粘度と動粘度
粘度
流体には、空気、水、油、塗料などさまざまな種類があり、私たちは、その粘り気のことを、「さらさら」や「どろどろ」といった表現をします。これらを定量的に表現したものが「粘度」です。
例えば、粘り気のある水あめなどをかき混ぜる際、水をかき混ぜるより力が必要となります。この粘性の強さを表すための物性値が「粘度」となります。
この粘性を利用した機械として、自動車のトルクコンバーター(流体クラッチ)があります。エンジンの回転をオイルの粘性を利用して、トランスミッションに回転を伝達します。
粘度は粘性係数とも呼ばれています。
粘度は平行な2枚の平板間を流体で満たし、一方の平板だけを動かす際に必要な力の大きさから定義することができます。平板の速度が小さい場合は、固定された平板の近くの流体の速度は0になり、移動する平板の近くの流体の速度は、平板の速度と同じになります。したがって、流体の速度分布は直線的となります。このような流れのことを「クエット流れ」と呼びます。
クエット流れにおいて、平板に加える力をF、1つの平板の面積をAとすると,せん断応力はτ=F/Aで表すことができます。このせん断応力は、多くの流体において平板の速度を平板の間隔で除したものに比例することが実験的に分かっています。つまり,平板を動かす速度をU、平行な2枚の平板の間隔をHとすると、
となります。
ここで,比例定数μを粘度といいます。単位は[Pa・s]であり、流体の種類、温度、圧力によって決定することが出来る物性値です。
しかし、一般的には物体表面付近の流れの速度分布は直線的とは限りません。下図のように微小領域では、流れの早い流体と流れの遅い流体の間にはせん断応力が働きます。そして、流体に働くせん断応力は、速度こう配du/dyに比例して、次式によって求めることになります。
ここで,uは流れの速さ,yは流れに垂直な座標,du/dyは速度こう配となります。速度こう配は流体の変形の速さに関する値であり、ニュートンの粘性法則と呼ばれています。
粘度と温度の関係
液体の粘度は、温度によって変化します。温度が低い「とどろどろ」になりますが、温度が高いと「さらさら」になります。これは分子間の引き合う力が小さくなるためです。下図は水の温度別の粘度です。
一方、
気体の粘度は、温度が上昇すると大きくなり、液体と反対の特性を示します。下図は空気の温度別の粘度です。
動粘度
先ほど解説しました粘度μは、流体中の物体の動きにくさを表すものです。一方、動粘度νは、流体そのものの動きにくさを表すものです。この動きにくさに影響を及ぼすものが、物体の密度です。同じ粘度であっても密度が異なると、動きにくさは異なってきます。
動粘度νは粘度を密度で割ることで得られます。
動粘度の単位は[m2/s]
粘度と動粘度の違いを水と空気で比較してみましょう。
粘度は水の方が大きいですが、一方、動粘度は空気のほうが大きいです。つまり、空気のほうが軽くて動きやすく伝わりやすい、水のほうが重くて動きにくく伝わりにくいことを表しています。
|
粘度 |
密度 |
動粘度 |
---|---|---|---|
水 20℃ |
1.004×10-3Pa・S |
998.22 |
1.004×10-6m2/S |
空気 20℃ |
1.822×10-5Pa・S |
1.205 |
15.12×10-6m2/S |
水の密度、粘度、動粘度
温度 【℃】 |
密度 【kg/m3】 |
粘度 【10-3Pa・s】 |
動粘度 【10-6m2/s】 |
---|---|---|---|
0 |
999.89 |
1.792 |
1.792 |
10 |
999.70 |
1.307 |
1.307 |
20 |
998.22 |
1.004 |
1.004 |
30 |
995.65 |
0.797 |
0.801 |
40 |
992.21 |
0.653 |
0.658 |
50 |
988.05 |
0.548 |
0.554 |
100 |
958.35 |
0.282 |
0.295 |
レイノルズ数
流体の粘性を表す物性値は粘度あるいは動粘度ですが、流れに対する粘性の影響力を支配するのはレイノルズ数です。レイノルズ数は単位が存在しない無次元量で、以下の式で定義することができます。
ここで,ν:流体の動粘度,U:流れの代表速度,L:流れ場の代表長さです。レイノルズ数Reは慣性力と粘性力との比であることがわかります。
体積弾性係数と圧縮率
圧力変化によって体積変化する性質を圧縮性といいます。ある物質が圧力pの下で体積Vであった場合、圧力を極わずかに上昇させると、圧力がp+dp、体積がV+dV(ただし,dV<0である)になったとします。
このとき,圧力変化dpが微小であれば,圧力変化dpと体積変化dVとの間には以下の関係が成立します。
ここで,dV/Vは体積変化の割合を示す体積ひずみです。Kは体積弾性係数であり、単位は[Pa]となります。
体積弾性係数Kは大きいほど体積変化がしにくいことを表します。また、体積変化のしやすさを表す圧縮率βというものもあります。これは体積弾性係数Kの逆数になります。
そして、レイノルズ数が大きいほど粘性の影響は小さくなります。
レイノルズ数については、後程、詳しく解説いたします。
粘性流体と非粘性流体
「粘度と動粘度」 で説明しました粘性は流体の重要な性質の1つです。そして、この粘性の有無によって流体を分類することができます。
- 粘性がある流体を 「粘性流体」
- 粘性がない流体を 「非粘性流体」
といいます。
実在する流体はすべて粘性を持っているため、厳密には非粘性流体はない といえます。(ただし,極低温の液体ヘリウムは粘性のない超流動状態になるため、これは例外として考えています。)
しかし,実用上は粘性の有無ではなく,粘性の影響の大小により分類し、粘性を考慮する必要がある場合に「粘性流体」、粘性の影響を無視できる場合を「非粘性流体」として扱っています。
粘性を無視できる場合には数学的処理が非常に楽になり、非粘性流体として扱うメリットは大きいのです。
ニュートン流体と非ニュートン流体
水やオイルなど不純物のない流体のほとんどはニュートン流体です。そして、ニュートンの粘性法則が成り立たないような流体はすべて「非ニュートン流体」といい、様々な種類があります。
ニュートン流体と非ニュートン流体は、粘度と動粘度 で示した
の 「ニュートンの粘性法則」 が成り立つかどうかによって分類することができる。
ニュートン流体 | 非ニュートン流体 |
---|---|
|
|
非ニュートン流体には、
- 生クリームや練りハミガキなどの「ビンガム流体」
- 粘土やアスファルトなどが属する「塑性流体」
- 高分子溶液などの「擬塑性流体」
- 砂と水を適当な比率で混合したものなどの「ダイラタント流体」
があります。
非ニュートン流体は変形の速度(せん断速度)によって粘性が変化します。下図のようにニュートン流体は、せん断速度が変化しても粘度は一定ですが、非ニュートン流体は、粘度が下がったり、上がったりします。
圧縮性流体と非圧縮性流体
圧縮性に着目して分類する流体を圧縮性流体と非圧縮性流体といいます。
圧縮性の影響を考慮する必要がある流体が 「圧縮性流体」 です。一方、圧縮性の影響が小さく、圧縮性を無視できる流体が 「非圧縮性流体」 です。(なお、厳密な非圧縮性流体は実在しません。)
圧縮性流体 | 非圧縮性流体 |
---|---|
|
|
流体の圧縮性の物性値は、「体積弾性係数と圧縮率」 で示した 体積弾性係数K または 圧縮率β ですが,流れに対する圧縮性の影響を支配するのは 「マッハ数M」 で、以下の式で表すことができます。
ここで、 U:流れの代表速度, :音速です。また、音速は流体の待機弾性係数と密度から求めることができます。
圧縮性流体または非圧縮性流体の分類は一般的にマッハ数で整理します。圧縮性流れは、マッハ数が約 0.3 を超える高速な流れとなります。
M<約0.3 非圧縮性流体と近似
M>約0.3 圧縮性流体として扱う
また,速度が音速を超えるとマッハ数が1以上になり、圧縮性の影響が顕著である「衝撃波」が発生します。
M>1のときには超音速流れ、M<1のときには亜音速流れと呼ばれます。
以上より,圧縮性の影響は,流体の体積弾性係数や圧縮率によって決定されるのではなく、同じ流体でも速度が変化すると分類が変わることに注意が必要です。
理想流体とは
粘性および圧縮性のない流体を理想流体といいます。粘性がないため,エネルギー損失や抵抗力が存在しないため、解析を行う際、計算が非常に容易になります。しかし、実在する流体とは矛盾点が発生します。
一般的に、物体の表面付近には流速の遅い境界層が形成されます。境界層の外側は粘性の影響が小さいため、理想流体として近似することが可能です。また、境界層は通常薄い層であるので,流れ場の大部分は理想流体とみなしても良いのです。
圧力の基礎
私たちの生活の中には、圧力を活用した様々な製品が存在します。
例えば、ポンプ、シリンダー、コンプレッサー、タービンなどは、圧力を原理とした機械製品です。ここでは、機械設計で必ず理解が必要となる圧力に関する基礎を解説します。
圧力とは
圧力とは、単位面積に対して垂直に働く力のことです。
床の上に置かれた荷物によって働く圧力は、「かかる力」を「受ける面積」で割って求めることができます。
例えば、下図のように同じ重量を持つ荷物であっても、受ける面積が異なると、圧力も異なります。
圧力の単位
圧力の単位には、Pa (パスカルと読みます) が使われます。
Pa(パスカル)と言われても、ピンと来ないですよね。
昔の圧力の単位は、kgf/cm2 であったため、感覚的に理解しやすかったのですが、1982年に計量法改正があり、日本でも、国際単位系である Pa が一般的に使われるようになりました。
「圧力計」の単位も、Pa表示が標準となっていますのでPaに慣れる必要があります。
1Pa とは、1平方メートル (m2) の面積あたりに1ニュートン (N) の力が作用したときの圧力となります。
1 Pa = 1 N/m2
Pa(パスカル) や N(ニュートン)は、国際単位系であり、イメージしにくいですね。
そこで、以前に使用されていた工学単位系である、kgf に換算すると、9.8 N = 1 kgf であるため、
1 Pa = 1 N/m2 ≒ 0.1 kgf/m2 となります。
1 Paは、1 m2の床の上に「りんご(約100g)」おかれているくらいの力がかかっていることを示しています。
このように表現してみると、1Paとは非常に小さな圧力であることがわかります。そして、実際の設計では、もう少し大きな圧力が使われるケースが多いです。
例えば、
- 自動車のタイヤの空気圧は、240 kPa
- 水道の圧力 1 MPa
- 蒸気機関車の蒸気圧は、1.6 MPa
のように、kPa やMPa と大きな圧力が加わります。
1 [kPa] = 1,000 [Pa]
1 [MPa] = 1,000,000 [Pa]
以上のように、実際の設計ではMP(メガパスカル)が良く使われますので、「1 MPa」という圧力を感覚的に理解しておくと良いでしょう。
1MPaを昔の圧力の単位である kgf/cm2 に換算すると、途中の計算式は割愛しますが、以下のようになります。
1 MPa = 10.197 kgf/cm2
1cm2の面積に約10kgfの力がかかったときが、1MPaとなります。
MPa から kgf/cm2に換算する場合、約10倍 となります。これはよく使うため記憶しておきましょう。
絶対圧とゲージ圧
圧力には、「絶対圧」と「ゲージ圧」の2種類があります。
「ゲージ圧」は大気圧を基準とした圧力です。
大気圧とは
私たちは空気の底に住んでおり、普段感じることはありませんが、空気の重さを体で受けています。そして海面上では、1cm2あたり約1kgfの空気の力(0.101MPa)がかかっています。この海面上で空気から受ける力を1気圧(1atm)といいます。なお、大気圧は、山に登ると、自分の上に載っている空気の量が減るため、小さくなります。
そして、大気圧より高い圧力を「正圧」、低い圧力を「負圧」といいます。
一方、「絶対圧」の場合は、絶対真空をゼロとして圧力を表現します。
図で示しますと、次のようになります。
絶対圧とゲージ圧の関係式 : 「ゲージ圧」=「絶対圧」-「大気圧」
私たちがよく利用する圧力はゲージ圧です。例えば、自転車や自動車のタイヤの空気圧はゲージ圧で示されます。タイヤ内の圧力が圧縮され始めると、圧力計の数値がプラスを示し始めます。
パスカルの原理
静止している流体に加わる圧力はどこでも等しくなります。例えば、自動車のタイヤの空気圧は、どこを測定ポイントとしても同じです。また、その時にかかる圧力は物体に対して常に垂直です。
このように静止している流体では、同じ圧力が全てに伝わって等しくなります。これを「パスカルの原理」といいます。(ちなみに動いている流体では、ベルヌーイの定理を用います)
例えば、240kPa(2.4kgf/cm2)の圧力がタイヤにかかっている場合、タイヤのすべての壁面に、1cm2)あたり2.4kgfの力がかかることになります。
このパスカルの原理の考え方を用いて、小さな力で大きな力を得ることができる「倍力装置」を作ることができます。例えば、自動車のブレーキブースターや油圧ジャッキなどの製品です。
図のように小さなシリンダーに力Fを加えたとき、発生する圧力は、圧力P = F1/A1 となります。 (圧力=力÷面積) | ![]() |
発生した圧力Pは、大きなシリンダーへ伝達されます。 | ![]() |
例えば、ここで
F1 = 10N (約1kgf) |
![]() |
発生した圧力は、大きなシリンダーに同じ圧力で伝わります。
このとき、大きなシリンダーを持ち上げる力F2は、次の式で求められます。 |
![]() |
ここで、シリンダー内の流体が非圧縮性流体の場合、発生する力は2倍となります、押し上げる距離は、1/2になります。
つまり、大きな力を得る代わりに、押し込む距離が増えるということになります。 |
![]() |
アルキメデスの原理(浮力)
静止した流体中にある物体は、それが「排除した流体の重量に等しい大きさ」の鉛直上の向きの力つまり、浮力を受けます。これが「アルキメデスの原理」です。
例えば、1cm3の大きさを持つ「氷(こおり)」をコップの水に浮かべてみましょう。
ここで、水の密度を1.0g/cm3、氷の密度を0.9g/cm3とします。すると、1cm3の氷の重量は0.9gとなります。
この氷をコップに入れると、下図のように、水に氷が浮力を受けて浮かびます。
このとき、水面に浮いている「氷(0.9g)」は「浮力」と釣り合っていることになります。従って、このときの浮力は0.9gfとなるのです。
「浮力」=「排除された水の重量」であることから、排除された水の重量は0.9g、となります。0.9gの水の体積は、0.9cm3であるため、0.1cm3の氷が水面より上、0.9cm3の氷が水面より下にくることになるのです。
今、密度ρの一様な液体中に浸された任意の形の物体を考えます。浮力をF、物体の体積、つまり排除された液体の体積をVとすると、F=ρgVで表すことができます。ここで、浮力は物体の密度に無関係であることが、この式からも理解できます。
流れの基礎
流れを表す物理量
ここでは、流れを理解して頂くために、速度や流量など流れを表す物理量について解説します。
■速度
速度とは単位時間当たりの移動量距離のことです。単位は、m/sやkm/hなどが使われます。例えば、自動車の速度は時速40[km/h] 、台風の風速は、最大15[m/s]、ボールのスピードは時速80[km/h]のように表現され、単位時間あたりに移動する距離を示します。
微小時間dtに移動した距離dxをとしたとき、式で表すと、
となります。
■流量
次に流量ですが、流量とは、ある断面を 「 単位時間当たりに通過する流体の体積 」のことです。単位はm3/sやL/minなどが使われます。例えば、水道の蛇口を全開にしたとき、1分間に20?流れる場合の流量は20 [L/min]と表現されます。
流量は、次の図のように断面積Aを単位時間あたりに通過した流体の体積となります。流体の体積は、『断面積(A)×流体が移動した距離(dx)』 です。 流量は、流体の体積を微小時間で割って求めることができます。
式で表すと、
流量 Q = 流体の体積/微小時間 = Adx/dt となります。
dx/dt = V (速度) より
Q = 流体の体積/微小時間 = Adx/dt = AV
つまり、
流量(Q) = 断面積(A)×速度(V) となるのです。
途中の式の成り立ちは、必ずしも記憶する必要はなく、
最後のQ = AVの式は、流体に関する設計問題を解決する際に、頻繁に利用されるため、ぜひ、記憶しておきましょう。
流体の運動では特定の流体粒子を追跡することは難しいので、観測点を固定したオイラーの方法を用います。観測点の座標を 、時刻を とすると、速度は となります。
圧力とせん断応力
ある物質の中の微小要素を取り出したとき、その微小要素に働く力は図の通りです。
微小面積の面に圧縮力が働いているとき、圧力pは
と表すことができます。
また、せん断応力τは次式で表すことができます。
流線、流脈線、流跡線
流れは目に見えないことが多いので、流れの可視化によって目に見えるようにすることがあります。
「流線」とは、ある瞬間を写真で撮影したように、その瞬間における速度ベクトルを線で結んだもののことを言います。
「流脈線」とはある一点から通過した流体の流れを描いた線のことです。例えば、流れる水に墨汁を流したときに描く線などが、流脈線となります。
「流跡線」とは、ある一点に粒子をおいた場合、時間と共に動きます。それが通った線のことを言います。たとえば、川に枯れ葉を流したときに、枯れ葉がたどる軌跡などです。
以上のように、流れは目に見えないため、流体と一緒にインク、金属の粉末、煙などの微細な粒子を流して、可視化が行われます。
様々な流れ
定常流と非定常流
時間変化のない流れを「定常流」といいます。定常流では、「流量・流速・圧力」などの物理量は時間によらず一定となります。例えば、容器に流れ込む水の量Q1と流れ出す水の量Q2が同じである場合が定常流となります。
一方、流れ込む水の量Q1が流れ出す水の量Q2より小さい場合、時間と共に「流量・流速・圧力」などの物理量が変化します。このような流れを「非定常流」といいます。
また、非定常流は、水面に出来る波のように速度と圧力などが周期的に変化する「振動流」
水道の水を流し始める時のように、流れがある状態から別の状態へ移行する過程の流れである「過渡流」があります。
一様流と非一様流
物体の周りの流れを検討する場合、速度ベクトルが一定の流れの中で考えることが多いです。例えば、自動車や電車などの乗り物が受ける空気力を評価する風洞実験です。
風洞実験では、物体が流れから受ける影響を調べるため、「一様流」という、速度ベクトルが一定の流れを作ります。その中に物体を設置して、流れの可視化を行います。
さて、この流れの中に物体を置いた場合、物体後ろ側では、流れが乱れ、速度ベクトルが一定方向以外にも存在します。このように、速度ベクトルが変化する流れを「非一様流」といいます。
渦
ある点のまわりを回る流れを「渦」といいます。ペットボトルの中身を排水するさいにこの現象を見ることができます。
層流と乱流
流れには「層流」と「乱流」の2つの状態があります。前項で説明したレイノルズ数によって整理することができます。レイノルズ数が小さい場合が層流、大きい場合が乱流、そして、層流から乱流に移行する流れを「遷移」といいます。
イギリスの科学者であるレイノルズは、ガラス管内にインクを流し、流れを可視化しました。管内の流れが遅い場合は、インクの流れは A のように乱れず安定します。しかし、流れが速くなると、C のように乱れて乱流となります。
このとき以下の式に依存することをレイノルズは発見したのです。
ν:流体の動粘度,U:流れの代表速度,d:管の直径
つまり、上記の式からわかることは、「速度が大きい」・「管の直径が太い」・「動粘度が小さい」とレイノルズ数が大きくなるため、乱流になりやすいということです。
質量保存則
気体のように、密度変化を無視できない圧縮性流体の定常流において、下図のような任意の断面(A1やA2)を通過する単位時間あたりに流れる流量(質量流量)は等しくなります。
断面Aと断面Bを単位時間あたりに流れる流量を計算してみます。
単位時間をΔtとすると、流れた距離は、速度×時間なので、U×Δt となります。
従って、微小時間 Δt 経過後、断面A と 断面Bを通過した質量は、
質量 = ρ×体積 なので
断面Aを通過した質量 = ρ1×(A1×U1ΔT)
断面B を通過した質量 = ρ2×(A2×U2ΔT)
[断面Aを通過した質量] = [断面Bを通過した質量] なので
ρ1×(A1×U1ΔT )= ρ2×(A2×U2ΔT)
ρ2×A2×U2 = ρ2×A2×U2
ρ:密度 A:断面積 U:速度
これを「質量保存則」といいます。
また、密度が一定であれば、ρ1=ρ2 、つまり非圧縮性流体のとき、
A1×U1 = A2×U2 となります。
これを「連続の式」といいます。
この関係より、単位時間あたりに流れる流体の体積(体積流量)が一定ならば、断面積が大きいほど流体の流速は遅く、断面積が小さければ流速が早いことがわかります。
ベルヌーイの定理
1738年スイスの物理学者であるダニエル・ベルヌーイ氏(Daniel Bernoulli)は、ベルヌーイの定理を発見しました。
ベルヌーイの定理は以下の式となります。
この式を簡単に説明すると、
「流体の速度が増加すると圧力が下がること」 を示しています。
これを身近な例でご説明いたします。例えば、A4の用紙を図のように持って、息を吐きかけると、どちらに用紙が移動するでしょうか。吹いたので風に押されて左に移動しそうですが、吹いた側に移動します。
電車が駅のホームを通過したとき、電車に吸い寄せられそうになるのも同じ原理からです。つまり、速度が速いと圧力が下がるからなのです。
ここで圧力には、「静圧」と「動圧」があります。
動圧とは、流れによって生じる力です。例えば、人が風を受けるときの力です。このとき、風の速度が速くなればなるほど、力は大きくなります。
厳密には、このとき、受けている力は「動圧」+「静圧」となります。これを次に説明します。
管路を流れる流体で、動圧は次の図ようになります。
動圧は流れ方向に対して、平行に細い管を取り付けることで測定した圧力から「静圧」と呼ばれる圧力を差し引いた値となります。
静圧は流れ方向に対して、直角に空けた細い管の先に圧力計を取り付けることで測定することができます。
そして、静圧と動圧を足した圧力を「全圧」と呼びます。
同様に、下流の細い管路でも動圧と静圧を測定します。
前章で解説した「連続の式」から、下流の細い管路の流速は、太い管路の流速より早くなります。
冒頭で説明した人が風を受けるときの力のお話しを思い出してください。風の速度が速くなればなるほど、動圧は大きくなりましたね。したがって、細い管路の動圧は、太い管路の動圧より、大きくなります。
細い管路では、動圧は大きくなりましたが、その分静圧は小さくなっています。これは、「管路の断面積が変化しても全ての位置で全圧は等しくなる」からです。
ここで、ベルヌーイの定理を理解して頂くために、エネルギーについて少し解説します。
エネルギーには様々な形態があります。
- 位置エネルギー
- 運動エネルギー
- 弾性エネルギー
- 熱エネルギー
- 電気エネルギー
などなど・・・
エネルギーとは、言い換えると 「仕事をする能力」 のことであり、これらのエネルギーは、互いに変換することが可能です。そして、変換前後のエネルギーの総和は等しくなります。
これを「エネルギー保存の法則」といいます。
例えば、高さHの位置からm[kg]のボールを落下させるケースで考えてみましょう。
まず、平面Aの位置では、ボールに重力が加わっているため、重力によって仕事をすることができるエネルギーである「位置エネルギー」が存在します。位置エネルギー(U)は、mgh となります。
次に、基準平面Oまでボールを自由落下させた際、ボールが速度vで運動したとしましょう。このとき、最初に持っていた位置エネルギーが運動エネルギーに変換されることとなります。
そして、運動エネルギーは、
となります。
つまり、ボールが持っていた位置エネルギーは、落下するにつれて減少し、基準平面に達したときの位置エネルギーは完全にゼロとなり、反対に運動エネルギーが増加するのです。
これがエネルギー保存の法則です。
平面Aにおけるエネルギーの総和 | 「運動エネルギー」+「位置エネルギー」=0+mgh |
基準平面Oにおけるエネルギーの総和 | 「運動エネルギー」+「位置エネルギー」=1/2 mv^2+0 |
平面Aにおけるエネルギーの総和と基準平面Oにおけるエネルギーの総和は等しくなるため、
となるのです。
次に、このエネルギー保存の法則を、先ほどの管路の流れに適応してみましょう。
太い管路における流体の 速度v1 [m/s]、圧力P1 [Pa]、高さZ1 [m]とし、
細い管路における流体の 速度v2 [m/s]、圧力P2 [Pa]、高さZ2 [m] としたとき、
エネルギーの総和は、太い管路と細い管路で等しくなります。
太い管路におけるエネルギーの総和は、
「圧力エネルギー」+「速度エネルギー」+「位置エネルギー」となり
細い管路におけるエネルギーの総和は、同様に
「圧力エネルギー」+「速度エネルギー」+「位置エネルギー」となり
つまり、
上式を密度で割ると、
そして、水の持つエネルギーを水柱の高さ[m]に置き換えたものを「水頭」といい、管路の流れを水頭で表すと次の図のようになります。
以上がベルヌーイの定理となりますが、この式が成り立つのは、非粘性で、非圧縮性の理想流体です。理想流体は非圧縮性であるため、密度は一定となります。
また、管内に摩擦はなく、時間変化のない定常流である必要があります。
前ページ で示した「連続の式」とベルヌーイの式は理想流体の流れを把握する際、非常に便利な式です。
管内の流れと圧力損失
どの様な流れでも、流体の粘性によって摩擦抵抗が作用します。摩擦抵抗は流れのエネルギー損失になります。円管や長方形管内流れの場合、このエネルギー損失を「管摩擦損失」といいます。
例えば、大きな水槽から水平な直管内へ流体が流れる場合、管摩擦損失によって圧力は下流へ向って徐々に低下します。これを「圧力降下」といい、その変化量を「圧力損失」といいます。
圧力損失を Δp、損失ヘッドを Δh で表すと、以下の関係があります。
ここで、ρは流体の密度、gは重力加速度を表します。
また、管摩擦係数をλ、管の直径をd、管の長さをLとすると以下の式になります。
前頁で示したベルヌーイの式は損失のない流れに対するものでしたが、この損失ヘッドを用いることで、粘性摩擦やその他の要因によって生じる損失を考慮した式が導けます。
損失を含むベルヌーイの式はポンプなどを設計する際必要となります。
例えば、流量を調整する弁を通過する流れは、絞りやのど部のある管内流れとなり、「縮流」や「はく離」によって圧力損失 Δp が生じます。
そのため、損失ヘッドを用いて、ベルヌーイの式を利用すれば、ポンプの所要動力などが求められるでしょう。弁の損失は弁の開度や種類によって大きく変化するので、損失係数を利用します。これらは計算で求めることもできますが、一般に規格などで知ることができるものです。
また、管路の入口や出口にも損失が発生します。
入口部で発生する損失を「入口損失」出口部で発生する損失を「出口損失」といいます。
入口損失
図に示すように、水槽から管路に入るときの損失は、次の式で求められます。
ζ(ジータ)は損失係数で、管路の形状や取り付け方によって異なります。
出口損失
管から十分に大きな水槽などに流出する場合に生じる損失は、出口損失と呼ばれ、次の式で求まられます。
ζ(ジータ)は出口損失係数
物体周りの流れ
抗力
流体中にある物体と流体との間に相対速度があるとき、その物体には流体からの力が作用します。この力のうち、相対速度に平行な方向の成分を「抗力」と言います。
抗力は、その発生原因によって5種類に分類することができます。
摩擦抗力
新幹線やタンカーなどのように流れ方向に長い物体において、この摩擦抗力が卓越しています。
摩擦抗力は、物体表面に流れており、反対方向に作用している摩擦力を全表面にわたって積分したものを表しています。
形状抗力
一般に、流れ方向にあまり長くない物体の時に支配的となっています。この抗力は物体の形状に依存するため、形状抗力と呼ばれています。
誘導抗力
例えば、航空機の後流に生じる一対の縦渦の発生に伴う抗力のことを誘導抗力といいます。この縦渦を発生させるためにエネルギー損失があり、物体の抗力とみなされるからです。
造波抗力
圧縮性流体の中で、衝撃波が形成されたり、船の進行に伴い、水面に波が生じるような場合には、この波を形成するために、エネルギー損失があります。これによって、抗力となり、これを造波抗力といいます。
干渉抗力
2つの物体の相互作用によって生じた効力を干渉抗力といいます。
物体の抗力はこれらのうち複数から構成されるのです。抗力はエネルギー損失になるため、設計を行う上では抗力を低減することが求められます。
その際、どの種類の抗力が支配的であるかを考え、その抗力を減少させるように設計することが非常に重要となるのです。
最も分かりやすい例として自動車を挙げてみましょう。普通自動車が走行時、自動車に作用する流体抵抗は、形状抗力が多くを示していたとすると、自動車の形状を修正して、形状抗力を低減させることが最も有効であるといえます。そのため、流線形にしたり、角を丸めたり、などの対策がとられるのです。
揚力
揚力は相対速度に垂直な方向の成分のこといいます。揚力は航空機の浮上力、回転機械の回転力に利用されるなど、工業上、非常に重要な力です。
円柱まわりの流れ
物体のまわりの流れの典型的な例として、一様流中に置かれた円柱まわりの流れがあります。
ここでも、前章で説明したレイノルズ数が重要なパラメータとなります。ここでν:流体の動粘度、U:一様流速、d:円柱直径とすると、
となります。
レイノルズ数(Re)が6以下の場合は、円柱に付着した流れになります。6以上40以下のレイノルズ数では、「双子渦」が形成されます。レイノルズ数が40以上になると「カルマン渦」が発生します。このカルマン渦は、工業上、機械に悪影響を及ぼす場合と、有効利用される場合の両面があります。
レイノルズ数 |
流れの状態 |
図 |
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Re<6 |
円柱に付着した流れ |
|
6<Re<40 |
双子渦 |
|
40<Re |
カルマン渦 |
|
悪影響の例として、橋の崩壊があります。カルマン渦の放出と橋構造の固有振動数が一致した場合、ねじれ曲げモーメントの自励振動を起こし、破壊に至ることもあります。そのため、設計する場合は、渦放出周波数が構造物の固有振動数に一致しないように注意が必要です。
有効利用の場合は、計測機器に利用されることが挙げられます。カルマン渦の周波数を計測することで、流速や流量を求めることができるのです。