古都のブログ小説 京の鐘787
それでも、
予想より安く手に入り、どの子も満面に笑みを浮かべ、
稽古始めに中々戻らず、
秋山を焦らせた。
志乃ら三人には別室で、
真っ白の半襟が無料で、しかも生地裏には白いパネルが
入った割高の製品が試着品として
手渡された。
これまでの協力の礼の一つとして、受け取ってくれ、
とのことで、
秋山と沙織子の同意を得ると、穂香らは正直に
感激して、
ぺこぺこお辞儀を繰り返し、
販売員を困惑させた。
このような内芯があると、
襟足の乱れがなく、アイロン当ても、いらないので、
三人には持って来いの品であった。
秋山は日を別にして同様の半襟を買って、
渡そうと思っていたので、内心はほっとしたものだ。
T屋にしてみれば、
新・おわらの町流しが決ってからは、
厚意の証が次々と現れ、その日の昼の稽古休みを
狙って、化粧品販売員らが多数来て、
化粧の稽古と買い注文で、
ごった返していた。
志乃や穂香に奈菜には、
別室で試供品との名目で、営業に来た全員が
盛沢山の化粧品を
押し付けるようにして手渡し、三人は呆然として、
目を潤ませている。
役得という、大人の世界を少し覘いたようなもので、
秋山の目を見て、
嘆息とも何とも言えぬ思いを
正直に面に現しているのが可愛いくもあった。
家元や沙緒には、
もっと前から渡されていたようで、
三人の初な狼狽ぶりを笑顔で見守っていた。
秋山には営業の経験がまったく無く、
口出することは無かったが、
こうした、いろんな形でサービスをするのも
仕事の内とのことで、
化粧品の購入を決めると、当日の本番前に購入者に
化粧をさせてもらうとの話に、
全員が大歓声を上げ、営業員の笑いを誘った。
確かに二百人を超す女の子達の化粧品の
購入代金はかなりのもので、
あったはずで、
この程度のサービスは仕方が無いかと諦めたが、
中には不憫にも買えない子たちもいて、
胸がきりりと痛んだ。
幸い志乃ら仲間三人が互いに相談しながら、
交換出来るものは一つだけにして、
三人で分けってあって、出来るだけ無駄遣いは
しないよう互いに戒めあっていたのが
救いだった。
稽古に入る直前に試しに断りもなく、
急遽化粧講習が始まり、沙織子や秋山らを
憮然とさせた。
もう、女の子達は本気で化粧に取り組み、
午後の稽古は何と1時間も遅い
開始となり、秋山のふくれっ面が笑いを誘った。
午後からの稽古には網笠を被り、
花簪を襟足近くに差し込み、着物をしっかり着込んでの
本番さながらの町流しは涌きに沸いた。
出番を待つ、
ほんの少しの間でも、
手鏡で化粧の具合を確かめ合い、
出番に遅れる子もいて稽古は上の空となり
秋山の機嫌は暫し
直らなかった。
古都の徒然 上島竜兵さんの訃報・・
先日、あの陽気すぎて、むちゃぶりする芸で
知られた上島竜兵さんが
突然、亡くなられたとのニュースに、
愕然としましたが、
その死に方に・・・
これはただ事ではありません。
彼の子供のような無邪気な笑顔で、
過酷な試練を
次々と乗り切ってきた姿に、
何度も
笑わせられ、
彼の真摯な取り組みに喝采を送っていたのが、
もう、
見られなくなるなんて、フアンの皆様には
大変なショックであろうかと
思います。
私のような枠外の人間でも、
彼の真の優しさがじんわり、伝わって来るのも
本質的に嘘がつけない
生真面目な気質がいじらしく、胸が詰まります。
2年前、
稀代の芸人
志村けんさんのコロナ死と同じく、観衆を笑いに誘う
芸人さんの死ほど
逆に
哀しみを倍増させるものかと・・・
それだけに
ご家族様と彼を愛して止まなかったフアンの
皆さまにとって、
さぞかし
辛いものがあろうかと存じます。
彼は人に優しい繊細な方だと聞きますので、
過酷なことに
チャレンジしながらも、
日々、
どうすれば旨く笑いを取れるか等の
苦悩があった気が
致します。
もしかして
芸の行き詰まりの苦悩があったのでは・・とも
竜兵会の飲み会では、以前、
後輩芸人たちに、俺はこれから、どうすれば良いかと
教え請うシーンが毎回、
見られたと聞いたことが有ります。
彼は著名な喜劇人であるためだけの
苦悩に
押し潰れそうになって、いたのかも、知れませんね。
だとすれば、
とても惨いことです。
謹んでお悔やみ申し上げます。
合掌。
関係から
舞台に出れば、常に笑いを運んでくる
芸人さんって、
とてつも無く難しい職業であることをを知らされた
思いの突然の訃報でした。
合掌。