さて、これで最後にしよう、釣りの話。
マングローブの森に囲まれて釣り竿を構えながら、漁師に尋ねた。
「10年、20年前と比べてここはどう変わった?」
「魚がとれる量は増えた?減った?」
大抵、漁師のおじさんは口下手だ(バンレップは例外)。このおじさんもそうだ。
でも一晩一緒にいたから、私の質問責めに少しは答えてくれた。
「ここら辺のマングローブはほとんど切られて無かった。太い木ばかりじゃなくて、細い木もみんな切られた。今はマングローブが戻ってきて、森になったよね。森になったのはいいことだよ。森はあった方がいい。」
「生き物は増えた?」
「最近のサルは賢くなって、カニの仕掛けからカニを取っちゃうんだ。」
だいたい理路整然と話すのは苦手な人が多いけど、その分素直な意見だ。
「津波のときは?どこにいたの?」
「津波が来たときは家にいた。ここら辺は大きな被害は出なかったから大丈夫だったよ。でも家まで浸水したし、色んな道具をやられちゃう人はいたね。」
小さな船で釣り竿さえ使わずに、糸を垂らして漁をする。
不安定な漁師という仕事。
大きな漁船ではなく、小さな小船で近海での漁から生活を立てている彼らを守るのは、身の回りにある大自然でしかない。
彼ら自身が深く理解しているかどうかは別としても、マングローブの存在は彼らにとって想像以上に大きなものだ。
船着場で猫が出迎えてくれたから、網でキャッチした小魚をあげると、そのままムシャムシャ頬張った。
これがまた美味しすぎる。
バンレップ家のお母さん、ありがとう!
漁師の妻は料理が上手い。
みんなが生きるための釣りだ。
だからってもちろん悲壮感は無いし、そこはタイ人。それぞれに楽しんでる。
そこに人々の生活が見えるから、私は好きだ。
大自然と人間の距離の近さも好きだ。
そしてとにかく美味しいしね。
そして食べながら、早くもバンレップと次の釣りの計画を話すのがまた楽しい。