この小説は、ハードカバーの本で厚さは3.3センチくらい。


まあまあ厚めの本だな、と思って。


それでいて辻村深月。


うーん、大丈夫か?私。と思ったけど、タイトルに惹かれて借りてみました。


あ。どうして大丈夫か?私。と思ったのかというと、


辻村深月の小説は先が気になり過ぎるし、面白過ぎて入り込み過ぎちゃうってことと。


入り込むと途中で止められなくなるのに、ちょっと厚めの本であること。


つまり、読み始めたら止まれないんじゃないか(時間かかっても読み切ってしまうのではないか)、という不安がありまして。


私の悪い癖で、「今、これがしたい」と思うと、他のことを全てかなぐり捨ててでもしたい!となってしまうことがありまして。


その最たるものが「読書」なんですけど。


読み終わるまで寝られない、とか、やるべきことを放ってまで読んでしまう、とか、そういうことになりやすいんですよね。


だから不安はあったものの、この「傲慢と善良」に関しては。


けっこう落ち着いて読めました。


つまらないから、じゃなくて。面白いのに。


ええとね、簡単にストーリーを話すと。


婚活で知り合ったイケメンの架(かける)と素朴でいい子の真実(まみ)。


2年の交際を経て、結婚することになって、幸せ絶頂かと思ったその矢先に真実がいなくなってしまうんです。


真実はどうやらストーカーされているらしいっていうんで、そのことで彼女を守らなきゃ、と結婚の意思を架は固めたところだったんですけど。


真実はどこへ行ったのか?ストーカーに連れ去られたんじゃないか?


それで、架が真実の行方を探す、という物語、ですかね。


これね、最初の3分の2くらいは架目線の話なんですよね。


まあだからほんと、正直なこと言うとね、「ほんと、男ってバカよね」って感じでイライラすることも多くて(笑)


いや、この男のイライラするアホさ加減をこんなふうに書ける辻村深月、すごくないですか!?って思いましたよ、ほんとに。


もしかしたら、そのおかげで(?)どこか冷静に読み進められたのかもしれないです。


ほんとに男は何も見えていないよなって。


例えば、自分の母親がどんなことを思い、何を望んでいるのか、そもそも自分の母親がどんな人間なのか、そんなことも分からないんですよね。


それはまさに、私の夫も全く同じです。


義母について、私の方が理解していることは多い気がするし、いざというとき、義母は夫よりも話し相手として私を選ぶことがある。


それはまさに理解度の違いからそうなるのではないかとこれを読んで改めて思ったんですよ。


…………まあまあ、私のことは置いておいて。



とにかく物語の3分の2くらいは架目線で進むので。


間抜けな男の思考を見せられてるだけ、みたいに物語が展開します。←ひどい言いようだな(笑)


その中で印象的だったのは、真実の姉の希実(のぞみ)の台詞ですね。


「箱入り娘って言葉があるけど、真実の場合もそうだったのかもね。うちは、そんなたいそうな家じゃないけど。だけど真面目でいい子の価値観は家で教えられても、生きてくために必要な悪意や打算の方は誰も教えてくれない」


って希実が言うとそれに対して架が


「お義姉さんからは真実さんにそれらを教えようとは思わなかったんですか?」


って言うんですけどね。

(この質問も間抜けだなって思いましたけど笑)


それに対して希実は、「思うわけないよ」と答えた後で、


「だって、悪意とかそういうのは、人に教えられるものじゃない。巻き込まれて、どうしようもなく悟るものじゃない。教えてもらえなかったって思うこと自体がナンセンスだよ」


と、バッサリ切る、という。


ハイ、その通りーー!と小気味良かったですけどね。←架に何か恨みでもあるのか?っていう勢いですね…(笑)


とにかくね、架は恋人(婚約者)である真実のことを何も知らないんですよ。


そして、知ろうともしてなかったんじゃないかってことに、架自身が気づいていくんです。


真実を探すうちにどんどん、架は彼なりに真実を理解していくことになるんですけど。


理解していくというか、自分の記憶している真実と、周りの人から聞く真実のことを、すり合わせていくというか、ね。


それで、残りの3分の1は解決編的に、真実目線の話になります。


いや、正直ね、前半部分で出てくる真実についての記述にもイライラすることは多くて(笑)


だけどね、最後の3分の1で彼女はとても変化するんです。


変化していく、と言うのかな。


それがほんとに一人の女性の成長物語とも思えて。


あのね、架と真実の恋愛物語、と言うならそうなんだと思う。


だけど、それだけじゃなくて。


田舎暮らしの女性に対する田舎特有の偏見とか、親子の関係のこととか、それこそ育ちの問題、女同士の思惑と打算とか。


そこにその都度、いちいち「傲慢なんじゃないか」と「善良だ」を行ったり来たりするんですよね。


誰もが持ち得る「傲慢」と「善良」。


「傲慢」と「善良」について考えさせられる。


いちいち、いちいち考えさせられる。


まあほんとに、辻村深月はこれだよねってある意味、期待どおり。


ほんと、人間の内側をえぐります。

(いつも女の内側えぐってくるって思ってたけど、これに関しては男の内側もえぐってると思う。あなた方、そんなに鈍いままでいていいの?っていうメッセージとも取れるような)


真実はどうして消えたのか、真実に何があったのか、ストーカーしていたのは誰なのか、架はどうするのか、真実はどうなるのか、二人の行方は、ってストーリーを追いかけても面白いですけど。


この二人を取り巻く人間模様を読み込むのもまた面白いかなって、思います。


一人の人を、誰がどう見てるのか、視点が変わるとその人間そのものが変わってしまうような。


この人のこの部分を、誰がどう受け取るのか、この人はこう受け取った、ではこの人は?みたいに。


ほんとに、終始、「傲慢」と「善良」が渦巻いて。


誰もが持ち得るものだからこそ、刺さるし、面白い。


人によっては、刺さり過ぎて、ただの傍観者ではいられなくなるかも?しれないな、なんて思いました。