古都のブログ小説 京の鐘158 

 

秋山が志乃に声をかけた。

「すぐ動けるか」

「はい、・・けど、少し休めたら・・」

 語尾が聞き取れないほどの声の小ささに秋山は即座に合点し、

「ここで、少し横になれるなら、休んだ方が良い。これからは何も焦る事は無いのだから」

 志乃が申し訳なさそうに頷いた。

 

 

 

 

「決まった。遠慮はいらない。君の仕事は無理することではない。今夜はよくやってくれた。誰か世話役さんを呼んで来てくれないか」

 奈菜が穂香を押さえ、鉾前にいた責任役員の元へ跳んで行った。

 

 

 

 

 志乃を抱き上げた秋山が世話役の案内で、会館の奥にある小座敷へ運んだ。

「君は暫く、ここで休んだ方が良い。私は此処に残るが、君達はせっかくの機会だ、遅くならない内に近くの鉾を見て回りなさい」

 秋山が言い終わらない内に、

「そんな、薄情なこと・・」

 家元の沙織子が口火を切ると同時に全員が「うちらも残ります」

 子どものように声を揃えた。

 

 

 

 

 D女大の高杉彩が仲間たちに山鉾を見に行くように告げて、自分は志乃の側から離れようとしなかった。

 

 

 

 

 志乃が薄い掛け布団を顔まで引き上げ、

「御免なさい」

 と、小さく詫びた。

 

 

 

 すると穂香が

「侘びなんかゆうたらアカン。今夜の主役は志乃ちゃんなんだよ。舞から司会、インターなんか、プロのアナウンサーみたいに上手にこなしてくれて、うちら、楽させてもろうて、こんな時に、志乃ちゃんを残して遊んでいたら、それこそ、撥があたるわ」

 頬を膨らませて穂香が吼えると、

=ほんまや、ほんまや= 

 秋山は志乃が仲間たちから、本気で愛されていることを改めて教えられた気がした。 

 

 

 

 15分ほど休んでいると、町会の世話役が部屋に来て、

「月鉾の世話役さんから出来たら、あのおわらを、うちでもやってもらえんかと言うて、来てますが、無理でっしゃろな」

 揉み手をしながら話を切り出した。

 

 

 

「おっしゃるとおりで、志乃君は元々心臓がいけないので、あれが精一杯のことで・・」

「ええ、それは皆、分かっているので、あちらさんは、志乃ちゃんを別として、家元さんや、お弟子さん達、だけでもと・・」

 と、言いかけるのを制して、沙織子が

「せっかくですが、うちらも、志乃ちゃんを残して他所の鉾前での舞披露はできひんし、この子達も、あのような場所での舞披露の経験も無かったので、精神的にも疲れていて、月鉾さんにはそこんところを、宜しゅうお伝え下さいませんか」

 沙織子には珍しいほど、強く声を張った。

 

 

 古都の徒然  言葉の重さ・・

 

 

文章でもお話でも、言葉の力は侮れません。

 

 

うっかり、分かっているはずの言葉が旨く、

口から出て来ず、

思わず、身が竦んだことも多々ありました(^^;。

 

 

言葉は日常に使われますが、時には非日常で

とても大切な機会に、言葉が頭の中で

空回転していると、

もしかして、わたしは認知症?

と、

本気で情けなくなることがあり、そんなとき、

此方の焦りを汲み取って、何気に差し口で救われる

こともありで、

人はまさに互いに助け合っいることを実感することも

あります。

 

 

私は中学の頃からものを考えて作る創作が好きで、

当時、県内で、ラジオドラマのコンテストがあり、

二年生の頃かと思いますが、

わたしの執筆した作品が

たまたま、入選し、校内の放送設備を使って発表され、

先生方からの賛辞と、同級生から少し、

揶揄われたことが・・・(笑)。

 

 

その頃から我が町が歴史的価値ある城下町だったので、

好きな歴史を調べて創作したので、

当時から将来は歴史家か、文章に関係する職場で、

生活できたら、

いいなーっ、と単純に考えていたことが有ります(^^;。

 

 

高校に入って校内で、文芸誌を発行している

先輩の誘いで、小説を書き上げ、

初めて、

自分の作品が活字になっていることを実感し、

いつか、私は・・・と思っていた頃、

とても、

厄介で危険な難病になり、

手足が自由にならない苦しみを救ってくれたのは

口述筆記で小説を完成させることでした。

 

 

幸いにも、

口は利けたので、書けなくても、生る道があることを

身を持って知り、少しだけ、

心に余裕が出来た

記憶があります。

 

 

その時、分かったのは、ものを書く原動力として、

語彙が豊富か、否かが作品の質を高め、

豊富な語彙を持つ方の作品は

どうしても、秀作に見えるものです。

 

 

豊富な語彙を持たない方の作品は筋立てが

どんなに面白くても、

作品の質の評価が低くて、

今一となり・・・

 

 

この語彙を増やすのには読書量が絶対的な

重みがあります。

 

 

最近は読書より映画鑑賞やテレビドラマを

見るばかりで、

豊富な語彙の持ち主では無くなったとの思いが

辛いです(笑)。

 

 

呆け防止のためには読書をする事ですが、

夜の読書で、

目が悪くなったか、最近は文字がよく読めなくなり、

視力の先行きに不安が

募る日々です

(ーー゛)。