小説「海と陸の彼方へ」

 

第二章エドゥアルドの復讐

 

第24話建設会社GCIのCEOジョン・マッケンジーの画策

 

前書き

ジョン:それで入札の変更は上手く行ったのか?マイケル:総合評価入札に変更されたからとりあえずは成功だ。3月16日土曜日午前10時までに先ず10社ほど港湾局で選んでおき、その中から僕とハリソン市長とで3社を選ぶ。もちろん君の会社グローバルテック・コンストラクション・インクGCIを推薦しておく。ジョン:そのあとどうするのだ。マイケル:その中から「最低価格競争入札」を行う。ジョン:最低入札価格はいくらにするつもりなのだ。諸物価高騰の昨今25億ドルくらいにはしてもらわないとな。マイケル:とてもそんな金額には設定できないよ。精々22,23億ドルにするのが精一杯だ。それでも十分利益は出るだろう。ジョン:ハリソン市長が最低入札価格を25億ドルにすると言えば君は賛成してくれるかね?マイケル:僕の個人的な意見は20億ドルから23億ドルの間だが、市長には逆らえないな。ジョン:そうか。市長と交渉してみる。悪いがアポを取ってくれないか?

 

本文

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登場人物「1935年1月1日時点」
エドゥアルド・ガルシア24歳。NYマフィア:コステロ・ファミリーのアンダーボス「大幹部・若頭」。現金20億ドル。普通預金100億ドル。アンダーボス就任に際し、前のアンダーボス:ロマーノの財産を受け継いだ。その他にもコカイン密売で得た現金1億ドルの当座預金を所有している。普段の出費はすべてここから支払う。エドゥアルド総合開発㈱「資本金一億ドル」の会長兼CEO。エドゥアルド警備㈱のオーナー。コロンビアのメデジンに大牧場、ウィラ地区に複数の農園、牧場、山林を所有。
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エドゥアルドの腹心の部下
ルイス・ディアンジェロ(18歳)。コカイン密売の責任者。:ルイスは学校には通っていませんが、彼は非常に賢く、ストリートスマートな青年です。彼は家族をスラム街から引き上げ、良い生活を提供できるようになることを夢見ています。彼は正直で敏捷な性格を持ち、エドゥアルドから将来有望な人材として見出されています。総合建設会社NYHCの社員。
弟アンヘル・ディアンジェロ(16歳):彼は兄のルイスを非常に尊敬しており、彼のようになりたいと思っています。中堅建設会社スカイライン・エンジニアリング・コーポレーション「SEC」の社員。
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ニューヨーク市長
名前: ダニエル・ハリソン
年齢: 42歳
家族構成:
妻: ジェニファー・ハリソン(37歳)
子供: エマ(10歳)、ノア(7歳)
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ニューヨーク市港湾局長
住所:ブルックリン臨海区
 マイケル・スミス(38歳)
妻: クレア・スミス(36歳), 弁護士
子供: ノア(7歳), ミア(4歳)
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エドゥアルドの競争相手「有力な建設会社グローバルテック・コンストラクション・インクGCIのCEO」
ジョン・マッケンジー(35歳)
妻: サラ・マッケンジー(33歳), ファッションデザイナー
子供: ルーカス(8歳), ソフィア(5歳)
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環境保護団体アース・ガーディアンズの代表
住所:ブルックリン・シープシェッドベイ地区「ロシア系」
リンダ・ウォレス(37歳)
夫: アダム・ウォレス(39歳), 医師
子供: エマ(10歳)
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ジャーナリスト
住所:ブルックリン・ベイ・リッジ地区「イタリア系」
エミリー・デイビス(32歳)
夫: ベン・デイビス(34歳), ITエンジニア
子供: エリー(3歳)

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ニューヨーク市の行政地図

アメリカ合衆国東部
昭文社「コンパクト世界地図帳」P52


フロリダ州の地図と出典「南部にマイアミ、更に南部にホームステッドがある」

カリブ海域
岩波現代文庫「コロンブスからカストロまで(Ⅰ)」E.ウィリアムズ著。巻頭の図。

コロンビア共和国
明石書店「コロンビアを知るための60章」二村久則編著。P14

コロンビアのアンデス山脈
明石書店「コロンビアを知るための60章」二村久則編著。P19

コロンビアの河川
明石書店「コロンビアを知るための60章」二村久則編著。P24

マフィアの組織図「パブリックドメイン」

 

1935年3月4日月曜日昼12時半:ブルックリンの高級レストラン:ラ・フェリチタ
ジョン・マッケンジーはニューヨーク市港湾局長マイケル・スミスが来るのをじりじりしながら待っていた。30分の遅刻だ。やっとマイケルは姿を表し、わびも言わずにジョンの向かいの席に座った。

ジョン:遅いじゃないか。わびくらい言うべきだろう。それで入札の変更は上手く行ったのか?

マイケル:まあ、そんなに焦るな。総合評価入札に変更されたからとりあえずは成功だ。3月16日土曜日午前10時までに先ず10社ほど港湾局で選んでおき、その中から僕とハリソン市長とで3社を選ぶ。もちろん君の会社グローバルテック・コンストラクション・インクGCIを推薦しておく。

ジョン:そのあとどうするのだ。

マイケル:その中から「最低価格競争入札」を行う。

ジョン:最低入札価格はいくらにするつもりなのだ。諸物価高騰の昨今25億ドルくらいにはしてもらわないとな。

マイケル:とてもそんな金額には設定できないよ。精々22,23億ドルにするのが精一杯だ。それでも十分利益は出るだろう。

ジョン:ハリソン市長はどう考えているのだ。

マイケル:議会との関係があるから出来るだけ費用を抑えたいと考えているだろう。

ジョン:君に忌憚のない意見を言ってもらいたい。ハリソン市長が最低入札価格を25億ドルにすると言えば君は賛成してくれるかね?

マイケル:僕の個人的な意見は20億ドルから23億ドルの間だが、市長には逆らえないな。

ジョン:そうか。それならハリソン市長と交渉してみる。悪いがアポを取ってくれないか?

マイケル:アポくらいは取ってやろう。

マイケルはハリソン市長と連絡を取り、グローバルテック・コンストラクション・インクGCIのCEOジョン・マッケンジーが会いたいと言っていると伝えた。

マイケルと別れたジョンは妻のサラの父親ロバートに電話を掛けた。

義父一家の構成
義父:ロバート・ハミルトン(58歳):アメリカ合衆国の上院議員
義母:キャサリン・ハミルトン(55歳):社会活動家
娘:サラ・マッケンジー(33歳):ジョンの妻

ジョンと義父のやり取り

ジョン:ロバート、少し話があるんだ。新しい港の建設プロジェクトの入札について、ハリソン市長に圧力をかけてもらえないか?

ロバート:何のために?

ジョン:最低入札価格を25億ドルに設定してもらいたい。それで我々も十分な利益を上げられるし、市もその程度の建設予算は十分確保している。

ロバート:分かった、ハリソンに話してみる。次期大統領選に出馬するつもりなら、私の言うことくらい聞くだろう。

ロバートはハリソン市長に連絡を取る。.

ハリソン市長と義父のやり取り

ロバート:ハリソン、新しい港の建設プロジェクトについて話がある。最低入札価格を25億ドルに設定するようにしてくれ。

ハリソン:それは高すぎると思われる可能性があるが、なぜそうするべきだと思うのか?

ロバート:私の娘婿の会社が入札に参加する。彼らにはその金額が適切だと考えている。それに、次期大統領選に出馬するなら、私の支持は必要だろう。

ハリソン:分かった、考慮に入れる。

翌日の火曜日、ハリソン市長はジョンに連絡を取る。

ジョンとハリソン市長の密約

ハリソン:最低入札価格を25億ドルに設定することにした。ただし、概算利益10億ドルのうち、2億ドルを私に渡すという約束を守ってもらいたい。

ジョン:もちろん、その約束は守る。これで市も我々もWin-Winだ。

このようにして、ジョンは義父とハリソン市長との間で密約を結び、新しい港の建設プロジェクトの入札において有利な条件を手に入れた。しかし、この密約が後にどれほどの影響を及ぼすのか、まだ誰も知らない。

☆クレアとルイス
クレアはルイスの申し出「エドゥアルドが港湾局長マイケル・スミスを副市長にする」を夫のマイケルに早速伝えようと思ったが、マイケルは日夜仕事で忙しく落ち着いて話をする暇もなかった。翌日曜日の午後10時ころ帰ってきた夫を捕まえ、簡単に説明したが夫は半分眠りかけており、理解した風には見えなかった。

クレアもそれきり諦めていたのだが、火曜日の午後5時頃、夫から電話が掛かり、「今晩の夕食にルイスくんを招待したから宜しく頼む」と言われた。寝ぼけながらも自分に有利なところだけは聞き逃さなかったのだと思い、クレアはマイケルに腹を立てた。

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土曜日のルイスとの会話
ルイス:さっきの話の続きですが、NYHCの会長、エドゥアルドさんがお話をされていました。彼はあなたのご主人、マイケル・スミス港湾局長をニューヨーク市の副市長にしたいと本気で考えているようです。

クレア:(目を輝かせて)本当に? それは素晴らしい話ね。マイケルにとっても、願ってもないチャンスだわ。

ルイス:はい、エドゥアルドさんもハリソン市長が次期大統領選に出馬するという話を聞いてから計画を練っていたようです。エドゥアルドさんはこの機を逃さず、ニューヨーク市長選に出馬し、マイケル港湾局長を副市長にしようとお考えなのです。
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3月5日火曜日、マイケル邸の夕食
クレアは夕食の準備に忙しく、テーブルには美味しそうな料理が並んでいた。マイケルはちょうど帰宅し、ルイスも到着したばかりだった。

クレア:ルイス、遅くまでお待たせ。夕食はすぐに始められるわ。

ルイス:お招きいただき、ありがとうございます。料理がとても美味しそうですね。

マイケル:ルイス、来てくれてありがとう。さて、何から話そうかな。

ルイス:まずは、エドゥアルドさんからの申し出についてお話ししたいと思います。

マイケル:ああ、それについてはクレアから聞いたよ。副市長になるチャンスだってね。

クレア:マイケル、これは大事な話よ。しっかり聞いて。

ルイス:エドゥアルドさんは、ハリソン市長が次期大統領選に出馬するという話を聞いて、ニューヨーク市長選に出馬する計画を練っています。その際、マイケルさんを副市長にしたいと考えています。

マイケル:それは興味深い。しかし、ジョン・マッケンジーからも誘惑があるんだ。新港建設プロジェクトを25億ドルで入札できたら、1億ドルをくれると言っている。

ルイス:エドゥアルドさんは、うちの会社が入札に成功してもしなくても構わないと言っています。公明正大に入札を行い、ハリソン市長が不正を働くのを妨げてくれれば、それでいいとのことです。

マイケル:それは確かに魅力的だ。ジョンの話はリスクが高い。マスコミに嗅ぎつけられたら、懲役刑もあり得るからな。

クレア:マイケル、これは人生で一度のチャンスよ。副市長になれば、もっと大きな影響力を持てる。

マイケル:確かにそうだな。ルイス、エドゥアルドに伝えてくれ。私はその申し出に乗るつもりだ。

ルイス:了解しました。エドゥアルドさんもきっと喜ぶでしょう。

夕食はその後も和やかな雰囲気で進み、三人は今後の計画についてさらに詳しく話し合った。この夕食が、マイケルとエドゥアルド、そしてクレアの人生に大きな影響を与えることとなるのだが、その時点ではまだ誰もその全容を知る由もなかった。

夕食後相変わらずマイケルは腰を落ち着けることなく、ニューヨーク市在住の外交官主催のパーティーに招かれて外出した。仕事とは言え、大変な毎日をマイケルは送っていたのだが、将来の出世に繋がると思い、彼は喜んで出席していた。頻度が余りにも多すぎるのでクレアは同伴を断っていた。

続いてマイケル邸を出ようとするルイスをクレアは引き止めた。ノア(7歳), ミア(4歳)を先に寝かせ、ルイスの車に一緒に乗り込んだ。ルイスは一瞬驚いたが、そのまま車をマンハッタンのアッパー・イースト・サイドまで走らせた。彼はカポ・レジーム「若頭補佐」に昇進したのを切っ掛けにサウス・ブロンクスの家を出てドアマン付きのマンションに引っ越したのである。100万ドルで購入した12LDK の豪華な居室である。

クレアは新しいルイスの家がアパートではなくドアマン付きのマンションであることに衝撃を受けた。いくら港湾局長とは言え一介の公務員には到底住むことの叶わぬマンションだからである。

リビングルームに案内されたクレアはあまりの広さに再度驚き、ルイスにこう言った。

クレア:ルイス。あんた。銀行強盗でもしたの?ここはそうでもしなければ買えないわ。

ルイス:先だって私とアンヘルは昇格しましてね。エドゥアルドさんから特別ボーナスも貰ったんですよ。

クレア:お給料も上がったの?特別ボーナスはいくら貰ったの?

ルイス:給料は1千万ドル/月です。特別ボーナスは1千万ドル貰いました。

ルイスはクレアに預金通帳を見せた。残高は1,900万ドルであった。

クレア:あんたはお金持ちなのね。市警なんか辞めてしまえば良いんだわ。

ルイス:いえいえ。僕は身体を使って働くのが好きなんです。人様のお役にも立ちますし。奥様のような綺麗なお方を助けることも出来ますしね。

クレア:貴方はあまり欲がないのね。でもパトロール姿は良く似合っていると思うわ。でも一番似合うのはマフィアだと思うけどね。

☆午後9時
ドアがノックされたのでルイスが出てみると、30代の美しく着飾った女性がふたり立っていた。ルイスが戸惑っているとクレアがリビングから出てきて、サラもエミリーも良く来てくれたわねとリビングに招き入れた。

クレア:サラ、エミリー紹介するわ。彼が私の恋人ルイスよ。ルイス。こちらはサラ・マッケンジー(33歳)とエミリー・デイビス(32歳)よ。私の親友なの。もうひとり居るけど彼女は忙しくて来れないというの。また別の機会に紹介するわね。

エミリー:私はルイスを知っているわ。この間フィットネスクラブに居たわよね。あの格好良い人は今何処にいるの?

ルイスはそう言われて思い出した。エドゥアルドと一緒に話し込んでいた女性のうちの一人だ。

ルイス:思い出しました。会長と仲良く話し込んでいた人ですね。もう一人綺麗な方がいらっしゃいましたね。

エミリー:ああ。リンダのことね。残念だけど彼女は色々忙しくなってね。私達と遊んでくれなくなったのよ。

サラ:代わりに私が一緒にクレアの遊び相手を努めているのよ。ルイスさんっていうのね。よろしくね。

ルイス:こちらこそ。クレアさんのお友達なら大歓迎しますよ。そうだ。適当にお酒を出して飲んで下さい。今出前を頼みます。

ルイスは近所の中華料理「香港料理と上海料理」の出前を頼んだ。

酒宴の様子
ルイスが出前を頼んだ後、リビングルームのテーブルにはすでに高級ウイスキー、ワイン、そしてシャンパンが並んでいた。サラとエミリーはすでに自分たちの好きなお酒を手にしていた。

サラ:このウイスキー、すごくいいわね。ルイスさん、センスがいいわ。

ルイス:ありがとうございます、サラさん。エドゥアルドさんが教えてくれたんですよ。

エミリー:エドゥアルドさんって、あのNYHCの会長?

ルイス:そうです、彼とは仕事で何度かお会いしています。

ドアベルが鳴り、ルイスが出前を受け取りに行った。戻ってきた彼は、中華料理の香りが充満するカートをリビングルームに運び込んだ。

クレア:わあ、これ全部頼んだの?

ルイス:はい、選び放題ですよ。

皆が料理に手を伸ばし、会話がさらに活発になった。

エミリー:ルイス、この間のフィットネスクラブで見かけたときは、何をしていたの?

ルイス:実はエドゥアルドさんと一緒にトレーニングしていました。彼は健康に非常に気を使っているんですよ。

サラ:それはいいわね。私たちも健康は大事にしてるから。

クレア: ルイスは体力仕事が好きだって言ってたわよ。

ルイス:そうなんです。人々を助ける仕事が好きなんです。

エミリー:それは素晴らしいわ。でも、この豪華なマンションに住んでいるとは思わなかったわ。

ルイス:最近昇進したんです。それでこの場所に引っ越してきました。

サラ:昇進おめでとう。でも、クレアが言ってたように、もう警察を辞めてもいいんじゃない?

ルイス:いえ、まだまだやりたいことがありますから。

皆が笑いながら飲み、食べ、楽しい時間を過ごした。この夜は、クレアとルイス、サラとエミリーにとって、新たな友情と未来への期待を高める貴重な時間となった。

☆サラとエミリー
クレアとルイスの二人は酒宴を2時間ほどで切り上げ、主寝室に連れ立って消えた。残されたサラとエミリーは更に飲み続けながらもそれぞれの思いに浸っていた。サラは夫のジョンから言い遣っていたことがあった。それは「エドゥアルドの懐刀ルイスのことを探れ」ということだった。

サラは気の良いルイスに飲みながら色々質問してかなりの情報を探り当てた。ルイスも肝心の事柄「新港建設プロジェクトの概算見積もり」について詳細は明かさなかったが、エドゥアルドの見積もり額とルイスの見積もり額が2,3億ドル異なることは聞き出していた。どうもエドゥアルドは利益をある程度度外視しても受注を成功させたいようだ。ルイスの方はエドゥアルドの予算では赤字になる可能性もあると考えているらしい。

ルイスは頭の回転が良く、気さくにルイスに話しかけてくれるサラを気に入り、何を聞いても隠さずに答えてくれる。おそらくサラがエドゥアルドの概算見積もりをずばり教えてくれと聞いても答えたと思うが、サラはルイスに聞くのを控えた。サラも純情なルイスのことが気に入り、変なことを聞いて嫌われたくなかった。

男女の色恋では駆け引きが常だが、駆け引きを一切しない純情な男が海千山千の女性を逆に落とすということもある。サラとルイスは将にその典型であった。夫のジョンはサラにルイスを落とせと指示したのだが、この方策は裏目に出た。

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

サラは気の良いルイスに飲みながら色々質問してかなりの情報を探り当てた。エドゥアルドの見積もり額とルイスの見積もり額が2,3億ドル異なることは聞き出していた。どうもエドゥアルドは利益をある程度度外視しても受注を成功させたいようだ。ルイスの方はエドゥアルドの予算では赤字になる可能性もあると考えているらしい。ルイスは頭の回転が良く、気さくにルイスに話しかけてくれるサラを気に入り、何を聞いても隠さずに答えてくれる。おそらくサラがエドゥアルドの概算見積もりをずばり教えてくれと聞いても答えたと思うが、サラはルイスに聞くのを控えた。サラも純情なルイスのことが気に入り、変なことを聞いて嫌われたくなかった。男女の色恋では駆け引きが常だが、駆け引きを一切しない純情な男が海千山千の女性を逆に落とすということもある。サラとルイスは将にその典型であった。夫のジョンはサラにルイスを落とせと指示したのだが、この方策は裏目に出た。