古都のブログ小説 京の鐘978

 

 

「では少しだけ」

 志乃が小夜の忠告を遮って、女の示す部屋へ足を踏み

 入れた。

 

 

 

 老女の独特の匂いが鼻についたが、ぐっと息を呑み、

 ベッドに寝た切りらしい白髪の老婆の前に

 進み出た。

 

 

 

 すると骨と皮だけの細い腕を伸ばして掌を開き、

 志乃の手を取るようにして

「神様が来た・・神様が・・」

 力のない声で囁いた。

 

 

 

「何をまた、寝ぼけたことを言って・・この人は、もう、

 耄碌していて、何をいってんだか」

 女が老婆の口を遮った。

 

 

 

「お元気そうで、何よりです」

「また、調子のよいことを言って・・」

「ごめんなさい。そのことしか思いつかなくて・・」

 志乃が小さく首を折った。

 

 

 

「まっいいよ。入ってくれただけで、充分なんだよ。

 神様にさ・・」

 女は口元を歪めた。

 

 

 

「神様が来た・・神様が・・」

 老婆が両手を合わせ、口の中で同じ言葉を繰り返して

 いた。

 

 

 

「神様だなんて、とんでも無いことです」

 小声で囁き返したが、志乃はなぜだか、これを強く

 否定できなかった。

 

 

 

 老婆の目に熱いものがあふれ出て、頬を濡らした。

 

 

 

 女が素早く、薄汚れたハンカチで、目元のものをふき

 取った。

 

 

 

「神様が来てくれた・・神様が・・」

「うるさいんだよ。この人は、何が何だか分かんないんだ

 よ。勘弁しておくれな。訳が分かんないだからさ」

 女が無理に笑って話を止め、もういいからと言って、

 廊下へ手を向けた。

 

 

 

「姫ちゃん、皆さんが待っています。早くセンターへ

 お帰りを・・」

 小夜がタイミング良く、挿し口を入れ、志乃がこれを

 受け、老婆の手を取り、何度か、優しく撫でると、

 また、老婆の目が赤く染まり、これを機に、

 志乃も小夜に従って、廊下に出た。

 

 

 

「悪かったね。あんた、ありがとうよ」

 女の声が弾んでいるように志乃には聞こえた。

 

 

 

 待ち構えていた、秋山や穂香らと共に、急ぎ、

 ナース・センターへ向かった。

 

 

 

 あとから追いかけて来た小夜がミカンを、いくつか

 持って戻って来て

「あの人、案外、いい人かもね」

 と、言って涙ぐんだ。

 

 

 

「小夜ちゃんて、頭がいいだけでなく、性格もまた、

 最高だね」

 穂香が遠慮なく宣言し、奈菜らを笑わせた。

 

 

 

 センターには担当医が戻って来ていたが、小さな騒ぎは

 未だ続いていた。

 

 

      古都の徒然 亡き人に逢いたいな・・

 

 

   昨日の霊魂の存在を認めるような話とは別に、哲学者の

 森岡正博氏は

 津波で行方不明になった家族が

 浜辺に出て、風に吹かれていると、自分の家族が今、

 側にいるのを、ありありと感じるとの話は

 行方不明になった家族に対する愛情が引き起こした

 「錯覚」だと言えるのだと・・

 

 

 それは人関係の歴史によって活性化されて、

 その人の前に、ありありと迫って来るまぎれもない、

 他人の心であると考えられると、

 語っているのだが・・さて・・私にはまったく意味が

 分からないのだが・・・

 

 

 それなら、私は亡くなった方の何人かに逢いたくて、

 たまらなくなっていたのに、

 一度も、

 姿も声も何も届かなかったのは何故か・・とも

 

 

 今はこの世にいない、母に会いたいのだが、どうすれば

 いいのかと・・

 

 

 こうした素朴な思いが叶えられないのはなぜ?

 

 

  哲学は現実の思いをどのように考えているのかとも・・

 

 

 また、

 愛すると人に会えている東北の大震災の被害に遭った

 皆さんは、

 今はそれで幸せなのか・・それが知りたいのだが・・

 

 

 けど、哲学で、

 愛するが故の錯覚だなんて、虚し過ぎるよ(-_-;)

 

 もっと

 身近なものであって欲しいなと・・

 

 

 

 今、ブロガーさんのしらたんさんから

 楽しいコメントが入ったのでご紹介しますね。

 

 

 彼も又、

 逢いたいのに会いに来てくれないのだが

 あったと言う人も結構いるようだ。

 あちらで、楽しくやっているのだろうと‥(笑)

 

 との

 豪快な話でしたが、うちの母も極楽浄土で

 父と幸せに暮らしているのかも知れませんが・・

 (#^^#)。

 でも逢いたいな、もう一度・・!(^^)!

 

 

 あの・・今頃、

 気が付いたのだけど、ミニ仏壇に乗せてあった

 大好きな母の顔写真が見当たらず・・

 啞然!

 

  もしかして、小さかったから、床に落ちて・・

 

 もう、考えたくもない( ;∀;)

 

 

 参考文献 

     日経新聞夕刊 24.5.16 明日への話題