古都のブログ小説 京の鐘158 

 

 ひと通り、演舞を終えたところで、秋山は長刀鉾の前で、簡単なインターを入れることにした。

 

 

予め用意して有ったインターメモに添って、志乃に初めてのリポーターをやらせることにした。

 

 

この子の凄いのは、一つのことを聞くだけで、大概の事を旨く纏める本質的な才能があることだ。

 

 

 それでも、念のため、このリポーターを志乃にやらせるに当たって、仲間の奈菜と穂香に探りを入れてみると、二人とも、即座に志乃にやらせる方が良いとの確約を取ってあった為、志乃は仕方なく引き受けたのだが、本当はあまり乗気ではかったようだ。

 

 

 頭の良い子だから、カメリハも無いまま、いきなり本番に入ったが、志乃は保存会の役員に祇園祭の概要と、祭りの本番前の今夜の宵宮の意義を問い、その受け答えの中から、長い話を的確に纏めて、いいところで締めた。

 

 

 鮮やかなお手並みであった。

 彼女の纏めの旨さと、聞き入る真面目な姿が絵になり、中継車の中のデスクやミキサーなどのスタッフから、感心した声が弾んで届いた。

 

 

 一方、聞かれた役員たちも、額に汗を浮かべながら

「あんた、ほんまに、学生さん?信じられへんわ」

「旨いものだね、まるでラジオのアナウンサーみたいで、びっくりしたよ」 

「あんた、おわらの舞も旨いが、今も耳に残るあの優しい語り口が堪らんな」

等と、しきりに褒めちぎった。

 

 

志乃は恥ずかし気に片手を軽く左右に振って、あとずさりするばかりで、秋山も適切な言葉が直ぐには浮かばず、冷や汗が噴き出していた。

 

 

 

 

「今夜のおわらの反響を見ただけで、これを新京極や寺町京極で、もっと言えば、町流しを、この四条通でも、河原町通で、やれれば絶対、成功すると思いますよ」

 

 

 

 横から口を挟んだ若手の気持ちに応え、町会の役員の一人が口を返した。

 

 

 

「明日の巡行が終わったあと、早速、おわら町流しの件を改めて提案するつもりだ。秋山先生がいわはったことが、段々本物ものに近づいて来るようで、今から胸が高鳴るわ」

 側にいた、若手の役員たちも

「異議なーし」

 誰からともなく元気な声が散発的に上がり、これが、その夜の幸運の手締めとなった。

 

 

 

秋山はこの日、予定したその夜の流れが全て撮れ、少しは満足出来たようで、疲れが幾分か取れた感じがしてひと息ついた。

 

 

 この後、暫く休憩後、秋山は映像の編集などをスタッフに任せ、志乃や沙織子らを引連れて宵宮で賑わう西陣や新町へ繰り出し、半襟になれる端切れでも見に行くつもりだった。

 

 

古都の徒然  TVドラマ 流行感冒!

 

 

1昨日、

NHKのBSPで放映された流行感冒(スペイン風邪)

が現在、

多くの国民がコロナに苦しめられている現状に、

似ていて、

とても興味深く拝見いたしました。

 

直哉が村長に詰め寄るシーン

 

 

筋立ては、大正時代(1918年)、スペイン風邪が

8月から

我が国で猛威を振るい、

為に、理性を失い、人間不信に陥った

一人の小説家の日々を描いたもので、その小説家とは

志賀直哉のことなのです。

 

運動会

 

彼の取った心配症ゆえの奇策は、今にして思えば

当然のことで、よく考えると、

皆があれほど、までに怖がっていれば、

被害も少なかったかと

想うのですが・・

 

 

なにしろ、

直哉は初めの子を生後間もなく、亡くしたことで、

第二子の子の健康に異常にまで、

気を遣い、人が集まる運動会の中止を呼び掛けたり、

村祭りの中止や、芝居小屋の禁止など、

村長にかけあったりと、

凄まじい限りの防止策を申し出る騒ぎとなるのですが、

残念ながらいずれも共感を得られず、

家族全員が被災し、唯一人の女中だけが

被災せず、懸命に看病して、

救われるのですが、

直哉は、この女中には随分と酷いことを言っていたのに

その子に救われる始末に・・・(笑)。

 

 

登場人物の中の一人の言葉

世の中に、死んでいい命なんて、一つもなかったと・・。

 

大正時代のマスク姿、近年もよく見られるシーンです。

 

結局、

この流行感冒(スペイン風邪で)、被災者が2300万人、

死者は28万人と、

気絶、しそうな大きな大災害となったのです。

志賀直哉の狼狽え振りを笑える人はいません。

 

 

何でもない日々を、

これからの夢を当たり前に信じていたのに・・・

と言う、細やかな

価値観を再確認できる暖かいドラマに仕上がっていました。

 

 

今回のコロナがあのスペイン風邪のようにならないよう

国民一人一人が

真剣に取り組まなければならない時期に来ている

のです。

 

 

役人がのんきに宴会を開いている場合ではありません。

学生達も、

気の緩みが命取りになることを肝に銘じて、

生活して欲しいものです。

君達のクラスターは社会の迷惑なのです( 一一)。