小説「海と陸の彼方へ」

 

第四章新主人公ヘクター石油王国を設立する

 

第2話ヘクター石油を掘り当てる(前編その2)

 

前書き

石油を掘り当てたヘクターは暫くの間新主人公になります。前章の最終話を新しい章の第1話とします。

 

本文

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登場人物「1935年1月1日時点」  
アンヘル・ディアンジェロ16歳:ハーバーテックソリューションズ(HTS)の会長兼CEO。ル・クリスタル・ホテル所有「200万ドルで居抜き購入」。アンヘル航空㈱会長兼CEO「資本金10億ドル」。ヴィヴィ警備会社「資本金1千万ドル」オーナー。軍事産業への共同投資60億ドル「配当金:1,929万ドル/ 週」。現預金50億ドル「シャドウ・ネクサスから略奪」と債権「総額不明」所有。
マリア・エバ・ドゥアルテ16歳。アンヘルの妻。AMレジャー総合開発㈱「資本金1億ドル」社長兼COO。悪魔のように可愛い女。 
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アンヘルの家族 
イタリア系の不法移民で、彼らの家族名は「ディアンジェロ」です。以下はディアンジェロ家の家族構成です: 
・父親ヘクター・ディアンジェロ(38歳):ヘクター・ディアンジェロは日雇い労働者として働き、家族を支えています。彼は家族に良い未来を提供することを夢見ており、そのために日々努力しています。 
・母親ローサ・ディアンジェロ(35歳):ローサ・ディアンジェロは家庭を守りながら、地域の共同体でボランティア活動を行っています。彼女は子供たちが教育を受けることを強く望んでいます。 
・兄ルイス・ディアンジェロ(18歳):ニューヨーク市警警部兼総合建設会社NYHCの社員。 
・ルイスの双子の姉マリア・ディアンジェロ(18歳):マリア・ディアンジェロは地元の専門校に通っています。 
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マリア・エバ・ドゥアルテ「マリア・D」16歳の家族 
・エルヴィラ・ドゥアルテ13歳。マリアの妹。 
・カタリナ・イルデフォンソ20歳。ルドラ金融㈱営業部長。 
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マリア・ヴァレンティーノ「マリア・V」54歳。アンヘルの恋人兼投資パートナー。ヴァレンティーノ・ファミリーの死亡したボス:ヴィンセント・"ヴィニー"・ヴァレンティーノ(56歳)の元妻。莫大な資産「推定500億ドル」を持つ。軍事産業への共同投資60億ドル「配当金:1,929万ドル/ 週」。
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ジョン・マッケンジー(35歳)。エドゥアルドの競争相手「有力な建設会社グローバルテック・コンストラクション・インクGCIのCEO」。
妻: サラ・マッケンジー(33歳), ファッションデザイナー
子供: ルーカス(8歳), ソフィア(5歳)
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サラ・マッケンジー(33歳)の実家
父:ロバート・ハミルトン(58歳):アメリカ合衆国の上院議員
母:キャサリン・ハミルトン(55歳):社会活動家。アンヘルの愛人。
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ニューヨーク市長
名前: ダニエル・ハリソン
年齢: 42歳
家族構成:
妻: ジェニファー・ハリソン(37歳)
子供: エマ(10歳)、ノア(7歳)
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ニューヨーク市港湾局長
住所:ブルックリン臨海区
 マイケル・スミス(38歳)
妻: クレア・スミス(36歳), 弁護士
子供: ノア(7歳), ミア(4歳)
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ジャーナリスト
住所:ブルックリン・ベイ・リッジ地区「イタリア系」
エミリー・デイビス(32歳)
夫: ベン・デイビス(34歳), ITエンジニア
子供: エリー(3歳)
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エリナ・"ブラックウィドウ"・ロドリゲス40歳。アンヘルの愛人。元ニューヨーク・マフィア「シャドウ・ネクサス」の副ボス。アルゼンチン人。
マリア・"レッドローズ"・デ・ラ・クルス35歳。アンヘルの愛人。ニューヨーク・マフィア「シャドウ・ネクサス」の元人事担当。アルゼンチン人。

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ニューヨーク市の行政地図

アメリカ合衆国東部
昭文社「コンパクト世界地図帳」P52


フロリダ州の地図と出典「南部にマイアミ、更に南部にホームステッドがある」

マフィアの組織図「パブリックドメイン」

 

1935年5月4日土曜日午後10時:テキサス州グアダルーペ山麓★地点:山小屋
★地点はテキサス州西部のメキシコに近い地点に位置する。ヘクターの所有する綿花農園や畜産牧場からは近いが、ダラスからはかなり離れている。ヘクターがダラスから最初に畜産農場まで来た時は飛行機で来たからさほど感じなかったが、直線距離は800kmもある。

その日は2段ベッドの上にエミリアとパトリシア、下にヘクターとアンが抱き合って眠った。ヘクターとアンが下で眠ったのは正解だった。

アンの時折り漏らす嬌声はヘクターが片手で押さえることが出来たが、快楽の頂点で感極まって大暴れするアンの身体を抑えつけることは不可能だった。上で寝ていたら下で寝ている二人はぱっちりと目を覚ましたことだろう。

気取られるのは仕方がないが、静かにして下さいと注意されるのは真ぴら御免である。

5月5日日曜日午前6時:テキサス州グアダルーペ山麓★地点:山小屋
朝の光が窓から差し込む中、山小屋のキッチンは活気に満ちていた。エミリアは、山守りとしての熟練した技術を駆使して、手際よく朝食の準備をしている。

彼女の動きは自然で流れるように、山菜を刻み、狩りで捕らえた獲物をさばく。その様子は、まるで森の中で生きることに特化したアーティストのようだ。

アンとパトリシアもキッチンに加わり、エミリアの指示に従っている。アンはパンをスライスし、パトリシアはフルーツを盛り付けていた。二人とも、エミリアの山の生活に対する知識と技術に感心しながら、彼女の動きを目で追い、手伝いをしている。

ヘクターは、会長兼CEOとしての重責を一時忘れ、この朝のひとときを楽しんでいた。彼はテーブルをセットし、コーヒーを淹れる。彼の存在は、この山小屋の朝食を取り仕切る強固な柱のようだ。

山小屋の中は、朝の静けさとは対照的に、共同作業の温かさで満たされている。木製のテーブルには、手作りの料理が並び、それぞれの料理からは、山の新鮮な恵みが香ってくる。外はまだ肌寒いが、小屋の中はストーブの暖かさと、共に食事をする仲間たちの温もりで心地よい。

ヘクターは仲間たちと食後のコーヒーを飲みながら昨夜のことを思い返していた。

☆1935年5月4日土曜日午後8時:石油の発見

山林の小屋での食後、突如として地響きが始まり、ヘクターの心は高鳴った。ロータリードリルの音が、遠くからだが明確に聞こえていた。エミリアの案内で、森の中を抜け、★印の小屋に到着した彼らを、パトリシア・トンプソンが出迎えた。

パトリシアの報告によると、★印の小屋からは石油は出ていなかったが、別の場所からは大量に湧き出ていた。ヘクターの質問に対し、パトリシアは詳細を説明した。

パトリシア:石油が出たのは、ここから南西に約2キロメートルの地点です。地質調査の結果、そこは古い河床の跡で、砂岩層が豊富な石油を含んでいることが分かりました。

ヘクター:一日あたりどのくらい出るんだ?

パトリシア:現在のところ、初期試掘の結果では一日あたり約5万バレルが出ています。しかし、これは初期段階の数字で、本格的な開発が始まれば、その数倍になる可能性があります。

ヘクター:儲けはどのくらいになる?

パトリシア:1935年の現在の市場価格で計算すると、一バレルあたり約1.5ドルです。一日5万バレルなら、一日75,000ドル、年間では約2,700万ドルの収入になります。ただし、これは現在の試掘の数字に基づいた概算です。

ヘクターはその数字を聞いて、一瞬言葉を失った。しかし、すぐに彼の顔には大きな笑顔が広がった。彼の投資が実を結び、新しく購入した土地が大きな富をもたらすことになると確信したのだ。

埋蔵量に関しては、パトリシアはさらに詳細を加えた。

パトリシア:地質学者の予測では、この油田の埋蔵量は少なくとも50億バレルはあると見られています。これからの詳細な調査で、さらに正確な数字が出るでしょう。

ヘクターは、これから始まるであろう石油開発の新たな章に胸を躍らせながら、エミリアとアンに感謝の意を示した。彼ら三人は、その夜、山林の小屋で、新たな時代の幕開けを祝ったのだった。

石油が噴出したことを知ったヘクターは直ちにニューヨークに居る息子のアンヘルに電話を掛けた。

ヘクター:アンヘル。喜べ。石油が出たぞ。一日あたり5万バレル湧き出ている。あまりアテにはならないが推定埋蔵量は50億バレルだそうだ。

アンヘルは興奮して「父さん。良くやってくれた。俺も鼻が高いよ」と口走った。

アンヘル:父さんに話がある。俺からのお祝いだ。資本金の10億ドルは父さんにあげるよ。またローザからの資金10億ドルは引き上げる。彼女はやはりこの資金を軍事産業に投資したいそうだ。

ヘクター:そうか。それは有り難い。これで俺は名実ともにヘクター石油開発㈱のオーナーになるんだな。

アンヘル:父さんにもうひとつ言って置かなければならんことがある。

ヘクター:何だ。どうしたんだ?

アンヘル:父さんの部下に石油開発部門本部長をしているジョージ・ウィルソン45歳ってやつが居るだろう?

ヘクター:ジョージがどうかしたのか?

アンヘル:父さんがジョージの妻キャロライン・ウィルソン39歳と出来ていると母さんに電話でバラしたんだ。

ヘクター:何だと。ふざけたことしやがって。電話でバラしただけなのか?

アンヘル:その後証拠写真まで送ってきたそうだ。母さんはカンカンに怒っている。離婚したいそうだ。

アンヘル:父さん。キャロラインさんと浮気したのは事実なんだな。

ヘクター:それは事実だ。言い訳するつもりはない。母さんが離婚したいと言えば仕方がない。離婚届を送ってくれ。サインするよ。

ヘクター:ルイスも知っているのか?

アンヘル:知っている。おそらくもう手は打っていると思う。

ヘクター:そうか。母さんに元気で暮らせと伝えてくれ。

ヘクターは電話を切った。

5月5日日曜日午前8時:テキサス州グアダルーペ山麓★地点:山小屋
山小屋の木の扉が開き男が入ってきた。

ジョン・スミス(32歳):ヘクター会長。お見えでしたか?

ヘクター:ジョン。お手柄だったな。しかし、この小屋の井戸も掘っていたようだが、出なかったと聞いている。

ジョン:そうなんですよ。コンクリートで固めてあると聞いていたんですが、そんなものはありませんでした。

ヘクター:それはおかしいな。俺は持ち主から直接聞いたんだぞ。

二人はロータリードリルで掘った井戸を見に行った。

ヘクターは50m下まで下りて確認したが、コンクリートの破片などは一つもなかった。探している最中に悪臭が出てきた。坑道の横穴からシューと吹き出してくる。慌てて外に出てきたヘクターは作業員に「ガスが噴出しているから直ちに塞げ」と命令した。

ジョンが「会長。これは天然ガスですよ。やったぞ。天然ガスも噴出してきた」という。

ジョンは作業員に掘削液(ドリリングマッド)「 地層からの油やガスの逸出を防ぐために使用」とブローアウトプリベンター(Blowout Preventer, BOP)を現場に運ばせ、天然ガスがそれ以上出ないように防がせました。

ヘクター:ブローアウトプリベンターというのは何だ。初めて聞いたぞ。

ジョン:油田やガス田を開発する時には必須な器具です。掘削作業中に予期せぬ高圧のガスや油が噴出するのを防ぐための重要な安全装置です。この装置は、井戸の口に設置され、異常圧力が発生した際には井戸を密閉して噴出を防ぐ機能を持っています。

ジョン:天然ガスが出たなら、早急にパイプラインを都市部まで引いて各家庭に利用させねばなりません。大気中に漏れ出してしまったら勿体ないですから。ダラス、オースティン、サンアントニオ、ヒューストンまで天然ガスのパイプラインを引きましょう。原油はタンカーで陸上も海上も輸送することにしましょう。

ヘクター:ついでに貯油タンク・貯ガスタンクも此処に建設せよ。費用は500万ドル見込んでおこう。

ジョン・スミスは天然ガス噴出の後始末に追われてグアダルーペ山麓で起こった事故の報告をすっかり忘れてしまっていた。

★グアダルーペ山麓で起こった事故
グアダルーペ山麓で石油が噴出したということを聞きつけた石油開発部門本部長ジョージ・ウィルソンは慌ててグアダルーペ山麓の石油が噴出した場所に駆けつけた。

しかし、猛スピードで山道を飛ばしていた彼の車は前方から飛び出してきたバッファローとぶつかり、車ごと崖から落ちてしまった。後続の彼の部下が下りていった時にはジョージ・ウィルソンはすでに命を落としていたそうだ。ヘクターがその話を聞いたのはダラスへ帰ってきてからであった。その頃にはすでに彼の葬式は終わっており、どうすることも出来なかった。

5月5日日曜日午後1時:ヘクター綿花農園
エミリアと途中で別れ、ヘクターとアン・ウェブスター(41歳)は綿花農園に戻ってきた。エリザベス・ミラー(49歳)は牧場へ帰って行きもういなかった。昼食は皆摂り終えていたが、エマ・ハリス(29歳)がヘクターのために作り直してくれた。

午前中いっぱい掛かった長い山道移動を終えて疲れ切ったヘクターとアン・ウェブスターは、キッチンのテーブルにどっかりと腰を下ろしていた。エマ・ハリスが両手に料理を持って現れると、淀んでいた部屋の空気が一変した。

彼女の赤いクロップトップは、室内の温かみのある色合いと対照的な鮮やかさを放ち、ダークカラーのタイトなミニスカートがその華やかさを一層引き立てていた。黒いパテントレザーのハイヒールが彼女のステップにリズムをつける。

エマがテーブルに料理を置くと、ヘクターは彼女のセンスを認めるように微笑んだ。アンもまた、エマのファッションセンスに目を留めながら、彼女の手際の良さを賞賛した。昼食は、エマが特別にヘクターのために作り直してくれたもので、彼女の気遣いが感じられた。

エマが用意した昼食は、テキサスの太陽の下で働く人々にふさわしい、栄養満点で心温まる料理だった。彼女は地元の食材を活かした、家庭的ながらも手の込んだ料理をテーブルに並べた。

前菜には、新鮮な野菜を使ったカラフルなサラダが登場し、そこにはトマト、キュウリ、そして地元で摘まれた野生のハーブが散りばめられていた。ドレッシングはシンプルながらも風味豊かなオリーブオイルとレモンの組み合わせで、野菜の味を引き立てていた。

メインディッシュには、テキサススタイルのバーベキューチキンが主役で、外はカリッとして中はジューシーな仕上がり。それを補うように、サイドディッシュにはマッシュポテトとグリーンビーンズが添えられていた。マッシュポテトはクリーミーでバターの風味が効いており、グリーンビーンズはニンニクとアーモンドスライスでシンプルに炒められていた。

デザートには、手作りのアップルパイが用意されており、その香ばしい香りが部屋中に広がっていた。パイの上には、手作りのバニラアイスクリームが添えられ、甘さと冷たさのバランスが絶妙だった。

飲み物には、冷たいアイスティーが用意されており、レモンのスライスが浮かんでいた。食事の締めくくりには、濃厚なアロマのコーヒーが用意されていた。

彼らは食事を始めた。ヘクターはエマの作った料理の一口一口を味わいながら、彼女の選んだ服装の話題で会話を弾ませた。アンは、エマの明るい表情と彼女が放つ自信に感心しながら、彼女のファッションセンスが農園の日常に新鮮な風をもたらしていると感じていた。

食後のコーヒーを手に、ヘクターはエマのファッションについてさらに話を広げた。彼は、彼女のスタイルが農園の生活にどのように彩りを加えるかについて興味深く思いを馳せていた。アンは、そんなヘクターの様子を見て微笑みながら、彼女自身もエマのセンスから何かを学ぼうと心に決めた。

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

ジョン・スミスは天然ガス噴出の後始末に追われてグアダルーペ山麓で起こった事故の報告をすっかり忘れてしまっていた。グアダルーペ山麓で石油が噴出したということを聞きつけた石油開発部門本部長ジョージ・ウィルソンは慌ててグアダルーペ山麓の石油が噴出した場所に駆けつけた。しかし、猛スピードで山道を飛ばしていた彼の車は前方から飛び出してきたバッファローとぶつかり、車ごと崖から落ちてしまった。後続の彼の部下が下りていった時にはジョージ・ウィルソンはすでに命を落としていたそうだ。ヘクターがその話を聞いたのはダラスへ帰ってきてからであった。その頃にはすでに彼の葬式は終わっており、どうすることも出来なかった。