古都のブログ小説 京の鐘938

 

 

 

「では、この内容なら、うちだけで、のうて、後から一緒に 

 来た、穂香ちゃんや、小夜ちゃんらの、

 三人もこの番組に参加させてみてはいかがでしょうか」

 

 

 

「それは一応、皆で話し合ったのですが、今日は体調不良の 

 中にも、おわらの企画立案者の秋山常務の思いを

 志乃ちゃんから、語ってもらいたいからなので・・」

 小南の言葉の中に、明らかに秋山の中に志乃の存在がある 

 との意が含まれていた。

 

 

 

 秋山から誰かに何か言っているとは聞いたことが

 無かったから、

 これは彼女の勘繰りなのかも知れない。

 

 

 

 なら、何も深読みしないで、素のまま、番組に参加し、

 言葉尻に気をつけて話さないそうとの思いだけが

 胸に残った。

 

 

 

 それにしても、小南の胸の内が知れただけ、

 無理して参加した甲斐があったのかも知れない。

 

 

 

 もう、秋山の秘めた思いが社内に漏れているなら、

 それはそれ、

 いつか知られる時が来るのだからと、志乃は孤立した

 中で、今日の試練に凛として立ち向かえるか否か、

 それだけが気になった。

 

 

 

 小南が消えてまもなく、スタッフがやって来て、

 そろそろ、準備に入ってください。との声で何の準備が

 分からないままに

「準備って何のことですか」

 冷静に問いかけた。

 

 

 

「いえ、もしかして、化粧などについて、必要なものは

 揃えますので、お知らせて頂ければ、

 すぐ取り揃えますし、こちらにメイクをお任せなら、

 担当の者を・・」 

 落ち着いた物腰で、中年の女性が重ねて口を利いた。

 

 

 

「うちは、お化粧は元々しませんが、撮影の為に必要なら、

 お任せしますので・・」

 

 

 

「では至急、此方へ派遣させますので、今少しお待ちくださ 

 い」

 言葉も手短に言って、姿素早くを消した。

 

 

 

 志乃は一人きりのまま、何物も人気の来ない控室で、

 秋山の様子が気になった。

 

 

 

 何か異常があれば、連絡してくれる予定だが、

 何もないのも気になって、

 知らぬ間に、スマホを手にしていた。

 

 

 

 と、その時、スマホが鳴った。

 出ると穂香の声が弾んでいた。

 

 

 

「かってに来たけど、用もないようなので、ロビーに出て、 

 お茶でもしようかと、話していたけど、

 もう出番だよね」

 

 

 

 穂香らしい気の使いに、志乃は胸が鳴った。

 

 

 

「ごめんね、せっかく来てもらって、何も出場が無い

 なんて、うちも思いもよらんかったので、

 呆れているの・・」

 志乃は声に涙が滲んでいるように思え、辛かった。

 

 

 

「そないなことなら、心配いらへんよ。うちら、

 元々、せんせのお見舞いに来ただけで、番組にでるなん

 て、器用なことはできひんから・・」

 穂香の声も、どこか悲しみが含まれているように聞こえ、 

 志乃の胸がきゅんと泣いた。

 

 

 

     古都の徒然 嬉しい譲り合いの・・ 

 

 

 

 昨日、病院からの帰りに、バス停で待っていると、

 霧雨のような細い雨が降り始め、

 私は天気予報を信じて、傘を持たずに来たので、

 並んでいる場所から少し前に移動してバス停の屋根の下に

 入ったのですが、

 後方にいた皆様の何人かが、屋根の下に入いれず、

 気の毒に思い、

 前の若い二人が、スマホでを見ながら遊んでいたので、

 声を潜め

 「すいません、今少し前に移動していただけませんか」

 と声をかけると、

 剣呑な顔で振り返るので、

 「後方の方が雨の中におられるので・・」

 と言うと、状況を理解したか、すぐ前に移動してくれた

 ので、

 後方から、

 「有難うございます」

 との何人かの声が届き、和やかな笑いが上がり・・

 (#^^#)。

 

 

 そして、バスが来て、搭乗口で待っていると、

 私の後方にいた一人の女性に気づき、

 「どうぞ」

 と言って、手で促すと、笑顔で、

 「有難うございます」

 と答えて答えて 先に乗って頂くと、

 また、後方から感謝の声が上がったのです。

 

 

 これには少し理由があるのです。

 

 

 抑々、私は始めに、その方より後にやって来て、

 前の方が二人で並んでいたので、

 先にならんでいた女性の横に立っていたのですが、

 いざ、乗り込む段で、その方が

 遠慮されて私に先に乗って、との意味で少し後方へ

 下がられたのです。

 

 

 私は咄嗟に笑顔で彼女に先に乗るよう手を

 差し出すので、

 これに、感謝されたようですが、本来はこれで、

 「当然なのですよ」

 笑顔でこたえると、場に和やかな笑顔の輪が出来て、

 ほっと安堵したものです!(^^)!

 

 

 お昼前のすがすがしい、ひと駒でしたが、

 私も、久しぶりに生きていて、良かったと思ったもの

 です。

 

 

 なにしろ、当初、前の若い男女に声をかけていいか

 どうか

 気になって、一瞬の間があったので、

 思いきって、声をかけると誰もが、互いに遠慮されながら

 感謝の言葉を何度も繰り返され、

 身の底からテレくささと、嬉しさで満たされ、

 心から嬉しい思いに満たされた一日になって・・

 幸せでした(*^_^*)。