古都のブログ小説 京の鐘964 

 

 

 

 奈菜や小夜らが声を上げた。

 

 

 

 車が会社に到着前に何人かのスタッフが五人を出迎えに

 来ていた。

 

 

 

 案内され、急ぎ楽屋へ入ると、既に、白河流社中の都連

 の役員達が待ち構えていた。

 

 

 

「お二人とも入院中と聞かされ、みんで今日はダメかもと

 諦めていたところ、先ほど全員、揃って此方に来るとの

 知らせで、ほっとしていたところなのですよ」

 安堵したと軽く声を漏らした。

 

 

 

 秋山が事の次第を簡略に告げた後、

「出し物の出番の確認と、新たに、志乃君が病み上がり

 なので無理はさせたくないのだが・・」

 と言って、ひと呼吸置き、

「この子が突然、今朝になって舞たいと言い出し、

 それも、おわらには違いないが、

 歌謡曲の石川さゆりの=風の盆恋歌=を彼女自身の歌声

 のCDをバックに舞うことにしたのですが・・」  

 言い切らないうちに、

「それ、凄いっ・・」

 役員の一人が甲高い声を張った。

 

 

 

「それ、本間のことですか」

 本橋が落ち着いて口を差した。

 

 

 

「私も驚いているのだが・・」

 

 

 

「それが本まなら、嬉しいですよ。そんなの見たことも無い

 ので・・しかも、志乃姫様のひとり舞だなんて、

 信じられませんよ」

 みな一様に驚きと、感嘆の意を素直に表し、

 拍手で、これを歓迎した。

 

 

 

「そしたら、この衣装で良いのですか」

 本橋が心配そうに秋山に志乃の衣装を見せた。

 

 

 

「そこで、始めは彼女に江戸小紋の裾辺りに金糸、銀糸の

 絵模様の刺繍を入れたものにと考えたのですが、

 なんとなく、それでは芸者姿に見えるので、

 今は何にしようかと迷っているのですよ」

 役員達も戸惑いの色を見せ、暫しの間、声がなかった。

 

 

 

「なければ、少しスタッフと相談します」

 秋山が早速、呼び寄せた演出部と照明と音響のスタッフ

 らに志乃の着る着物についての意見を求めた。

 

 

 

 皆が思案している間に、都連のメンバーたちが志乃を

 除いた女の子達に着物を着付けさせていた。

 

 

 

 志乃が秋山に小さく声をかけた。

 

 

 

「歌のヒロインが死を賭けているので、明る色は避けて、

 やはり暗い色合いの着物を身に付けた方が

 歌の文句に合いそうなので、衣裳部屋にある着物の中で

 当て嵌まる色合いの物を探し出して貰えませんか」

 秋山も時間がないので即答した。

 

 

 

「志乃君の提案に沿って、急いで暗い色地の着物を探して

 来い」

 スタッフ全員が衣装部に声をかけると同時に走り出した。

 

 

       古都の徒然 優しい子・・

 

 

 四国の女性弁護士の所へ相談に来た母子が相談を終えて

 帰る時に弁護士がその子に

 

 「次に来る時は、もっと大きくなっているかな」

  と、言うと5歳の男の子が、にっこりして大きく手を

  上げて

 「やさしくなるよ」

  

  

 その瞬間、まるで、魔法使いが杖をふり、魔法をかけた

 ようだとだったと弁護士が言う・・

 

 「彼にとって、大きくなることは、優しくなること。

  私には衝撃でした」

 と、弁護士の的場和子さんが言う。

 

 

 それにしても、

 こうした大人が想像もできない素晴らしい言葉を返した

 少年の優しい心に喝采を贈りたいと思います。

 


 私もこの話題を読んだ時、強烈で深い言葉の重さに

 感動し、

 この欄でぜひ、紹介させてもらおうと、

 アップしたものです。 

 

 

 それにしても、大人の汚れ荒んだ我が国も満更、

 気落ちするだけの国では

 ありませんね。

 

 

 問題は

 この子のような子が何人いるかで、

 多分、そんなにいないと思いますが、でも、この子の

 ような優しい子が

 毎年、

 少しずつ増えていくことを期待したいですね。

 

 

 ※ この記事は朝日新聞朝刊の天声人語から参照した

   ものです。  24.3.21