第一章第6話捕虜たちとルイス
前書き
1930年代、中国の荒れた大地は、力と野望が交錯する戦場となる。ルイス・ディアンジェロは運命に翻弄されながらも、その中で自らの道を切り拓こうとしている。一方、家族の絆、敵との対立、そして未知の土地での生存戦略は、彼の冒険に新たな次元を加える。このエピソードでは、ルイスが捕虜となった周恩来、宋慶齢、王光美、賀子珍との複雑な関係を通じて、彼の内面の成長と変化を描き出す。読者は、時には緊張し、時には感動しながら、ルイスの旅路に同行することになる。
本文
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登場人物「1935年1月1日時点」
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主人公ルイス・ディアンジェロ（18歳）：元マフィアのアンダーボス。マフィアのボス：エドゥアルドの最愛の妻セリーナ・マッキンノン（27歳）を奪ったことで、アメリカを追われ、中国に逃れる。弟アンヘルの計画「中国共産党最高指導者毛沢東暗殺」に乗っかり、成功した。その功績を評価され、国民党政府主席蒋介石から、巴蜀・雲南の軍政長官に任命される。
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ルイスの資金
敵対するニューヨーク・マフィア から奪った朱堤銀200億両「日本円で400兆円」という莫大な隠し財産を為替で持っている。
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ルイスの家族
イタリア系の不法移民で、彼らの家族名は「ディアンジェロ」です。以下はディアンジェロ家の家族構成です：
・父親ヘクター・ハミルトン（28歳）「10歳の若返り」：次男アンヘルから10億ドルの資金を貰い、テキサスで石油と天然ガスを発掘した。
・弟アンヘル・ディアンジェロ16歳：ハーバーテックソリューションズ（HTS）の会長兼CEO。ル・クリスタル・ホテル所有「200万ドルで居抜き購入」。アンヘル航空㈱会長兼CEO「資本金10億ドル」。ヴィヴィ警備会社「資本金1千万ドル」オーナー。軍事産業への共同投資60億ドル「配当金：1,929万ドル/ 週」。現預金50億ドル「シャドウ・ネクサスから略奪」と債権「総額不明」所有。
マリア・エバ・ドゥアルテ16歳。アンヘルの妻。AMレジャー総合開発㈱「資本金1億ドル」社長兼COO。悪魔のように可愛い女。
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ヘクターの資金7億4,060万ドル。前々回の最後で石油精製会社の資本金を5千万ドルとして計上した。別途にエドゥワルドから50億ドルの資金を預かる。
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真珠湾基地責任者と家族
・ジェームズ・ハリントン大佐: 真珠湾基地の責任者。45歳。長年の軍歴を持ち、特に戦略的思考と組織運営に長けている。
・マーガレット・ハリントン（42歳）: ジェームズの妻。地域社会でのボランティア活動に積極的で、特に子供たちの教育と福祉に関心を持っている。
・エリザベス・ハリントン（20歳）: 長女。大学で政治学を学びながら、軍事基地内での青少年プログラムに参加している。
・ウィリアム・ハリントン（18歳）: 長男。大学進学を控え、将来は海軍に入隊することを夢見ている。
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ルイスの捕虜兵
1.周恩来（37歳）。江蘇省出身:
・穏やかで知的な性格をしており、どんな状況でも冷静さを失わない。
・話し方には礼儀があり、分析的で思慮深い。
・組織的な思考を持ち、リーダーシップを取れる。
・他者に対しては理解深く、共感を示すことができる。
2.宋慶齢（42歳）。上海出身:
・自立心が強く、決断力がある女性。
・社会的な問題に対して意識が高く、積極的に意見を表明する。
・優雅で洗練された振る舞いを持ち、周囲に対しても敬意を払う。
3.王光美（14歳）。山東省出身:
・年の割には成熟しており、好奇心が強い。
・柔軟な思考を持ち、新しい環境にも早く適応する。
・人懐っこく、周りの人々との交流を楽しむが、時には頑固な一面も。
4.賀子珍（25歳）。江西省出身:
・勇敢で情熱的な性格。自分の信念に強く固執する。
・感情が豊かで、時に感情的になりやすい。
・直感に頼ることが多く、行動的で果敢な面がある。
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マフィアの組織図「パブリックドメイン」
紅軍の長征
瀘定橋
中国全土
山川出版社「地域の世界史９……市場の世界史」P171
朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。P10
朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。P11
朝日出版社「西南シルクロード紀行」宍戸茂著。P49
麗江古城
☆ヘクターの動向
1935年5月11日土曜日午後6時：カーペンター家の豪邸「ダラス郊外」
エリザベス・ハミルトン（48歳）からそちらに押しかけると言われ、大慌てしたキャサリン（40歳）だが、ヘクターはすぐに帰ってくれというキャサリンの懇願を聞かぬばかりかキャサリンを抱いて離さぬ有様である。
そこにもう一度電話が鳴った。キャサリンは何とかヘクターを振り切り、受話器を取った。何とヘクターへの電話であり、しかも若い女性からである。キャサリンは怒りに我を忘れ、受話器の横にあったゴルフのパターでヘクターを殴った。
キャサリンごときに殴られる男ではなく、スルッと身を交わし、キャサリンをベッドにくくりつけ、猿轡（さるくつわ）をかました。
ヘクターが受話器を取ると、聞き覚えのある声がした。ニューヨークのラジオシティ・ミュージックホールで活動するザ・ロケッツ(The Rockettes) にダンサーとして入団したリリーであった。
ヘクター：何だ。リリーさんじゃないか。俺がここにいることが良く分かったな。元気にしているのか？
リリー：私は元気よ。心配しないで。それより、ジェームズの母親エリザベス・ハミルトン（48歳）がそちらに押しかけると言っているわ。
ヘクター：それは聞いて知っている。君こそ何でハミルトン一家に関わりがあるのだ。
リリー：話をすれば長くなるし、貴方には言いにくいことだけど、全部白状するわ。私ね、ジェームズと付き合っているの。結婚する約束もしたわ。
ヘクター：そうか。別に言いにくいことでもないじゃないか。それは良いことだ。君の幸せを祈っているよ。
リリー：そう言ってくれて嬉しいわ。それでね。貴方とキャサリンの関係をエドワードさんが疑い始めたのよ。エリザベス・ハミルトンはキャサリンさんから白状させようと考えているのよ。
ヘクター：俺は別にバレても平気だぜ。ソフィアが離婚するといえば離婚するまでのことだ。慰謝料くらいいくらでも払ってやるよ。
リリー：貴方のことだからそう言うかも知れないと予想はしていたわ。でもわざわざそうすることもないでしょう？人様の家庭にわざと波風を立ててやろうとするのは悪趣味よ。私は貴方がそんな人になって欲しくないのよ。
ヘクター：しかし、エリザベス・ハミルトンが何で俺達の関係に口を挟もうとするのだ。それが俺には解せないな？
リリー：ご主人のチャールズ・ハミルトンは借金を抱えていてね。エドワード・カーペンターに50万ドル貸してくれと頼んだらしいのよ。
ヘクター：そうか。その代償に俺とキャサリンの関係を探らせようというのだな。
ヘクター：リリー。良く知らせてくれたな。有難う。感謝するよ。エリザベス・ハミルトン（48歳）については俺の力でなんとかしてやる。
ヘクターは受話器を切り、キャサリンの拘束を解いた。その時、突然ドアが開き、執事が現れた。彼はキャサリン夫人に、エリザベス・ハミルトン夫人がカーペンター家を訪れたことを知らせた。
1935年5月11日の土曜日夜、カーペンター家の豪邸はエリザベス・ハミルトンの突然の訪問でざわめいていた。ダラスでその美貌が知られるエリザベスは、178cmの高身長と年齢を重ねるごとに変化していった豊満な女性らしい体型が特徴的だった。かつてのスレンダーなモデル体型は、48歳の年齢と共に砂時計のような豊かな曲線美へと変わっていた。彼女のこの変化はヘクターにとって魅力的で、彼の目にはエリザベスへの称賛の輝きが宿っていた。
ヘクターはエリザベスに対して、特別なレディファーストの態度を示し、彼女の美しさと知性を褒め称えた。彼の甘い言葉はエリザベスの心をくすぐり、「エリザベス夫人、あなたの豊かな美貌と知性は、このダラスにおいて比類なきものです。年齢を重ねるごとに増すあなたの魅力は、まさに独特の輝きを放っています」と彼は言い、彼女の手を取り、軽くキスをした。
ヘクターは彼女をもてなすために自らキッチンに立ち、テキサスの伝統料理を手作りで準備した。彼の料理は、エリザベスに対する特別なもてなしと彼女の美貌と知性への敬意を表現するものであった。
ヘクターの献立にはテキサスの味が詰まっていた。
スモーキーバーベキューリブ: 煙の香りがたっぷりと染み込んだ、柔らかくジューシーなリブ。ヘクターはエリザベスに「これは特にあなたのために用意した逸品です」と語りかけた。
テキサスチリコンカーン: スパイスが効いた濃厚なチリ。彼は「エリザベス夫人の美しい笑顔には、このようなスパイシーな料理が似合いますね」と言いながら、優しく盛り付けた。
コーンブレッド: バターをたっぷりと塗った、ふっくらと焼き上がったコーンブレッド。彼は「ダラスで最も美しい女性にふさわしい、柔らかなパンです」と微笑みながら提供した。
グリーンビーンズのアーモンドバター炒め: 新鮮なグリーンビーンズをアーモンドバターで炒め、エリザベスの洗練された味覚を満たす一品に。
ペカンパイ: 甘いペカンパイで食事を締めくくる。「エリザベス夫人の甘い笑顔には、このペカンパイがぴったりです」とヘクターは甘い言葉を添えた。
ヘクターの料理と彼の丁寧なもてなしにエリザベスは心から感謝し、彼の細やかな気配りに感動した。彼女の当初の疑念は、ヘクターの献身的な態度と彼の料理の味わいによって解け、夕食の席は和やかで温かい雰囲気に満ちていた。
ヘクターの誠実な称賛と紳士的な態度は、エリザベスの心を動かした。彼女はヘクターの眼差しに隠された欲望を見逃さず、彼が自分をどのように見ているかを感じ取っていた。夕食の席でのヘクターの献身的なもてなしは、エリザベスの初めの疑念を解消し、彼女の心を和らげた。
この夜、ヘクターの細やかな注意と献身的なもてなしは、カーペンター家に訪れた危機を意外な和解へと導いた。エリザベスの訪問は、ヘクターとキャサリンの関係に関する誤解を解消する重要な一歩となり、ヘクターの言葉と行動はエリザベスの心を変え、家族間の信頼を新たに築く礎となった。
☆ルイスとチャン・ユン
1935年5月30日木曜日午後6時：納西族族長・王華（34歳）の邸宅
新しく族長となった王華（34歳）の指示で豪華な雲南料理がルイスに提供された。王華としてもルイスと行動を共にしたい気持ちは大いにあるのだが、納西族族長となった身では此処を移動するわけにも行くまい。
娘の王華が納西族の跡目を継ぐのは変だなとルイスは感じていたが、口には出さなかった。しかし、その理由は家族の口から少しずつ語られた。
夕食後の家族の語らい
テンパ・ドルジェ：目出度く、納西族の跡目が決まった。死んだ先妻もさぞかし喜んでいることだろう。先妻は納西族の前族長の娘だったからな。
王華：チャオ・ユンさんは摩梭族出身だったわね。永寧地域の落水下村出身よね。
チャオ・ユン：そうよ。良く覚えているわね。納西族も摩梭族も元をたどれば同じ根っ子から生まれたのよ。
王華：それも知っているけど、違いも大きいわよね。納西族には文字があるけど、摩梭族には無いわ。
テンパ・ドルジェ：王華。それ以上は言うな。2つの部族の対立は俺とチャオ・ユンが一緒になったことで解消した。お前も言いたいことはあるだろうが、お前が約束どおりに納西族の跡目を継いだ以上文句は言わせないぞ。話は終わりだ。解散。
ルイスはチャオ・ユンと三男のテンパ・ソナム（20歳）を連れて石鼓鎮へ向かうことにした。
チャオ・ユン：ルイス様。宜賓には行かないのですか？
ルイス：その前に石鼓鎮の村長宅に行き、捕虜兵「男一人、女三人」を連れて行く。
その時、長男のテンパ・ティンリー（24歳）が"石鼓鎮へ行くなら私も一緒に連れて行って下さい"とルイスに声を掛けた。テンパ・ティンリーは石鼓鎮の村長になることが決まっていたのだ。ルイスは快く引き受け、ハイオクガソリンを積み込んだ馬車に乗り、飛行機の置いてある麗江の草原に向かった。
1935年5月31日の早朝、ルイスはチャオ・ユンと共に、長男のテンパ・ティンリーと三男のテンパ・ソナムを伴って、雲南省の石鼓鎮へと旅立った。彼らの目的は、村長宅を訪れ、捕虜兵「男一人、女三人」を連れて行くことにあった。
深夜に石鼓鎮の草原に到着した一行は、飛行機の中で仮眠を取り、翌早朝までしっかりと眠った。飛行中、テンパ・ティンリーは飛行機の操縦に興味を示し、ルイスの助手として行動することを望んだ。
ルイスはその願いを受け入れ、彼を連れて行くことに決めた。彼の代わりの石鼓鎮村長には三男のテンパ・ソナムを推薦することになった。
朝7時に石鼓鎮の村長宅に到着すると、新村長となるテンパ・ソナムは、捕虜兵4名を離れから出し、ルイスに引き渡した。チャオ・ユンは三男との別れを渋々受け入れたが、長男の懇願もあり、彼の新たな役割に同意した。
その後、ルイスたちは石鼓鎮の村長宅で歓迎され、長江第一湾名物の郷土料理でもてなされた。侍女たちが手際よく料理を運び出し、テーブルは地元の食材を使った豊かな料理で溢れた。ルイスとチャオ・ユンの息子たちは、この地の美味しい料理を心ゆくまで楽しんだ。
☆捕虜兵との面会
ルイスは4名の捕虜兵たちと一通り会話した。先ず一人目は唯一の男性である。
ルイス：名前と年齢を述べよ。
男：周恩来と言います。37歳です。江蘇省の出身です。
女1：宋慶齢と言います。42歳です。上海出身です。
女2：王光美と言います。14歳です。山東省出身です。
女3：賀子珍と言います。25歳です。江西省出身です。
賀子珍は"毛沢東の仇を討ってやる"と叫び、ルイスに飛びかかってきたが、ルイスは難なく彼女を取り押さえ、"何時でも相手をしてやるから掛かってこい"と告げました。
☆捕虜兵たちの性格
1.周恩来（37歳）。江蘇省出身:
・穏やかで知的な性格をしており、どんな状況でも冷静さを失わない。
・話し方には礼儀があり、分析的で思慮深い。
・組織的な思考を持ち、リーダーシップを取れる。
・他者に対しては理解深く、共感を示すことができる。
2.宋慶齢（42歳）。上海出身:
・自立心が強く、決断力がある女性。
・社会的な問題に対して意識が高く、積極的に意見を表明する。
・優雅で洗練された振る舞いを持ち、周囲に対しても敬意を払う。
3.王光美（14歳）。山東省出身:
・年の割には成熟しており、好奇心が強い。
・柔軟な思考を持ち、新しい環境にも早く適応する。
・人懐っこく、周りの人々との交流を楽しむが、時には頑固な一面も。
4.賀子珍（25歳）。江西省出身:
・勇敢で情熱的な性格。自分の信念に強く固執する。
・感情が豊かで、時に感情的になりやすい。
・直感に頼ることが多く、行動的で果敢な面がある。
ルイスはこれらの捕虜兵たちとの面談を通じて、彼らのそれぞれの性格と能力を見極め、彼らがどのように役立つかを考えた。また、石鼓鎮新村長となるテンパ・ソナムがまだ若いことを心配し、チャオ・ユンに話をしてみると彼女も同じ思いであった。
チャオ・ユンとしてはルイスや長男と一緒に見知らぬ大きな街：宜賓へ一度行ってみたいという気持ちはあったが、ここは彼女の強い母性愛が勝り、テンパ・ソナムの補佐をすることを決意した。ジェームズの家族はすでに蒋介石の手配により、南京へと旅立っていた。またしてもルイスは一人ぼっちになる。
☆捕虜兵たちの話し合い
捕虜となった周恩来、宋慶齢、王光美、賀子珍の4人は、ルイスとの面談後、狭い部屋に集まって今後の計画を練ることにした。
周恩来は、リーダーとして率先して話し始めた。"我々は今、非常に危険な状況に置かれている。しかし、脱出を図る前に、敵の意図を知ることが重要だ。ルイスの強さは我々の想像を超える。彼に抗うことは、今の我々には不可能だ"
宋慶齢は、彼女の洞察力を生かして分析を加えた。"ルイスはただの力だけの男ではない。彼には何か目的があるようだ。それを見極め、我々の有利に働くように計略を練る必要がある"
王光美は、若さと柔軟性を活かして提案した。"我々はルイスをだますことも考えられる。彼の信頼を得て、適切なタイミングで行動を起こすのだ"
賀子珍は、情熱的に意見を述べた。"ルイスに対する復讐の機会を見逃すわけにはいかない。しかし、今は忍耐が必要だ。彼の考えを探ることで、我々の逃亡計画は成功する可能性が高まる"
この話し合いを通じて、4人はルイスに直接対決するのではなく、彼の意図を探り、最適な逃亡計画を練ることに一致見解を得た。彼らはそれぞれの持ち味を活かしてルイスに接近し、彼の弱点を見つけ出すための策略を練ることにした。
ルイスと捕虜たちの腹の探り合いと虚々実々の駆け引きが終わった時には午前中が終わり、お昼時となっていた。
☆ルイスの捕虜たちへの食事提供
ルイスはチャオ・ユンに雲南料理のレシピを教わり、自ら料理を作り始めた。人懐こい王光美はルイスに話しかけ、"ルイスさん。私も手伝うわ。包丁を貸してよ"と言ったが、ルイスは彼女の意図「安心させておいて斬り殺す」を読み取り、こう言った。
ルイス：止めておけ。お前の腕では俺を斬り殺せない。返り討ちに会うのが落ちだ。俺も子供を殺したくない。人殺しは散々やってきているからもううんざりなんだよ。
王光美は腹の中を見透かされて動揺した。いずれにしてもルイスのキッチンでの活動は、捕虜たちの興味を引きつけた。彼はチャオ・ユンから教わった雲南料理のレシピを元に、熟練した包丁さばきで料理を始めた。女性捕虜たちは、彼の腕前に注目し、その技術に内心感心していた。
料理が完成すると、ルイスは捕虜たちと同じテーブルで昼食を共にした。彼は特に賀子珍に心を込めてサービスを提供し、彼女の心を和らげようとした。
この昼食で提供された雲南料理の献立は以下の通りだった。
・雲南のクロスブリッジ米麺: 伝統的な雲南の米麺で、新鮮な野菜、鶏肉、豚肉がトッピングされている。
・酸辣湯: 酸味と辛味が特徴のスープで、野菜と鶏肉が入っている。
・炒め豆腐と野菜: 様々な野菜と共に炒められた豆腐がメインの一品。
食事中、不思議なことに、ルイスと捕虜たちの間には一種の共同体意識が芽生え始めた。ルイスの誠実な料理と配慮は、捕虜たちにとっても新たな視点を与え、互いの間にあった緊張が和らいだ瞬間であった。
賀子珍は何故ルイスが自分に優しくするのか不思議に思った。よりによってルイスを殺そうとした自分に優しくする理由が分からなかった。
彼女は一番信頼している宋慶齢に聞いてみることにした。
宋慶齢：あんたも馬鹿だね。男が女に優しくする理由はたった一つだよ。あんたに惚れているのさ。
今回はここまでにいたしましょう。次回をお楽しみに。
用語解説
摩梭族
摩梭族は、中国南西部の雲南省と四川省の境界に位置する瀘沽湖周辺に住む、独特の文化を持つ少数民族です。摩梭人は中国で唯一の母系社会とされ、その文化は伝統的な家族構造や生活様式で知られています。特に「走婚」と呼ばれる独自の結婚形式が有名で、男性は夜に女性の家を訪れるが、共同生活を送ることはなく、子どもたちは母親の家族と共に暮らします。
摩梭文化は近年、観光開発や外部からの影響により変化の時期を迎えています。これにより、伝統的な母系文化が維持されつつも、外部文化との融合が進んでいるとされます。摩梭文化の保護と発展には、伝統と現代性のバランスを取りながら、摩梭人自身の意識と外部からの支援が重要となっています。
摩梭社会における女性の地位は高く、家族や財産の継承は女性を通じて行われます。また、摩梭人は自然環境との調和を大切にする文化を持ち、伝統的な住居や生活様式はその環境への適応の結果として形成されました。
摩梭族の文化や社会構造に関する理解は、母系社会の研究において貴重な事例を提供しており、文化的多様性と伝統的生活様式の現代社会における価値を示しています。
後書き
ルイスと捕虜たちとの関係は、単なる対立以上のものを示唆している。食事を共にすることで生まれた微妙な信頼感は、人間が置かれた状況を超えて、互いに影響を与え合うことができる力を物語っている。このエピソードを通じて、ルイスはただの捕虜たちを操る存在ではなく、彼らとの相互作用を通じて自己を見つめ直し、成長する機会を得る。ここには、1930年代の中国という厳しい時代背景の中で、人間性が如何にして芽生え、育まれるかの物語が込められている。次エピソードに続くルイスの物語は、さらなる挑戦と成長の旅へと読者を誘う。
