CO2を資源として活用できる? カーボンリサイクルの日本と世界の取り組み

 もちろん地球温暖化の根本的な解決のためには自然エネルギーなどのCO2排出ゼロのエネルギーの普及が不可欠ですが、現実的に化石燃料の代替となるにはまだ時間がかかります。そのため排出したCO2を回収し再利用することで、全体のCO2排出量を減らすカーボンリサイクルの取り組みが推進されています。

 

ここではカーボンリサイクル導入のメリットや個別技術、そして国内外の動向をご紹介します。

カーボンリサイクルとは

 カーボンリサイクルとはその言葉の通り、「カーボン=炭素」を「リサイクル=再利用」してCO2排出を削減する取り組みです。

 CO2の排出自体を減らすのではなく、既に排出されたCO2を低炭素化させる技術としてはCCS(Carbon dioxide Capture and Storage:二酸化炭素の回収・貯留)とCCU(Carbon dioxide Capture and Utilization:回収・貯留した二酸化炭素の利用)があります。

 これらを合わせてCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)と呼ばれ、カーボンリサイクルはCCUのひとつに分類されます(図1)。

図1: CCUSとカーボンリサイクル
出典: 経済産業省資源エネルギー庁「未来ではCO2が役に立つ?!「カーボンリサイクル」でCO2を資源に」(2019)

 

 図1のEOR(Enhanced Oil Recovery)とは石油増進回収法のことで、油田にある原油の回収にCO2を使用する手法です。

その他にCO2はドライアイスや溶接などに直接利用することができますが、用途が限定されているため大きな削減は望めません。

 そのためさまざまな分野で有効利用することでCO2排出を大幅に削減できるカーボンリサイクルに注目が集まっています。

カーボンリサイクルの対象となるのは石油や石炭などの化石燃料を使用する火力発電所や都市ガス、鉄鋼業などの産業分野におけるCO2排出です。

 

次の図2はカーボンリサイクルのコンセプトです。

図2: カーボンリサイクルのコンセプト
出典: 経済産業省資源エネルギー庁「CO2削減の夢の技術!進む「カーボンリサイクル」の開発・実装」(2021)

 カーボンリサイクルは燃料、化学製品、コンクリートなどの幅広い分野で適用可能な技術です。

コンクリートなどの建材は現在の世界全体のCO2排出の3%〜15%に相当するため、カーボンリサイクルの技術が確立されれば大幅な削減が期待されます。[*1]。

 

 現在日本では2020年10月に宣言した「2050年カーボンニュートラル」に向けてさまざまな取り組みを行なっています。

カーボンニュートラルとは温室効果ガスの排出を「実質」ゼロにすることです。「

 実質」とは排出量から吸収量や除去量を差し引いて結果としてゼロにするという意味です。

もちろんCO2の排出量自体を減らすことも大前提としていますが、排出量をゼロにすることが現状では難しい分野においては、カーボンリサイクルなどの技術を利用することを想定しています(図3)。

図3: カーボンニュートラルの考え方
出典:経済産業省資源エネルギー庁「「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?」(2021)

カーボンリサイクルは省エネルギー・再生可能エネルギーと並んでカーボンニュートラル社会達成のためのキーテクノロジーとされています。

 経済産業省が策定した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」では電力部門の脱炭素化は大前提としたうえで、水素発電や再生可能エネルギーの最大限の導入と並んで火力発電におけるカーボンリサイクルの推進も掲げています[*2]。

現在カーボンニュートラル社会の実現に向けてカーボンリサイクル技術開発が日本や世界で進められています。

世界でのカーボンリサイクルの位置付けと個別技術

 世界でも2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、123ヶ国と1地域が取り組みを始めており、2050年カーボンニュートラル宣言に賛同した国の同盟には日本を含めて121ヶ国とEUが加盟しています。[*3]。

 これらの同盟国における世界全体のCO2排出量の割合は2017年の実績で23.2%、さらにその後カーボンニュートラルを宣言した米国と中国を含めると37.7%になります[*4]。

 EU、英国、米国、中国などの先進国を中心に2050年カーボンニュートラルの中期目標と長期目標を図4のように策定しています。

図4: カーボンニュートラルの中期目標・長期目標
出典: 環境省「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の 省エネ対策等のあり方検討会」(2021)

 

 EUのカーボンニュートラルシナリオにおいても、カーボンリサイクルは重要な位置付けになっています。

EUの想定する8つのカーボンニュートラルシナリオのうち、技術や行動変容によって気温上昇を1.5℃に抑えることを目指すシナリオ(1.5TECHと1.5LIFE)においてはカーボンリサイクルの大幅な活用が想定されています(図5)。

図5: カーボンニュートラルシナリオのCO2の回収・貯留・利用バランス
出典: 経済産業省資源エネルギー庁「英国・EUにおける カーボンニュートラルシナリオについて」(2020)

なお図5の1.5TECH(技術)と1.5LIFE(行動変容)のシナリオは、水素利用や省エネルギー、資源循環などのそのほかのシナリオを組み合わせ、さらに脱炭素化が困難な部門を技術や行動変容によって補完する取り組みです[*5]。

 カーボンリサイクルの個別技術について注目すると、海外ではCO2削減ポテンシャルの高い炭酸塩製造技術に関して多くの先進的な取り組みが行われています。

 

 次に炭酸塩製造技術の海外での動向について紹介していきます。。

炭酸塩とはCO2から生成できる化合物のことで、製鉄やセメントの原料として使用されます。

 コンクリートの材料であるセメントは、コンクリート製造時に多くのCO2を排出することから、炭酸塩製造技術はCO2削減ポテンシャルが高い技術として世界でも注目されています。

 米国のSolidia社ではセメント原材料の一部を他の鉱物に置き換えることで、コンクリート焼成時に水ではなくCO2と反応し固定化させる技術を実用化しています(図6)。

図6: CO2を利用した炭酸塩製造技術
出典:独立行政法人 石油天然ガス・金属鉱物資源機構「海外カーボンリサイクル技術実現可能性調査」(2020)

 この独自技術によってブロックなどのコンクリート二次製品を製造し、コンクリート製造時のCO2排出を大幅に削減することに成功しています。

 同じく米国のコロンビア大学が開発したGreenOre技術は、燃焼排ガスに含まれるCO2から炭酸塩を製造することができます。

現在州政府と協力して、米国ワイオミング州内の石炭火力発電所でのGreenOre技術の実証実験を進めています。

 特別な装置は必要なく燃焼排ガスをそのまま利用できることから日本の石炭火力発電所などでも適用可能性が高い技術として期待されています[*6]。

国内のカーボンリサイクルの取り組みと技術事例

日本では2019年にカーボンリサイクル技術ロードマップを取りまとめ、2050年のカーボンニュートラルを目指しています(図7)。

図7: カーボンリサイクル技術ロードマップ
出典: 経済産業省「カーボンリサイクル技術ロードマップ」(2020)

 このカーボンリサイクル技術ロードマップでは3つのフェーズに分けてカーボンリサイクル技術の開発・普及・低コスト化を進めていくことを策定しています。

 フェーズ1では2030年までの普及を目指し、付加価値の高い製品を中心に技術開発を進めます。

 フェーズ2では2050年以降に安価な水素が調達できるようになることを見込んで、需要の高い汎用品に重点を置いて低コスト化を目指します。

 フェーズ3では現在の1/4を目指してさらなる低コスト化に取り組みます。

 

 カーボンリサイクルの個別技術に関しては日本も高い国際競争力を持っています。
日本のカーボンリサイクル技術の一つである人工光合成はCO2と水を原材料として化学品を合成する技術です。

植物がCO2を吸収して酸素と有機物を生み出す光合成と同じように、人工光合成の技術ではCO2からオレフィンなどのプラスチック原料を生成することができます(図8)。

図8: 人工光合成の概念
出典:経済産業省資源エネルギー庁「未来ではCO2が役に立つ?!「CO2を“化学品”に変える脱炭素化技術「人工光合成」」(2018)

 人工光合成の研究開発は現在産学官連携で進めており、世界に先駆けた実用化を目指しています。

新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のプロジェクトでは2021年末に太陽光エネルギー変換効率10%を目指し技術開発を進めています[*7]。

 現在日本では全国各地にカーボンリサイクル関連の研究拠点を設置しており、そのなかでも広島県大崎上島をカーボンリサクル技術の集中的な実証研究拠点として整備事業を進めています(図9)。

図9: カーボンリサイクル関連の研究拠点
出典: 経済産業省資源エネルギー庁「CO2削減の夢の技術!進む「カーボンリサイクル」の開発・実装」(2021)

 

 大崎上島の実証研究拠点では、炭酸塩を利用したコンクリート製品の製造や藻類とCO2を使用したバイオジェット燃料の製造など幅広い分野の研究開発を行います。2019年からは石炭ガス化複合発電(IGCC)と石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)において、CO2分離回収の実証実験を開始しています。

 石炭ガス化複合発電(IGCC)とは石炭を燃料した熱を利用する既存の石油火力とは異なり最初に石炭をガス化して発電効率を上げる発電方法です。そして石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)は石炭ガス化複合発電(IGCC)にさらに燃料電池を組み合わせて複合発電を行う方式です。

 大崎上島の実証研究拠点は日本のカーボンリサイクルプロジェクトをつなげる役割も持っており、国内外の研究者や事業者に向けてその成果を発信していきます(図10)。

図10: 広島県大崎上島のカーボンリサイクル研究拠点
出典:広島県「カーボンリサイクル技術の推進について」(2021)

まとめ

 カーボンリサイクルはCO2排出を大幅に削減できることを期待されている「2050年カーボンニュートラル」実現のための重要な鍵となる技術です。

 国内外でもさまざまな研究開発が進められており、本格的に実用化されれば燃料や建材、プラスチック製品など幅広い分野に利用可能です。

 近い将来私たちの生活に身近な商品にもカーボンリサイクルによって製造されたものが登場するでしょう。

 

 カーボンリサイクルについて知り、カーボンリサイクル製品を積極的に選ぶことは私たちができる環境負荷削減のアクションの一つとなるはずです。

 しかしカーボンリサイクルが推進される背景には、脱炭素のイノベーションが思うように進んでいないという現状があることも忘れてはいけません。

地球温暖化の根本的な解決のためには、やはりCO2を排出しない水素発電や自然エネルギーの普及が欠かせないでしょう。