小説「海と陸の彼方へ」

 

第五章大渡河に掛かる橋

 

第18話 李立三の逮捕劇「富順の貢井にて」

 

前書き

ルイスは家に潜り込み、無人と思われる西房の一室に隠れた。李立三(リー・リーサン)の四合院は李華(リー・ファ)(36歳)の家の10倍くらいあり、流石に天下の中国共産党の幹部の家という風格がうかがえる。この壮大な四合院は、大きな印象的な本堂に続く精巧な石のモザイクの小道が特徴的な広々とした中央の中庭を備えている。中庭を囲む部屋には、豪華な彫刻と装飾的な真鍮の金具が施された大きくて磨き上げられた木製の扉がある。屋根は光沢のある黒い瓦で構成され、端には金色の龍のモチーフがある。そして、優雅な赤いランタンが軒先に渡されている。中庭には、手入れの行き届いた盆栽の木、石の彫像、そして蓮の花とカラフルな錦鯉がいる小さな池を備えた整備された庭がある。四合院の壁はソ連のプロパガンダのポスターや共産党の象徴で飾られている。遠くの山々と澄んだ青空を背景に、力と贅沢の雰囲気が漂っている。

 

本文

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登場人物「1935年1月1日時点」  
アンヘル・ディアンジェロ16歳:ハーバーテックソリューションズ(HTS)の会長兼CEO。ル・クリスタル・ホテル所有「200万ドルで居抜き購入」。アンヘル航空㈱会長兼CEO「資本金10億ドル」。ヴィヴィ警備会社「資本金1千万ドル」オーナー。軍事産業への共同投資60億ドル「配当金:1,929万ドル/ 週」。現預金50億ドル「シャドウ・ネクサスから略奪」と債権「総額不明」所有。
マリア・エバ・ドゥアルテ16歳。アンヘルの妻。AMレジャー総合開発㈱「資本金1億ドル」社長兼COO。悪魔のように可愛い女。 
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アンヘルの家族 
イタリア系の不法移民で、彼らの家族名は「ディアンジェロ」です。以下はディアンジェロ家の家族構成です: 
・父親ヘクター・ハミルトン(28歳)「10歳の若返り」:アンヘルから10億ドルの資金を貰い、テキサスで石油と天然ガスを発掘した。 
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ヘクターの資金7億4,060万ドル。前々回の最後で石油精製会社の資本金を5千万ドルとして計上した。別途にエドゥワルドから50億ドルの資金を預かる。
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兄ルイス・ディアンジェロ(18歳):表向きはニューヨーク市警警部兼総合建設会社NYHCの社員。 実はマフィアのアンダーボス。マフィアのボス:エドゥアルドの最愛の妻セリーナ・マッキンノン(27歳)を奪ったことで、アメリカを追われ、中国に逃れる。弟アンヘルの計画「中国共産党最高指導者毛沢東暗殺」に成功し、国民党政府主席蒋介石から、巴蜀・雲南の軍政長官に任命される。ルイスをアメリカら放逐したボスのエドゥアルドも自らの第一夫人クラウディア・コステロ(42歳)「前ボス:コステロの元妻」の不興を買い、香港に逃亡中。 
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ルイスの資金

190億両の為替。銀錠20億両。一般会計10億両と特別会計10億両に分けてある。一般会計の方は506万5千両支出した。特別会計10億両はルイスが握っているが、すでに342,900両支出した。

 

以上一般会計支出(506万5千両)



塩井、火井、炭田、石炭発掘器具購入費用

必要な人材の年俸

 

以上特別会計支出(342,900両)

 

新たな支出

器具・工具見積もり(350,000両)

人員見積もり(117,800両)

追加器具・工具(11,400,000両)

追加人員(1,188,000両)

 

以上、13,055,800両支出し、これまでの支出342,900両と合わせると13,398,700両の特別会計支出である。後半の金額は馬鹿に高いと思うが、これはルイスが張銘チャン・ミンに騙されたのである。後のエピソードでルイスは気付く。何分中国の地理も分からないし、器具・工具、人件費の相場など相見積もりを幾つか出させないと分からない。しかし、ルイスには比較すべき業者も知らなかった。

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ルイスの部下
1.周恩来ジョウ・エンライ、37歳、江蘇省出身:
・穏やかで知的な性格をしており、どんな状況でも冷静さを失わない。
・話し方には礼儀があり、分析的で思慮深い。
・組織的な思考を持ち、リーダーシップを取れる。
・他者に対しては理解深く、共感を示すことができる。

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ルイスの3人の妻「ムスリム教徒」

ナディア・アミール・アル・サン(42歳)。ルイスの第一夫人「政治担当」。元宋慶齢ソン・チンリン。上海出身。
・自立心が強く、決断力がある女性。
・社会的な問題に対して意識が高く、積極的に意見を表明する。
・優雅で洗練された振る舞いを持ち、周囲に対しても敬意を払う。
サリマ・ファイサル・アル・ハウ(25歳)。ルイスの第二夫人「会計担当」。元賀子珍ホ・ズージェン。江西省出身。
・勇敢で情熱的な性格。自分の信念に強く固執する。
・感情が豊かで、時に感情的になりやすい。
・直感に頼ることが多く、行動的で果敢な面がある。
王光美ワン・グアンメイ(14歳)。ルイスの第三夫人「軍隊担当」。山東省出身。
・年の割には成熟しており、好奇心が強い。
・柔軟な思考を持ち、新しい環境にも早く適応する。
・人懐っこく、周りの人々との交流を楽しむが、時には頑固な一面も。

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マフィアの組織図「パブリックドメイン」


紅軍の長征

中国全土

山川出版社「地域の世界史9……市場の世界史」P171

朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。P10

朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。P11

朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。P49

 

6月11日火曜日、午後6時:四川省富順県貢井・張銘チャン・ミンの家
李華リー・ファ(36歳)とルイスは時間も忘れて楽しんでいたが、やがて楽しみも尽きるときがやってきた。"さあ、そろそろ夕食を作るか”李華リー・ファは、日暮れが迫る前に夕餉の準備を始めた。

ルイスに十二分に愛され、夢を見ているような至福の時間を過ごした李華リー・ファは、ルンルン気分で彼女の得意とする料理を手際よく準備した。炊き立ての香り高い米、地元の野菜を使った炒め物、そして塩井から直送された塩で味付けをした豚肉の煮込みがメニューに含まれている。家の中は、彼女の料理の香りで満たされ、ルイスと水入らずで夕餉を楽しむ時間が近づいて来た。

一方、ルイスは、次の日の重要な任務に備えていた。彼はテンパ・ティンリーに連絡を取り、明日の李立三リー・リーサンの逮捕に向けた準備を整えさせた。テンパ・ティンリーは、航空兵3,000名を率いて内江、成都、重慶の3都市を巡回するよう命じられ、自らは重慶へ向かうことになった。共産党の暴動に備えるため、残りの兵は宜賓イービンで待機することとなった。

夕餉に向けた賑やかな李華リー・ファ(36歳)の声が四合院に響き渡る。夕日が家の中庭に柔らかな光を落とし、ふたりの笑顔がそれに応える。李華は、夕餉の準備に余念がなく、ルイスは電話する合間も彼女に話しかけ、彼女を喜ばせる。ルイスの話しかける声が李華リー・ファにとって心地よい背景音楽となっていた。夕餉の食卓には、ルイス、李華リー・ファのふたりの絆と温もりが詰まっており、李華リー・ファはそんな日々を何よりも大切にするつもりになった。

夕食後、ルイスはひとりで外出した。勿論、李立三リー・リーサンの様子を探るためである。

☆午後7時半:四川省富順県貢井、李立三リー・リーサンの家
ルイスは家に潜り込み、無人と思われる西房の一室に隠れた。李立三リー・リーサンの四合院は李華リー・ファ(36歳)の家の10倍くらいあり、流石に天下の中国共産党の幹部の家という風格がうかがえる。

この壮大な四合院は、大きな印象的な本堂に続く精巧な石のモザイクの小道が特徴的な広々とした中央の中庭を備えている。中庭を囲む部屋には、豪華な彫刻と装飾的な真鍮の金具が施された大きくて磨き上げられた木製の扉がある。屋根は光沢のある黒い瓦で構成され、端には金色の龍のモチーフがある。そして、優雅な赤いランタンが軒先に渡されている。中庭には、手入れの行き届いた盆栽の木、石の彫像、そして蓮の花とカラフルな錦鯉がいる小さな池を備えた整備された庭がある。四合院の壁はソ連のプロパガンダのポスターや共産党の象徴で飾られている。遠くの山々と澄んだ青空を背景に、力と贅沢の雰囲気が漂っている。

ガラッと南側の中央扉が開く音がした。続々と人が入ってくる様子だ。ルイスが通ってきた廊下を通って北へと歩いて行く。大体の状況を説明すると、南側の中央辺りに正門があり、正門をくぐると向かって左側に細い通路があり、西房に向かっている。西房は3つの区画に分かれており、1区画に一家族が生活できる3つの部屋がある。

ルイスは西房の一番南側の区画の一番南側の部屋に潜んでいる。南北の通路「廊下」を通って北にある正房に向かう。正房も3区画あり、中央が庁堂である。庁堂はいわゆる会議室・客間であり、一家全員が集って食事を摂る場所でもある。庁堂の向かって右「東側」の区画「3室」がこの家の当主:李立三リー・リーサンの居住する場所である。庁堂の向かって左「西側」の区画「3室」は当主の妻の居住する場所である。

ルイスは緊張した。今誰かがこの部屋のふすまを開けると、ルイスは逃げられない。向かってくる敵を皆殺しにしない限り逃げることは不可能だろう。ただルイスは人殺しをしたくなかった。毛沢東を暗殺せよと命令されたが、ルイスには端からその気はなかった。捕らえて蒋介石に引き渡すだけである。殺したければ蒋介石が手を下すだろう。

待つこと10数分、どうも全員廊下を通り、庁堂に到着した様子だ。まだ音がする。台所でお茶や軽食の用意をしている。西房と正房の間にある隅っこの部屋が台所である。色々な言い方があるが厨房が普通の言い方である。正房と廂房「建物の左右の2棟」が交わるところにあり、暗間と呼ばれることもある。変な言い方だが、正房、廂房「東房、西房」が中庭「天井」に面していることから明間と呼ばれるのに対し、中庭に面してなくて太陽の陽を浴びないことから来ているのだろう。

北の方から誰かが西房の廊下を走ってくる音がした。ルイスは飛び出そうとしたが、ふすまをあけて入ってくる女性と正面衝突してしまった。その女性が驚いて大声を上げようとした。

ルイスは女を抱き締め、口で女の口を塞いだ。女は大暴れしたが、馬鹿力のルイスには太刀打ちできない。ルイスも覚悟を決め、女を寝室まで連れ込み、おもむろに女の下着を脱がせ自分も素っ裸になった。

こうなれば女もどうにも出来ない。成り行きで女の身体を奪い、泣き伏す女に無駄とは知りながら口止めをした。女が黙っているのも暫くの間だろう。

猶予のなくなったルイスは、庁堂に向かい、8名「男5名、女3名」ほどいることを確認し、天井に拳銃をぶっ放した。驚いた連中は全員外に出て逃げ出した。追いかけたルイスは一人だけ拘束した。残念ながらこの家の当主:李立三リー・リーサンではなく、王明ワン・ミン(31歳)と名乗る男であった。

ルイスはその場で王明ワン・ミン(31歳)を尋問し、彼らの計画を白状させた。彼らは元々中国共産党の非主流派で、毛沢東により立場を奪われ、ソビエトのコミンテルンに請われてソ連のモスクワに政治亡命していたが、この度の毛沢東の死亡を受けて立場が復活し、再度中国共産党の主流派に返り咲いたそうである。

彼らの方針は毛沢東に言わせれば極左冒険主義というもので、要は大都市で武装蜂起しようというものであった。ルイスの予想通りなのかは分からないが、"近いうちに成都、内江、重慶の3都市で武装蜂起する。規模はそれぞれ5万人規模の武装蜂起だ"という。

ルイスはその話を聞き、宜賓イービンで待機する留守部隊7,000名「700機」に出撃命令を下した。成都2,500名「250機」、内江2,000名「200機」、重慶2,500名「250機」の陣容である。

女にも素性を聞いた。女はナターシャ・イワノヴナ(32歳)と名乗った。ロシア人である。彼女が貢井の船着き場で下りた女性であることは間違いない。

ルイス:君は李立三リー・リーサンの妻なのか?

ナターシャ・イワノヴナ:私は彼の愛人であり、妻ではない。息子のアレクセイ・イワノヴィチ(5歳)も彼の息子ではなく、私の死んだ先夫の息子である。

ルイス:そうか。それなら君たちの身柄は僕が預かろう。

ナターシャの意外な発言にルイスは驚くが、彼女と子供を保護する決意をする。一方で、彼女は自らの意志を無視されたことに苛立ちを感じている。ルイスは王明ワン・ミンとナターシャを連れ、夜の中庭を横切り、台所へと向かう。そこで彼は簡単ながらも酒の肴を作り始める。

夜が更けても、この異様な集まりの中で、ルイスは食事の支度をする。台所は活気に満ち、彼の料理の腕前が試される。彼が作るのは、塩井で働く鉱夫たちが好むような簡素ながらも栄養満点の食事。食卓に並べられたのは、炒め物、漬け物、そして地元の野菜や豆腐を使った料理だ。

3人は独特の静けさの中で食事を共にする。王明ワン・ミンは疲労で口数が少なく、ナターシャは不本意ながらも食事を楽しむ。ルイスは彼らに軽く会話を振りながらも、心の中で次の一手を考えていた。

食事が終わりに近づくと、ルイスは王明ワン・ミンを部屋に戻し、ナターシャとその子供を自分の部屋に案内する。翌日の行動計画を練りながら、彼らは一夜を過ごすことになる。この静かで奇妙な夜が、ルイスにとってどんな意味を持つのか、誰にも予測はつかない。しかし、彼にとっては、彼が信じる正義のための必要な一歩であることは確かだった。

今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。

 

後書き

猶予のなくなったルイスは、庁堂に向かい、8名「男5名、女3名」ほどいることを確認し、天井に拳銃をぶっ放した。驚いた連中は全員外に出て逃げ出した。追いかけたルイスは一人だけ拘束した。残念ながらこの家の当主:李立三(リー・リーサン)ではなく、王明(ワン・ミン)(31歳)と名乗る男であった。ルイスはその場で王明(ワン・ミン)(31歳)を尋問し、彼らの計画を白状させた。彼らは元々中国共産党の非主流派で、毛沢東により立場を奪われ、ソビエトのコミンテルンに請われてソ連のモスクワに政治亡命していたが、この度の毛沢東の死亡を受けて立場が復活し、再度中国共産党の主流派に返り咲いたそうである。彼らの方針は毛沢東に言わせれば極左冒険主義というもので、要は大都市で武装蜂起しようというものであった。ルイスの予想通りなのかは分からないが、"近いうちに成都、内江、重慶の3都市で武装蜂起する。規模はそれぞれ5万人規模の武装蜂起だ"という。