古都のブログ小説 京の鐘788

 

 

 夏一番の歓声が木霊した荒稽古が

 定刻を過ぎて終わったあと、 

 稽古の終了時が遅れていたので、一同、三々五々、

 帰宅を急いだ。

 

 

 秋山は家元と沙緒のほかに志乃や穂香に奈菜の

 三人にも残るように伝えた。

 

 

 「このあと、志乃はいつものように家元の稽古場で、

 舞稽古と唄の稽古があるのだが、

 そこで、いきなりだが、穂香や奈菜にも一つ、

 大切なパートを演じて貰いたいのだよ」

 秋山の思いもよらぬ言葉に唖然として、二人は頷く

 ことさえ出来なかった。

 

 

 「実は、

 今回のプログラムの中のメーンイベントになる

 志乃の一人舞と唄の新曲があるのは知っての通りだが、

 せっかくの機会だから、

 穂香や奈菜たちにも、志乃の晴れ舞台に、

 囃し方として顔を出してくれないか」

 ここでひと息入れて、更に続けた。

 

 

 「君たちもこれまで、

 何度も見て来た筈だから、

 大丈夫だと信じているのだが、やってもえるな」

 秋山がそこまで一気に語り終えると、

 二人とも喜びどころか、恐怖の眼差しで後ずさりし、

 「せんせ、それだけは絶対、出来ません」

 穂香が泣きそうな顔で言い返すと、

 「せんせ、せっかくの志乃ちゃんの晴れ舞台にうちらが、

 色を添えるのは有難いことですが、

 穂香ちゃんの言う通り、うちらの実力では

 荷が重すぎます・・」

 奈菜も息をつぎ足しながら、やっとの思いで

 本意を告げた。

 

 

 ここで秋山の三人への餞を兼ねた親心の申し入れを

 いとも簡単に拒絶する穂香らの態度に

 沙織子から、怒りの籠った鋭い言葉が投げつけられた。

 

 

 「あんたら、何を考えとるん。そないな無礼な口を

 返してはあかんえ、うちらの世界では

 通りまへんえ」

 「お家元さんのお言葉は何よりも重いんよ。

 あんたら、そないな我儘、ゆうてたら、これからは

 誰からも信用が無くなりますえ」 

 沙緒のこの一言が決め手になって、二人とも慌てて、

 両手をついて泣きながら侘びを入れた。

 

 

 志乃はそれまでの話の流れから、

 全てが自分の一人舞から始まったものかと思うと、

 穂香や奈菜に申訳なく同時に、

 こんな自分をお家元様や沙緒せんせまでが、

 二人を説得させたことに深く責任を感じ、

 涙が止まらなかった。

 

 

 三人の学生たちが揃って、

 塗ってもらったばかりの化粧が目元から崩れ、

 ぐちゃぐちゃになり、顔を上げた途端、笑いが弾けた。

 

 

 「真面目に!」

 との沙緒の叱責に亀の子のように首をひっこめた。

 

 

 秋山も沙織子や、

 沙緒の別の一面を見た思いで改めて伝統芸の

 縦社会の凄みを再認識させられた。

 

 

    古都の徒然 戦争と平和・・

 

 

 久しぶりに天声人語を参照して、上記のテーマを

 なぞってみますね。

 

 

 和歌集 乱れ髪 で全国的に高い評価を得た

 与謝野晶子が詠んだ

 例の

 

 君死にたまふ ことなかれ・・・

 

 は

 日露戦争の激期地へ仲の好かった末弟が派遣

 されると聞き、その身を案じ、

 どうか

 戦死だけはしないで欲しいと呼びかけた

 ものですが・・

 

 

 当然の如く

 晶子はすさまじい批判にさらされ、

 弟は

 これを知った為か、戦死となったものです。

 

 

 戦争の悲劇は

 こんなところまで暗い影を投げかけていたのです。

 

 

 一方 

 ロシアでは文豪トルストイが

 

 戦争が始まった。

 海で陸で野獣のように殺し合う。

 安全な場所にいる者が他人をそそのかして、

 戦わせる。

 

 

 との反戦論をイギリスの新聞に投稿し、

 母国のロシアでは厳しい

 声が上がり、

 彼に処罰を求める議論さえあったとか・・

 

 

 晶子の和歌は

 トルストイの投稿から3カ月後のことでしたが

 この反戦の声は

 開戦となった両国とも反戦思想は凄まじい限りの

 批判を浴び・・・

 

 

 いつの世も、

 戦争が始まれば、反戦思想はかき消される

 運命に合うものですね。

 

 

 平和を願う人々の切なる願いは

 いとも簡単に、かき消され、

 今のロシアも初期の反戦運動がいまでは完全に

 抑圧され、

 一度、戦争になると、

 これに

 反対することはとても難しいことになるのです。

 

 

 でも

 我が国では

 あの斎藤隆夫代議士が

 国会で2時間もかけて反戦を訴えた事実があります。

 

 

 このような勇気ある発言ができる

 代議士が

 今の世に果たしているのか・・考えさせられる

 ものがあります。

 

 

 それほど、稀有な事で、

 それだけに

 彼の勇気に喝采したい気分ですが・・

 

 

 何処の国でも

 戦士として送り出した家族はみな、我が子の

 無事を

 願っているはずなのに・・

 

 

 どうして戦争が抑止できないのか、

 現世で、

 こんな非人間な無謀な行為を止める策を

 考えないと、

 救いようの無い乱世になるだけなのなに・・

 

 

 まことに愚かな話です。

 

 

 因みに与謝野晶子が亡くなって今年が80年とか、

 戦争って、

 不思議な縁で、結ばれているのですね。

 

 

 参照文献・・5.21朝日新聞の天声人語より