古都のブログ小説 京の鐘981

 

 

 やがて新幹線の乗車時間が近づいて来て、

 四人はそれぞれ、持ち物を整理していると、

 秋山のスマホが鳴り、社の送迎用の車が玄関口に付いた

 との話であった。

 

 

 

「今日は付き纏う者もいないと思うが、念の為、若い者を

 何人か、付けてあるから、心配しないで帰りなさい」

 乾いた喉が少し痛んだ。

 

 

 

「せんせ、そないなことまで、手配してくれはったん

 ですか」

 志乃が目を潤ませながら、すり寄って来た。

 

 

 

「君たちは、もう、すっかり我が社の売れっ子だから、

 このくらいは当然だよ。遠慮なく、乗って行きなさい」

 志乃が珍しく、爪先立てて、秋山の耳元に手を当て、

「少し、二人だけにして・・」

 蚊の鳴くような小声が耳元に響いた。

 

 

 

 秋山は一瞬、我が耳を疑った。

 迂闊であった。

 

 

 

 こんな年甲斐の無い男の為に、恥を忍んで女心を囁く

 まで、志乃の気持ちに気づかなかった

 己の未熟さに身が竦んだ。

 

 

 

 確かに、これまでも、せっかく東京まで会いに来たのに、

 二人りきりの時間を一度も持とうとしなかった

 野暮さにも、あきれ果てていたことだろう。

 

 

 

「先生、私ら少し早めに出て、トランクに手荷物を入れて

 いるので、志乃ちゃんをお願いしますね」 

 小夜が背後から何気に口を差した。

 

 

 

 秋山が軽く肯くと、奈菜や穂香を誘って、そそくさと

 部屋を出て行った。

 

 

 

 意味が呑み込めない穂香の戸惑いを無視して、

 その背に手を当て押し出して行った。

 

 

 

 つくづく、この子にはいつも、借りばかりして、

 立つ瀬が無かった。

 

 

 

「せんせ、もし、うちのこと、未だ愛しいとおもって

 くれはるなら、軽くでいいの」

 と言って、また爪先を立てた。

 

 

 

 秋山が志乃の細身を軽く抱いて、唇を重ねた。

 

 

 

 袂の内から零れ出る、

 白檀の甘い香りが鼻孔をくすぐった。

 

 

 

 秋山がこんな若い子に少し無理かなと、

 一度は逡巡したが、あの爽やかな甘い香りは控えめな

 性格の志乃には寧ろ相応しいのではとの思いで、

 贈ったものだ。

 

 

 

 こうして、わざわざ付けて来てくれているのに

 気づかなかった自分の愚かさに臍を噛む思いであった。

 

 

 

「悪かった・・ほんと、ごめんな。君の気持ちを寸借せず、 

 ただ詫びるしかないが、

 私の君への思いは初めての時と何も変わらないよ。

 むしろ、

 会えば合うほど君への思いは高まるばかりで、

 結婚を急ぎたいほどなのだ」

 無言の志乃の頬に熱いものが零れ落ちていた。

  

 

       古都の徒然 歌壇&俳壇より

 

 

 先日、俳句と和歌について、少し取り上げましたが、

 一昨日、

 朝日新聞の歌壇・俳壇の和歌と俳句を

 それぞれ4人の

 選者の手で、投句80作の中から20句が選句掲載されて

 いました。

 

 

 私が毎回、思うのは、せっかく選者がどちらも

 4人もいて、

 4人の選者が選んだ作品を見てみると、

 今回もまた、

 歌壇も俳壇も、四人の選者全員が選んだ作品がどちらも、

 一句もないことです(笑)。

 

 

 俳句も和歌も選者が違えば、落選になったり、

 選句されたりと、色々あって‥(笑)

 

 

 また、僅かですが、四人の中で共通の作品を選出して

 いたのは最高で

 和歌が8人だけであったことです。

 

 

 この中で、

 佐々木幸綱さんの選んだ和歌では

 他の選者から一句も選ばれていないことです・・( ;∀;)

 

 

 佐々木さんはその昔、

 俵万智ちゃんを見出した最新鋭の選択で、世を沸かした

 大先生のはずなのに・・

 

 

 彼が良いと思った作品が他の三人の選者から嫌われていて

 一人も選ばれていないことです。

 

 

 不思議と思われるでしょ‥(笑)

 

 

 これは、彼が和歌の世界を、革新的に、こじ開けた為と、

 旧来の字余りや,

 字足らずの作品を入選させたことで、これに同調できない

 歌人からは・・

 

 

 お分かりでしょ・・(笑)

 

 

 実は私も彼の選択に疑問がありましたが、

 俵万智ちゃんの 

 作品をみて、考え方を変えたものです・・(#^^#)

 

 

 和歌でも自由詩のように、和歌の体形にあまり

 とらわれない作品も取り上げたもので、

 問題は

 それが従来の歌人たちからの同意を得られなかった

 のかも知れませんが、本当のところは

 よく分からないもので・・。

 

 

 しかし、あれから何十年経ていても、彼の選んだ作品を

 他の3人の選者からは完全に拒絶されたのには

 啞然!

 未だに根が深いのかもと・・

 

 

 私は

 その昔の投句を回し読みして、好きな句を全員で選択して

 同意見の数から天地人の賞を与えていた方が

 良かったのでは・・とも(笑)

 

 

 そこで、

 紙面の関係で急ぎ、私の選句した作品をアップして

 みますね(#^^#)

 

 

 1句  たんぽぽを ぽぽ と言うなり 

      二歳の女児(こ)ぽぽの頭を 優しく撫でる

                厚木市の北村純一さん

  

   この句は一瞬で可愛くてなりませんでした!(^^)!。

 

   私は俳句でも和歌でも情緒性の無い作品は

   あまり好きではなく、

   単なる情景描写だけの作品は苦手なので・・・(笑)

 

 

 2句  見たこともなき 大花束に うずもれて

               退職の日の 夫帰宅す

           

             かわさき市 しんどう藍さん

            

   夫婦だけが知るはずの情愛が、そこはかとなく

            もれて来る大好きな作品です。        

 

 

 3句  避難先の 水族館内散歩する

             体調回復の能登のペンギン

 

               石川県 瀧上裕幸さん   

 

   この作品は佐々木幸綱さんの選句作品です。

        文字通り、あの元旦に発生した能登の

   大地震の際の水族館の その後の

        絵模様が写実的な表現の中に

           心が温かくなる句となって生きて

                  いるかと思います。

   個人的に言えば、私は水族館が大好きなのです(笑)  

 

 

 4句  帰国まで 2時間君を 空港の

         グランドピアノを 弾きながら待つ

 

               越谷市 黒田 裕花さん

 

   これは恋人が彼を空港内で待っている姿が目に

          見えるようで、いじらしくて・・・

              大好きな句です(#^^#)

   

             

 5句  足裏の ふくふくしたる まさぐれは゛

           子の子の産みし みどりご笑ふ

        

            ひたちなか市 篠原 克彦さん

                 

    これも、私が赤ん坊が好きなので‥(笑)

           でもね、良い句だと思いますよ。

    赤んぼのふくふくとした足の裏を、なでると

           赤ん坊が笑っているとの描写から

        幸せが ほのかに伝わって来て、

                  大好きな句です。

 

   そこで、この中から最優秀作品を‥と思いましたが

      全てが大好きな句で、

         とても選句できませんでした(__)。

 

       明日は俳句をご紹介しますね。

 

 

   ※ 和歌の順番は関係ありませんので‥(笑)

 

    

   ※ 参考資料 

      朝日新聞 24.6.2 朝日 歌壇/俳壇より