石平 氏

 

「中国外交の歴史的大勝利」だそうだが

 12月7日から10日までの4日間、中国の習近平主席はサウジアラビアを国賓として訪問した。

訪問期間中に習主席はまた、サウジの肝煎りで開催の運びとなった、「第1回中国アラブ国家サミット」及び「中国(ペルシャ)湾岸アラブ国家協力委員会サミット」に出席した。

サルマン・サウジアラビア国王(左)と習近平主席 

サウジに対する国賓訪問において習主席は8日、サルマン国王と会談して・・両国間における「包括的戦略パートナーシップ協定」への署名を行った。

 同じ日に習主席はまた、ムハンマド皇太子とともに12件の2国間協定・覚書の締結に立ち会った。

それらの協定・覚書の主な内容は以下のようなものである。

1)サウジアラビアの「ビジョン2030」と中国の「一帯一路」構想との協調計画。
2)両国間の民事、商業、司法支援に関する協定や直接投資奨励の覚書。
3)中国語教育への協力に関する覚書。

 以上の合意事項を持って中国は、米国と距離をおいたサウジを全面的に抱え込み、さらにサウジとの関係強化を土台に中東全体を取り込んで米国と対抗するという戦略的目的をある程度を達成した。

 だから中国国内の官制メデイアはいっせいにこの度の訪問を「中国外交の歴史的大勝利」だと絶賛した。

しかしながら、サウジとの合意内容には一つ、決定的な欠如があった。

 当初から喧騒されていた中国とサウジ間の「石油取引の人民元決済」は合意事項に含まれていない。習主席のサウジ訪問は結局、サウジとの間の「石油の人民元決済」を実現させ、持って米ドルの世界覇権を切り崩すという最大の目標は達成できなかった。

 

「必勝」の石油取引人民元決済はあえなく黙殺

 2022年3月、米国のダウ・ジョーンズ通信が、サウジアラビアは中国への石油販売について、一部を人民元建てで価格設定することを中国側と協議していると報じた。

 それ以来、中国・サウジの間で人民元決済の実現が世界的関心の的となっていた。

もちろん中国国内でも、それは中国が米ドルの覇権を叩き潰す歴史的第一歩になるのではないかとの期待が高まってきている。

 習主席のサウジ訪問の直前となると、中国国内メデイアや専門家たちはいっせいに欣喜雀躍して、「米ドル覇権打破、中国台頭」への期待感を膨らせた。

その時の国内の雰囲気はすでに、「勝利確定」となったかのような「前祝い」の騒ぎとなった。

 その際、サウジが中国にとっての最大の石油供給国であることと、中国がサウジにとっての最大の貿易相手国であることは、石油取引の人民元決済を実現させるための好条件だと思われているから、多くの中国人は「必勝」の自信を深めていたが、蓋を開けてみたら全くの期待外れとなった。

 両国間の首脳会談と会談後の共同声明において、サウジは最後までは「石油取引の人民元決済」にOKしなかった。

 それどころか、習主席のリヤド滞在中の9日、サウジアラビアのファイサル外相はよりによって、「中国と米国の双方と協力を進める」との考えをわざとらしく強調し、「中国一辺倒」しない態度を明確に表明した。

 

 そして、同じ9日に開かれた湾岸協力会議(GCC)首脳やアラブ諸国首脳との会議では、習主席は「石油や天然ガス貿易の人民元決済を展開したい」との意欲を一方的に表明したものの、参加国からは賛同の声もなく共同声明に盛り込まれたこともない。

 これでは「人民元決済」への中国側の意向はサウジおよびアラビア関係国たちによってほぼ完全に黙殺されて、全くの不発に終わった。中国が期待する「人民元国際化の第一歩」は結局、米ドルの国際覇権の厚い壁にぶつかって踏み出せなかった。

 鳴り物入りの習近平中東外交はこのようにして、一定の成果を挙げたものの、一番肝心なところでむしろ大失敗してしまった。

 

友好国・イランの激怒

 その一方、中国とサウジとの「戦略的パートナーシップ」構築は、中東におけるもう一つの「友好国家」イランを怒らせることともなった。

 イスラム教ではスンニ派とシーア派は不倶戴天の関係にあるが、スンニ派のサウジとシーア派のイランは昔から深い対立関係にあること周知の通りだ。

 したがってイランは当然、中国とサウジとの急接近を喜ばない。

そして、習主席のサウジ訪問中に、中国はまた、イランの神経を逆撫する愚挙に出た。

 9日に開かれた中国(ペルシャ)湾岸アラブ国家協力委員会サミットの共同声明には、イランとアラブ首長国連邦と争議中の3つの島の帰属について、両国間の協議を求める文言が盛り込まれた。

 しかし、この3つの島を自国領土だと強く主張し「協議」を最初から拒否するというのがイランの一貫とした立場である。したがってイランからすれば、中国とアラブ諸国とのサミットの共同声明に「両国間協議」を求める文言が盛り込まれたことは、まさに「友好国」であるはずの中国が、関係のない他国間の領土問題に首を突っ込んできてイランを裏切ったことである。

 

 取りようによっては、中国はサウジを盟主とするスンニ派のアラブ諸国側に立ってイランと対立することとなった訳である。

 これに対してイランは当然黙ってはいられない。

イラン外務省は強く反発して、中国大使を呼び出して抗議した。

 そして12月13日、イラン大統領は来訪の中国・胡春華副首相に対し、この一件に関する「強い不満」を表明したと同時に、中国側に「補償」までを求めた。

 

 

何というの間抜け外交

 例の共同声明に一体どうして、イランとアラブ首長国連邦との「領土協議」を求める文言が盛り込まれることとなったのか。

その経緯は全く不明であるが、よく考えてみれば、この両国間の領土争議は本来、中国とは全く関係のない話であって、中国にはこの争議に首を突っ込む必要はそもそもない。

 ましてやイランも中国にとって重要な「戦略的パートナー」の一つであるなら、本来ならは中国は、イランとアラブ首長国連邦との領土争議に注意深く立入しないようにしなければならない。

 

 しかし結果的には、中国はサウジに取り入ろうとするあまりに、中東世界の内部事情の複雑さを顧みずに、さほど重要でもないアラブ首長国連邦の肩を持つ形で、それこそは戦略的に重要な友好国イランとの関係に亀裂を生じさせた。

 外交戦略の合理性からは全く解釈のできないほどの愚挙というしかないが、愚かな指導者である習主席のことだから、このような「間抜け外交」を不用意にやってしまったのではないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間抜けな取材

 

日本・大阪編

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