古都のブログ小説 京の鐘770

 

 

    そうだ、そうだとの声が出て、志乃も無言でいるのが

    辛くなり、小さな声で

    「では簡単に素人なりの感想を述べてみますね」

     割と落ち着いた声で口火を切った。

 

 

     志乃は皆さんがご苦労なされている群舞は

     実は舞の中でも、

     もっとも難しい舞なのです。

 

 

     なので、みなさんが、てこずるのはこの為なのです。

 

 

     全員が揃わないといけない舞こそ、最高の舞なのです。

     この基本が出来ていないと、

     これから学ぶ

     ひとり舞も二人舞も容易に到達することは出来ません。

 

 

     ここで振り付けのことで具体的なことを少しお話

     しますね。

 

 

     公演中、誰か一人が間違いをおかすと、

     それまでの演技がすべて取り返しのつかない

     ことになります。

 

 

     この為、

     急いで治そうとするあまり、心に余裕がなくなって

     混乱してしまうのです。

 

 

     要するに、

     舞に心が一つにならないと、どこかで、うっかり、

     ミスが出てしまうのです。

 

 

     また、

     振り付けの流れを未だに覚えきれないでいる方は

     別の組で班長さんや副班長さんは

     舞の流れと、つなぎを丁寧に説明して今一度、

     教え治して下さい。

 

 

     五山送り火の失敗を繰り返してはならないよう

     今のうちに、

     しっかり修正して自信をつけて上げて下さいね。

 

 

     京の街にはお稽古場がたくさんあり、

     日舞も全国的に知られる

     祇園さんや、先斗町さんには名人上手の皆様が

     沢山おられ、

     必ずや皆さんの技量が確かめられることでしょう。

 

 

     ご覧ける市民の皆様や、

     遠来の観光客の皆様方からの評価は別として、

     日舞の専門家の目は

     決して甘いものではありません。

 

 

     振りつけを間違えるのは

     初歩中の初歩なので、二度とないよう、

     これからのお稽古でみなさまと心をひとつにして、

     乗り越えていきましょう。

 

 

     との志乃の思いの丈が静かに告げられると、

     熱い想いの籠った感嘆の声と

     啜り泣きが燃え広がり、

     会場は異様な雰囲気に包まれた。

 

 

     秋山はこの間、口を挟むことはしなかった。

 

 

     舞台を降りて、

     駆け寄る志乃の足元が縺れ、

     危うく前のめりから倒れそうになった時、

     秋山がさっと腕を伸ばして肩をひしと抱き寄せた。

 

 

     顔を赤らめて恥らう志乃がいじらしく、

     知らぬ間に秋山の口元が

     緩んでいた。

 

 

     すると、

     後方から日舞・白河流六代目家元の

     白河沙織子と筆頭師範の沙緒が姿を見せた。

 

 

     観音扉の向こうで、

     志乃の話に耳を傾けていたようだ。        

 

 

         古都の徒然 物忘れ・・

 

 

     最近、物忘れが酷くなり、毎日のように、

     あれは何処・・・ばかり言って、

     あたふたすることが重なり少し困惑していたの

     ですが・・

 

 

     ドクターに訊いてみたら、

     こうした悩みは大したことでは無く、

     中高年に良くあるもので、あまり気にすることは

     無いとの答えで、

     とりあえず安堵しましたが・・・

 

 

     でも、昨日のように、出かける間際になって、

     部屋の鍵が見当たらず、

     マンションの玄関の鍵はあるのに、

     自分の部屋の鍵が

     見当たらず、

     半狂乱のように焦り捲り・・・(-_-;)。

 

 

     と、いうのも、

     実は先日、もう一つの部屋の鍵を見失い

     それより

     うんと前に無くした鍵も当然、見当たらず、

     いずれも室内に

     入ってから見失ったもので・・( 一一)。

 

 

     このままでは

     部屋を出られなくなり、新しい鍵を作ろうにも

     簡単に出来ませんし・・

 

 

     もぅ・・・

     流石に泣きたくなったほど、困惑し(一一")

     ドクターの言うことも

     分かりますが、

     ここまで酷いのは例の怖い病気なのでは

     ないのかとも・・・

 

 

     もう、その日の外出を諦めて、

     今一度、部屋中探しまくりましたが、見当たらず

     仕方なく、

     鍵を入れたと思われる服やズボンのポケットを

     もう一度、探しまくったところ、

     随分前に履いていたズボンから、

     懐かしい重みのある我が家の鍵が見つかり

     超嬉し・・・!(^^)!。

 

 

     あれほど嬉しかったことは最近なかったので

     感激の極み・・(笑)。

 

 

     そして、その後、

     朝、新聞を取りに出かけた折に使った鍵が

     ブルゾンのポケットから見つかり、

     ウーン・・・(-_-;)。

 

 

     今まで、何処を探していたのかと、

     我が身の愚かさと腹正しさが混然として、

     暫し、

     ベッドに倒れ込み・・・

 

 

     確かにドクターの言う通り、病気ではありません

     でしたが、

 

 

     ずっと前に無くした眼鏡のレンズは未だに

     見つからず、もしかして、

     我が家は魔法の国かも知れません( 一一)。

 

 

     ふん!