小説「海と陸の彼方へ」

 

第一章ブエノス・アイレスの輝き

 

第8話……フアナの奮闘

 

前書き

フアナはマリアが設定したブエノス・アイレス市市長選の選挙演説会に出席し、ルドラの熱のこもった演説に聞き入り、女性の地位向上を目指し、女性の教育、健康、就労機会の向上、そして家長制の打破を求める内容に強く共鳴し、同じようにうなずいている女性たちにルドラを応援するように頼みます。演説会が終わったあとフアナは得意のタンゴを聴衆に披露し、拍手喝采を浴び、面目を施すことが出来ました。彼女たちには選挙権も被選挙権も無いけれど自宅に帰った女性たちは自分の亭主や息子たちにルドラを応援するように圧力を掛けます。

 

本文

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登場人物「1935年1月1日時点」
主人公ルドラ15歳「24歳と偽っている」。手持ち現金550万アルゼンチン・ペソ。金塊127トン。ブエノス・アイレス司法府裁判検事。ルドラ映画産業㈱会長兼オーナー「資本金6千万アルゼンチン・ペソ」。ルドラ金融㈱会長兼CEO
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部下
タリオ「勇敢な戦士」21歳。ルドラ缶詰工業㈱専務。ルシエンヌの兄。シワトルの夫。カリブ族の男。獰猛。格闘技の達人。
シワトル「花の女神」28歳。タリオの妻。元タバスコ領主の妻。聡明で美しく、性格は穏やかで優しい。
ルシエンヌ「明るい」19歳。ブエノス・アイレス司法府検察官「刑事事件の捜査や起訴を担当」。
モンバナ「高い山」男2歳。ルドラとルシエンヌの間の子。
カノア「風」40歳。ルシエンヌの父親。
アマタ「永遠の」38歳。ルシエンヌの母親。
アドリアナ・グラノジェルス25歳。ルドラ金融㈱COO。元ルドラの愛人。カジェタノの元妻。
ヘロニモ・デ・アギラール30歳。スペイン人。元コルテスの部下
イシュトゥル 「Ixchel」19歳。アギラールの妻。
パカル 「Pakal」男5歳。アギラールの息子。
ゴンサーロ・ゲレーロ28歳。スペイン人。
イディア・ンジンガ17歳。ゲレーロの妻。酒好き。陽気なアマゾネス。時々姿をくらます。
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その他の人々
マリア・エバ・ドゥアルテ16歳。悪魔のように可愛い女。高みに連れて行ってくれる男を求めて突進する。手段は選ばない。
フアナ・イバルグレン41歳。ルドラの愛人。マリアの母親。
エルヴィラ・ドゥアルテ13歳。マリアの妹。
カタリナ・イルデフォンソ20歳。ルドラ金融㈱営業部長。中田ボニファシオ38歳。日系人4世の男性。カフェ、レストラン&バーの経営者。
高梨アデルミラ32歳。日系人4世の女性。麻雀店、ビリヤード場の経営者。
レティオ・チュチョ33歳。メスチーソ。エステル・ラジオのプロデューサー。賭博好き。
カタリナ・リベラ・サンドバル34歳。アルベルト・ペレイラ・レボルコ「財閥の当主、政治家」の妻。社交界の華。芸術家支援、慈善活動を行っている。
カルロス・フルベック・オルトゥサル35歳。政治家であり外交官。若い妾を囲っており、妻のロサを顧みない。
ロサ・オルトゥサル30歳。カルロスの妻。アルゼンチンの貴族出身で社交界の名士。
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大型ガレオン船1隻「2,000名乗り、改良野戦大砲500台搭載」小型ガレオン船10隻「100人乗り、改良野戦大砲30台搭載」、キャラック船50隻「500名乗り、改良野戦大砲50台搭載」、砲丸5万発、後込め式小銃10万丁、弾丸500万発。馬5,000頭。荷馬車500台。
傭兵部隊「シラジの女奴隷軍500名、元ベニン王国黒人女奴隷軍500名」
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南アメリカ
帝国書院「地歴高等地図」P75,76

アンデス越え
帝国書院「新詳高等地図」P82

1935年1月15日水曜日午後5時半:ルドラの邸宅
ブエノス・アイレス市の大企業家であるルドラ(24歳)は午後5時半に帰宅し、愛人兼家政婦のフアナ(41歳)を強く抱きしめました。フアナは驚きながらも、ルドラの抱擁に応じてキスを返しました。ルドラが落ち着いた後、優しく彼の頭を撫でながら、"今日は少し早いのね。直ぐに夕食を作るから、貴方はシャワーを浴びていらっしゃい"と話しかけました。

ルドラはフアナの娘マリアから"お母さんの他にも愛人がいるだろう"と責められたことをフアナに打ち明けました。フアナは黙ってルドラの話を聞き、そして"私は貴方に女がいても構わないわ"と言いました。ルドラは他の愛人たちとは手を切り、実は別の好きな女性ができたことを明かしました。彼女の名前はロサ(30歳)で貴族の出身です。ルドラを失いたくないフアナは心が痛みましたが、何も言わずに夕食の準備に取り掛かりました。どうしたら若く美しいと評判のロサに対抗できるのか必死になって頭を回転させました。

フアナはルドラを深く愛しており、若さや身分ではロサに敵わないかもしれませんが、彼女はルドラに対抗するために献身的に愛することを決意しました。彼女はルドラの大好きなアルゼンチン料理を丹精込めて作りました。料理の香りが台所に広がり、家中に幸福な雰囲気が満ちていきました。

フアナが作ったアルゼンチン料理の献立は以下のようなものでした。

1️⃣前菜:エンパナーダ - フライドパイ生地で包まれた具材(肉や野菜)の詰め物。
2️⃣スープ:ロカンダスープ - トウモロコシや野菜をベースにした濃厚なスープ。
3️⃣メインディッシュ:アサード - グリルで焼かれた肉料理(通常は牛肉)。
4️⃣サイドディッシュ:プロヴォレア - チーズや野菜を焼いた料理。
5️⃣デザート:ドゥルセデレチェ - コンデンスミルクを主成分とした甘いデザート。

フアナの普段の服装は、家政婦としての仕事に適した清潔で実用的な服装を選んでおり、エプロンや作業着を身に着け、動きやすさと仕事の効率を考えたスタイルを選んでいます。

夕食の時間が訪れると、フアナは愛情を込めて用意した料理をテーブルに並べました。彼女はルドラのために特別な食事を作り、彼の舌と心を喜ばせようとしました。二人は互いに顔を見合わせ、深い愛と感謝の言葉を交わしました。

その後、二人はベッドの中に入り、ルドラの好みに合わせて女性上位の体制を取りました。フアナはルドラに全身全霊で奉仕し、彼の欲望と快楽を満たすために努力しました。彼女はルドラの身体に触れるたびに、愛と情熱を込めた愛撫を続けました。

その情景は、深い絆と情熱に満ちた光景でした。二人の愛の絆は時間を超えて続き、フアナの愛情と奉仕によって彼女はロサに対抗しようと努力しました。

深夜3時、フアナはルドラがぐっすり寝入っていることを確かめ、娘マリアの寝室に入りました。マリアは他人の気配を察知し、起き上がりました。

マリア:何だ。お母さんか。驚かさないでよ。

フアナ:マリア。起こしちゃってごめんね。ちょっと聞きたいことがあるの。ルドラには知られたくないのよ。

マリア:ああ。女のことでしょう。ロサと言う女のことね。

フアナ:そうよ。どんな女性なのか詳しく知りたいのよ。ポスターで見たことがあるからモデルということは知っているわ。貴族出身だってね。

マリア:そうよ。貴族出身のモデルで社交界の名士よ。お母さんでは歯が立たないわね。

フアナ:そんな事言わないで何とか助けてよ。ルドラを失いたくないのよ。

マリア:どうしてそんなにあの男が良いのかしらね。単なる名門のお坊っちゃまだと言うだけでしょう。ああ、分かったわ。ベッドのテクニックが凄いのね。死んだお父さんよりも良かったの?

フアナ:まあ、なんて言い方するの。それだけじゃないわ。勿論セックスの方は物凄く強いけど。お父さんとでは比べ物にならないわ。1対100くらいね。お父さんが1でルドラが100よ。

マリア:でもお母さんも不思議よね。お父さんが死んでからでも言い寄ってくる男はいっぱい居たでしょう?どうしてあんなお坊っちゃまに口説き落とされたの?

フアナ:私もそんな気は全く無かったんだけどね。ルドラは熱心なのよ。私が何回断っても平気で言い寄ってくるの。しつこさに負けて一度くらいなら良いかなと許したのが間違いだったわ。

マリア:お母さんに一言だけアドバイスしてあげるわ。ルドラはブエノス・アイレス市の市長選に立候補するつもりなの。

フアナ:そうなの?私にも貴女の妹にも何にも言わなかったわ。

マリア:それでね。ロサさんは「ヴィラ・オルトゥサル女性協会」の創立者なの。女性の地位向上を目指し、女性の教育、健康、就労機会の向上、そして家長制の打破を求めるってのがロサさんが目指している方向なのよ。

フアナ:あら。それは良い政策だと思うわ。私も大賛成よ。

マリア:それは私だって大賛成だけどさ。でもね。今女性には選挙権も被選挙権も無いでしょう。だからそんな政策ばかり訴えても票にはならないのよ。

フアナ:そりゃそうだね。お父ちゃんたちが票を入れようと思う政策を掲げないとね。

マリア:だから、私が「労働者の権利や福利厚生の向上を目指し、労働条件の改善、労働時間の短縮、給与の増加などの要求を行う」を入れるべきだと教えてやったのよ。

マリア:でも彼奴は強情なところがあってね。私の言うことは聞かないのよ。その癖私を選対委員長にするって言うのよ。

フアナ:それはね。ルドラはマリアのことを認めているからなのよ。

マリア:そんな事無いわ。私のことは何時も「悪魔のように可愛い女だ」と言うのよ。可愛いって一言言えば済むのにね。

フアナ:ルドラはマリアのことを良く分かっているね。

マリア:ああ、そうだ。お母さんを愛しているのって聞いたらね。

フアナ:何て言ったの?

マリア:俺にも良く分からんが、お前よりも人が良いし、俺を裏切らない女だとは思っている。それにフアナは色が白くて若々しい。30歳を越えているなんて信じられん。

マリア:ってさ。お母さんは確かに若々しくなったわ。28歳くらいにしか見えないわ。毎晩ルドラの若いエキスをたっぷり吸っているからでしょうね。

フアナ:まあ、馬鹿なことを言うもんじゃないわ。毎晩じゃないわよ。一週間に一日くらいは帰ってこないときもあるからね。でもほぼ毎日しているわね。それより私にアドバイスしてくれるんでしょう?

マリア:そうだ。お母さんはタンゴの名手だったわね。

フアナ:お父さんのたったひとつの取り柄がタンゴだったからね。お父さんに仕込まれたから自信はあるよ。

マリア:それならルドラの選挙演説会のあとにタンゴを披露したらどう?みんなと一緒に踊ったら良いわ。私が手配して演説会場をボカ地区に設定しておくわ。

☆1935年1月17日金曜日午前10時:ボカ地区選挙演説会場「ブエノス・アイレス市長選」
選挙演説会が盛況のうちに終わり、フアナは興奮と喜びに満ちた心持ちでマリアと共に会場を後にしました。彼女たちは、女性の地位向上を求めるルドラの熱い演説に心を打たれ、共鳴した女性たちの姿に感動しました。フアナは彼女たちとタンゴを踊りながらひとりひとりに話しかけました。

女性たちは自分の感動を家族全員に伝えるそうです。彼女たちは選挙権や被選挙権を持っていないものの、家庭内での影響力を使い、自分たちの亭主や息子たちにルドラを応援するように圧力をかけると約束してくれました。フアナはその熱意に触発され、立ち上がって彼女たちの声を代弁しました。

フアナ:みんな、ルドラの演説、聞いた?女性の地位向上を目指してくれる彼の言葉、すごく力強かったわよね。私たちには選挙権も被選挙権もないけれど、私たちの声を伝えるために、私たちの家族にルドラを応援するように頼みましょう。彼は私たちのために闘ってくれる人なのよ。

女性たちはフアナの熱意に感化され、自宅に帰り家族にルドラを支持するように訴えました。彼女らは、演説会でのルドラの情熱的な言葉や彼の女性の地位向上への献身を知ることで、彼に期待を寄せるようになったのです。

フアナは彼女たちが持つ家庭内での影響力を利用し、ルドラを支持することで彼女たち自身の声を伝える手段を見つけました。彼女たちは、自分たちの亭主や息子たちに対してルドラの政策や理念について語り、彼を応援するように説得しました。

その結果、フアナと共に演説会に参加し、ルドラの熱心な支持者となった女性たちは、自宅に戻ってからもその情熱を失うことはありませんでした。彼らは自分たちの周りにいる人々にルドラの重要性を伝え、彼の選挙活動を支援するために行動しました。

フアナは自宅でのこの光景を見て、満足感と共に自身の行動が意義を持っていることを実感しました。彼女は自分の得意なタンゴを披露し、演説会での拍手喝采を思い出しながら、自分がルドラを支える一員となったことに誇りを感じました。

このように、フアナと他の女性たちは選挙権や被選挙権を持っていない状況でも、家庭内での影響力を通じて自分たちの声を伝える方法を見出しました。彼女たちはルドラの理念に共鳴し、自身の力を最大限に発揮して彼をサポートしました。

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

ルドラの選挙演説はフアナの協力で成功裏に終わりました。ただ彼はフアナの陰の努力も知らず、相変わらずロサの愛を獲得しようと懸命に努力していました。さてフアナの努力は実るのでしょうか?