小説「海と陸の彼方へ」

 

第一章ブエノス・アイレスの輝き

 

第6話……ブエノス・アイレス市長選への立候補

 

前回のあらすじ……カタリナの紹介でオルトゥサル夫妻と知り合い、奥さんのロサから「ヴィラ・オルトゥサル女性協会」と言う慈善団体結成の話を聞き、多額の寄付を行う。ルドラをロサに奪われまいとしたカタリナはルドラをランチに誘う。部屋でひとりくすぶっているマリアにグラノジェルスから奪った金融会社「高利貸し」の社長にならないかと誘う。

 

本文

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登場人物「1935年1月1日時点」
主人公ルドラ15歳「24歳と偽っている」。手持ち現金550万アルゼンチン・ペソ。金塊127トン。ブエノス・アイレス司法府裁判検事。ルドラ映画産業㈱会長兼オーナー「資本金6千万アルゼンチン・ペソ」。ルドラ金融㈱会長兼CEO
ノンヴィグノン「Nonvignon」20歳。ルドラの正妻。元ダホメ国王ウェグバジャの正后。穏やかで母性あふれる女性。マッスーファ族「Masufa」出身でシャルロッテに負けず劣らずの美貌の持ち主。
ハングべ「Hangbe」3世女1歳。ルドラとノンヴィグノンの娘。
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部下
タリオ「勇敢な戦士」21歳。ルドラ缶詰工業㈱専務。ルシエンヌの兄。シワトルの夫。カリブ族の男。獰猛。格闘技の達人。
シワトル「花の女神」28歳。タリオの妻。元タバスコ領主の妻。聡明で美しく、性格は穏やかで優しい。
ルシエンヌ「明るい」19歳。ブエノス・アイレス司法府検察官「刑事事件の捜査や起訴を担当」。
モンバナ「高い山」男2歳。ルドラとルシエンヌの間の子。
カノア「風」40歳。ルシエンヌの父親。
アマタ「永遠の」38歳。ルシエンヌの母親。
ヘロニモ・デ・アギラール30歳。スペイン人。元コルテスの部下
イシュトゥル 「Ixchel」19歳。アギラールの妻。
パカル 「Pakal」男5歳。アギラールの息子。
ゴンサーロ・ゲレーロ28歳。スペイン人。
イディア・ンジンガ17歳。ゲレーロの妻。酒好き。陽気なアマゾネス。時々姿をくらます。
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その他の人々
マリア・エバ・ドゥアルテ16歳。ルドラ金融㈱COO。悪魔のように可愛い女。高みに連れて行ってくれる男を求めて突進する。手段は選ばない。
フアナ・イバルグレン41歳。ルドラの愛人。マリアの母親。
エルヴィラ・ドゥアルテ13歳。マリアの妹。
カタリナ・イルデフォンソ20歳。ルドラ金融㈱営業部長。
中田ボニファシオ38歳。日系人4世の男性。カフェ、レストラン&バーの経営者。
高梨アデルミラ32歳。日系人4世の女性。麻雀店、ビリヤード場の経営者。
レティオ・チュチョ33歳。メスチーソ。エステル・ラジオのプロデューサー。賭博好き。
アドリアナ・グラノジェルス25歳。ルドラの愛人。カジェタノの元妻。
カタリナ・リベラ・サンドバル34歳。アルベルト・ペレイラ・レボルコ「財閥の当主、政治家」の妻。社交界の華。芸術家支援、慈善活動を行っている。
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大型ガレオン船1隻「2,000名乗り、改良野戦大砲500台搭載」小型ガレオン船10隻「100人乗り、改良野戦大砲30台搭載」、キャラック船50隻「500名乗り、改良野戦大砲50台搭載」、砲丸5万発、後込め式小銃10万丁、弾丸500万発。馬5,000頭。荷馬車500台。
傭兵部隊「シラジの女奴隷軍500名、元ベニン王国黒人女奴隷軍500名」
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南アメリカ
帝国書院「地歴高等地図」P75,76

アンデス越え
帝国書院「新詳高等地図」P82

1935年1月14日月曜日昼12時:ラ・ブルゴーニュ「La Bourgogne」「フランス料理店」
カタリナは高級フランス料理のフルコースを頼もうとしたが、ルドラはアルゼンチン料理が食べたかった。カタリナにその旨を告げると、色んなメニューを上げてくれた。

曰く、アルゼンチンは牧畜業が盛んだから、肉料理が主流なのよ。代表的な料理としては、アスード・コン・ペヘト「Asado con pebre」、エンパナーダ「Empanada」、ミラネーザ「Milanesa」、チュラスコ「Churrasco」、パリージャParrillada」などがあるの。

アスード・コン・ペヘトは、牛肉のバーベキューに似た料理で、トマト、パセリ、ニンニク、オリーブオイル、ビネガーなどで作るペブレと呼ばれるソースを添えて食べるのよ。

エンパナーダは、パイ生地で包んだ肉や野菜の詰め物で、アルゼンチンの家庭料理として親しまれているわ。ミラネーザは、カツレツに似た料理で、パン粉をまぶして揚げた牛肉を、レモンを添えて食べるの。

チュラスコは、牛肉の部位のひとつで、塊肉を炭火で焼いて食べる料理で、アルゼンチンのバーベキューの定番として知られているのよ。パリージャは、さまざまな種類の肉を一度に焼いた盛り合わせの料理で、家族や友人との食事の場でよく楽しまれるのよ。

アルゼンチン料理には、イタリア料理の影響を受けた料理も多くあるわ。例えば、ミルホヤ「Milhoja」は、パイ生地とクリームを重ねたスイーツで、イタリアのミルフィーユに似たものなのよ。

ルドラはチュラスコとワインを頼んだ。カタリナも同じものを頼み、「これならわざわざここに来なくても良かったわね。私の家に誘えば良かったわ」と言った。

ルドラ:昨日の今日ではご主人に悪いような気がいたします。お美しい奥様をふつかも独占するなんて申し訳ありません。

カタリナ:あら、主人のことは良いのよ。気にしなくても。

ルドラ:どうしてですか?僕なら奥様を毎日独占したいですけどね。

カタリナ:お口がお上手だこと。主人には若い愛人が居るのよ。だから放って置いてあげるのが夫婦円満の秘訣なのよ。

カタリナ:そうだ。貴方はまだ独身よね。

マル・デル・プラタにはノンヴィグノン「Nonvignon」という妻とハングべ「Hangbe」3世という我が子が居るが、正式に結婚したわけではない。さしずめ現地妻ということだろうな。ルドラは独身で通すことにした。

ルドラ:はい。今は独身ですが、私も24歳ですので、将来はカタリナさんのようなお美しい方を娶りたいと思っています。

カタリナ:あら。お上手なことをおっしゃるのね。私はてっきりロサさんに一目惚れしたのかと思っていたわ。

ルドラ:いえ。ロサさんは確かに美人ですが、私が一目惚れしたのはカタリナさんです。

ルドラ:私がヴィラ・オルトゥサル女性協会に金塊1トン分=6千万ペソを寄付したことで誤解をされたかも知れませんが、私は昔から慈善事業に興味を持っていましてね。昨晩もレティーロ地区のビジャ31「Villa 31」へ参りました。

カタリナ:あら、そうなの。私も聞いたことがあるけど、大変な地域らしいわね。

ルドラ:そうですね。私が見たところ、確かにごみごみしていて、小さな小屋のような住宅が密集しています。車を降りて大通りを歩いたのですが、大通りはまばらでしたが、路地には小汚い浮浪者がいっぱいたむろしていました。

ルドラ:ここには登録されていない住民がわんさかと居るそうです。外国の不法移民と職を失った工場労働者が殆どで、犯罪も多発しています。一番多いのは薬物「アヘンやマリファナ」の密売と窃盗・強盗のたぐいですね。

ルドラ:この地域の問題点は「犯罪防止、治安対策、住宅問題、インフラ整備、雇用促進の5つ」ですが、私は検事として犯罪防止、治安対策に人手を増やすとともに無料の公共住宅を建設することに決めました。

ルドラ:ルドラ住宅販売建設㈱「資本金1億2千万ペソ」を設立し、この地域に無料の住宅1万戸を建設することにしたのです。

カタリナはルドラの話を聞いて感激し、思わず涙を浮かべた。ルドラは席を立ち、カタリナの肩を抱いて強く抱擁し、長い長いキスを交わした。そのままふたりがカタリナの予約したホテルの部屋で懇ろに抱き合ったのは言うまでもない。

☆ふたりの寝物語
カタリナはルドラを我が物にしたことで、社交界で張り合っているロサと対抗するためにはどうしたら良いかとルドラに相談した。

ルドラは彼女にこう勧めた。

ルドラ:ロサさんは慈善団体ヴィラ・オルトゥサル女性協会を設立し、貴女よりも一歩先んじました。少なくとも貴女も同じことをせねばなりません。

カタリナ:私にも同じような団体を立ち上げろと言うの?

ルドラ:ロサさんは女性の権利と社会的福祉を支援する非営利組織ヴィラ・オルトゥサル女性協会を立ち上げました。貴女は老人ホームをお作りになったら如何でしょうか。

ルドラ:カルメン・デ・アレンディン社会福祉施設「Hogar de Ancianos Carmen de Areco」と名付け、高齢者が快適に過ごせるように設計し、医療スタッフやソーシャルワーカーを常駐させるのです。施設は、地元の慈善活動家や寄付者からの寄付によって運営すれば良いのです。

カタリナ:貴方もお金を出してくれるの?

ルドラ:勿論ですよ。私は金塊2トン分=1億2千万ペソを提供しましょう。

ルドラはその場で小切手を切って彼女に渡した。

カタリナはカルメン・デ・アレンディン社会福祉施設の理事長に就任し、ルドラを副理事長に任命するとともに、今年の4月1日に実施されるブエノス・アイレス市長選に立候補するよう強く勧めた。

ルドラは彼女に生返事をしながら、彼女が下着を身につけるのを興味深く観察していた。

彼女はなめらかな手触りのするサテンのブラジャーやショーツ、ガーターベルト、そしてストッキングを身に着けており、どれにもレースや刺繍が施されていました。

ガードルは、腰回りを引き締めるために使用され、シルクやサテンのブラジャーは胸を支え、快適な着用感を提供しているようです。また、ストッキングは、レースや刺繍が施されたガーターベルトで固定され、カタリナは美しさを追求する一方で、機能性も重視していました。

カタリナがガーターベルトを付け終わった段階でルドラは根気よく彼女の下着を一つずつ取り外し、もう一度彼女に挑みます。嬌声を上げながらカタリナは抗いますが、ルドラの熱心な愛撫に負けてしまいます。

午後4時半頃になり、やっとルドラはカタリナを解放しました。

ルドラはカタリナが衣服を身につけるのをじっと見守ります。カタリナに手を出すなと叱られていたからです。

カタリナは比較的控えめな色味で、明るすぎず暗すぎない、中程度の色調が好きだと言っており、ダークグリーンのドレスを着ていました。

気に入ったかと聞くので、「黒、グレー、ネイビー、茶色、ベージュ、オリーブグリーン、ワインレッド、紺色、ダークグリーン、深紅色」ならどんなものでも似合うよと答えると我が意を得たりという表情をしていました。

彼女は腰を引き締めるために、コルセットを着用しており、ファッションアクセサリーとして、広いつばのあるフェルトハットや黒のシルクの手袋、小型でコンパクトなサイズで、手持ち用のストラップと緻密なパールの飾り付きのハンドバッグなども身に着けていました。

首元や袖口には、ファーをあしらい、リボンや装飾品を付けており、大粒の真珠の首飾りをアクセントに付けていました。

全体的には、シンプルでエレガントなファッションスタイルという印象を受けました。ルドラにとっては斬新なスタイルでとても好ましいものでした。しかし、そう思ったことは口に出さずクールに彼女を突き放すことにしました。

カタリナは次回の約束をしようとしますが、ルドラは今度は俺のほうが誘うと言い張り、次回の約束をせずにホテルを出ました。

1935年1月14日月曜日午後6時:ルドラ邸
ルドラが帰ってきたのを聞きつけてフアナが部屋に入ってきた。

フアナ:マリアが急用だと言って3時間も前から私の部屋で待っているわ。話を聞いてやってちょうだい。

ルドラ:そうか。何の用だろうな。マリアを呼んで来い。

ルドラ:急用と言うのは何だ?

マリア:フランシスコ・ペレス・ルブリカ「Francisco Pérez Lebraca」さんという人がお金を借りたいと言うのよ。

ルドラ:幾ら借りたいんだ。

マリア:50万ペソ「2023年現在の日本円で6,750万円」よ。

ルドラ:農園とか牧場とかの担保はあるのか?

マリア:いえ。担保は無いのよ。

ルドラ:馬鹿野郎。そんな奴に金は貸せない。

マリア:私もそう言ってやったんだけどね。サン・マルティン鉄道会社の社員さんでね。アルゼンチンの労働総同盟「CGT」の書記長をやっている人よ。

ルドラ:ああ、何か聞いたことがあるな。サン・マルティン鉄道と言えば今ストライキをやっている会社だろう。警察や軍隊がストライキ潰しをやっていると聞いたな。

マリア:ストライキが長引いて組合員が給料が入らないので困っていると言っていたわ。

ルドラ:そりゃ当たり前だろう。仕事をしないやつに給料を支払うような会社はないよ。

ルドラ:ちょっと待てよ。アルゼンチンの労働総同盟「CGT」の書記長をしていると言っていたな。マリア、そいつに電話してここに呼び出せ。

ルドラたちが夕食を食べ終わった頃、フランシスコ・ペレス・ルブリカが訪れた。

ルドラ:フランシスコさんよ。ぶっちゃけたことを聞くが、CGTの構成員はブエノス・アイレス市ではどのくらい居るんだ?

フランシスコ:そうですね。ざっとですが80万名位でしょう。

ルドラ:結構沢山いるんだな。50万ペソは貸してやろう。その代わりに俺がブエノス・アイレス市の市長選に出馬した時は票を取りまとめてくれ。

フランシスコ:ルドラさんとおっしゃいましたね。当選した時には元利合計をチャラにしてくれるのなら話に乗りましょう。

ルドラ:了解した。

ルドラは現金で50万ペソを支払い、念書を書かせた。

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

カタリナはルドラを我が物にしたことで、社交界で張り合っているロサと対抗するためにはどうしたら良いかとルドラに相談した。ロサさんは女性の権利と社会的福祉を支援する非営利組織ヴィラ・オルトゥサル女性協会を立ち上げました。貴女は老人ホームをお作りになったら如何でしょうか。カルメン・デ・アレンディン社会福祉施設と名付け、高齢者が快適に過ごせるように設計し、医療スタッフやソーシャルワーカーを常駐させるのです。施設は、地元の慈善活動家や寄付者からの寄付によって運営すれば良いのです。ルドラが帰ってきたのを聞きつけてフアナが部屋に入ってきた。マリアが急用だと言って3時間も前から私の部屋で待っているわ。急用と言うのは何だ?フランシスコ・ペレス・ルブリカさんという人がお金を借りたいと言うのよ。アルゼンチンの労働総同盟「CGT」の書記長をやっている人よ。50万ペソは貸してやろう。その代わりに俺がブエノス・アイレス市の市長選に出馬した時は票を取りまとめてくれ。ルドラさんとおっしゃいましたね。当選した時には元利合計をチャラにしてくれるのなら話に乗りましょう。