古都のブログ小説 京の鐘817

 

 

  志乃の体調次第だが、一人舞は概ね決めていた。

 

 

 構成としては、始めに蛸薬師通にある特設舞台の

 上手に地方衆と穂香と奈菜の囃し方が

 舞台に上がる。

 

 

 

 三味、太鼓と物悲しい音色の胡弓の音が入ると、

 志乃が舞い始める。

 

 

 

 これを見て、

 三味の手が一瞬、手を止めた時、景気づけの

 前囃子が入るのだ。

 

 

 

 もう、習い終えている、あの名調子を唄ってくれると

 良いのだが・・

 こればかりは神のみぞ知るの世界だ。

 

 

 

 穂香と奈菜の二人は大きく息を呑んだ後、唄い出す

 はずだ。

 

  来たさのさ、どっこいしょの しょ

              唄われよーわしゃ囃す

 

 

 多分、

 どこかで、音程の乱れが有る事だろうが、それは未熟な

 学生の幼さによるもので、文句は誰にも

 言わせない。

 

 

 

 秋山の狙いは学生の出来ることは学生がする・・

 これが最大の狙いなのだから・・。

 

 

 

 三人とも、

 秋山の思いの深さを知ると、蒼白に変った顔で、

 必死に秋山の言葉を聞き洩らさないよう目を三角に

 尖らせていた。

 

 

 

 肩の力を抜くように言って話を奔った。

 

 

 

 ここで、スタッフから、

 電話があって、三条通の理事長からの託で

 「頼まれていた、志乃さんの乗る輿が出来たから、

 見に来て欲しい」

 とのことだ。

 

 

 

 この話を側で聞いていた志乃が自分の為に何が

 出来たのか、意味が分からず、

 顔を曇らせた。

 

 

 

 そんな志乃が愛おしくて、秋山は聊か動揺している

 自分を恥じた。

 

 

 

 まさか、自分が後で説明するつもりだったのに、

 手順が狂い、出来上がりが少々早すぎたことが最大の

 ミスであった。

 

 

 

 ゴタゴタ説明をする前に、詫びてから簡明に説明を

 始めた。

 

 

 

 「実は志乃は他の子のように、おわらの街流しに

 参加は出来ず、

 しかも、付き添いで脇を歩くこともままならず、

 それで、始めは志乃を人力車に乗せて、

 先導する方法を考えたのだが、

 これも見物客の多さに対応できない事もあって、

 輿に乗って参加する手段を考えたのだ」

 

 

 

 「では、今のお話で、うちの為の輿って、どうゆうこと

 でしょう」

 

 

 

 志乃が興味半分、恐怖半分の面持ちで、問い掛けた。

 

 

 

 「輿は御祭りのお神輿のことで、古来より、

 高貴な身分の者などが、

 これに乗って外出するマイカーみたいなものなのだよ」

 

 

 

 「けど、そないな偉いものをうちは身分違いで、

 乗ることはかないません」

 

 

 

 志乃の凛としたもの言いに秋山も一瞬、言葉を呑んだ。

 

 

 

   古都の徒然  回想記1ボタンの掛け違い・・

 

 

 今日からこの欄で、

 回想記と言えるほどのことでもありませんが、

 もう、

 人生の中半を軽く過ぎて、余白はだんだん少なくなって

 来たことから、

 この辺で、

 ほんの少しだけ、若き日の、思い出噺を挿入しようかと

 思い、始めたのですが・・

 いつまで続くか・・それが問題ですが(笑)。

 

 

 元々、学生時代を別として、

 社会人になってからは、スーツの上着のボタンを掛ける

 のがあまり好きでは無く、

 毎回、

 誰かに注意され、慌てて掛けるので、

 かけ違いを繰り返し、

 為に、

 上着がなんとも奇妙な型崩れを生じさせていて・・

 

 

 学生時代、秋の大学祭が終わった頃、

 学生会の委員長から、学内で、突然、声を掛けられ

 随分と褒められて、身を固くしていた

 もので・・・

 

 

 あまりのことで、後になっても、何を言われたか

 よく思い出せないほどで・・・

 (笑)。

 

 

 あの頃、学生会の中央執行委員長は

 学内の人気のトップで、絶えず、取り巻きの女の子らが

 ついて回り、

 1年生なんて、とても近づけない偉大な?

 存在だったもので・・(笑)。

 

 

 今なら学内で、人気スターか歌手のトップのような存在

 だったかと思います。

 

 

 その大スターから直接、声を掛けられ、

 「私の着古しで悪いが、君、これを着て学生会を

  手伝ってくれないか」

 と、言って、

 無造作に真新しいブレザーを脱いで、私に押し付ける

 ようにして渡し、

 「実は君に頼みがあるのだが・・」 

 と、言って、

 よもやの言葉を耳にして気が遠くなったような感じが・・

 

 

 とにかく凄すぎ!でした。

 

 

 私にしたら

 石原裕次郎から街角で声を掛けられたような感じで、

 頭が痺れて意味が

 分からないまま、迎えに来た彼の恋人の外車に颯爽と

 乗り込み、

 さーっと、立ち去って行った彼を、

 呆然と見送ったもので・・

 

 

 彼は背が高く、顔の堀りも深く、どう見てもカッコ

 良すぎる方でした!(^^)!。

 

 

 彼が某女性服の人気ブランドを制作していた会社の社長

 のご子息だったのですが・・

 

 

 すべてが白日夢のようで、

 暫く、何も考えられず、まだ温かみが残るブレザーを

 抱いて、

 呆然として佇んでいたもので・・・。

 

 

 またね・・・