)」には連絡してある。ルイスは捕虜にした連中の処分をどうするか苦慮しており、鬱々として眠れなかった。

お茶を沸かして飲もうとした時、ガヤガヤと廊下を通る音がした。ルイスは拳銃を手に取り、表に出てみた。周恩来(ジョウ・エンライ)、ウィリアム・ハーレイ、テンパ・ティンリー、劉月華(リウ・ユエファ)、李小芳(リー・シャオファン)、王美麗(ワン・メイリー)の6人が勢ぞろいしていた。

取り敢えず部屋に通し、これまでの経緯(いきさつ)を全員に説明した。劉月華(リウ・ユエファ)から泸水(ルーシュェイ)炭田の権利書を炭鉱夫たちに奪われたと聞き、炭鉱へ権利書を取り返しに行った。炭鉱夫たちは役所に引き渡さず、炭鉱に閉じ込めてあったので捜索は必要なかった。

炭鉱で暴動の首謀者から権利書を取り返した後、彼を尋問した。彼から貴州省の省政府が後ろ盾と知り、先ずは泸水(ルーシュェイ)の役所を軽戦車で襲った。此処にも貴州省の省政府から派遣された悪者がおり、そいつを捕らえた。

貴州省の省政府は雲南省の泸水(ルーシュェイまで手を伸ばし、アヘンの精製所を作り密売して儲けている。それだけに留まらず、炭田王:黄文遠(ホアン・ウェンユエン)(54歳)の持つ泸水-鎮寧炭田を奪おうと今回の暴動を計画し、後ろから操った。

我々の目標は貴州省の省政府の打倒だ。そのためには彼らの資金源「アヘンの精製所」を潰さねばならぬ。明日から早速活動開始だ。ウィリアムは俺と一緒に戦車に乗り、アヘンの精製所を虱潰しに捜索するのだ。

ルイスはそこまで説明し、泸水(ルーシュェイ)炭田の権利書を劉月華(リウ・ユエファ)に帰した。一件落着である。さて後は連中6名の仮寝の部屋決めである。もう朝になっていたが全員一睡もしていない。取り敢えず1,2時間でも仮寝をしようというのである。と言っても空き部屋はここを含めて3部屋しか無い。そう伝えると、彼らが自主的に周恩来(ジョウ・エンライ)、ウィリアム・ハーレイ、テンパ・ティンリーの3名が一部屋、劉月華(リウ・ユエファ)、李小芳(リー・シャオファン)、王美麗(ワン・メイリー)の3名がもう一部屋と決め、この部屋はルイスだけが仮寝すると言うことになった。

ルイスの布団にそっとひとりの女性が忍び入った。もちろん泥棒ではない。劉月華(リウ・ユエファ)であった。ルイスは気付き、彼女を強く抱きしめ、ふたりは2度めの抱擁を密かに味わった。詳しいことは記さないが、劉月華(リウ・ユエファ)のルイスに対する愛着は限界にまで高まった。

☆劉月華(リウ・ユエファ)の決意
密やかな添い寝の後、劉月華(リウ・ユエファ)はルイスの耳元で囁いた。"ルイス様。私は夫を無くしました。私達が頼れる相手は貴方しか居ません。私を何時までもお傍(そば)に置いて下さいませ"

ルイスにとっては願ってもない申し出であるが、エリザベスや側室たちがさぞかし反対するだろうとその対応のほうが頭を悩ませた。

”ええい。ままよ。なるようになるだろう。劉月華(リウ・ユエファ)の気持ちが変わっても困る。取り敢えずOKしておこう”

ルイスは彼女に”勿論だ。お前を手放すなんて勿体無いことをするもんか”と答えておいた。

劉月華(リウ・ユエファ):お傍においていただけるのですか?有難うございます。ルイス様に、泸水-鎮寧炭田の権利書をお渡しします。

ルイス:何を言う。只で人に炭田の権利をくれてやるなど馬鹿なことを言うでない。

劉月華(リウ・ユエファ):私には大慶の油田がありますから大丈夫でございます。

ルイス:そこまで言うなら適切な価格で買い取ろう。10万両でどうだろう?

劉月華(リウ・ユエファ):只で差し上げると言っておりますのに、ルイス様は無欲なお方でございますね。それだと私が少し儲けたことになりますよ。ですから、おまけを付けてあげましょう。亡くなった黄文遠(ホアン・ウェンユエン)(54歳)が持っている城でございます。

ルイス:何。城だと。それは何処にあるのだ?

劉月華(リウ・ユエファ):泸水と鎮寧の両方にあるのです。

ルイス:2つもお城があるのか!中国の大富豪というのはスケールが大きいのだな!有り難く頂戴しよう。銀錠10万両で良いのだな?

劉月華(リウ・ユエファ):勿論でございます。

ルイスは劉月華(リウ・ユエファ)に銀錠10万両の手形を切って渡した。

特別会計支出「第30話分」

6月25日火曜日午前9時。
1,2時間程度の仮寝の後、ルイスとウィリアムは、軽戦車のエンジンをふかし、ひそかにアヘン精製所の捜索を開始した。ルイスはウィリアムに、必要な戦術と注意点を伝えながら、彼の勇気と決断力を試すように促した。運転席にはルイスが座り、ウィリアムは後部座席に座り、双眼鏡で周りを監視した。

ウィリアムは始めての任務にもかかわらず見事に山間部に隠された精製所を見つけた。ルイスはこの重要な瞬間にウィリアムに指揮を任せた。ウィリアムは少々緊張しながらも、自信を持って部隊を率い、静かに精製所に近づいた。

精製所内で、彼らは突然武装した警備員と遭遇した。ウィリアムは状況を素早く把握し、自身の判断で催涙弾砲を使用。警備員を一瞬にして無力化し、精製所内への道を開いた。ルイスはウィリアムの冷静かつ効果的な対応に内心で感心し、彼の成長を認めた。

ルイスとウィリアムは慎重に精製所の内部を調査し、機材を破壊し、アヘンの在庫を完全に焼き払った。この行動により、地域社会に深刻な影響を与えるアヘンの流通を一時的に阻止した。アヘンやアヘン精製に関わる品物以外の品目は全て没収し、後日石油精製工場をこの場所に建設するための縁(よすが)とした。

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

このルイスとは以前に縁があった。彼に炭田発掘の技術を幾つか伝授したことがあったのである。彼の仕事が忙しくなり、彼は突然いなくなってしまった。彼は忘れているかも知れないが、密やかな関係を結んだこともあった。彼女は一日たりともそのことを忘れたことはなかった。ふたりとも内心の思いを相手に伝えることはなかったが、お互いにここまでの経緯(いきさつ)を相手に伝えた。ルイスは、中国で民衆の苦しみを知り、アヘン撲滅の戦いを起こしたこととその過程でエリザベスと知り合い、愛し合うようになったこと、南充の石油王一家の大奥様に見込まれ、巴蜀と雲南の国王に推戴されたことなどを述べた。劉月華(リウ・ユエファ)は夫が所有する泸水(ルーシュェイ)炭田で炭鉱夫の暴動が起き、それが原因で夫が殺害され、泸水(ルーシュェイ)炭田の権利書を奪われたことなどを述べた。劉月華(リウ・ユエファ)の話を聞いたルイスの行動は素早かった。